盛岡の旅は、岩手山を臨む小岩井農場から。3月の中旬といえども東北はまだ雪が降る日も多く、この日も朝から雪混じりの時雨でした。雪深い東北は3月末まで冬季休業している場所も多く、こちらも観光農場は閉鎖中でしたが、おかげでしんとした雪の中をゆっくり散策することができました。鳥の鳴き声が春を呼んでくるように、森の中で耳をすましていると雨があがり雲が流れて美しく雄大な岩手山が姿を見せてくれました。じっくり身体を研ぎ澄ませて、小岩井農場の音を収録。ここでは賢治さんの物語に登場する多くのヤドリギの木も。続いて岩手大学農学部(旧岩手農林学校)へ。植物とさまざまな天然染料、野鳥、樹木や鉱物標本などの研究用コレクション、賢治さんたちが採集に使用した器具や鉱物結晶模型など圧巻の資料館。教授の計らいで特別に撮影させていただきました。宇宙のシステムは驚異。まるで奇跡のような場所に立っているのですよね。まずは徹底的に観察すること。澄んだまなざしを送り、通信する。こちらは光原社です。宮沢賢治初の童話集「注文の多い料理店」を出版した会社ですが、当時は売れずに大赤字だったそうです。生前はこの本と「春と修羅」のみが出版されており、残りのすべての原稿は弟の清六さんが戦火の中守ってこられました。友人が贈ってくれた昭和45年に初版を忠実に再現再版された本を旅に持っていきました。光原社の中庭で。光原社迎賓室。光原社中庭。こちらの喫茶室も本当に素敵な場所でした。お昼ごはんに訪れた食堂くふやさんには朗読リレーで参加いただいたのですが、料理を作っておられた久美子さんがこの喫茶室を立ち上げられたとのことで、さまざまな形でつながり合っていくことが本当に面白い。また光原社は現在は選び抜かれたさまざまな民藝を取り扱っておられるのですが、特別に見せていただいた美術庫には、柳宗悦が提唱した民藝運動にまつわる作家たち柚木沙弥郎、芹沢銈介、南部鉄器の高橋万治、棟方志功らの錚々たるコレクションが保管されていてちょっとした美術博物館のようで、あらためて光原社の方々の審美眼に驚かされました。注文の多い料理店の序文にあるように、設立当時の眼差しがそのまま息づいている。棟方志功は光原社の看板も描いているのですよね!盛岡の旅をガイドしてくださったcafe愛宕下さん。2017年にリリースしたアルバム「水と光」が不思議な縁で岩手に渡り、初めてお会いすることになりました。盛岡では全ての場所をつなぎ、アテンドくださいました。広い敷地にさまざまな樹々が立ち並び、クロッカスや福寿草が咲き始めていた旧盛岡南部藩の建物で喫茶室をされています。イヤシロチ、といった様子で深呼吸できる場所。薪のはぜる音を聴きながら冬季休暇中のお店でゆっくりコーヒーをいただきました。窓辺にはミナペルホネンの皆川さん自筆のクレヨン画も。旅の終わりは岩山から盛岡市内、岩手山を一望する山頂まで。満月の青に、北へ向かう多くの最後のコハクチョウが渡ってゆきました。何百羽もの鳥が渡る声。丁寧にその一瞬を映し取る。岩手は花巻と盛岡を中心に賢治さんゆかりの場所を巡り、記録しました。持ち帰ったものは現在ひとつひとつ作品に編み込んでいます。ここでの朗読リレーは、食堂くふやさん、cafe愛宕下さん、そしてbooknerdさん。岩手で出会ったみなさん、本当にありがとうございました。kawole
2022年3月15〜18日岩手県、3月20日〜22日鳥取県の日程で取材とフィールドレコーディングの旅に出かけました。3月の早春の音を集めにまずは岩手県へ。行きのフライトでは上弦の月を見ながら眼下に木曽山脈の白と青の美しさに息を呑み。永らく憧れだった場所、岩手は花巻から出発です。早起きしてイギリス海岸まで歩いて歩いて、はじめての土地ではとにかく歩きまわることにしています。土地の声と音が聞きたくて。イギリス海岸は青白い凝灰質の泥岩が続く、かつての海だった場所。今では北上川は上流にダムができてしまったため賢治さんが描いた白い岸は見ることができなくなっています。修羅の渚(イギリス海岸の歌)青じろい頁岩の盤で(煙/春と修羅)プリオシン海岸(銀河鉄道の夜)この海岸ができた第三紀は約6430万年前から260万年前のことで(縄文時代は1万年前)、生きた天体が、生きて形を変えながら悠久の時を過ごしているのですよね。わたしたちはその針の先にも満たない点に存在して触れながら、考えたり風に吹かれている。初めて白鳥の群れが飛ぶのを見ました。ヒトがヒトとして存在するはるか昔の記憶。体内に遺された星の欠片を丁寧になぞりながら歩く。こちらは宮沢賢治記念館にあるポラン広場。宮沢賢治記念館ではたくさんの展示物とことば、資料が広範囲にわたっており(音楽、宗教、化学、鉱物、農業、芸術)あまりの増殖ぶりに脳がオーバーフローしてしまい考えたり感じたりする時間がかかりすぎてギブアップ。あらためて賢治さんの宇宙の奥行きに驚異しました。童話村にて。花巻最後は宮沢賢治の弟、清六さんの曾孫宮澤和樹さんご家族が経営されている喫茶室林風舎まで。娘さんの香帆さんに会いに行きました。彼女とは昨年の神戸市外国語大学での講演で知り合い、今回の花巻の旅でお会いする約束をしていたのです。この春から盛岡にある小学校に赴任が決まり、長らく過ごした花巻の最後の日々を過ごしておられました。なんとなく面影を感じさせる佇まい。花巻では彼女の「声」を記録させてもらいました。こちらは東京で管啓次郎さん、柴田元幸さん、小島ケイタニーラブさんから始まった声のリレー「真空溶媒」の録音です。春と修羅の中では「小岩井農場」「青森挽歌」に続いて最も長い詩を、さまざまな年齢や職業の一般の方々に読みつないでもらい、「声の星座」を描いています。香帆さんの声が入り、賢治さんに最も近い「血の周波数」を映しとる。その声を収録したときには、やはり感激で鳥肌が立ちました。旅は盛岡へ続きます。kawole
「銀河ノコモリウタ」レコーディングレポ2022年3月15日パーカッションのパートを中心に、クラウドファンディングで朗読参加に手をあげてくださったみなさんとのレコーディングでした。場所は兵庫県三田市にある有馬富士公園多目的ホール。このアルバムのレコーディングには、レコーディングスタジオではなく、野外やホールなどを中心に音作りをしています。こちらのホールは広大な森に囲まれた木のホールで、YouTubeで公開しているクロスフェード音源のほとんどはこの場所で録音しています。深呼吸するような木々の気配を音にレイヤーしてゆきます。実際、響きとしての歌や音や声は、教会のようにまるで上から降ってくるようです。レコーディングスタートは早朝から。まずは渡辺 亮さん。もう、素晴らしい音の数々。イメージを伝えると、みるみる音に変換されてゆく。宇宙の中のどこなのか、その気配銀河、惑星、星々のうた降り立つ地球の大気圏、夜の空樹々、山、水音、粒子精霊、神々、人の匂い自分の中で感知している、見えない世界を人とかたちづくる歓びが爆発したような一日になりました。音がはじまるとかならず何かがやってくる。わたしたちはずっとこの中で生きている。森羅万象を聴く。朗読参加の皆さんにはそれぞれ事前にテキストを提出いただいていたので、ひとつひとつを確認しながら、ことばを音に立体化してゆきました。声に含まれる粒子には、その人が生きてきた記録が刻まれている。その波紋と、送ってくださったことばが最も輝く場所を探しながら。青山千恵美さん有山恵子さん南奈緒美さん声を寄せてくださり本当にありがとうございました。恵子さんは、パーカッショニストの小澤敏也さんのお姉さんでもあり、また渡辺 亮さんとも古いお知り合いということで不思議な縁の巡り合わせを感じています。(小澤さんより、亮さんの話を聞いていたのでずっと亮さんにもお会いしたいと願っていました。その願いが叶ったのが2018年のSTORYTIMEという大きな朗読イベントで、この時には詩人の管啓次郎さんと3人での共演でした。)小澤さんは若くして亡くなられましたが、駆け出しの頃に本当に良くしていただきました。このような形で再び共演出来たことを心から感謝します。すべての撒かれた「種」はかならずどこかで芽吹き、時空を超えてつながりあっている、神秘の宇宙。今日もたしかな「種」を足下に撒いて、生きる。kawole
詩を寄せてくださった管啓次郎さん、小島ケイタニーラブさん、ディケンズの翻訳抜粋から柴田元幸さん。それぞれのことばを朗読してもらい、「声」の立体にして記録する朗読フィールドレコーディング。3年ぶりの関東滞在です。ゆりかもめや渡り鳥の群れ、遠くに工場地帯をのぞむ葦の原、六郷土手〜漁船が停泊する水門〜雑色駅商店街〜路地裏散策しながら読み歩き。子どもが走り抜けたり、鳩の溜まり場があったり、遠くに救急車が通ったり、コンクリートに囲まれて開いたり閉じたり、少し移動するだけでまるで環境音が変わる、その面白さを写しとりながら歩く。ことばと、おと。ことばに共鳴するように事が起きたり、通り過ぎる生物/非生物との出会いもまた一期一会。日中はあたたかで青空の広がる良き一日になりました。旅はそのまま「人と人で読みつなぐ声のリレー」へ。神奈川県茅ヶ崎市では花療法家の方と、静岡県熱海市では建築に携わり、木工アトリエをセルフビルドで制作しているデザイナーの友人と、Eatable of many ordersでデザイナー/パタンナーとして働いている青森出身の女性に読みつないでもらってレコーディング。最近「真空」という言葉がとても響くのですが、わたしたちの身体のほとんどが「水」でできていることを考えると、「声」という現象は水のエネルギーの共鳴でもあり、それぞれ人と人の中にある水が響き合うことで「異世界」へつながる「真空」が開くのかもしれません。宮沢賢治思索メモより「科学より信仰への橋梁」集まってゆく声を聴いていると、個体が生きてきたプロセスと宇宙の神秘に感動を覚えます。収録させていただいた声は持ち帰ってじっくり作品に編み込んでゆこうとおもいます。ご協力くださったみなさんありがとうございました。まだまだフィールドレコーディングは続きます。kawole
立春が過ぎ、本格的に春のムードが高まってきましたが皆さまいかがお過ごしですか?わたし達は年明け後も引き続きレコーディングに集中しています。昨日おおまかな歌入れが終わり、いよいよ来週は管啓次郎さん、柴田元幸さん、小島敬太さんらゲスト朗読の皆さんの朗読レコーディングで3年ぶりの東京滞在の予定です。管さんにお願いしていた「声の星座」のはじまりの詩が新年の新しい風とともに届き、そのことばを受けて柴田さん、小島さんからのことばが送られてきました。その星々を受けて、現在一般参加の方々がことばを紡いでくださっています。これらの星々がどのような道をかたちづくってゆくのかうれしさとともに人と人が結び合うという神秘に胸が熱くなっています。そしてこちらは絵本の制作。現在あがっている「うたとことば」を中心にラフ本作り。「ことば」「おと」「文字」星座を編むように。ブックは現在、美術家安野谷昌穂さんのもとに行き「絵」の夢見をはじめています。そして、今回のレコーディングではたくさんの子ども達も参加してくれています。最年少の4歳児、福音くん。3歳の時にことばを入れてもらい、年をまたいで4歳になってもう一つのことばを入れてもらいました。生まれてきてまだそれほど年月を重ねていない年齢の子どもの、特別な霊力を持った響きをレイヤーする。わたしたちは重力や風や、空気の層といった特別な環境の中で暮らす生命体でありだからこそ「音」を扱い、「声」を発するということができている。その面白さを、「思い出すように」「遊ぶように」「歌うように」。kawole