
text by 井上眞理子
“Rhapsody of MUSE”
バーテンダー石黒洸治がつくった、オリジナルカクテルです。
仕事で頭も身体もいっぱいになった夜。
少しリセットしたくて、石黒が以前勤めていたBARに立ち寄り、1〜2杯のカクテルをいただいて帰る。そんな夜が時々ありました。
私は早い頃から、石黒には人を「護る」力があると感じていて、
「今日はこんな気分だから、それに合うものをお任せで」
などと、かなりわがままなオーダーもしていました(笑)。
そんなある日、お願いしたのが、
「苦味もありつつ、疲れが取れて元気になれるもの」
そして出てきたのが、なんとも言えない紅色に、やわらかな霞がかかったようなショートカクテルでした。
一口飲んで、
「あ、好き!!!」
程よい甘さと苦味。
そして、どこか懐かしい香りと味わい。
「これ、何が入っているんだろう?」
聞いてみると、石黒からは、
「何が入っていると思いますか?」
思い出せそうで思い出せない。
でも絶対に、どこかで味わったことのある、おいしい味。
後から聞けば、ベースはカンパリ。
そこに意外な材料としてカルピス、自家製のシロップ、さらに隠し味を一滴。
疲れている私を考えてアルコール度数は少し抑え、私が好きなショートスタイルに。
しかもこの一杯、私が訪れたその場で考えられたものではありませんでした。
前日の夜、石黒はスタッフの乙川くんに、
「明日、井上さんがお見えになる予感がするから、今日のうちにつくろう」
と話していたそうです。
そしてその予感どおり、翌日私はBARへ。
2025年7月12日。
このカクテルが初めてグラスに注がれた夜でした。
それからすっかり私のお気に入りになった頃、石黒から、
「よかったら、このカクテルに名前をつけてみませんか」
と言われました。
カクテルに、自分で名前をつけられるなんて!!!
人生でそんな経験、なかなかできません(笑)。
当時、私は株式会社ミューズを設立したばかり。
それなら「MUSE」を入れたい。
そして、音楽やJazzに親しんできた私らしく、音楽の言葉も入れたい。
そこで浮かんだのが、
Rhapsody ― 狂詩曲。
決まった形式にとらわれず、感情や物語を自由に表現していく音楽。
そうして生まれたのが、
Rhapsody of MUSE
です。
それから私は、BARで出会った人たちにこのカクテルを紹介するようになりました。
「おいしい!」と一緒に楽しんでもらったり、
ある日には、まったく知らない方がMUSEを飲んでいる姿を見かけたり。
そのとき、ふと思いました。
ああ、一杯のカクテルが、人と人をつないでいる。
そして、このカクテルにはもう一つ、小さな物語があります。
私に出してくれるときは、
Rhapsody for MUSE
ほかの方に提供するときには、石黒はさりげなく、
Rhapsody of MUSE
と呼び分けていました。
味や香りだけではなく、
誰かを想ったこと、その人との時間、そこから生まれた物語まで、一つのグラスに注ぐことができる。
私にとって、カクテルのそんな面白さを知った最初の一杯です。
だから今回、BAR Truthのクラウドファンディングに
「MY COCKTAIL」というリターンをつくりました。
理由はとてもシンプル。
私自身が、この経験をものすごく楽しんだから。
自分のことを話し、石黒と一緒に一杯をつくり、最後には自分で名前をつける。
そんな、なかなかできない体験を、今度は誰かにも楽しんでもらえたらと思っています。
あなたの物語から、世界に一つのカクテルを。



