ーARICの学生ボランティアに、普段の活動への思いを聞きました。
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個人的な話ですが、私は2016年の9月から留学し、Brexitの直後の時期とトランプ当選の日をイギリスで過ごしました。トランプが当選した日のことは忘れられません。当選確実のニュースが伝わった時、イギリス時間では朝でしたが、その直後がたまたま留学生向けの授業でした。「これからどうなるの?」「何が起こっているの?」クラスメイトと口々に話していたのを覚えています。
「私ね、少し前にバスで嫌なこと言われたの」。話し始めたのはブラジル人学生のジュリアでした。「ブラジルから遊びに来ている両親とポルトガル語で喋ってたら、知らないおじさんに『一体どこから来たんだ?ルーマニアか?ブルガリアか?』っていきなり聞かれた。違います、って言ったけど、『全く、あいつらと来たらどこにでもいるんだから』って言ってた」。
その話はショックでもありましたし、何より現実的な恐怖として私たちに迫って来ました。実際、Brexit後、そしてトランプの当選以降ヘイトクライムの数は劇的に増えたのです。そしてイギリス社会において、私自身もどこからどう見てもマイノリティ、少数派でした。初めて会った人は誰でも、私のことをアジア人の女性としてしか見ないでしょう。一年間の留学中、いわゆるイギリス人の友人も数多くできましたし、かなりイギリス社会に馴染めた方だと思っています。しかし、自分がマイノリティだという自覚は消えることがありませんでした。
同時に現れたのは、このような問いです。「私は日本人だからここではマイノリティだけど、日本ではマジョリティでしょう?日本のマイノリティについて切実に考えたことあった?そもそも自分が多数派の側にいるってことすら自覚していなかったんじゃない?でもそれは、私がすでにマジョリティだから自覚しないでいられただけだからね」。そうなのです。マジョリティの側の人間は、そもそも自分がマジョリティであるということを自覚すらしません。もしイギリスでのジュリアや私のようなマイノリティであれば、バスに乗る時、スーパーで支払いをする時、知らない人間と顔を合わせるありとあらゆる場面で、自分は少数派だと自覚しなければならないというのに。
私は日本に帰って来ました。ARICを知り、ボランティアに参加したのはそれからです。そして日本での差別があまりにひどいこと、イギリスを含む他国とは違い、差別を禁止する法律すらないことを知り、憤りました。日本でマイノリティでいることは、イギリスでそうあることよりももっと過酷です。そしてだからこそ、マジョリティでいることの責任も、さらに強く問われています。
私は今、何も考えずバスに乗り、スーパーに行き、大学で授業を受けます。なんの違和感も感じることなく。日本語が飛び交う中で、中国語や、朝鮮語や、何語かも私にはわからない言語を時々聞きます。その時に、ジュリアのことを思い出します。
私があの時、ジュリアと共にバスに乗っていたら。今目の前で、ジュリアに起こったようなことが起きたら。しかしそれは「もし」ではありません。実際に日本で起こっていることです。
私たちにはもちろん、様々な立場や意見があります。しかし同時に、差別と闘う共通した責任があります。差別を見過ごすことは、あなたもまた犠牲者を生み出す側だということです。あなたがマジョリティでいるなら特に、その責任は大きくなります。
ではどうしたらいいのか。直接レイシストに抗議する他にも、差別と闘う方法はいくつもあります。そしてそれらの方法を広めるために、私たちは冊子を作っています。これらの冊子をより多くの人に読んでもらいたいと強く思っていますし、そしてそれが、一人でも多くのジュリアの助けになることを望んでいます。これは、多数派も少数派もともに暮らす、私たちの社会の問題であり、責任なのです。
M.S.
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