
これまでは、人と自然の関係のうち、獣と人との関わりを主に語ってきましたが、対峙しなければならないのは獣だけではありません。
重力によって、高いところから低いところへ向けて、流れたり転がったりしてくる水や石や土。そうしたものとどう折り合いをつけ、人の生活領域を守っていくかも、山で暮らす上での大きなテーマです。

例えば、斜面の畑で畝(うね)を作る際、土を下から上へかき戻す「逆さうない」という技術がありました。
土を下から上へ持ち上げて畝を作るのは、上から下へ下ろしながら作るより、はるかに労力がかかります。
それでも、土をなるべく下に降ろさない。むしろ持ち上げる。
このことが斜面地に暮らす人々に刻み込まれてきた、暮らしのルールです。
石積みは、急傾斜な場所で、どうやったら平らな土地や緩やかな傾斜をつくり、人の居住空間や山の畑を維持・整備できるか、という発想から生まれたものだと推測します。

家を建てるために、斜面を削り平地を作り、できた傾斜に石を積む。
山の畑も、なるべく傾斜が緩やかになるよう、山を削り石を積み、段々にする。
平らな場所や傾斜の緩やかな場所をつくり、土留めを兼ねたお茶を植えたりすることも重ねながら、土や石が下へ流れていくのを受け止める。

石そのものが重いことも大切です。重力によって下へ動こうとする土や石を、積み上げた石の重さがしっかりと支える。その上に安定した平地をつくることで、家を建てることもできる。
石積みには、重力に逆らうだけでなく、重力を利用しながら折り合いをつけて暮らすための知恵が詰まっています。
重力には重力を。
落ちるものも持ち上げて。
崩れてもまた積み直す。
そこにあるもので。
知恵と技術に加え、こうした山の人々の不屈の精神力が、人間の生活領域を守ってきました。
石積みには、これまでこの土地で重ねられてきた営みそのものが積まれている——そんな見方もできると思います。

山の暮らしを支えてきた知恵と技術と生き様を、どう次の世代へ手渡すか。
そして、山と向かい合いながらどのように暮らしの場を確保・整備していくか。
皆さんと楽しく手を動かしながら、石をひとつひとつ積み上げるように考え、実践していきたいと思っています。




