◆NIPPON TABERU TIMESがぶつかった壁
ゼミとしてNIPPON TABERU TIMES編集部に参加させていただいて1年が過ぎました。
この間,「農業・漁業のことを何も知らない学生に何ができるのか」「NIPPON TABERU TIMESは中途半端で緩すぎる」というご意見もいただきました。おっしゃる通りだと思います。
旬を大切にしながらも,一次産業の本質を伝えるキュレーションというのは,当初予想していたより難しいことでした。はっと目に留まる絵がなければ「旬」は伝わりにくいですが,かといって綺麗で面白そうなもの,美味しそうなものだけを並べればいいわけでもない。
現状の矛盾や問題を指摘する現場の主張を伝えることができる数少ない媒体として存在意義を発揮していきたいところですが,それだけでメディアとして成立させることは難しいでしょう。
どういう視点で,どういうバランスで何を伝えるべきなのか,もがき続けているというのが,NIPPON TABERU TIMESの現状だと思います。
◆グラウンドに降り始めた学生たち
東京の大学生の99.9%は1次産業にも,NIPPON TABERU TIMESの活動にも関心がありません。
「食べる通信」の知名度はほぼゼロでしょう。
その中で,高橋博之編集長の呼びかけに応じてやりたいと言って手を挙げてくれた学生でも,続けていくだけのやりがいが見いだせず降板した学生もいます。
ただ,このままやめて何もなかったことにしてしまうには,もったいない。
なぜなら,動き出した人がいるから。
編集長のことばを借りれば,観客であることをやめて「グラウンドに降りる」ことを選んだ人たちです。彼らは自らの意志で全国の生産現場に出かけ,作業を経験して話を聞き,何をどう伝えるべきなのか必死に考えています。
その中には,卒業して社会人になってもなお,休みの日を使ってNIPPON TABERU TIMESに関わり続けているケースもあります。
彼らのもともとの関心の方向,持ち前の勇気と好奇心が貢献していることは間違いないと思います。しかし,NIPPON TABERU TIMESが彼らに「グラウンドに降りる」チャンスを与えたことも事実です。
◆大学生の閉ざされた世界に一石を投じる
東京の大学生はとても狭くて閉ざされた世界に生きています。
彼らの生活は一昔前の学生とは比較にならないほど忙しそうですが、その時間の大半は、授業、サークル、アルバイト、友だちとの付き合いをぐるぐる回り,同世代で構成されるいくつかのコミュニティの中で完結しています。外の世界との接点はアルバイトくらいでしょうか。それも意外に学生ばかりの世界だったりします。
おそらく彼らが1次産業が抱える問題のリアリティを感じることは一生ないでしょうし,農家漁師の働く姿や,そのしごとの苦しさや喜びが目に入ることもありません。
大げさに聞こえるかもしれませんが,NIPPON TABERU TIMESはその閉ざされた世界に一石を投じる役割を果たします。
学びの現場には,波及効果というものがあります。
教員が学生を変えることはできませんが,何かのきっかけで1人の学生が変われば,周囲にいる10人の学生に影響を与えます。
その波及効果は,おそらく皆さんが考えるよりもずっと大きなものです。
◆クラウドファンディングに参加することは,期待を背負わせること
NIPPON TABERU TIMESがこれからメディアとしてどうなっていくかは分かりません。しかし,少なくとも,この1年間で学生の最初の小さな変化を起こすことには成功しました。1年後には,さらに何人かがこれに続く予感があります。
そして彼らは,次の大きな変化を起こすリーダーになるでしょう。
クラウドファンディングへの参加を検討されている皆さま,ぜひNIPPON TABERU TIMESに関わる学生たちに期待を背負わせてください。彼らは一円の援助がなくても,自腹を切って現場に通い続けるでしょう。しかし,誰かから期待を託されることで,彼らはもっと速く,遠くまで行くことができるようになります。
日本食べるタイムス編集部 アドバイザー
慶應義塾大学商学部教授・牛島利明