やたらマルナカ工作所プロジェクトの問合せが多いなと思っていたら、「読売新聞に載っていたから」とあるかたが教えてくれた。 取材を受けていたことすら忘れていた。 訳あってここのとこ仕事もままできない状況であったこともあり、クラウドファンディングも中々順調ではないのですが、新聞をみたというかたが、特に年配と思われるかたからたくさんお電話いただいた。 「応援してますと一言伝えたくて」「ネットはみないので、少額で申し訳ないが振り込みたい」「神戸にそんなかたがいたとは」等等 「いいね」のクリックひとつで済むようなことをわざわざ電話で伝えてくれるアナログ感。忘れかけてたようなわざわざ感。 もちろん、そういうかたにたくさんのお金を支援をしていただけたらなあという思いもないわけではないけど、なんかそれも自分らしいとも思うし。 新聞を見たと電話くれて、何かしたいといってくれて、リターンも聞かず3000円を振り込みに郵便局までいってくれたおばさん。そして、これまでに支援してくれたみなさんのこともひとりひとり思い返してみた。 春分も過ぎて、少しは前を向いていけそうて。あと、7日で終了です!応援いただかたらうれしいです。
マルナカ工作所の空間づくりに関するもろもろの仕事を担当するのはウズラボです。ウズラボは、マルナカ工作所と同じ、神戸市兵庫区に拠点をもつ建築設計事務所で、長屋の耐震改修プロジェクトを多く手がけています。また、設計のみならず、 築100年を越える町家でマーケットを企画してエリア価値を高めるための場所づくりもおこなっています。 ↑ウズラボが携わった改修プロジェクト 山之内元町長屋(撮影:多田ユウコ) ↑毎月第三土曜日に開催される嶋屋喜兵衛商店「おふくいち」の様子 ウズラボのオフィスは、近所の材木屋さんのデットストックを活用した、木に囲まれた空間となっており、壁や天井そして棚など、インテリアの大半はDIYで製作されました。 ↑ウズラボオフィスの入口 ウズラボオフィスでは、空間の構成はもちろんのこと、DIYによる細部のおさまりもこだわりました。例えば、壁を構成する材料はすべて特殊な実(さね)加工が施されており、厚みの異なる材でも片面は必ずフラットになるうえ、ビス打ち箇所が隠れて仕上がりがとてもきれいです。この実加工は小池加工所がおこなっています。 また、デッドストック木材という特徴を生かし、さまざまな樹種の木材が縞模様を構成するようにランダムに並べ、表情豊かな空間が作り出されています。大小さまざまな形状の開口部がそこかしこに設けられ、内と外を複雑につなげ、視線が抜けつつもプライバシーが確保される空間が構成されています。 ↑細部のこだわり(実加工) ↑さまざまな素材の組み合わせ(デッドストックの活用) ↑外部と内部のつながり(開口部のデザイン) 地域資源と技術を活用することで、DIYと言えども空間的に高いクオリティを確保できます。マルナカ工作所プロジェクトは、木工作業場を整備して開放することに加え、プロジェクトを通じてモノ・ヒト・コトによる地域コミュニティを再構成し、地域資源とそこで培われた技術をユーザーに還元していく仕組みづくりをおこないます。 ウズラボhttp://www.uzulab.info/
マルナカ工作所の近くには「兵庫運河」が流れています。「兵庫運河」とは、兵庫南部地区にある複数の運河の総称です。水面積がおよそ34ha、長さの合計が6470mあり、運河としては日本最大級の規模を誇ります。この界隈は、古くは平清盛によって大修築された「大輪田泊(おおわだのとまり)」として平安時代末期から鎌倉時代前期にかけて日宋貿易で栄え、江戸時代には「兵庫津(ひょうごのつ)」と呼ばれるようになり、良好な港として繁栄してきました。海に向かって突き出す、兵庫の海岸線の頂点に位置するのが和田岬です。ここは、川によって六甲山から土砂が運ばれて堆積してできた砂嘴(さし)で、南西からの風に対する防波堤の役割を果たします。ただ、南東からの強風や荒波に対しては無防備となっており、激しい雨が吹き荒れると大きな被害を受けました。そのため、船舶の避難場所として、また荷揚げ場としての機能を果たす運河を計画しました。大正から昭和初期の運河周辺は、商工業地域として賑わっていたそうです。1993年には、新川運河周辺が市民の憩いの場「新川運河キャナルブロムナード」として整備されました。このあたりは、兵庫城そして初代兵庫県庁の跡地であり、近年は神戸市中央卸売市場として活用されてきました。 ↑兵庫運河の平面図(兵庫運河を美しくする会HPより転載) 「新川運河キャナルブロムナード」では、ちょくちょくとインベントがおこなわれます。先日(2017年3月19日)は、「兵庫区のおいしいもの、ステキな宝物が詰まったイベント」というコンセプトで、「あの運河で逢いましょう」というイベントが開催されていました。 ↑「あの運河で逢いましょう」の様子 このイベントには、「recolte(レコルト)」と「MAISON MURATA(メゾン ムラタ)」という、とてもおいしいパン屋さんが出店していました。実はここ数年、兵庫南部地区におけるパン屋さんのクオリティがとんでもなく高いものになっています。その立役者がこの二つの「ブーランジェリー」(フランス語でパン屋)なのです。 「recolte」は、JR兵庫駅の北、神戸高速鉄道「大開駅」のほぼ真上にお店があります。2012年にオープンし、2015年に現在の場所に移転して再オープンしました。recolteとは、フランス語で「実る、収穫する」を意味します。作物と同様、パンづくりもさまざまな工程を経てできあがります。パンは酵母と酵素の力を借りて発酵・熟成させてつくります。それは、酵母と酵素との対話のなかから試行錯誤を繰り返し、素材のおいしさを引き出したパンを「収穫」する作業でもあります。 ↑recolteのオーナーブーランジェ ↑recolteの分厚いミートローフのバーガー 「MAISON MURATA」は、和田岬地区の笠松商店街内にお店があります。サッカーJリーグ・ヴィッセル神戸のホームスタジアム「ノエビアスタジアム神戸」は目と鼻の先で、三菱重工業神戸造船所や三菱電機の工場が広がる地域に隣接しています。「MAISON MURATA」のオーナーブーランジェは、22歳の時に「本物のパン食のためのパン職人の文化」を探求するために渡仏して修行し、2012年に帰国してパン教室を主宰しました。2015年よりパン屋をオープン。しっかりと焼き込まれたハード系のパンを中心に、「みんなが毎日食べるパン」を提供してくれます。 ↑MAISON MURATAオーナーブーランジェ ↑MAISON MURATAのハード系のパン ↑MAISON MURATAのミニフランス どちらのオーナーブーランジェも、添加物を使わないというコンセプトをもつ「ビゴの店」で修行を積んだ経験があります。パンづくりに向き合い、本物の味を追求していく姿が共通しているのは、ビゴの精神を受け継いでいるからでしょう。パンづくりに対する真摯な態度は、モノづくりにも通ずるところがあり、とても共感しました。おいしいパンを噛みしめながら、たくさんの刺激をもらった一日でした。なお、今回のイベントでは、その2で紹介したマツモトコーヒーの出店もありました。イベントの会場となった運河はマツモトコーヒー の実店舗から徒歩で30秒のところにあります。他の出店者が提供するパンやスイーツとの相性を考え、このイベントのためにブレンドした、こだわりのコーヒーを出されていました。 ↑マツモトコーヒーの出店ブースの様子 boulangerie recoltehttp://www.pain-recolte.com MAISON MURATAhttps://www.maisonmurata.com 兵庫運河を美しくする会http://www.hyougounga.jp/index.html兵庫運河の水質の浄化と、周辺の景観の美化を通じて地域社会に貢献することを目的として、木材会社が中心となって1971年に発足。三栄やマツモトコーヒーも会員として名を連ねています。
戦後以降、兵庫運河は貯木場として利用されてきました。プカプカと水に浮かぶ丸太は製材され、建材として適材適所で使用できるように加工を施され、使用する箇所に適した形に整えられます。木材を削って形を整えること、それが木材加工所の主な仕事です。 伝統的な日本家屋は、木造の軸組と土壁で主たる構造が構成されており、時と場合に応じて襖や障子で簡易的に間仕切り、ハレとケの空間を演出します。襖や障子には戸車や吊り金物はなく、溝をついた鴨居と敷居の間をすべらせて開閉します。「溝をつく」という削り加工は、最近の住宅ではめっきりと出番がなくなりました。 木材加工を営む工場は年々減少しています。そのため、木材加工技術そのものが貴重なものとなりつつあります。このような状況のなか、兵庫南部地区界隈において、小池加工所は現役で稼働している数少ない工場のひとつなのです。 ↑小池加工所の内部の様子 ↑小池加工所で加工してもらった無垢材削り出しの取手 2016年6月に小池加工所を会場として開催された1日限定のアートイベント・FILMLESS CINEMA LIVE CONCERT 「ことばの舟着き場」では、絵と音と、言葉のユニット・repairによる生演奏コンサートと、黒田武志、江崎武志、ka-ji- によるインスタレーション展示がおこなわれました。普段は即物的な町工場でも、空間演出を施すことで魅力的なアートスペースに変身することがわかりました。 ↑2016年6月に実験的におこなった「ことばの舟着き場」repairの演奏の様子 (※FILMLESS CINEMA フェイスブックページより転載) ↑「ことばの舟着き場」のインスタレーション展示の様子 小池加工所に限らず、町工場がもつ技術は、貴重な地域資源のひとつです。こういった地域資源をネトワークとして活用していくことが、マルナカ工作所プロジェクトの重要な役割のひとつと考えています。 ことばの舟着き場http://filmless.businesscatalyst.comhttps://www.facebook.com/filmlesscinema.repair/
神戸港開港が1868年。そこから多くの西洋文化が持ち込まれました。そのため、神戸発祥と言われるものがたくさんあります。例えば、サッカー、マッチの工業化、テーラー、ラムネ、洋家具、ゴム製造、ウスターソース、靴の製造、映画の興行、ジャズなどなど。コーヒーもそのひとつで、1874(明治7)年に神戸元町の茶屋「放香堂」がコーヒー豆を輸入し、「焦製飲料コフィー」として飲用と粉末の販売を始めたそうです。 その1で紹介した「北の椅子と」のカフェでは、とてもおいしいコーヒーが飲めます。それは場の雰囲気やコミュニティによる居心地の良さのおかげ、というのはもちろんですが「スペシャルティーコーヒー」と呼ばれるこだわりの豆を使用していることも理由のひとつに挙げられます。 ↑スペシャルティーコーヒーの豆は、粒がきれいで色艶があり、いい香りが漂います スペシャルティーコーヒーとは、飲む人がおいしいと評価して満足するコーヒーのこと。コーヒーにおける「おいしさ」の評価は、「印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていく」というものとされています。この「おいしさ」を得るためには、コーヒー豆の生産からカップに注ぎ込むまでのすべての工程で品質管理が徹底される必要があります。「北の椅子と」では、そんなこだわりのコーヒー豆を使用しています。そして、このコーヒー豆を提供しているのが神戸市兵庫区で生豆卸・焙煎販売をしているマツモトコーヒーなのです。 マツモトコーヒーは、1993年に創業され、それ以来、コーヒーの品質に強いこだわりをもっています。本当においしいと感じるコーヒーを安定して日常に届けたいという思いから、生産国へ足を運び、高品質なコーヒー生豆の買い付けを始めたそうです。 ↑エチオピアのグジにあるコーヒー農園の様子 ↑エチオピアナチュラルコーヒー「ホワイトナイル」のコーヒーチェリー コーヒー豆は、コーヒーチェリーの種を取り出し、それを焙煎したものです。コーヒーチェリーの品質、コーヒーチェリーから種を取り出す精製方法、コンテナ輸送、そして焙煎という工程を経て消費者にコーヒー豆が届きます。おいしいコーヒーを消費者に届けるためには、この橋渡しに関わるすべての人が同じ意識で作業に取り組むチームワークが必要で、マツモトコーヒーはその重要な歯車のひとつとして日々活動されています。マルナカ工作所も、六甲山材を活用するための木工ネットワークの重要な歯車になりたいと思っています。 ↑マツモトコーヒーの役割を示すダイアグラム ↑ホンジュラス「ミゲルエンジェル」の澄んだ水による精製の様子 ちなみに、クラウドファンディング「港町神戸の舟工房を継承し六甲山の木でモノづくりができる拠点を作りたい!」を立ち上げた際のキックオフ会でみなさんに飲んでいただいたコーヒーもマツモトコーヒーのコーヒー豆を使用していました。 マツモトコーヒーhttp://www.matsumotocoffee.com※ *印以外の写真はマツモトコーヒーHPからの転載です