友人の映像クリエイターで〈周波数24/7〉を主宰する仁科賢人さんが、〈菊の湯〉の「Before & After」を映像作品として記録に留めたい、と申し出てくれたのは、今回の銭湯継承プロジェクトについて、僕がSNSなどで公表した直後のことでした。その前編として、リニューアル前の流れを撮影・編集したムービーが、きのう公開されました。ぜひ、ご覧ください!仁科さん、貴重な記録を残してくださり、本当にありがとうございます!!きっと年月が経ってから当時のことを振り返るとき、僕らにとって、大切なたからものになるはずです。
今月初日に銭湯〈菊の湯〉を引継いだその日から、リノベーションがスタートしました。今回も空間デザインを担ってくださるのは、4年前の〈栞日〉移転リニューアル、および、旧店舗での〈栞日INN〉スタートの際に、両空間を設計&施工管理してくださった、空間デザイナー、東野唯史さん。当時は、奥さん・華南子さんとのふたりユニット〈medicala / メヂカラ〉として、全国各地を飛び回りながら空間制作をしていましたが、〈栞日〉移転リニューアルと同じ4年前に会社を立ち上げ、同じ長野県内の上諏訪に拠点を構え、以来、建築建材のリサイクルストア〈ReBuilding Center JAPAN〉(通称「リビセン」)代表として、活躍の幅を広げています。今回の〈菊の湯〉継承が確定したとき、真っ先にそのことを報告してリノベーションをオファーしたのが東野さんでした。毎日のように慕って通っている地域のみなさん(特に、おじいちゃん・おばあちゃん)がいる風景を、毎日のように斜向かいから眺めてきたからこそ、「なるべく休業期間は短くしたい」とリクエストを伝えたところ、「わかった。改装箇所も手数も最小限にして、最短期間で納めよう」と快諾してくださいました。休業期間は丸2週間。この短い工期の中で、コンセプト「街と森を結ぶ湯屋」や追求テーマ「環境(エココンシャス)と健康(ヘルスコンシャス)」を踏まえながら、効果的なリノベーションを施すために、東野さんが提案してくださったのは「素足で心地よい床」が主役の改装プランでした。まずリノベーション初日から、4年前の〈栞日〉移転リニューアルの際にも力を貸してくださった大工の荒川さんが、今回も駆けつけてくださり、該当箇所の解体作業をスタート。我らが湯屋チーフ「ひかるん」こと山本ひかるも、施工会社勤務の経験をフルに活かして、初日から毎日リノベーション現場に通い、自ら腕を振るいます。※ ひかるんの湯屋チーフ奮闘記は〈菊の湯〉Instagaramアカウントで、ほぼ毎日更新中。ぜひともご覧ください!!上の写真で、ひかるんがグライダーを手に加工している床材を、荒川さんが受け取って貼っていった床面がこちら。独特の鱗模様が印象的なこの床。素足で歩くとこの凸凹が伝わってきて、云いようもなく心地よいのです。4年前の〈栞日〉移転リニューアルの際、その工期中に「リフレッシュ休暇」と称して、東野さんがこれまでに手掛けた空間を、都内中心に巡る、1泊2日のツアーに出掛けたことがありました。そのとき、菊地家が泊まった鎌倉の小さなホテル〈aiaoi〉(もちろん、東野デザイン)の床にこの「なぐり加工」が施されていて、その足触りにいたく感動していたのが、(開業1年目の途中からずっと一緒に〈栞日〉を営んでいる)僕の妻、のぞみん(希美)でした。今回の湯屋継承が決まったとき、彼女からの強い希望があって、番台ロビーの床はこの「なぐり」の床を採用する運びとなりました。この、いわば新生〈菊の湯〉の「顔」ともいえる番台ロビーの「なぐり」床のために、「リビセン」チームが引っ張り出してきてくれた床材がまた格別。同じ長野県内で、とある小学校が廃校になったとき、その校舎から「レスキュー」してきたブナ材なのです(彼らは解体される家屋や商店から建材や家具などを運び出すことを「レスキュー」と呼びます)。かつての学び舎の床が時を経て、街場の湯屋の床として蘇ります。再びたくさんの子どもたちに、この床を踏んでもらえたら、これほど喜ばしいことはありません。続いて、こちらは脱衣所の床。以前は(番台ロビーもそうなのですが)タイルカーペットが敷かれていました。今度は同じ「タイル式」でも、表面が無垢の木。それも、ヒノキです。製造元は〈西粟倉 森の学校〉。岡山県の山あいで、森林資源と地域経済の可能性について考え、そのための実践を続けています(西粟倉といえば、天然温泉のゲストハウス〈あわくら温泉 元湯〉の取組みも、「湯」絡みでは、外せません。いつか、みんなでご挨拶に伺いたい土地です)。今回は〈西粟倉 森の学校〉のオリジナルブランド、「ユカハリ・タイル」シリーズの中から「ヒノキ」をチョイスしました。敷き詰めると、脱衣所の空間全体に、芳しい木の薫りが。これだけでもう充分すぎるほど贅沢です。そして、このフローリング材、何が素晴らしいかといえば、大工の荒川さんをして「ものすごく丁寧に加工処理されている」と云わしめた、その製品そのもののクオリティはもとより、この梱包デザイン。製品を届ける相手に留まらず、製品を運んでくれる相手に対しても、この気遣い。細部に宿る優しさに、こちらの気持ちも和みます。最後に、2階。そう、〈菊の湯〉には2階があります(向かいに〈栞日〉がよく見えます)。もともと、登山帰りのみなさんが、まずは大きな荷物を下ろして、湯を浴びて、そのあともゆったり過ごしてもらえたら、という計らいから設けられた空間でしたが、近年は、目が行き届かないなどの理由から(それも、もちろん、よくわかります)、「STAFF ONLY」の物置になっていました。僕らは今回のリニューアルで(〈栞日〉2階もスタッフの「目が行き届かない」ゆえの居心地のよさがある、という手応えを感じているので)、この〈菊の湯〉2階も自由な休憩スペースとして、再びオープンな場に戻したい、と考えています。この2階の床には、畳を敷きます。4年前の移転リニューアルに直前に、引っ越した自宅をリノベーションしたときに、畳の表替えをお願いした、松本〈村松畳店〉さんに依頼して、熊本県産の藺草(いぐさ)の畳をフロアいっぱいに敷き詰めていただきます。そして窓際には、「リビセン」チームが、古材の一枚板でカウンターを拵えてくれる予定。湯あがりに瓶牛乳を携えてひと仕事、なんてスタイルも歓迎ですし(電源・WiFi、ご用意します)、座布団やちゃぶ台も用意するので、銘銘思い思いの時間を過ごしていただけたら。以上、「なぐり加工」を施したブナの古材の番台ロビーに、無垢のヒノキの「ユカハリ・タイル」の脱衣所に、国産畳の2階休憩スペース、と、「素足で心地よい床」を主役に据えた、今回のリノベーションプランについて、現場からお届けしました。引継ぎから、あっという間の2週間。3日後に控えたリニューアルオープンに向けて、リノベーションも佳境のときを迎えています(写真は、そんな現場を庭のように駆け回る我が子らが、ようやく番台に落ち着いたとき、ひかるんが撮ってくれた1枚)。あともうすこし。引き続き、温かい声援を、よろしくお願いいたします。
先月 9.29[火]は、前オーナー、宮坂賢吾さんが営む〈菊の湯〉としての最終営業日でした。もちろん僕も店を閉めたあとに訪れて、閉業時刻の直前まで、しっかりその湯を堪能しました。最後の最後まで普段どおりに、ひとつひとつの仕事を納めていく宮坂さんご夫妻。営業終了後、この先この銭湯を引継ぐ〈栞日〉を代表して、僕と湯屋チーフの「ひかるん」こと山本ひかるから花束を贈ったところ、この笑顔をカメラに向けてくださいました。いつも柔和で朗らかな宮坂さんご夫妻あっての、今回の事業継承。本当に幸運な巡り合わせとしか、言いようがありません。翌日以降も「ここは自分たちがやっておくから」と、おふたり揃って浴場にいらして、高圧洗浄機で天井の汚れを落としたり、タイルの目地を補修したり、浴槽を念入りに掃除したり、「いましかできないから」と、ボイラー室も細部までチェックしてくださっています。そして、これまでと変わらず、これからの〈菊の湯〉の姿について、寄り添って一緒に考え、知恵を絞ってくださり、「リニューアルオープンしたあとも、安定して通常運転できるようになるところまでは、一緒に湯も沸かすし、なにか設備のトラブルが起きたら呼んでもらえたらすぐ対処するから」と仰ってくださっているのですから、これほど心強い伴走者はほかにいません。「もともと閉業するはずだった事業ですから。何をしても『失敗』なんてことはありません。おもいっきりやってください」。〈菊の湯〉を継承することが決まったそのときから、宮坂さんが一貫して僕に伝えてくださっていることです。だからこそ、僕はもう、ただ目の前の課題ひとつひとつに、全力で取り組むだけなのです。そして、漫画家の顔も持つ奥さまの宏美さんは、今回の事業継承について、常連さんにわかりやすく伝えるために、こんな漫画を描き下ろして、ロビーや脱衣所に貼り出してくださっていました。さらに、最終営業日には、その日のためだけに、こんなポスターまで。〈菊の湯〉を継承してから、気づけばあっという間に10日間も経ってしまい、こちらでの活動報告が何もできずにおりましたが、前オーナー夫妻からのたくさんの愛に包まれて、僕らは日々、一歩ずつ前に進んでいます。賢吾さん、宏美さん、いつも、本当に、ありがとうございます!!---そして、このポスターにもあるとおり、来週 10.15[木]14:00 のリニューアルオープンに向けて、施設のリノベーションは、既に佳境を迎えつつあります。次の活動報告では、この10日間の改修工事の様子をお伝えします。
こんばんは。代表の菊地です。毎度みなさまを冗長な文章にお付き合いさせて仕舞っていることを反省して、今宵はライトに。でも、この写真の重み。百年の湯屋を継ぐ者として、しかと胸に刻みたく、この場でも共有させてください。現オーナー、宮坂さんが「古い写真が出てきました」とおっしゃって、ご提供くださった、貴重な資料です。▲ 正面から/聳え立つ煙突[平成元年]▲ 斜向かいから/現在と同じ縦看板[平成元年]▲ 女湯脱衣場から番台/鏡に企業広告[平成元年]▲ 男湯脱衣場から番台/改装前の神事[平成元年]▲ 男湯浴室[昭和後期]▲ 宮坂さんの祖母、なつ子さん[昭和初期?]
栞日では、2013年夏の開業以来、店舗のロゴやストアカードなど、グラフィックまわり全般について、詩人でデザイナーのウチダゴウさんに制作を依頼しています。共通の友人を頼りに知り合ったゴウさんとの初仕事は、初代栞日のロゴとストアカード。当時、松本の街の東の山裾、里山辺にあったゴウさんの自宅兼アトリエに通って、僕が栞日のコンセプトを伝えながら、ゴウさんがデザインに落とし込んでいく、そのやり取りは、とても愉しいものでした。「センチメンタルな響きだね」と詩人に評された屋号は、かすれ気味の明朝体のロゴタイプに落とし込まれ、僕が「夜明けの凪いだ海の色」と伝え、ゴウさんが「凪色」と名付けた濃紺が、栞日のシンボルカラーになりました。二度目は、2016年夏の移転リニューアルのとき。店舗移転に留まらず、旧店舗を宿にする、という状況が加わって、ゴウさんから届いた提案は、それまでのイメージをガラリと覆すものでした。ロゴタイプは角が落ちたゴシック体のアルファベット表記「sioribi」で、ロゴマークは「STORE」の二等辺三角形と「INN」の真円。極めてシンプルなその記号に、最初は面喰らいましたが、移転して第二章の幕を開ける栞日にとって、この上なく相応しく、そしてボールドなメッセージだったと、いまとなっては思います。「STORE」の三角は、さまざまな文化にスポットを当てる光であり、訪れた人たちが憩う大きな木。シンボルカラーは光の黄。「INN」の丸は、そこを起点に松本滞在の縁が広がり、帰るとほっとできる我が家のような存在として、常に安定しているように。シンボルカラーは山の緑。みっつめは、昨年春にオープンした、もうひとつの栞日〈栞日分室〉。「これからの日用品を考える」をテーマに掲げた、ギャラリーストアであるこの空間は、築150年を超える蔵の2階部分で、立派な大黒柱と梁に支えられています。僕は当初から「もし栞日が民藝館を営むなら」という設定で、この〈分室〉の構想を練っていきました。その空間を構成する要素(例えば、柱であり、梁であり、床であり、窓であり)から、ゴウさんが繰り出したインパクト大のロゴマークは、どこかしら民藝の風情を感じ、それでいてモダンな佇まい。英名は幹から別れた枝葉とかけて「sioribi BRANCH」。シンボルカラーは、柱や梁の焦げ茶。そして、第四のロゴ。〈菊の湯〉です。まず、その彩りに驚かされました。まさか、グラデーションを持ち込むとは。これは「途切れない、繋がっていく」意志の表れで、このロゴデザインのテーマ「受け継ぎ、次世代に繋ぐ。」を体現している、とのこと。上半分は菊花をイメージ。「芯から温まる色」で重なり合う輪は「ひとつの湯船を共有する人と人の距離」を表現。下半分は「山・森・川そして湧水」であり「湯船」。「松本の街を見守る豊かな自然」と「その恩恵に与り、成り立つ湯船」。「すべて連なっている/すべて繋がっている」ことを表す、この4本のゆるやかなラインが、僕が目指す〈菊の湯〉の姿「街と森を結ぶ湯屋」を反映してくれています。そして、ロゴマーク全体は、家紋「菊水」のデフォルメ。これまでの〈菊の湯〉を継承した上での、新たな〈菊の湯〉のシンボルです。ロゴタイプの漢字・アルファベットは、それぞれ初代栞日のタイポグラフィ、フォルムを「継承」。特にイタリック書体(斜体)とは反対側に傾く「リクライン書体」には、唸りました。初代栞日のアルファベット表記に比べて字間も広がり、よりリラックスしたムードへと「進化」を遂げています。このロゴマーク、いま制作中の新ストアカードはじめ、これからさまざまなシーンで活用されることになりますが、そのひとつが〈菊の湯〉オリジナルグッズ。このクラウドファンディングのリターンにも含まれている、防水ステッカーやフェイスタオル〈MOKU〉にもプリントされます。以後、お見知り置きを。ゴウさん、今回も鮮やかな一手を打ち出してくださり、本当にありがとうございます!!