■はじめに

ご覧いただきありがとうございます。写真家の阿部明子と申します。2020年より、神奈川県三浦市で夫と6歳になる子どもと暮らしています。

今回、私が主催するプロジェクト「misaki photo exhibition」で行なった企画展をZINEにまとめ、たくさんの方に知っていただきたく、クラウドファンディングを発足しました。

プロジェクトの活動は、私が20年間作家活動をし続けてきて感じていた表現活動の中心が首都圏に寄り過ぎている」という思いが根幹にあります。

今回、小さいながらも地方で展示を催してみて思ったことは、作家にとっては熟考の場に、そして、作品鑑賞が身近ではない人にとっては展示に触れる場になるということ。そんな可能性を感じました。もちろん、集客の難しさや資金面など課題もたくさん......。

写真家の方はもちろん、作家、作品鑑賞が好きな方に応援していただけるととても嬉しいです。また、どんな地域で育つ子どもにも、表現に触れる機会があればと思います。そんな親御さんにも、広めたり読んだりしていただけますように、願いを込めてご紹介させていただきます。

本ページの目次
・三浦市の魅力と、文化や表現活動の現状
・地方での作家活動のしづらさ
・そこで始めたのが「misaki photo exhibition」
・花輪奈穂写真展「gathers and spillages 〜付加体と礫〜」
・ZINE制作の経緯と詳細
・リターンと、集まった支援金の使いみち
・最後に、いち写真家としての思い


■三浦市の魅力と、文化や表現活動の現状

三浦市は、神奈川県・三浦半島の南端にあり、温暖で過ごしやすい土地です。東京から京急電鉄で90分ほどで行ける観光地として人気があります。マグロの水揚げで有名な三崎エリア(三崎港周辺)は昔の建物も残り、レトロな雰囲気が残っています。
(misaki photo exhibition の名前も三崎から勝手にいただきました)

県内で唯一消滅可能性都市に指定されており、人口は4万人を切っています。もちろん文化や表現に対する優先順位も低く、博物館や美術館もありません。

廃校を利用した小さな民具の収蔵庫には、専門の学芸員が週に3日しか滞在していません。しかし、収蔵庫の管理をしているおじさんは後世に三浦の歴史を残そうと丁寧な仕事を続けています。また他にも、市民の生活の聞き書きをして80代になっても自費出版を続けている方や、土地の記録を聞いて本やメディアに残そうとしている小さな団体もあり、ひたむきな個人の活動が多い土地だと感じています。

■地方での作家活動のしづらさせんだいメディアテーク開館20周年展「ナラティブの修復」より 阿部作品の展示風景(2021年) 撮影:小岩勉

写真をはじめて20年。写真家として個展をはじめて17年になります。

出身地である宮城での展示活動、東京での展示など、首都圏と地方での展示を経験し、三浦市に来て活動をしながら思うこと。それは、あまりにも表現活動の中心が首都圏に寄り過ぎていることです。

特に子育てをしていると、子どもが学校や保育園に行く隙間をぬって美術館に行くことが多いのですが、地方住まいだとインプットが足りなくなっていきます。

最近行った中平卓馬展。これも東京まで片道2時間かけて行きました。

また一番の問題は、東京での展示しか評価の対象に上がらない現状です。地方には面白い作家がたくさんいるのに、首都圏で活動してフックアップされた人たちが有名になっているように感じています。地方での活動をフォローしてくれようとする批評家や文筆家の方も増えてきましたが、そこまで多くはありません。

そして、この環境で自分の子どもが育つことを考えると、もっと身近に作品に触れたり、表現したいと思う機会を作ってあげたりしたいなと感じます。

■そこで始めたのが「misaki photo exhibition」

2ヶ月に1回ほどで不定期開催。地元の写真好きに加え、隣の横須賀市や川崎市からも参加した会。

そこで、自分のできる範囲で始めたプロジェクトが「misaki photo exhibition」。

最初は、SNSで写真をあげている知り合いやカメラが好きなご近所さんに直接声をかけ、写真を紙にプリントして持ってきてもらい、みんなで観ていく会(通称:写真をみる会)の開催から始まりました。

他にも、写真をみる会でいろいろな技法に触れるためのサイアノタイプワークショップをしてみたり。大学生から40代のメンバーを中心に、不定期で開催しています。

サイアノタイプワークショップの様子。各自で用意した写真や素材を日光を使って印画し、青写真にしていく。

また、外から作家を呼んで三浦で展示をしてもらう活動も。第一回目は、私自身の企画展示を三崎で週末だけ開く古着屋「ichiru」さんにて行いました。

三崎の古着屋ichiruにて個展「土地をぬう道、ヤトがくる」の展示風景 ブロックひとつひとつに写真を貼って並べた(2023年)

基本的には私が「あったらいいのに」と思うことを粛々とやっていますが、この活動で自分が大切にしているのは「集まる」ということ。

集まり、だれかと写真について語ることで、写真を続けている私自身の発見にもつながる。集まることで、一人では見えないことが他人の目を通じて見えてくる

写真をみる会の参加者は、目標があったりなかったりそれぞれですが、「趣味で撮り続けていたけれど初めて作品を作りたいと思った」や、「個展をやってみようと思う」など、他の参加者の表現に触れることで触発された人もいます。

もっと気軽に表現をしてほしい。人の表現を見ることで私も考えを深めたい。そう思っているので、こんなに喜ばしいことはありません。

■花輪奈穂写真展「gathers and spillages 〜付加体と礫〜」

そして「misaki photo exhibition」の第二回にあたる企画展であり、今回制作するZINEの題材ともなるのが、本企画。花輪奈穂写真展「gathers and spillages 〜付加体と礫〜」です。

花輪奈穂写真展「gathers and spillages 〜付加体と礫〜」

三浦市にある城ヶ島は、海底の地層が陸地に押し付けられた「付加体」というめずらしい地層・地形で成っています。

地球の記録である地層、人間の記録である写真。どちらも記録する“媒体”としての機能をもつ、地層と写真について思考をめぐらせて制作された作品たちです。すばらしい展示をしてくださいました。

写真家であり現代美術家の花輪奈穂さん(当初埼玉県在住、展示期間中に新潟県へ転居)をお呼びし、三浦でテキスタイル作家としてストールブランド「ルイヌノ」を運営するルイさんのアトリエで行いました。花輪奈穂さんの代表作のひとつ。自らを現代美術家だというように、展示手法はさまざま。

日本で2社しかない希少な技術工場とつくる、自然でいて繊細なウールストールが人気のルイヌノ。

展示のきっかけは、花輪さんが第一回目に行った私の展示を観にきてくれたこと。

40歳にさしかかり、制作を続けることの大変さを実感しながらも、三浦のゆるやかな空気の中で制作に向き合う時間を作るのは中堅作家にとって良いのではないか、と感じていた私。一方、「東京から少し離れた場所でじっくり作品と向き合う時間が作りたい」という思いを花輪さんも抱えており、思いが重なったんです。

また、物は違えど同じ作家として三浦で交流のあるルイさんも同じように「作り続けることの難しさ」を感じており、良い協力関係が築けそうだったことや、花輪さんとルイさんの作品の質感には親和性があるなと思ったこともあり、3人が協働して展示することに。

ZINEのデザインを手掛けるデザイナーさんによる3人のイラスト。似過ぎている、と一同大笑い。

2ヶ月にもわたる会期の中で、他の作家さんを呼んでトークイベントをしてみたり、地元三浦の人にも来てほしいと、三崎でものづくりや商いをする人を呼んで交流会をしてみたり。

連日満員御礼! とは言えませんでしたが、たくさんの対話や交流が生まれ、我々作家3人にとって多くの気付きや学びを得た開催となりました。

トークイベントの様子。企画展の作品の中、三浦内外から集まった人々との交流も盛り上がった。


■ZINE制作の経緯と詳細

今回の展示をZINEにまとめるのはどうかと提案してくれたのは、アトリエを貸してくれたルイさん。

花輪さんは多くの人に見てもらいたくなるような展示をしてくれたのですが、その割には来場者が少なかった。土地柄、アクセスなど課題はありますが、力不足もあり、とても勿体ないと感じていました。そこで、アーカイブ的な意味と、三浦に来れなかった人たちへ展示を知ってもらうための冊子を作ろうとなったのです。

手助けしてくれる友人が三浦に住んでいることも作ろうと思えた一因。私自身は冊子を作った経験があまりないので、職能として持ってる人が近所に住んでることは大きな後押しとなりました。(フリーのデザイナー、編集の友人と一緒に作っています)こうやって近所の人たちの手を借りながら作品の展示や制作をおこなうのは、かなり珍しいことのような気がします。

全国各地で小さな手作りの展示会があってもいいのでは、と思うようにもなりました。その手引きとしての意味でもZINEが役立つよう、情報を入れて作ってみています。

ZINEの完成図。作品の写真が散りばめられたじゃばらは、広げて飾ることもできます。※サンプルのため、一部実際とは異なります。

ZINEは52ページにわたる小冊子と、じゃばら状のカバーで構成されています。

主な内容
・はじめに
・misaki photo exhibitionとは
・花輪奈穂写真展「gathers and spillages 〜付加体と礫〜」の記録
・現代美術作家 原口比奈子寄稿「私たちは地層を見るのではなく地層を体験する」
・作家トークその1「場と制作、そして鑑賞の『気持ちいい』負荷」
・お茶会で聞いてみた「三浦の好きな場所」(グーグルマップ付き)
・展示のあけすけ(準備の流れ、かかったお金、トラブルなど大公開)
・作家トークその2「観る作る発表する、の私たちの場合」
・グラフィックデザイナー 矢口莉子寄稿「あるものと、あたらしいもの」
・あとがき
・謝辞


完成間近のZINEの中身は、手前味噌ですがかなり充実。2回のトークイベントや、展示の内容、作家からの寄稿まで。

リターンの内容
・サンクスメール(2000円/5000円/)
・ZINEのみの購入(1冊/3冊/5冊)
・花輪奈穂さんのグッズ(グッズのみ/ZINEとセット)
・城ヶ島&ルイヌノアトリエツアー(ZINEとセット)
・misaki photo exhibition サイアノタイプワークショップへの参加(ZINEとセット)

ご支援いただいた際のリターンは、上記をご用意しました。また、ZINEに三浦・城ヶ島のお土産がついたリターンも準備をしており、4月下旬には追加公開できるかもしれません。ご興味のある方はぜひ、追加のリターンをお待ちください。(追って活動報告でお知らせします)。

また、実際の物はいらないけれど、活動を応援したいと思ってくださった方がいたら、サンクスメールのリターンを用意していますので、そちらでご支援いただけると大変感謝いたします。心を込めて、お礼の言葉をお送りします。

ZINEの中身にも詳しく書きましたが、企画展の開催や、こうした制作には当然お金がかかります。企画展のトークイベントのメインテーマだったともいえる「制作を続けていく難しさ」は、活動資金をいかに作るか、というのも大きなポイント。今回みなさまに頂けた支援金は、ZINEの制作費(デザインや編集、印刷、広報)を中心に、企画展の開催や、今後の企画に大切に使わせていただきます。

<最後に>いち写真家としての思い

今回、地方で初めて作家さんを招いて展示をしてみて思ったこと。それは、ちょっと大変ではあるけれど、地方に小さな展示が増えたらもっと面白くなるなということ。私自身は今後「misaki photo exhibition」として目標は十回まで、回を重ねられたらと考えています。(第三回は今回の企画展のトークイベントで来ていただいた、画家の大槻さんを招いて開催が決定しています)

企てるためのひとつのサンプルとして、このZINEを見てもらいたい。そして、もし地方で小さくてもやってみたいなという人がいたら、応援したいし繋がりたい。小さな展示のネットワークが、少しでも作れたらいいなと思っています。

制作を続けていきたい身としては、こうした小さな集まりが重なることによって、制作の孤独も少しはマシになると思っています。美術館やギャラリーなどの大きな場と違って、定期的に制作をひらく場(練習の場であり考える場)として、ちょうどよい大きさです。

そして地域での展示は、制作者の成長を見守ってくれる人を増やすことにもつながる。それは制作の力にもなります。

そして、作品に触れる楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたい。

「観る」ことがすごく創造的な行為であること。作品という謎に対して、付き合うこと。作家の表現活動を応援する楽しさや、作品に対して自分なりの見方を作っていくこと。そして興味があれば、自分も何か作品として発表してみること。制作や作品に関わるいろいろなハードルを下げられたら嬉しい。

地方の小さな展示会は、まず、私にとって必要なもの。作家にとっては熟考の場に、そして、作品鑑賞が身近ではない人にとっては展示に触れる場に、なると思っています。

少しでも活動に興味を持ってくださった方がいたら、ご支援をいただけると嬉しく思います。よろしくお願いいたします。

misaki photo exhibition 主宰 阿部 明子


<募集方式について>
本プロジェクトはAll-in方式で実施します。目標金額に満たない場合も、計画を実行し、リターンをお届けします。

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  • 2024/05/02 11:05

    元々は苦手意識を持っていたクラファン。misaki photo exhibition の活動は個人的な思いで淡々と続けていました。その活動に対して、10万円ものご支援に達し、とてもありがたく思っています。お金という価値をいただくことで続けていい活動なんだと、後押ししてもらえた気持ちになるものだ...

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