
今回は、ふたたび大井駿さんによる寄稿記事です。楽器としてのチェンバロの通奏低音以外の役割について、鋭く切り込んでいただきます。
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少し前の記事にて、アンサンブルでのチェンバロの役割が、「通奏低音の楽器として、低音パートを演奏すること」とご紹介いたしました。ただ、低音パートを弾いているのはチェンバロだけではなく、チェロやコントラバスなどの弦楽器も同じラインを受け持っています。そして低音楽器でもないチェンバロが、わざわざ低音パートを左手で弾き、右手で「数字譜に書かれたハーモニー」を演奏します。
意味って、どこにあるのでしょうか?今回はその意味をご紹介します!
まず大きなポイントは、チェンバロが和声の顔つきとリズムの輪郭を整えている、ということです。チェロやコントラバスの低音は豊かに響きますが、「今どんな和音が鳴っているのか」は、どうしても少し曖昧になりがちです。そこにチェンバロが和音を重ねることで、和声の性格がくっきりと浮かび上がり、拍やフレーズの始まりを感じられるようになります。
さらに歴史的には、チェンバロ奏者は、現在の指揮者の役割を担ってきました。
現在のように、オーケストラの前で指揮棒を振る、専任の指揮者が現れるのは、ヴィヴァルディやバッハの時代よりもずっと後の話です。当時は、チェンバロ奏者が低音を弾きながら、右手の和音で拍を強調したり、フレーズの入りでリズムを刻んだりして、合奏全体に「ここが1拍目です」「ここで一緒に呼吸しましょう」というような合図を送っていました。
そして、そのアンサンブル全体のレベルや、曲の理解度に応じて、拍を強調するだけの通奏低音だけでなく、より遊びを加えた通奏低音を弾くこともあります。ここで言う「遊び」と言うのは、その場での思いつきで即興的に対旋律を弾くことや、装飾音を加えて演奏することを指します。
通奏低音楽器としてのチェンバロは、前提として即興が求められる数少ない楽器だったのです!
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いかがでしょう。まさに、指揮者としての大井駿さんならではの視点ですね。
コンサート当日も、ぜひこれらの点に着目して鑑賞してみてください。新たな発見を体験できると思います!






