活動報告Vol.6 目次1.朝と夜のリレー2.祈りのリレー3.モロッコのイチバン4.色イロイロ1.朝と夜のリレー「カムチャッカの若者が きりんの夢をみている時 メキシコの娘は 朝もやの中で バスを待っている」で始まる、谷川俊太郎さんの詩「朝のリレー」をご存知の方は多いと思います。私が小学生の時、国語の教科書にありましたが、今も掲載されているのでしょうか。おそらくそこにあった挿絵の効果もあり、印象に残った詩でした。カムチャッカの若者が夢にみていたのが、アフリカのキリンなのか、空想動物の麒麟なのか、どちらだろうかと疑問に思っていましたが、いまだに答えを確認できていません。コロナ禍を経てリモート会合が仕事のツールとして定着し、かつ外国に身を置きつつ日本とも仕事をする今、この詩がとても身近に感じられます。モロッコと日本でリモート会合をする際は、大抵は日本の終業時間前後となり、モロッコでは朝一の会議となります。この地球ではいつもどこかで朝がはじまっているぼくらは作業をリレーするのだ経度から経度へとそうしていわば交替で仕事を続ける終業前の遠隔会議後の対応事項を始業したばかりの同僚が北アフリカで引き継ぐメッセージは既読。それはあなたの送った仕事を誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ(笑)ここ数ヶ月の出版社とのリモート会合も、同様に時差を気にしながら行ってきました。最終原稿が印刷所へ旅立つのも間近。今週は、出版後を見据えた「販促会議」が行われました。当初「ハンソク」って何ですか、と聞いてしまったくらい、これまで物を売るということに縁のなかった私です。出版とは、印刷して本屋に並べておしまいではなかったということに、今更ながら気づかされました。当「出版プロジェクト」にご支援頂いている皆さまには(また「機を逸した!」という方にも :))、是非出版プロセスの一部としての「販促」段階でもご支援賜れますと、幸甚です。毎年ラマダン(断食月)開始直前の日曜日から終了後の日曜日まで、モロッコと日本の時差が1時間長くなります。経度から経度への距離は変わらないはずなのに、時間だけが伸びる。今年も、このクラファン終了2日前(2024年3月10日)から、日本との時差が普段より1時間長く、9時間に。リモート会合をするなら、日本側の相手に通常よりもさらに遅く(或いはモロッコ側の我々がより早起きして)対応してもらわねばならなくなるひと月です。ラマダン開始日その他イスラムの祝日は、その国の宗教権威者が月を見て直前に決めるそうです。その結果、国によって違う。サウジアラビアで始まっても、同じ日にモロッコで始まるとは限りません。「あの国では始まったけど、うちはまだだった」。どぎまぎしながら、月の様子の判定に基づく発表を気にする、こちらは「夜のリレー」です。2.祈りのリレー緑の屋根が光る 白くて大きなモスクを見ました。そこから流れる 心地よい お祈りの声に酔いしれました。He saw white mosques with glittering green-tiled roofsand was often lost in the pleasant echoes of calls to the prayer.― 「ハゲタカの旅」ハゲタカの若者、アニルが聞いて酔いしれたお祈りの声は、おそらくこんな感じです↓(56秒)。私はラバトで毎朝この声に起こされます。絵本の文章では「お祈りの声」としましたが、正確には、「さあ、お祈りしよう、と呼びかける声」です(ハゲタカにはお祈りの声に聞こえた、ということにしておきましょう)。モロッコでは「アダン」と言われるこの呼びかけは、イスラム圏では日に5回聞かれますが、日本の神社仏閣同様モスクは町のあちこちにあり、一斉に呼びかけが始まるので、まるでエコーです。(絵本の英語のテキストでは、より正確に「お祈りへのいざないのエコー(echoes of calls to the prayer)」となっています。どうして日本語と英語で違えたのかは、多分、読む際のリズムの問題だったと思います。)日々のお祈りの時間も、日の出や日の入りのタイミングで微妙に変わる。それも、経度から経度へ引き継がれて続いてゆきます。モロッコの友人曰く、地球上でこのアダンが響いていない瞬間はないそうです。3.モロッコのイチバン競い合って先を急ぐ たくさんの車は自分たちの地下城に急ぐ 蟻たちのようでした。―「ハゲタカの旅」ラバトに建設中の「モハメド6世タワー」誰でも、どこの国もそうだとは思いますが、モロッコも「1番」になるのが好きです。(良い意味での)1番になるべく、いろいろな分野で頑張っています。私が知るモロッコの1番を挙げてみました:●アフリカで1番に(今も唯一)新幹線開通●アフリカ1の高いビル(タワー)建設中●地中海で取扱量最大の港湾●アフリカ1大きいモスク(世界では2番。活動報告Vol.2参照)●アフリカ1大きいショッピングモール●北アフリカ1の高速道路総延長(アフリカ大陸では南アに次いで2番)●北アフリカ1の日系企業進出数(アフリカでは3番)●…アフリカ大陸初の新幹線は今年開業5周年アフリカの他国からモロッコを訪れてくる人は大抵、都市部の経済インフラのレベルに驚きます。2030年のサッカーワールドカップ開催に向けて、現在インフラ開発がさらに加速中。私の絵本にも1つだけ、立体交差の高速道路と、そこを走る多くの車の絵が入りました。それを入れたことにより、ロマンチックな風景だけではなくなり、均衡がとれた、と勝手に思っています。他の素敵な近現代建造物の絵も入れたかったけれど、叶わず。是非、実物を見に来てください。色々な国で暮らしましたが、人の寛容さとユーモアのセンスを測る指標があったら、モロッコはその点でも世界トップクラスでは、とも思っています。4.色イロイロ絵本だけに、 編集者とデザイナーの方と、色々と色の議論をしました。デザイナーの方が、本の見返しに向日葵色を提案して下さったら、私は山吹色が良いと返し、結果、薄い辛子色となったり。編集者の方が(やはりモロッコなど北アフリカの風景に魅せられ創作のインスピレーションを受けた)画家アンリ・マティスの青を基軸にして装飾を施してはと提案して下さり、私はマティスも表現しようとした北アフリカの強い日差しを彷彿とさせる白がいい、と返した後、最終的にトルコ石に近い明るいブルー基調に落ち着いたり。ちょっとした色調・濃淡の違いでも、雰囲気ががらっと変わります。ああ楽しい。私たちは、子供にはカラフルなオモチャを買い与え、クレヨンや色鉛筆でお絵描きやぬり絵をさせます。子供の頃、白黒の漫画本の最初の数ページだけがフルカラーだったら、それがやたらと楽しみでドキドキしたのは、私だけではないでしょう。学校に入って学年が上がってゆくにつれて色を失い、白黒の文字だけで分厚くなってゆく教科書に、威圧感を感じたりもしていました。そのうち、カラフルなのは(絵本も)子供のもので、モノクロなのが大人っぽいということとなり、白黒で何ページにもわたって文字を連ねた文書を作る能力が重視され、色を扱うのは、アーティストやデザイナーなどプロの専売特許となってしまう。なぜ、将来の職種に関係なく子供には色使いを奨励するのに、それが生涯続かないのでしょう。「販促」するにも何をするにも、ネット上で画像や映像での効果を求めることが多くなった今日。これまでにないほど、どんな仕事でも色へのセンシティヴィティの重要度が増しているようにも思います。ということで、子供も大人も、色彩豊かな絵本を楽しみましょう。FIN
モロッコ の付いた活動報告
Report Vol. 5 目次1.Before & After2.海のもの3.丘のもの1.Before & Afterクラファン終了日(=校了&印刷所への入稿予定日)まで2週間を切りました。初校コメントを反映した再校原稿が先週上がってきて、編集作業も順調に進んでいます。今回絵本が商業出版されるにあたり、編集者さんやデザイナーさんと相談の上、原作とは変更した部分が結構あります。もちろん、原作を見ていない人がほとんどなのですが、出版バージョンだけの主な工夫をご紹介します。(1)命名私の原作では、登場する鳥たちに名前はついていませんでした。「ハゲタカの若者」、「ハゲタカの女の子」、といった具合に。でも日本で出版するには、固有名詞をつけた方が読み手が感情移入しやすい(且つ文章もすっきりする)、という出版社側の繰り返しの助言により、名前をつけることになりました。であれば、実際にモロッコで保護されている実存するハゲタカの名前にしては、と考え、バードライフ・モロッコの会長さんに相談したところ、名前はつけていない(番号で管理)、とのことでした。命名するなら、北アフリカ先住民の言語ベルベル語(モロッコ公用語の1つ)の名前がよいと思う、と、会長さんが一緒に考えてくれた名前とその意味は、以下の通り:ハゲタカの若者 = アニル(Anyr):意味は「天使」ハゲタカの女の子 = ララ(Lalla):「ご婦人」、"My Lady"ララの娘 = ティティ(Titi):「悪行から遠ざかる者」当初、私はハゲタカたちに名前をつけることには消極的だったのですが、良い名前が見つかったのでよかったと思っています。(2)アジンの魔法の筆お風呂に入っていて、ふと、表紙の題字をアラビア文字風にしたら面白いのでは、と思いつきました。編集者の方もそれはよいアイディアと言って下さったので、ロリと共にプノンペンでNowhere Art Studioを共同設立・運営するアーティストのシャルルフィクリ・サレ(通称アジン)にデザインを依頼することにしました。マレーシア出身の彼はアラビア文字にも馴染みがあり、しかもアートスクールでタイポグラフィーを教える先生でもあります。喜んで引き受けてくれました。彼の創作が加わったことで、モスクを描いた表紙にイスラムっぽい個性がさらに加わり、異国情緒が増したと思っています。乞うご期待。出版社側の編集者さんやデザイナーさん、営業担当さんも含め、これまで当プロジェクトのクリエイティブ・チームは全て女性だったので、初の男子参戦。ロリとアジンは私が尊敬するコンビなので、二人の共同作品ともなり、大変嬉しく思っています。彼らのポップで愛らしい作品は、商品のラベルになったり国際空港で売られるようになったり、最近人気上昇中です。モロッコよりずっと近いカンボジアのプノンペンに行かれることがあったら、緑とアート作品でいっぱいの彼らのスタジオに、是非立ち寄ってみて下さい。(3)幾何学の花ラバト旧市街のモザイクタイル異国の雰囲気をより高めよう、と、モロッコの多くの建物を飾るイスラム幾何学モザイクタイル(ゼリッジ zellige)の模様を、見返しに入れていただきました。見返しは、本を開いたらぱっと目を引く黄系となる予定。アニルが、ララに贈る花を摘むために毎日飛んで行く花畑のようです。日本では岐阜のローズガーデンに、モロッコから来た職人達が作った本場ゼリッジに飾られた庭園が一昨年オープンしています。ラバト郊外の花畑(4)「自由に生きるのも、ラクじゃないよ」原作では、ハゲタカの若者が旅をする檻の外は、広くて美しい風景の広がる世界としてしか描かれていませんでした。編集者さんの提案で、外の世界の厳しさも感じさせる部分を、少しだけ追加しました。でもアニルにとっての、外の世界の一番の厳しさは、大好きなお母さんとララと一緒にいられない、という事実なのだと思います。(5)おでかけ仕様私がモロッコで印刷した原作は、B5サイズでした。ロリが初めてデジタルで挑戦した挿絵も、B5の設定で描いてもらっていました。しかし、この出版社的には、彼女が設定した解像度ではB5サイズの絵本印刷には足りないとのこと。印刷の質に求められるスタンダードの違いを感じました。今後の大きな教訓です。結果、出版サイズはメインページで書いた通り、一回り小さくなってA5です。手軽に運べるこの絵本は、出版社の「おでかけBook」シリーズの仲間入り。邪魔にならない、ちょっとした贈り物にもしていただけそうです。そして自費印刷版と大きく違うのは、上製本印刷でハードカバーになること。自分の創作が本として出版されることも夢のようですが、それがハードカバーなんて、本当にどきどきします。2.海のもの波を切る 大きな鉄の塊の船と 海原に飲まれそうな 小さな釣り船を見ました。岩場の潮たまりで 紫貝を拾う日焼けした男たちや海に注ぐ川で 泳ぐ子供達を見ました。― 「ハゲタカの旅」ある冬の日の海岸で拾い集めた貝殻。右上の黒っぽいのがムール貝(稚貝)。紫貝、とは、いわゆるムール貝。この絵本の文章を書くにあたり初めて和名を調べて、素敵だなあと思いました。日本では余り食卓にのぼることはないかもしれませんが、パエリアの具や酒蒸しなど、ヨーロッパでは馴染みのある食材です(専門家によると、日本でもムール貝は採れますが、牡蠣養殖の邪魔となる嫌われ物だそうです)。私の住むラバトをはじめ、地中海・大西洋側どちらでも、ある季節になると海岸でムール貝を拾い集める人たちをみかけます。私はずっと、それは食べるために集めているのだと思っていました。実際、海岸でそのまま茹でて食べている人たちもいます。でも実は、養殖でより大きくするための稚貝として集めているのだそうです。ムール貝の養殖現場長い海岸線をもつモロッコでは、近年国家戦略として海上養殖が盛んに進められています。貝類養殖では、稚貝が国内調達できるのはムール貝のみ。その他の養殖対象種(牡蠣やアサリ)の稚貝は、現在のところ輸入に頼っているそうです。ちなみにモロッコは牡蠣の稚貝をフランスから買いますが、その親となるフランスの牡蠣は、元々日本から入ったものです。1960年代末、フランス在来種の牡蠣が病気で死滅し、日本から稚貝を入れることにより牡蠣養殖業が復活されました。その牡蠣が地中海を渡り、モロッコで養殖されています。日本産と同じDNAを持つ美味しい牡蠣を、私たちはモロッコで食べることができています。ありがたや。浜で休む漁船海の恵みは、もちろん貝だけではありません。お魚も色々な種類が市場で売られています。その9割は、小さな船に乗った漁師さんたちが沿岸漁で獲っているものです。モロッコから日本に多く輸入されていることが知られるタコも、しかり。モロッコ沖と、お隣のモーリタニア沖で獲れたタコで、日本のタコ輸入量の半分以上を占めるそうです。モロッコと喧嘩したらタコ焼きが食べられなくなる、とも言えるほど、モロッコからの輸入に頼っているのです。近所の魚屋お魚定番料理のフリットとパエリア漁港町のタコのタジン鍋屋の看板養殖されたオゴノリ(寒天の原料)もう一つ、日本で多く食されているモロッコの海産物があります。寒天です。モロッコは寒天の世界有数の産地。日本国内シェアトップ(世界シェアも15%)の長野県の寒天企業さんも、モロッコで海藻から精製された質の高い原料を輸入しているとのこと(モロッコからの日本向け輸出はほぼ100%同社向け)。「寒天」として食べなくても、多くの食材や化粧品に添加されているので、これを読んで下さっている皆さんの中に、モロッコの海藻の恩恵を受けたことがない人はいないのでは。寒天の原料となる海藻は、養殖もされていますが、地域および季節によっては海岸での採集が女性や子供のお小遣い稼ぎにもなっているそうです(海藻集めが主な活動の組合もあります)。これだけ海産物に恵まれた国なのに、残念ながらお寿司などの日本食料理屋さんは、本当に少ない。親日の国でもあるので、ご関心のある方、是非進出のご検討を。「青い空よりもっと青く輝く海と それを縁取る白い波を見ました」3.丘のもの苦いオリーブと 甘いオレンジの香りを嗅ぎ色とりどりに咲く 花々の香りを 思い切り吸い込み遠く向こうに 雪を被りそびえ立つ 山々を仰ぎました。― 「ハゲタカの旅」私はモロッコに来るまで、オリーブは本来苦いものであるとは知りませんでした。収穫した生のままでは、とても硬いし苦味が強くて食べられない。だから塩と水に数週間漬けて加工します。色々な風味のが売られていますが、自宅で漬ける家庭もあり、苦味が好きな人は、わざとそれを残す程度につけます。モロッコへの赴任直後、頂いた自家製オリーブ漬けがあまりにも苦くて食べられず、捨ててしまったことがありました。でも今は、好んで苦めのオリーブ漬けを買うようになっています。色とりどり、風味様々のオリーブと、それを買い求める人たち。オリーブ、そしてオリーブオイルをふんだんに使った食事の後は、街角あちこちで売っている甘いオレンジジュース。注文した後で絞るので、常に新鮮です。2−3年前は下町で1杯5ディルハム(現在の為替レートで約73円、円安前は約50円)で買えたのが、最近は渇水とインフレで7ディルハム(103円)に。一般庶民には結構な値上げです。いつの季節でも色彩豊かな市場FIN
Report Vol.4 目次1.砂漠だけじゃない2.鳥相3.我らがハゲタカ4.そしてハゲトキ1.砂漠だけじゃない海と山と砂漠に囲まれた とある王国の小さな動物園の檻の中で一羽のハゲタカが卵を産みました― 「ハゲタカの旅」より絵本の表紙の絵を見た山登好きの親戚が、「モロッコにも雪山があるって意外」と。モロッコといえば、砂漠にラクダのイメージが一般的に強いようです。実際は、国際空港のある主要都市から、砂丘の連なる砂漠に行くにはかなりの時間車で移動して、モロッコを南北に縦断するアトラス山脈を越えてゆかねばなりません。沿岸部に住むモロッコ人には、砂漠を見たことがないという人も多いのではないかと思います。北に地中海、西に大西洋、東と南に向かって山脈を越えたらより乾燥したオアシス地帯、化石がたくさん出る砂漠に続きます。その途中には肥沃な農地やマツタケも採れる針葉樹の森も(モロッコはヨーロッパに多くの野菜果物を輸出する農業大国、美味しいワインも作られます)。最高峰は、富士山よりも高い4000メートル越えのツブカル山。例年冬には、高山は雪化粧もするのです。これだけ多様な自然環境に生息する動植物も数が豊富です。動物種24,000種(うち11%が固有種)、植物種7,000というモロッコの生物多様性は、地中海地域で2位とか。数字を並べてもピンとこないかもしれませんが…とにかく、砂漠だけじゃない。私から特別にそう注文したわけではなかったのですが、表紙に砂漠ではなく雪山を描いたロリは、やっぱりすごい。雪を頂く高アトラス山脈(2024年2月撮影)今週、まさに雪山を仰ぐ山岳部、昨秋の大震災の震源地近くまで行く機会がありました。破損した道路の修復や建物の解体作業が今も急ピッチで進められ、あちこちに仮住まいのテントが見られました。人々はとにかく逞しく、そして風景はひたすら雄大で美しかった。厳しい冬が過ぎ、春の訪れを感じさせる花も咲き始めていました。地震による山崩れで塞がれた多くの道路は、当局の昼夜問わずの懸命の努力により、震災後2−3週間のうちに全て開通。しかしアクセスの困難な山岳地帯で破損されたインフラ修復には今後何年もかかります。奥に仮住まいのテント。手前にまだ建っているように見える建物の中にも、破損のためもはや住めず解体・再築を待つものも。この地域にはヨーロッパ人に人気のトレッキングツアーの拠点も点在していますが、観光業再開にはまずは一帯へのアクセス路の補修と建物整備が必要。2. 鳥相 - avifauna 育ての親の コウノトリのおばさんのような優しいコウノトリたちに たくさん出会いました― 「ハゲタカの旅」より話を生物多様性に戻して、絵本の主人公である鳥に関して言えば、国際野鳥保全組織バードライフ・インターナショナルが指定するIBA(重要鳥類生息地:Important Bird Area)には現在46箇所が選定され、ラムサール条約で守られる水鳥の貴重な生息環境の湿地帯は現在38箇所(日本はそれぞれ167箇所と53箇所)あります。これまで494種の鳥が確認され、うち北アフリカの固有種11種、そして100種近くが希少、あるいは生息が脅かされています。バードライフ・モロッコ提供14,000ha、地中海南岸第2の大きさをもつ潟湖(ラグーン)のマールシカ湖は、ラムサール条約登録サイトであり、且つ重要鳥類生息地(IBA)。ここでも活動を展開するバードライフ・モロッコは、近年ここにイカダ式の鳥の営巣スポットを導入。岸での営巣では野犬など天敵に襲われる危険が高い。モロッコはさらに、北極圏・カナダ・グリーンランドやシベリアから毎年南部アフリカに向かう渡り鳥のルート(東大西洋飛行経路:East Atlantic Flyway)上に位置し、とても重要な経由地、休息地でもあります。コウノトリやハゲタカはじめ、北から南下してきた鳥たちは、ジブラルタル海峡を越えモロッコに入ったところで栄養補給し、広大なサハラ砂漠を飛び越える力を蓄えてから、再び南に飛び立つのです。故に、モロッコの野鳥生息環境が守られることの意義は、同国だけにとどまりません。バードライフ・モロッコ提供ジブラルタル両岸の山岳地形により、海峡の上には鳥が渡りに使う上昇気流が作られているそうです。目には見えない鳥の高速道路が、そこにはあるのですね。3.我らがハゲタカクラファンのメインページに書いた通り、私の絵本の主人公がハゲタカになったのは、動物園の檻で見かけたから、だけが理由でした。しかしハゲタカは実はモロッコの野鳥保全の象徴的な鳥でもあったことを、このクラファン計画を進める中で知りました。アフリカのハゲタカは、電線による感電、密猟者に毒殺された動物の死骸を食べることによる毒死、伝統医療への利用(迷信)のための密漁、などの原因で急速に減少している希少種です。この本の収益で支援を目指すバードライフ・モロッコは、モロッコ北部に政府が作ったハゲタカ保護センターの運営を任されています。地元当局や住民との連携活動により、渡りの途中で弱ったハゲタカを保護して飛べるようになるまで世話をしたり、GPSによる追跡で飛行ルートや死因の原因の調査をしたりしています。GREPOMの参考動画(英語、6分33秒):Saving Africa's Vultures4.そしてハゲトキバードライフ・モロッコの元々の名称GREPOMは、Groupe de Recherche et de la Protection des Oiseaux du Maroc(モロッコ野鳥保護研究グループ)の略称です。1993年に創設され、昨年30周年を迎えました。2015年に国際自然保護連合(IUCN)に加盟し、さらにバードライフ・インターナショナルのメンバーとなったのは比較的最近、2018年のこと(そして名前に「バードライフ・モロッコ」と追加)。特に渡り鳥保護には国境を越えた連携が重要。そしてフィールドでの様々な活動に必要な資金動員のためにも、国際ネットワークを広げる努力をしています。調査研究を重視し、熱い情熱に支えられ、しっかりした組織体系で活動を展開しています。具体的には、上記のような渡り鳥の保護・調査のような活動の他に、各地での野鳥センサス、生息・営巣環境の保全・修復、その周囲に住む人々の生計向上、環境教育、エコツーリズムの推進などなど、鳥にも人にもメリットのある活動を進めています。それなりの歴史と重みのある組織でもあるため、寄付をしてもきちんと活用してくれるとの信頼感もあります。このクラファンプロジェクトのリターンに提供してくださっているモロッコ鳥類図鑑の他にも、様々な出版物も出していますが、私のお気に入りは、やはり絵本。ホオアカトキの保全に関する環境教育目的で作られたものです。バードライフ・モロッコ提供日本では野生で絶滅した真っ白のトキとは反対の、真っ黒のホオアカトキ(英語名はbold ibis、訳せばハゲたトキ)は、ハゲタカと並んでモロッコの野鳥保全のシンボル的な存在です。過去、ホオアカトキは中東・北アフリカやヨーロッパに広く生息していましたが、現在野生の繁殖地(コロニー)が残るのは、モロッコ大西洋岸スース・マサ地方のみ。バードライフ・モロッコは、ここでもコロニー周辺環境の整備や環境教育、エコツーリズム推進により、保全活動を行なっています。バードライフ・モロッコ提供渡り鳥のように話がどんどん飛びますが、絵本に話を戻すと、私は「ハゲタカの旅」が、日本であまり知られないモロッコの側面を紹介し、且つ地球規模的に(!)重要な鳥とその生息地の保全の貢献につながったら、こんなに素敵なことはない、と妄想しています。バードライフ・モロッコのダイレクターによると、国際組織のステータスになっても、交流のある国は、野鳥の往来があって情報交換が盛んな国同士になりがちだとか。だから余り野鳥の往来のないアジアの国とはこれまで交流が限られていたそうです。日本で同団体が紹介されるのは、このクラファンプロジェクトが初めて(ついでに図鑑も売れてありがたい)、と喜んでいただいています。それだけでも光栄なことですが、やはり、ちゃんとした寄付には繋げたいと思っています。FIN
刺繍村へ行こう。まずは、日本から1万㎞以上離れたフェズ刺繍村へ、動画で4分の旅。村の女性たちの顔は公に見せられませんが、案内してくれたジャミラさんにお話も伺いました:希望組合モロッコ王国北部フェズ・メクネス地方の農村部に位置するカルメト・ベン・サレム村。ここには2009年から2013年ごろにかけて男女合わせて4名の日本人のボランティア(海外協力隊員)が次々に派遣されました。彼らは、村の伝統民芸であるフェズ刺繍を行う女性たちの生計向上支援を目的に、制作販売組合(アソシエーション)としての組織化や、刺繍作品の質向上指導、商品開発などの支援活動を展開しました。そうして立ち上がった女性組合の名前はAl Amal(アル・アマル)、「希望」です。「昔はモロッコの多くの家庭で、フェズ刺繍を施した寝具カバーやクッションカバーなどが使われていましたが、近年は機械による刺繍やプリント柄布地の普及もあり、制作に技と時間を要し高価になりがちな民芸フェズ刺繡作品への需要は減っています。」自身も幼い頃からフェズ刺繍を学び、長年この組合のサポートを続けているジャミラさん(日本在住経験もある親日家)は、こう話します。日本人ボランティア達は、表と裏に同じ模様が現れる(要するに裏表がない)フェズ刺繍の特徴を生かし、且つより価格的に手頃な小型の商品の開発を支援しました。その結果生まれたのが、今回当プロジェクトのリターンとして提供させて頂いているコースターや栞です。モロッコには他にも民芸刺繍品は多くありますが、これらアイテムはこの組合独自のものと言えるでしょう(お土産屋さんでは売っておらず、現在のところ組合のオンラインショップもウェブサイトもありません)。モチーフ「サハラの花」村にボランティアがいて販売促進活動も盛んであった最盛期には40〜60人程度の女性が刺繍に従事していたそうですが、現在ではコアメンバーは約15人(注文が多い時には20名くらいまで動員)。まとまったマニュアルがあるわけでもなく、モチーフの記憶や刺繍の技は、代々女性たちが制作を続けることによって彼女らの手先と頭の中に受け継がれてきたものです。動画でも御覧頂ける通り、彼女らの刺繍作業では、まっさらな布地にガイドラインも下絵もなく、ほぼ感覚で正確な幾何学文様を刺してゆきます。モチーフは、鳥や花や星などの自然、そして女性たちが人生の殆どを過ごす家の中のエレメント。作品への需要が減り、刺繍に従事する人数が減れば、忘れられてゆく伝統パターンやステッチもあるだろうと、ジャミラさんは憂いています。この組合の女性たちの多くは、教育を受けていたとしても小学校卒業程度、また文盲の人もいます。10代で結婚し子供を産むのが当たり前の田舎のコミュニティで、現在一番若い組合メンバーは30代で既に孫がいるおばあちゃんだそうです。いわゆる「適齢期」を過ぎて未婚のままの女性、あるいは離婚や夫と死別した女性は、自分の生家で家族親戚と暮らし続けますが、経済的に自立するのは困難。またこの地域の保守的な慣習から、女性はなかなか外に働きには出ません。オリーブや野菜の栽培が主な経済活動のこの村で、農作業や家事の間に少しずつ行う刺繍(1つのコースターを作るのに約5時間かかる)は、彼女らの重要な収入源です。近年この村のより若い世代の女の子たちには、近隣の町の中学・高校に通ってより高い教育を受ける機会も増えてきてはいるそうです。そういった子たちはしかし、卒業後は村で農業・刺繍に従事するよりも、より大きな町に出て就職する道を選ぶ場合が多い。刺繍が安定的な収入につながる生業として彼女らに魅力的でなければ、継承する女性たちも引き続き減り続け、このまま数十年後にはこの村でのフェズ刺繍民芸は絶えてしまうのかもしれません。日本人好みに考案された巾着袋一方、今日ではインターネットを駆使して世界中ほぼどこからでも注文を受けて発送することも手軽にできるようになっています。このクラファンを通じて組合の仕事が少しでも外に広まり、希望をつなぐお手伝いにもなればと思います。刺繍作品の発送時には、後日別の作品を追加注文されたい場合の連絡先も同封します。新たな商品アイディアも、組合の女性たちには歓迎されます。モチーフ「鳥と巣」伝統や慣習、教育といった「檻」の中で生まれ育ち、村から出ない、顔を見せない女性たち。彼女らの手で丁寧に仕上げられ外国に旅立ってゆく美しい刺繍作品たち。教育を受けて村から出てゆく若い女の子たち。村の女性たちは、何を思いながら刺繍を世に送り出すのか。若い女の子たちは外の世界を見た後で、いつか村で待つ母親や祖母、伯母たちの許に戻るのか、戻らないのか。私にとっては、アル・アマル組合の女性たちの暮らしは、「ハゲタカの旅」の物語とも大きく重なります。FIN
Report Vol. 2 目次1.初稿2.ハゲタカになる3.アトラスの獅子4.金曜日おめでとう1.初稿先週、出版社側から絵本の初稿があがってきました。皆さんにお届けする絵本の全体の雰囲気(アンビエンス)に関して、著者の私と出版社側のイメージに多少隔たりがあるようで、これから相談しつつさらに磨いてゆきます。素人ながらモロッコの異国情緒満載にしたい私、日本の読者を知り尽くしたプロの出版社。どんな着地点になるのかは、印刷があがるまでわかりません。「より素敵な本にしたいという想いは一緒」という編集者さんのお言葉が大変嬉しいです。現在の予定では、印刷所への入稿はクラファン公開終了日と同じ3月12日だそうです。予定通りにゆくよう頑張ります。2.ハゲタカになる「はげたか」か、「ハゲタカ」か。それが問題だ。私がラバトで印刷所に持ち込んで印刷した最初のバージョンでは、絵本のタイトルは「ハゲタカの旅」と、鳥の名前がカタカナでした。文章でも、全部カタカナ。しかし今回、日本で出版して頂くにあたり、当初絵本のタイトルだけは平仮名で「はげたかの旅」とする予定でした(出版社との契約でもそのタイトル)。「ハゲタカ」よりも、丸いカーブの平仮名で「はげたか」の方が、可愛らしくて、この鳥につきまとうネガティヴな印象がちょっと和らぐ気もしていました。だからこのクラファンページも、タイトルは「『はげたかの旅』」出版プロジェクト」です。しかし編集作業の過程で、編集担当の方より、やはり題字と本文とで平仮名・カタカナを使い分けるのは好ましくない(校正ミスだと思われる)とのご指摘が。統一するために本文中の「ハゲタカ」を平仮名にしてしまうと、読みにくくなるし、そうすると「コウノトリ」まで平仮名にしなくてはならなくなり、一層読みにくくなります。小学生でも読めるように総ルビふってくれるということなので、いっそ両方とも漢字にしては、と調べたところ、「禿鷹」、そして「鸛」。素敵ですが、画数が多く難しい…。ということで、最終的に、日本で印刷出版するバージョンでも、題字は「ハゲタカの旅」に戻ることになりました。当クラファンプロジェクトのタイトルは変更せず平仮名でキープしますが、どうかご了承下さい。「ハゲタカ」というカタカナ表記での表紙上の題字の印象を和らげ、より多くの方に書店で手にとって頂けるように、フォントで工夫すべく試行錯誤中でもありますので、乞うご期待。以上、日本語ならではの葛藤でした。今後活動報告の文章でも、本の題名は「ハゲタカの旅」とさせて頂きます。あしからず。3.アトラスの獅子時には人間がくれる食べ物をくちばしにはさんで 格子の間から自分の子に食べさせ できうる限りの方法で 我が子を可愛がりました-「ハゲタカの旅」より絵本のストーリーを思いつくきっかけとなったラバト動物園のハゲタカの檻、そしてハゲタカたちが人間のくれる餌を食べる様子を見る機会がありました(動画1分16秒):ハゲタカたちは、檻の上に巣作るコウノトリたちをどう思っているのか。一方コウノトリたちは、自分で探さずとも人間に餌をもらえるハゲタカたちを、羨ましく思うのか。どうなのでしょうかね。この動物園内には、ハゲタカの檻の周り以外にも、実に沢山のコウノトリが見られます。本来渡り鳥ですが、一部モロッコに定住するものも見られるようになったとか。居心地が良いのですね。絵本の出だしでは、「ある王国の小さな動物園」と書きましたが、実際のラバト動物園はアフリカで2番目の規模です(サファリで動物を見る国は動物園は要らないのかも)。広々として緑も多く、地元の人たちの憩いの場となっています。この動物園のシンボルにもなっている目玉動物は、なんといってもアトラスライオン。かつてアトラス山脈を含む北アフリカ一帯に生息していたものの、乱獲などのため1950〜60年代くらいに野生では絶滅し、現在では飼育下ながらモロッコで最も多く生息するそうです。対欧州強豪チーム勝利後の熱狂そしてモロッコのサッカー男子ナショナルチームの愛称も、Lions de l’Atlas(アトラスのライオン)。女子はLionnes de l’Atlas(アトラスのライオネス)。そして息子の所属する地元チーム名にはLionceaux(子ライオン)が。2022年、男子ナショナルチームがアフリカ・アラブ・イスラム圏で史上初のサッカーワールドカップ4強入りし、王様ご自身が街頭に出てきて庶民と一緒にお祝いするなどかなりの盛り上がりを見せ、また2030年のモロッコでのワールドカップ開催決定もあり、将来「アトラスのライオン」仲間入りを夢見る子供たちが日々練習に励んでいます。ご近所のストリートアート4.金曜日おめでとう緑の屋根が光る 白くて大きなモスクを見ましたそこから流れる心地よいお祈りの声に酔いしれました-「ハゲタカの旅」より毎週金曜日の挨拶は、「Jmaar moubaraka(ジュマームバラカ)、金曜日おめでとう」。金曜日はイスラム教徒の人たちにとって神聖な日、特に午後一番のお祈りは重要とされ、私の職場の近くでも、モスクに入りきらず外の地面の上に祈祷用カーペットを敷いてお祈りする人たちの姿が見られます。このお祈りの時間は店を閉めるレストランもその後開いて、モスク帰りの多くの人がクスクスを食べにやってきます(顧客が観光客メインではない地元レストラン・食堂では、クスクスは金曜日にしか出てきません)。モロッコのモスクの多くが、イスラムを象徴する緑色の瓦屋根を持っています。私が絵本のこの場面を書いた際に思い浮かべていたのは、モロッコの象徴的モスク、カサブランカのハッサン2世モスクです。前国王の名前をもつこのモスクは、アフリカ最大、世界ではサウジアラビアの聖地メッカのモスクに次いで第二の大きさを誇ります。また、コーランの「神の玉座は水の上にある」という節から前国王がインスピレーションを受け、建物の一部が水(大西洋)の上に建てられている、世界唯一のモスクだとか。イスラムの理想を追求した宗教施設でありながら、同時にやはり前国王の望みでキリスト教教会とユダヤ教シナゴーグの建築要素も取り入れ、いわゆる「啓典の民」の人々の穏やかな共生への願いが込められているそうです。現地の人でさえ忘れているらしいこの事実は、今こそ重要に思えます。息を飲むほどに美しい工芸が細部まで施されている上に、神様と向き合いにやって来る人たちの居心地に配慮した作り(夏は天井が全開するとか、冬は床暖房とか)。まさに王様のプロジェクト。通常モロッコでは非イスラム教徒はモスクの中に立ち入ることはできませんが、ここは例外。モロッコ最大の都市であり経済の中心であるカサブランカは、観光ではスキップされてしまうことも多いようですが、もし訪れる機会のある方には、是非立ち寄って頂きたい場所です。FIN