
1.はじめに
《四季》の「冬」は、寒さとあたたかさ、緊張と安堵といった、対照的な感覚が交錯する音楽です。
第1楽章では、極寒の屋外で凍える人々の様子、滑りやすい氷の上を歩く緊張、そしてあたたかな室内へと逃げ込む安心感までが、ダイナミックに描かれていきます。
2.冷たさの中にある緊張と動き
この楽章は、鋭く冷たい弦のスタッカートで始まります。これは、寒さに震えながら歩く人々や、刺すような冬の空気を表現しているとされています。
その後、音楽はやや落ち着きながらも、氷の上で足を滑らせるような危ういパッセージや、風が吹きすさぶような動きを含みながら進行していきます。
独奏ヴァイオリンには、細かく動く音型や突然の跳躍があり、緊張感のある描写が続きます。一方で、時折あらわれる温かく穏やかなフレーズには、暖炉の前にたどり着いたような安堵の気配も感じられます。
3.冬の「空気」を描く表現力
この楽章の面白さは、自然そのものではなく「人が冬の自然にさらされたときに感じるもの」を描いている点にあります。
寒さ、恐れ、動きにくさ──そうした"体感的なリアリティ"が、音に落とし込まれているのです。
だからこそ演奏者には、技巧だけでなく、音で「体験」を伝える想像力が求められます。寒さが伝わるような音の鋭さ、凍てついた空気の中での静けさ、そして逃げ込んだときの安心感──それらを音色やタイミングでどう伝えるかが、大きな鍵となります。
4.小池彩夏のコメント
冒頭の鋭い音型を弾くたび、指先まで冷たい空気が伝わってくるように感じます。寒さを音に変換するには、弓の圧やスピードを微妙に調整し、緊張感のある響きを保つことが大切です。
中間部で一瞬訪れる安堵の旋律は、凍てつく風の中に差す一筋の光のよう。張りつめた冬の静けさを肌で感じます。
5.次回予告
次回は《冬》第2楽章。寒さの中でようやくたどり着いた暖かい部屋で、静かに火を眺めるような、内面的でやわらかい音楽が展開されます。






