
1.はじめに
こんにちは。
今回は、《2つのヴァイオリンのための協奏曲》の中でもとくに興味深いテーマ──「第1ヴァイオリン」と「第2ヴァイオリン」のどちらが主導権を握っているのか?について考えてみたいと思います。
2."どちらも主役"な2つの声
一般的にクラシック音楽では、「第1ヴァイオリン」はメロディラインを担うことが多く、「第2ヴァイオリン」は伴奏的な役割にまわることが少なくありません。ですが、このバッハの協奏曲では話が少し違います。
この曲における「第1」と「第2」は、単なる序列ではなく、役割の交代や対等な対話の構造を含んだものです。ある瞬間は片方が先に動き、もう片方が応じる。けれどすぐに立場が入れ替わる──。まるで会話の中で「聞く」と「話す」が自然に入れ替わっていくような感覚です。
3.どちらがリードするかは、"今"で決まる
この曲を演奏していると、「あらかじめ決めておいたテンポや呼吸」だけでは足りないと感じる瞬間があります。一方が少し間を取ったら、もう一方がそれを感じ取って合わせていく。楽譜の中には書かれていない「相手の音を聴く」という行為が、演奏の中心にあります。
つまりこの曲では、誰が主役かではなく、誰が"今"語っているかが大切なのです。
4.南紫音のコメント
音楽もやはり、実際の人と人との会話と同じように音で対話をしています。個人的に、音楽をしていて一番幸せに感じる瞬間はアンサンブルをしている瞬間です。
中でも自分がメロディーを弾いていない時に、どのような音で相手を支え、手(音)を差し伸べ、答えるか、相手の音に耳を傾けたり気持ちを想像しながら、寄り添っている時がとても楽しく、アンサンブルの醍醐味だと思っています。
5.小池彩夏のコメント
語り手はバッハではなく、彼の音楽に耳を澄ませ、心で対話している「私」だと思います。バッハの旋律に寄り添いながら、自分の中の感情を見つめるような視点です。
演奏者としても、音を通して彼と静かに語り合う瞬間があります。その距離感こそ、音楽の魅力だと感じます。
6.次回予告
次回は、第2楽章の"静かな対話"に注目してみたいと思います。音数が少ないからこそ表れる、繊細な感情の動きと、その表現の難しさについてお話しします。






