アイヌ文化では、湿地に生えるガマの葉を編んで、床に敷くゴザや、壁やヌサ(祭壇)を飾って儀式に使う「チタラペ」という文様を織り込んだものを使います。平取でアイヌ文化の普及活動をされている貝澤美和子さんにお願いして、小さなチタラペづくりワークショップを開催して、皆で手作業しながらアイヌ文化を楽しみ、湿地の魅力や現状について感じてもらおうと思いました。かつては湿地がたくさんあって、良いガマが手に入りやすかったようですが、今は平取でも採れる場所が殆どなくなり、石狩まで来て採っているとか。私達はガマが茂っていた当別町の石狩川自然再生地にある沼で、秋口に皆で収穫し、雪印種苗(株)さんの圃場のビニールハウスで乾燥しました。イテセニという織り機に使う、ほど良いサイズの石も河原で拾い集めました。ワークショップ当日は、ガマを収穫した沼に行ってガマの生息する湿地環境を見た後、室内に戻って、まずはイテセニ(編み機)づくり、工夫された石の付け方がなかなか難しく手こずりましたが、先に分かった人が次々教え合ってイテセニ完成!そして貝澤さんに教えられて見よう見まねで乾燥したガマの葉を編み込んでいきます。黒と赤の布で文様も入れていくと、それらしい感じになってきて嬉しい作業になっていきます。最後は余った紐を格好良く編み込んで完了。出来はさておき、満足のいく鍋敷きサイズのチタラペができました。それぞれに湿地の恵みと、それを活かしたアイヌ文化を身体で感じて、楽しい時間を過ごすことができました。持ち帰ったチタラペで、湿地の魅力を日常にも感じてもらえているかなと思います。
落語に続いて考えたのは人形劇。石狩川流域でもトノサマガエルやアズマヒキガエル等の国内外来種が殖えて広がってきていて、在来のカエルの脅威となっていました。が、これもなかなか伝えにくい問題なので、物語として伝えたらどうか?という話になりました。たまたま人形劇団と繋がりがあるというメンバーから提案があって、この難しい問題を人形劇で伝えようと、さっそくトノサマガエルのトーノ君というキャラクターを考案、劇団の人に手伝ってもらって、私達もセットを作ったり、簡単な人形は動かしたりして、ショートストーリー「進め!大イシカリ! Part★1トノサマガエルの逆襲」を撮影しました。声優の勉強をしている専門学校生に声を入れてもらって、完成!配信しました。(YouTubeで見られますので是非ご覧下さい!)。
2017年3月、石狩川流域湿地・水辺・海岸ネットワーク設立フォーラムでは、湿地落語、引き続いて会員団体による大喜利を披露しました。湿地落語は、社会人落語家こみゅに亭楽時男さんに創作していただいて演じてもらいました。200人近い聴衆の会場は(若干の戸惑いとともに?)爆笑に包まれました。笑いを通して真面目な湿地の現状を伝えていくこと、楽しんでもらえることを実感した瞬間でした。こみゅに亭楽時男さんの所属する(真打の落語家 林家とんでん平師匠に集う社会人落語組織)落笑会のメンバーや落語ファンもフォーラムに参加してくれたことで、湿地を想う人の輪も広がりました。北海道新聞のフォーラムの取材から、こみゅに亭楽時男さんが「ひと」という特集コラムに取り上げられ、それを見たNHKディレクターから連絡があり、楽時男さんを密着取材、テレビで湿地落語に取り組む姿が番組になりました。この間、マスコミで湿地落語が取り上げられたことで、お茶の間で別の角度から湿地が話題になったと思われます。第2回、第3回しめっちフォーラムと、毎年新作を作っていただき、湿地落語が定番化してきた第4回のフォーラム、2020年3月には新型コロナウィルスが蔓延し始め、観客を入れての開催は断念せざるを得なくなり、スタジオからの配信に急きょ変更しました。こみゅに亭楽時男さんには、そんな事態にも快く対応していただいて、湿地落語第4作「君の縄」を配信できました(YouTubeで見られますので是非ご覧下さい!)。その後もほぼ毎年新作をつくって演じていただき、確実に湿地のことが落語ファンにも伝わり、今回の第7回しめっちフォーラムでも新作を演じてもらいます。とっても楽しみですね♪<こみゅに亭楽時男さん からのコメント>石狩川流域湿地・水辺・海岸ネットワークの皆さんの湿地を守ろうとする熱い想いにはいつも感動しています。私自身も湿地落語という形で参加させて頂き今年で7年目を迎えました。いつもあの手この手で湿地を知ってもらおうと様々な企画がありましたが、今回はVRを使って湿地を深く知ってもらおうという試みがあります。皆様の少しのお気持ちで、大切な小さな命が守られます。自然が守られます。どうかお力をお貸しください。(元STVラジオアタックヤングパーソナリティ、FMドラマシティ局長。 MARU(こみゅに亭楽時男))私も落笑会さんとお話ししている中で落語をさせていただくことになり、師匠から湿原亭元五郎ろいう高座名をいただいて細々ながら活動しています。
石狩川流域に残ったわずかな湿地、ようやく見つけて守っていこうかと思った矢先、ソーラー発電工事が始まる…。ずぶずぶジメジメで利用することが難しい湿地を、苦労して開拓して道路や農地を作ってきた中、それも叶わない湿地は「原野」「谷地」と呼ばれ、役に立たない要らない土地として放置され、古くは「泥炭(質の悪い燃料として使われていました)」の採掘場所として、時にはゴミ捨て場とされてきました。湿地は平地でもあるため、使い方によっては利用しやすい土地でもあるため、大坂や江戸はじめ各地での新田開発から工場用地や宅地そしてニュータウン造成、最近では再生可能エネルギーの設置場所として候補地となることも多く、開発の手は知らぬ間に忍び寄ります。写真の場所では、この残存湿地を見つけたメンバーがいち早く開発計画を知り、ソーラー発電業者に連絡、工事開始後にも粘り強く交渉した結果、パネル設置位置をずらして核心部は守られることになりましたが、あと一歩でミズゴケ群落や池塘のある貴重な湿地が消失するところでした(当別町蕨岱東部湿原)。開発業者も工事業者も地主も、周辺に住んでいる方も自治体も、殆どの人が湿地の価値を知らないことから、このように人知れず大切な湿地が消えていくのでしょう。それを防ぐには真面目に「湿地の価値」を説いたり、開発反対などを唱えることも必要ですが、それだけでは上手くいかず、やはりより多くの皆さんに「なんだか湿地は楽しい」とか「湿地があると美味しいものが食べられる」とか「湿地には可愛い生き物がいて、湿地がなくなると絶滅しちゃう」とか「湿地の植物で伝統的なモノを作ってきたから、無くなると困る」ということを、知ったり感じたりしてもらわないとダメだなぁと思い始めました。そしてそれをドンドン発信して仲間を増やすことで、湿地を守っていけるのではと考えました。そして始めたのは、実際に湿地を案内する探索会のほか、湿地落語や人形劇、湿地ソング♪、さらには湿地ラップ♫や湿地寸劇、湿地トークショーといったエンタメ、そして湿地の恵みを皆で体験する「(アイヌ文化の)ガマのゴザづくり」「(日本文化の)〆縄づくり」「エゾカンゾウの花と蕾を食べる」「ヒシの実を食べる」ワークショップでした。これについては、次回以降、紹介していこうと思います。