
──ちえちゃん視点編──
「この人と結婚して30年 毎日が大冒険よ」
朝の光が店のガラスに反射してキラキラしている。私はいつものように掃除用の布巾を手に取り、店内の棚を拭きながら小さく笑う。
「あの人はね、ちょっと変わってるの。酒のことになると、まるで子どものように目を輝かせるのよ」
店の奥で、新しいクラフトビールの瓶を並べている姿を見ながら、心の中でつぶやく。
「でもね、そういう純粋さが、この店をこんなにあったかくしてるんだと思う」
日々の細かいことも、彼の熱意があれば乗り越えられる。それに、町の人たちがこの店を愛してくれているのを感じると、私まで嬉しくなる。
「角打ちを始めたときは、正直ちょっと心配だったわ。でも、あの“学べる角打ち”ってコンセプトは、この町にぴったりだってわかった」
お客さんたちが楽しそうに語り合う声が、遠くから聞こえてくる。
「この店が人をつなぐ場所になる。そう信じてる」
時には意見がぶつかることもあるけどね
「これからも、この店と彼と一緒に歩んでいくの。それが私の幸せなのよね」
店のドアが開き、光司が一言。
「ちえちゃん、今日もよろしくな」
私は笑顔で答える。
「もちろんよ。塚田屋は、私たちの大切な場所だから」



