
1.はじめに
《2つのヴァイオリンのための協奏曲》は、全3楽章から構成されています。今回はその中でもとくに印象深い、第2楽章についてご紹介します。
2.言葉にならないものを、音だけで
この第2楽章は、静かで穏やかなテンポ(“Largo ma non tanto”)で書かれています。2つのヴァイオリンが互いに旋律を受け渡しながら、まるで内面の想いをそっと語り合っているような雰囲気が漂います。
ここには派手な技巧や劇的な展開はありません。むしろ、音と音のあいだの"沈黙"が大きな意味をもっている、そんな楽章です。その静けさの中に、なぜか緊張感が宿っていて、演奏している側も、聴いている側も、息をひそめてその空気を感じ取るような時間が流れます。
3.ふたりで「ひとつの旋律」をつくる
この楽章では、2人のヴァイオリンが旋律と伴奏という役割を超えて、同じ方向を見つめているような感覚があります。片方が語りかけ、もう片方がそっと支える。そしていつの間にか、それが入れ替わっている。
一見単純な構成のようでいて、そのバランス感覚は非常に繊細で、ちょっとした間の取り方や音の深さによって全体の印象が大きく変わってしまいます。だからこそ、ここには演奏者の呼吸や心の状態が、そのまま表れてしまう怖さと魅力があるのです。
4.南紫音のコメント
前後の楽章との対比が非常に美しく印象的な2楽章、ひたすら暖かい光に包まれ、明るく、幸福感に満ちています。
バッハの音楽の特徴でもある豊かな内面世界が広がります。
お互いの音に呼応し合い、その感情がまた音となり、展開してゆきます。会場でお聴きの皆さまも是非ゆったりと呼吸をしながら、その音楽の波に身を委ねていただけたらと思います。
5.小池彩夏のコメント
「静かな対話」とは、言葉ではなく音で心を通わせること。バッハの音楽を弾いていると、彼の魂がそっと語りかけてくるように感じます。強い感情ではなく、静かな光のような温もりで満たされる時間。音を重ねることで、彼と、そして自分自身とも対話しているような感覚になります。
6.次回予告
次回は、この協奏曲の最終楽章──エネルギーとユーモアが詰まったフィナーレについてご紹介します。「バロック=まじめ」というイメージがちょっと変わるかもしれません。






