8月3日、県内では観測史上初めての酷暑日となる最高気温40.3℃を記録。その後も日中は35℃を超す猛暑日が続き、地震による住宅の損傷や倒壊に断水と熱波の災害が複合的に重なり、避難生活をより厳しいものにしています。
災害対策本部によると、発災した7月28日以降、熱中症による搬送件数は一時的に急増し、特に発災直後の7月29日は50名、酷暑日を記録した8月3日は39名が搬送されたと報告されています。この数値は、発災前の7月21日~27日の1日平均19.4名を大きく上まわる数値です。この暑さのなか、一部地域では断水で飲料水だけでなく、炊事、洗濯、トイレ、入浴などで使用する生活用水も確保できない状況で、避難者の生活に大きなストレスとなっているのです。
今回導入されたアクアデザインシステム様の災害用シャワー浄水ユニット。循環式でろ過され、お湯の温度も自動的に35~36℃に少しぬるめに設定・維持されている。右は同社代表の武田良輔氏
こうした事態を受け、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は、すぐに高知県に本拠を置く災害用浄水装置を開発するアクアデザインシステム株式会社に連絡。行政とも迅速に連携し、発災後3日目の7月31日には被害の大きかった氷川町内に入浴施設を完成させ、運用を開始しました。
「我慢させない」1日でも早く届ける入浴支援の意義
ARROWSとアクアデザインシステムが協働して用意したのは、シャワーだけでなく湯舟がある入浴施設。令和6年能登半島地震同様、今回の熊本地震の支援でも避難所支援を中心に現地で尽力する橋本笙子は、被災地における入浴支援の意義について次のように説明します。
一日でも早い入浴支援を目指し、迅速に行政とも連携。発災後4日目に開設する素早い支援が実現した
「災害地における入浴支援には、大きくふたつの目的があります。ひとつは、体を洗い清潔に保つことから皮膚疾患などの予防にもつながり、衛生面から健康を守るという目的。もうひとつは、心の、精神的な支えです。
被災者の方々は、厳しい避難生活を続けながら家の片づけをはじめ、生活再建に向けたさまざまな準備をしなければなりません。この暑さのなか、シャワーも浴びることができず疲労と苛立ちが募るばかりですが、そのなかで体の汗を流すだけでなく、時には湯舟につかって、疲れた脚を伸ばして、ほんの少しでもほっとする時間をつくり、明日を迎える元気を提供できればと考えています」

テント内には、脱衣所、個室テントと10人が同時に入れる湯舟が用意されている
『氷川の湯』と名付けられた入浴施設には、毎日通う人、3日一度お風呂に入りに来る人、1週間ぶりに汗を流しに来たという人、ご家族みんなでお風呂に入りに来た人、また「おばあちゃんが湯舟につかりたい」といってそのささやかな希望を叶えるために来た人、それぞれに悩みや不安を抱える被災者の方々がやってきます。この場で久しぶりに会えたという被災者も多く、氷川の湯はひと時の談笑を楽しむ、憩いの場にもなっているようです。
多くの方は疲れた表情でやってきますが、シャワーをあびて湯舟につかり、お風呂から出てくると、明らかに表情は変わっています。そのどこかほっとした、すっきりした顔をみることが、なにより嬉しいと橋本はいいます。
「災害があったから何でもかんでも我慢しなければいけないのではなく、人としての尊厳が守られた生活を、どんな状況であっても、一日でも早く取り戻すことが支援では大切だと思います。そういう意味では、今回発災から3日目で入浴の運用を開始できたことは、ARROWSにとっても意義のある支援ができたと思います」
洗濯もままならないなか、すっきりした後に新しい下着を提供するために、株式会社ファーストリテイリング様と連携。お風呂施設の横に支援物資としてユニクロの衣類も用意した
ARROWSのこれまでの災害支援のなかでも、入浴支援は初めての試みになります。アクアデザインシステムとは、訓練等で連携を強化し、能登半島地震でも協働して給水支援を実現してきた実績が今回の支援につながりました。
より多くのすべての被災者を受け入れ、細かな要望にも応える入浴施設へ

8月8日に入浴施設を増設。9日からの運用では男湯、女湯が別々になり、より多くの方が時間を気にせず入浴できるようになった
入浴施設は地区を限定せず、また在宅避難の方も含めてすべての被災者を受け入れていることもあり、開設当初は、特に夕方から夜にかけた時間帯はお断りしなければならないほど多くの方が訪れました。ひとつのお風呂場しかなく、2時間おきに男性風呂・女性風呂と交代制で運営していましたが、ひとりでも多くの方に入浴してもらうために、8月8日には入浴設備を増設。9日からは男湯、女湯が別々となり、時間で区切られることなく、より多くの方を同時に迎えられるようになりました。
「小学校の男の子と一緒に入ることはできないか」というある母親の切実な要望をきっかけに、要介護者や親子で入れる個室の多目的シャワーブースも設置
さらに、要介護者も安心してシャワーを浴びたり、小学生のお子様と一緒にシャワーを浴びたいという親子のために、個室の多目的シャワーブースも用意するなど、細かな要望にもできるだけ応えられるように工夫を重ね、少しずつ設備を拡充・改善しています。
猛暑のなか支援者側にとっても過酷な入浴支援の現場には、日本体育大学との民学連携で同大学の学生や教員も支援に協力してもらい運用している
15の自治体の調査によると、発災後、最大約108,100 戸が断水。復旧工事は急ピッチで進められ、少しずつ解消されてはいますが、被害の大きい宇城市、八代市、氷川町では、2週間以上が経った現在も多くの家で断水状態であることが確認されています。
県の発表では、8月末を目途に全域での通水が見込まれているとされています。しかしこの通水は、あくまで上水道の復旧で、そこからはじめて各住宅への宅内配管が損傷されているかがわかるようになります。もしも破損などがあった場合、蛇口をひねっても水が出ることはなく修理が必要となり、各家庭での断水はさらに続くことが予想されています。
在宅避難者に支援は届いているのか
写真=千葉康由
また、入浴支援を通して浮き彫りになってきたのが、訪問者の多くは避難所ではなく、在宅避難者であることです。発災後の7月30日には28の市町で開設された406ヵ所の避難所に9,450人の方が避難。その数は少しずつ減少し、発災後1週間経った8月4日には146ヵ所に7,646人、さらに1週間後の11日には89の避難所に3,714人が避難生活を続けています。しかし、熊本県は3市1町に対し103,922世帯219,027人に避難指示を発令していることからも、多くの方が在宅避難されていることがわかっています。
在宅避難者に支援は届いているのか。物資や情報等も含め、公的な大きな支援は避難所に集約される一方、在宅避難者への支援はこれまでの災害支援においても課題のひとつとされています。誰ひとり取りこぼさない支援を実現するためには、どうすればいいのか。次回のレポートでは、今回、ARROWSが取り組んでいる、在宅避難者に物資を届ける新しい支援の仕組みづくりをご紹介します。



