活動報告Vol.6 目次
1.朝と夜のリレー
2.祈りのリレー
3.モロッコのイチバン
4.色イロイロ
1.朝と夜のリレー
「カムチャッカの若者が きりんの夢をみている時 メキシコの娘は 朝もやの中で バスを待っている」で始まる、谷川俊太郎さんの詩「朝のリレー」をご存知の方は多いと思います。私が小学生の時、国語の教科書にありましたが、今も掲載されているのでしょうか。おそらくそこにあった挿絵の効果もあり、印象に残った詩でした。カムチャッカの若者が夢にみていたのが、アフリカのキリンなのか、空想動物の麒麟なのか、どちらだろうかと疑問に思っていましたが、いまだに答えを確認できていません。
コロナ禍を経てリモート会合が仕事のツールとして定着し、かつ外国に身を置きつつ日本とも仕事をする今、この詩がとても身近に感じられます。モロッコと日本でリモート会合をする際は、大抵は日本の終業時間前後となり、モロッコでは朝一の会議となります。
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは作業をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で仕事を続ける
終業前の遠隔会議後の対応事項を
始業したばかりの同僚が北アフリカで引き継ぐ
メッセージは既読。それはあなたの送った仕事を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ(笑)
ここ数ヶ月の出版社とのリモート会合も、同様に時差を気にしながら行ってきました。最終原稿が印刷所へ旅立つのも間近。今週は、出版後を見据えた「販促会議」が行われました。当初「ハンソク」って何ですか、と聞いてしまったくらい、これまで物を売るということに縁のなかった私です。出版とは、印刷して本屋に並べておしまいではなかったということに、今更ながら気づかされました。当「出版プロジェクト」にご支援頂いている皆さまには(また「機を逸した!」という方にも :))、是非出版プロセスの一部としての「販促」段階でもご支援賜れますと、幸甚です。
毎年ラマダン(断食月)開始直前の日曜日から終了後の日曜日まで、モロッコと日本の時差が1時間長くなります。経度から経度への距離は変わらないはずなのに、時間だけが伸びる。今年も、このクラファン終了2日前(2024年3月10日)から、日本との時差が普段より1時間長く、9時間に。リモート会合をするなら、日本側の相手に通常よりもさらに遅く(或いはモロッコ側の我々がより早起きして)対応してもらわねばならなくなるひと月です。
ラマダン開始日その他イスラムの祝日は、その国の宗教権威者が月を見て直前に決めるそうです。その結果、国によって違う。サウジアラビアで始まっても、同じ日にモロッコで始まるとは限りません。「あの国では始まったけど、うちはまだだった」。どぎまぎしながら、月の様子の判定に基づく発表を気にする、こちらは「夜のリレー」です。
2.祈りのリレー
緑の屋根が光る 白くて大きなモスクを見ました。
そこから流れる 心地よい お祈りの声に酔いしれました。
He saw white mosques with glittering green-tiled roofs
and was often lost in the pleasant echoes of calls to the prayer.
― 「ハゲタカの旅」
ハゲタカの若者、アニルが聞いて酔いしれたお祈りの声は、おそらくこんな感じです↓(56秒)。
私はラバトで毎朝この声に起こされます。絵本の文章では「お祈りの声」としましたが、正確には、「さあ、お祈りしよう、と呼びかける声」です(ハゲタカにはお祈りの声に聞こえた、ということにしておきましょう)。
モロッコでは「アダン」と言われるこの呼びかけは、イスラム圏では日に5回聞かれますが、日本の神社仏閣同様モスクは町のあちこちにあり、一斉に呼びかけが始まるので、まるでエコーです。(絵本の英語のテキストでは、より正確に「お祈りへのいざないのエコー(echoes of calls to the prayer)」となっています。どうして日本語と英語で違えたのかは、多分、読む際のリズムの問題だったと思います。)
日々のお祈りの時間も、日の出や日の入りのタイミングで微妙に変わる。それも、経度から経度へ引き継がれて続いてゆきます。モロッコの友人曰く、地球上でこのアダンが響いていない瞬間はないそうです。
3.モロッコのイチバン
競い合って先を急ぐ たくさんの車は
自分たちの地下城に急ぐ 蟻たちのようでした。
―「ハゲタカの旅」
誰でも、どこの国もそうだとは思いますが、モロッコも「1番」になるのが好きです。(良い意味での)1番になるべく、いろいろな分野で頑張っています。私が知るモロッコの1番を挙げてみました:
●アフリカで1番に(今も唯一)新幹線開通
●アフリカ1の高いビル(タワー)建設中
●地中海で取扱量最大の港湾
●アフリカ1大きいモスク(世界では2番。活動報告Vol.2参照)
●アフリカ1大きいショッピングモール
●北アフリカ1の高速道路総延長(アフリカ大陸では南アに次いで2番)
●北アフリカ1の日系企業進出数(アフリカでは3番)
●…
アフリカの他国からモロッコを訪れてくる人は大抵、都市部の経済インフラのレベルに驚きます。2030年のサッカーワールドカップ開催に向けて、現在インフラ開発がさらに加速中。私の絵本にも1つだけ、立体交差の高速道路と、そこを走る多くの車の絵が入りました。それを入れたことにより、ロマンチックな風景だけではなくなり、均衡がとれた、と勝手に思っています。
他の素敵な近現代建造物の絵も入れたかったけれど、叶わず。是非、実物を見に来てください。色々な国で暮らしましたが、人の寛容さとユーモアのセンスを測る指標があったら、モロッコはその点でも世界トップクラスでは、とも思っています。
4.色イロイロ
絵本だけに、 編集者とデザイナーの方と、色々と色の議論をしました。デザイナーの方が、本の見返しに向日葵色を提案して下さったら、私は山吹色が良いと返し、結果、薄い辛子色となったり。編集者の方が(やはりモロッコなど北アフリカの風景に魅せられ創作のインスピレーションを受けた)画家アンリ・マティスの青を基軸にして装飾を施してはと提案して下さり、私はマティスも表現しようとした北アフリカの強い日差しを彷彿とさせる白がいい、と返した後、最終的にトルコ石に近い明るいブルー基調に落ち着いたり。ちょっとした色調・濃淡の違いでも、雰囲気ががらっと変わります。ああ楽しい。
私たちは、子供にはカラフルなオモチャを買い与え、クレヨンや色鉛筆でお絵描きやぬり絵をさせます。子供の頃、白黒の漫画本の最初の数ページだけがフルカラーだったら、それがやたらと楽しみでドキドキしたのは、私だけではないでしょう。学校に入って学年が上がってゆくにつれて色を失い、白黒の文字だけで分厚くなってゆく教科書に、威圧感を感じたりもしていました。
そのうち、カラフルなのは(絵本も)子供のもので、モノクロなのが大人っぽいということとなり、白黒で何ページにもわたって文字を連ねた文書を作る能力が重視され、色を扱うのは、アーティストやデザイナーなどプロの専売特許となってしまう。なぜ、将来の職種に関係なく子供には色使いを奨励するのに、それが生涯続かないのでしょう。
「販促」するにも何をするにも、ネット上で画像や映像での効果を求めることが多くなった今日。これまでにないほど、どんな仕事でも色へのセンシティヴィティの重要度が増しているようにも思います。
ということで、子供も大人も、色彩豊かな絵本を楽しみましょう。
FIN