今回は一般社団法人SAGAこどもホスピスの代表理事の荒牧が、SAGAこどもホスピスを設立するに至った想いについて掲載させていただきます。
病気や障がいがあっても、安心して自分らしく生きてほしい。
そのために、まずは“安心して預けられる場所”が必要。
でも、その場所はただの施設じゃない。
ご家族が、地域が、社会全体が子どもたちを包み込むような仕組みに育てたい。
私は看護師として、経営者として、そして一人の母として、
ずっと“どうしたらできるか”を探し続けてきました。
このnoteでは、なぜ私がこどもホスピスをつくろうと思ったのか、
どんな想いでこの活動をしているのか、
そしてこれから何を目指しているのかを、率直にお伝えしたいと思います。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
1.医療の現場で痛感した「限界」
私は看護師としてNICUや小児科病棟で働く中で、病気や障がいを持つお子さんとそのご家族に向き合ってきました。医療的ケアを届けるだけでは足りない、育児や就労、生活をめぐる大きな課題があると感じてきました。
どんなに強い思いがあっても、病院という組織の一員としてできることには限界がある。その現実を突きつけられるたびに、「医療や制度の中だけでは届かない支援」があると痛感しました。
2.「制度のはざま」に取り残される家族たち
そうした「限界」の先にあるご家族の声を、私はたくさん聞いてきました。「預け先がない」「誰にも相談できない」「一人ではもうどうにもならない」といった切実な言葉です。
退院の際、医療機関では医療的ケアを主にお母さんを中心としたご両親にケアを教えることが多いです。ですが、親御さん自身やきょうだい児が体調を崩したとき、ケアを担う人が本当に困ったときに、頼れる人や場所につながれず、社会資源にたどり着けないご家族も少なくありません。
医療に限界があるなら、福祉で充分なのか?
障害福祉制度の「支給決定」が下りるまでに長い時間がかかることもあります。さらに、サービス調整を担う相談支援専門員が不足しており、医療的ケアが必要なお子さんの支援を得意とする専門員も限られているのが現状です。
また、障害福祉制度自体にもさまざまな課題があり、病気や障がいがあっても誰もが対象になるわけではありません。
たとえば、看護師が配置されている重症心身型の児童発達支援事業所を利用したくても、知的障がいや身体障がいが軽度で動けるお子さんの場合、報酬が低いことを理由に利用を断られたり、受け入れを増やせないといった状況もあります。
現在の福祉でも、必要な方に必要な支援が届いているとは限らないのが現状です。誰かが手を差し伸べなければ、本当に追い詰められてしまいます。それなのに「誰かがやってくれるのを待つ」だけでは、何も変わらないと感じています。
3.「誰かがやるまで待つ」ではなく「自分がやる」
だったら、自分でその環境をつくるしかない。私はそう決めて大学病院を退職し、いろいろと考えを巡らせながら起業しました。
高度な医療的ケアが必要なお子さんを安心して預けられるように、専門性の高い看護師を確保する体制を整え、地域での預かりの場をつくってきました。
また、行政と協力しながら、医療的ケアが必要なご家族や支援者の相談窓口も設けてきました。
こどもホスピスを立ち上げようと決めたのも、まったく同じように「誰もやらないなら、私がやる」という想いからでした。
4.「命を守る」「生きる時間を豊かにする」場を
「ホスピス」と聞くと、終末期の場所をイメージされることが多いです。でも、私たちが目指しているのは「命を守るための場」であると同時に、お子さんとそのご家族の「生きる時間をより豊かにする場」です。
病気のあるお子さん、医療的ケアが必要なお子さん、障がいのあるお子さん、そしてそのご家族が、自分たちらしく過ごせる場所。「安心して預けられる」「ここなら大丈夫だ」と思ってもらえる場所をつくりたいと考えています。
また、ご家族自身が「少し離れて休む時間」を安心して持てることも、ご本人のQOLと同じくらい大切だと考えています。
5.「必要だけど、誰もやっていないこと」をやる覚悟
私がこれまでやってきたことは、特別なことではないと思っています。「必要だけど、誰もやっていないこと」を前にしたときに、「だからこそ自分がやろう」と選んできただけです。
それは看護師としても、経営者としても、ずっと変わらない私のスタンスです。
6.「どうしたらできるか」を探し続ける
「制度が足りないからできない」ではなく、「どうしたらできるか」を探し続けること。そして、「限界だ」と思ったところからでも一歩踏み出すことを大切にしてきました。
こどもホスピスは、そんな私の信念の延長線上にある、とても自然な一歩だったのかもしれません。もちろん、まだまだ課題も多く、「設立できた」と胸を張って言えるのは、きっともっと先のことだと思っています。
例えば、お金さえあれば施設を建てたりつくったりすること自体は、そこまで難しくないのかもしれません。でも、私はそれだけでは不十分だと思っています。お金だけの問題ではなく、地域社会の中で支え合い、共に生活していける関係を築くこと。少し遠回りのように感じるかもしれませんが、その「地域づくり」を、このSAGAこどもホスピスを通じて佐賀で実現していくことに意味があると考えています。
7.これからも、地域とともに育てていく
本当に大事なのは、利用するお子さんやご家族に「ここに来てよかった」と思っていただける時間を積み重ねていくことです。安心して預けられる運営体制を継続し、医療的ケアを理解して対応できるスタッフを育てていくこと。それを持続できたときに初めて、「本当に設立できた」と言えるのだと思っています。
だからこそ、これからも目の前の一人ひとりに丁寧に向き合いながら、地域と一緒に育てていく覚悟でいます。そして、この活動を通して、「どこに住んでいても安心できる社会」を実現する一歩になれたらと願っています。






