
展覧会のみどころを少しだけご紹介したいと思います。
ブロムホフ・コレクションの中でも、まずご覧いただきたいのが、コレクションの頂点を飾る真台子道具一式です。
真台子を中心に、風炉釜、天目茶碗、天目台、皆具(水指・杓立・建水)、茶入、茶臼、茶筅、茶巾、柄杓、袱紗、炭、火箸、香合、灰匙、羽箒、さらには碾茶まで、真台子の点前に必要な道具が、一つのまとまりとして収集されています。皆具のうち水指だけは残念ながら現在所在がわかっていませんが、それでもなお、このコレクションが計画的に収集されたことは明らかです。
注目すべきは、それらが名品を寄せ集めた美術コレクションではないという点です。茶碗だけでなく、茶筅や茶巾、柄杓、袱紗、炭、さらには碾茶を抹茶に挽く石臼に至るまで、実際に点前を行うために必要な道具と消耗品が揃えられています。つまりブロムホフが持ち帰ろうとしたのは、個々の茶道具ではなく、それらを用いて点てられる一碗の茶、「茶の湯そのもの」だったのです。とりわけ貴重なのが、文政三年(1820)に詰められた碾茶「初昔」です。現在残るのは未開封の一袋だけですが、十九世紀初頭のオランダで茶が上流社会の社交文化として広く親しまれていたことを考えると、ブロムホフは実際には相当量の碾茶を持ち帰っていた可能性があります。
また、一部が茶色く変色した茶巾も残されています。これは二百年という歳月による変色だけではなく、実際に茶碗を清めた際の残り茶によって染まった痕跡である可能性もあります。もしそうであれば、この茶巾は約二百年前に実際の茶席で使われたことを今に伝える、きわめて貴重な歴史の証人といえるでしょう。
真台子は、今も昔も茶の湯において最も格式の高い点前の一つです。その一式を最優先で収集したことは、ブロムホフが珍しい日本美術を集めようとしたのではなく、日本の正式な茶道をヨーロッパへ紹介しようと考えていたことを示しているように思われます。
ブロムホフは帰国後、自ら収集した日本コレクションを国王ウィレム一世に披露しました。
その頃のオランダ王宮には、王妃ヴィルヘルミーネの私室に「ティーサロン」と呼ばれる部屋があり、国王が宮殿で執務する日は、毎日午後四時になると、国王は王妃や侍女たちとともにそこで茶を楽しんでいたことが記録されています。
また、王妃ヴィルヘルミーネは、自ら絵画を学び、展覧会に足を運び、美術館を保護し、芸術家を支援した、当時を代表する芸術の後援者でした。一方、国王ウィレム一世は、1816年に王立絵画館を創設し、その後、現在のマウリッツハイス美術館へと発展する美術館事業を推進するなど、オランダの文化政策の礎を築いた人物でもあります。このような芸術と文化を重んじる王室に、ブロムホフは日本から持ち帰った茶道具を紹介したのです。
残念ながら、日本の茶道が王宮で実際に披露されたことを示す直接の史料は、現在のところ確認されていません。しかし、毎日午後四時になると茶を楽しむティーサロンを備えた宮廷で、格式高い真台子飾り一式が披露され、日本の茶の湯が紹介された可能性は十分に考えられます。
約二百年前、オランダ王宮のティーサロンで、日本の石臼で碾茶が挽かれ、風炉に湯が沸き、天目茶碗に抹茶が点てられる――。
その情景を想像しながら展示をご覧いただくと、一つひとつの道具がたんなる美術品ではなく、日本とヨーロッパを結んだ文化交流の証人として、より鮮やかに語りかけてくることでしょう。
本展の「OTEMAE」というタイトルには、まさにその思いが込められています。ブロムホフがヨーロッパへ持ち帰ったのは、美しい茶道具だけではありません。その道具を用いて人をもてなし、心を通わせる「茶の湯そのもの」だったのです。
※写真はオランダ国立世界文化博物館(NMVW = Nationaal Museum van Wereldculturen / Wereldmuseum)蔵 杓立 建水 蓋置 柄杓 火箸 (水指は所在不明)



