現在、かまどの最上段を積む作業をしています。その後かまどの内部の漆喰塗りや煙突の取り付け作業などがありますが、完成形に近づいてきました。6年前の大改修の際、かまどに手をつけられなかったのは、資金難が1番の理由ですが、かまどを造る知識・経験・技術を持った職人さんがどこにいるのか、心当たりがなかったからでもあります。その後、黒磨き漆喰のワークショップで一宮の三好左官工房の三好晴之さんを知り、いつかお願いしたいと思ってきました。三好さんは左官技術の向上を図る全国組織「左官を考える会」の副代表でもあり、文化財修復の仕事も多く手がけられている腕利きの職人さんです。今回は、三好さんと犬山の明喜左官店の二井成男さんが中心となって作業を行なってくれています。明喜左官店の二井さん(左)、三好左官工房の三好さん(中央)、三好さんの息子さんの海人さん(右)下は二井さんがフェイスブックにあげてくれた文章。10月下旬にテレビ局の取材が入る予定で、一時的に作業を止めたのですが、衆議院選挙のため残念ながら取材は流れてしまいました。伊賀のしゃかん かとう屋の加藤正幸さんも加わっていただく予定でしたが、別の文化財修復の仕事が忙しくなり、参加できなくなってしまいました。解体調査には加わっていただき、豊富な経験と知識で助言をいただきました。半六邸を100年先に遺すためには、腕のいい職人さんにいい仕事をしてもらうことが何よりだと思っています。私たちが半六邸を見て、壊させてはならないと感じたように、のちの世の人たちにも感じてもらえるように、職人さんたちは黙々と仕事をしてくれています。
かまどの解体調査で建造時の構造が明らかにできなかったため、どのような構造で再建するか大いに悩みました。解体前のかまども1つの焚口で2つの釜を加熱する構造が見られたことから、宇都宮三郎の築竃論の考え方を取り入れ熱効率を向上させるとともに、今後の使い勝手も考慮して設計を決めました。AとB、CとD、EとFは1つの焚口で2つの釜を加熱する方式ですが、赤線の箇所はレンガで開閉できるようにし、A、E、Fは単独でも使用できるようにしました。AとCは容量が大きいため、通常はE、F、Gを使うことになると思います。現在、すでに工事に入り、左官さんがレンガを積み上げています。
8月末~9月にかけて、かまどの解体調査を行いましたが、かえって謎が深まり、はっきりした調査結果を発表できずにおりました。半六邸母屋の2階建て部分は江戸時代に建てられ、平屋部分は明治22年に増築されたと伝えられています。大正10年の絵図に、ほぼ原寸大の7連のかまどが描かれていることから、かまどの建造はそれ以前であったことは間違いありません。当初、建物と同じ明治22年頃建造されたのであれば、宇都宮式のかまどではないかと 期待して解体調査を始めました。その頃、日本最初の化学技術者と言われ、初めてかまどの学術書「築竃論」を口述した宇都宮三郎が亀崎の蔵元に招かれ、かまどや醸造法の改良を行っていた時期と重なるからです。しかし、焚口が埋められ、ガス管のゴムホースの切れ端が見つかったり、それ以外にも何度か改造が加えられた形跡があり、建造時の構造が確定できませんでした。そして、なんと全てのレンガを取り除けた下から樹脂製の歯ブラシの柄が見つかったのです。昔、旅館の洗面セットに入っていたような 薄っぺらな歯ブラシの柄で、樹脂製の歯ブラシの柄が普及しだしたのは昭和26年頃なので、一時期借りていた料理旅館がかまどを作り直したのか、と思いました。しかし、柄をよく見ると消えかかっていますが、アルファベットが書かれており、「Dupont」と書かれているようにも見えます。歯ブラシの柄には、古くは象牙・骨・木などが使われていましたが、第1次世界大戦中(1914~1918)にセルロイドが使われだし、日本でも1917(大正6)年に初めて作られました。毛は馬や豚などの獣毛が使われていましたが、1938(昭和13)年にデュポン社が初めてナイロン毛を使用しました。ただ、植毛は手作業だったため、歯ブラシはとても高価なもので、庶民に手の届くものではありませんでした。昭和20年代、かけそば1杯30~40円だった時代に国産歯ブラシ1本100円だったそうです。舶来品の歯ブラシはもっと高価だったことでしょう。今回出土した歯ブラシには毛が全く残っていませんでした。ナイロン毛であれば、残っているはずですが、完全に分解されていることから、獣毛だったと思われます。また、料理旅館が舶来品の歯ブラシを使っていたとは考え難く、また、旅館開業にあたって建物内部にガスを使用する厨房を造っています。これらのことから、かまどは大正4年から10年の間に半六家によって建造されたものと考えられます。歯ブラシの製造年代を確定することができれば、確かなことが言えると思い、色々調べましたが、製造年代確定まで至りませんでした。このことについてお知恵をお持ちの方、教えていただければありがたいです。