2022年2月21日読売新聞夕刊に掲載されました
2022年2月21日(月曜日)読売新聞 夕刊全文
UV防護服着て遊ぼう
難病の子どものため開発
紫外線(UV)を浴がびると皮膚がんが起きやすくなる難病「色素性乾皮症*1」の子供たちのために、埼玉県和光市の服飾メーカーがUVをほぼ完全にカットできる防護服を開発した。
クラウドファンディングで154万円を集めて22着を作り、小学生の患者らにプレゼントする。
代表の松成紀公子さんは「昼間も外に出て、友達と一緒に遊びや運動を楽しんでほしい」と話している。
松成さんがUV対策の研究を始めたのは20年前。1歳だった長男の日焼けがひどく、
UVによるアトピー性皮膚炎と診断された。
当時は日焼けを防ぐ乳幼児向けの商品はほとんどなく、「自分でUVカットの服を作ろう」と思い立った。UVを跳ね返す酸化チタンが入った繊維を使おうとしたが、メーカーから「取引するのは法人だけ。個人には売らない」と言われた。
育児仲間と2002年4月合資会社ピーカブーを設立。
繊維を調達し、現在は「エポカル」のブランド名でUVカット効果の高い帽子や上着など1000種類以上を販売する。
防護服の開発も検討したが、社内から「利用した患者が皮膚がんになった場合、訴えられるのでは」と不安の声が上がり、踏み切れなかった。
転機は18年。
患者や家族で作る「全国色素性乾皮症(XP)連絡会」の総会に参加し、「子供を運動会に出してあげたい」
という親たちの声をじかに聞き、決意した。
5回の試作を重ねて今年1月「空調ファン付きUV防護服」を完成させた。
酸化チタン入り繊維の布で仕立てたフード付きウィンドブレーカーで、暑さを和らげるため2個の
小型ファンで服の中に風を送る。
専門の検査機関にUVカット率を測定してもらい、「99.9%」のお墨付きも得た。
がん化した皮膚の摘出手術を5回受けた東京都世田谷区の小学3年生阿部新大君(9)は今月2日、
松成さんから防護服を受け取り、「友だちと一緒に歩いて通学したい」と笑顔を見せた。
連絡会の有元諭史会長(51)は「外で体を動かす機会が増え、体力がつく」と歓迎する。
環境省は一般向けの「紫外線環境保健マニュアル」で、
長年浴び続けていると腫瘍や白内障につながりうるとして日傘や帽子、サングラスの活用を促す。
松成さんは「病気の有無にかかわらず、
子供の頃からUV対策の知識を必要。教科書に載せて、学校で教えてほしい」と願っている。
*¹: 色素性乾皮症 国の指定難病で、紫外線に当たると、やけどのような水ぶくれができ、皮膚がんになりやすい。成長につれて耳が聞こえなくなったり歩けなくなったりするなど、全身の機能が衰えていくケースもある。遺伝病で抜本的な治療法はなく、日常生活では徹底的に紫外線を避ける必要がある。国内の患者数は約500人とされる。