
これまで私なりの「ブロムホフ家族図論」を展開してきました。
そのような考察が可能になった最大の理由は、昨年、ブロムホフ家の子孫からオランダ国立世界文化博物館へ、現在クラウドファンディングで修復を目指している《ブロムホフ家族図》が寄贈されたことにあります。
この作品の存在自体は以前から知られていました。しかし、長らくブロムホフ家に伝来する個人蔵であったため、美術史研究者でさえ実見する機会はほとんどなく、まさに「幻の家族図」ともいうべき存在でした。
さらに重要なのは、その来歴が極めて明確であることです。
今回寄贈された作品は、ブロムホフの長男ヨハネスの子孫に代々伝えられてきた作品です。一方、アムステルダム国立美術館所蔵の六人構図は、ヨハネスの妻サラ・マリア・ファン・デ・ポルの家系に伝来したことが知られています。
つまり、二つの作品はともに由緒の確かな伝来をもち、それぞれ異なる家系に受け継がれてきたことが確認されています。このこと自体が、《ブロムホフ家族図》を研究するうえで極めて重要な意味を持っています。
その作品が公的な博物館に収蔵されたことによって、初めてアムステルダム国立美術館所蔵作品をはじめとする他の《ブロムホフ家族図》との本格的な比較研究が可能になりました。
私の考察も、その比較から得られた一つの仮説に過ぎません。しかし、この作品の公開によって、《ブロムホフ家族図》の制作順序や川原慶賀工房の制作実態を考える、新たな研究の扉が開かれたことは間違いないでしょう。
私は、この世界文化博物館所蔵作品こそ、現存する《ブロムホフ家族図》の本歌、あるいは少なくとも制作の基準となった作品ではないかと考えています。この作品を基準に比較することで、これまで一括して「川原慶賀筆」とされてきた作品の中にも、慶賀本人の制作だけではなく、工房による制作が含まれている可能性が見えてきます。
そして、なぜヨハネスの家系と妻サラ・マリアの家系に、それぞれ一枚ずつ家族図が伝わったのかという点も、新たな研究課題となります。
私見では、世界文化博物館所蔵作品は、ヨハネスにとって幼少期の家族の記憶を伝える肖像として受け継がれたのではないかと考えています。一方、アムステルダム国立美術館所蔵作品は、ジャワ人召使いの少年を加えた六人構図であり、十九世紀初頭のオランダ植民地社会において、奴隷や召使いを従えた家族像が社会的地位や成功を象徴する意味を持っていた可能性も考えられます。
もちろん、これは現段階では一つの仮説です。今後、美術史や保存修復、絵画技法などの専門家による精密な比較調査によって、その妥当性が検証されることを期待しています。
今回のクラウドファンディングは、単に一枚の絵を修復するためだけのものではありません。川原慶賀研究、そして日本とオランダを結ぶ美術史研究を大きく前進させる第一歩となるプロジェクトです。
ぜひ多くの方にブロムホフと川原慶賀の存在を知っていただき、この歴史的な研究の新たな展開を、ともに見届けていただければ幸いです。



