皆様、多くのご支援ありがとうございます。今回も折り紙作家山本が、『時折2024』に収録されている作品の紹介をしていきます!【時折2024 作品紹介】では、それぞれの月のテーマとなる12の作品について一つずつご紹介したいと思います。※作品写真は本番の紙で折る前の「試作」状態のものを含みます。商品に掲載されるものは紙質や色など、より見栄えのする状態になっているかと思いますのでご期待くださいませ。今回の特集:8月掲載分「太陽」今回は真夏のカレンダー紙面を飾る作品、「太陽」のご紹介です。2月「鬼」でも登場した、「インサイドアウト」と呼ばれる色分けの手法を活用した作品です。さて、本作品を語る上でのテーマは「ブラッシュアップ」です。僕が折り紙創作の中で大事にしている考え方についてお話しできたらと思います。「太陽」は『時折2024』作品ラインナップ検討の際、当プロジェクトの母体であるLampoのメンバーと決めた題材です。この時は互いに作品の具体的イメージがあったわけではなく、「どうにか形にしてくれ」と創作については私に一任されました。そこで「太陽」の折り紙作品への落とし込み方を考えた結果、その手法についていくつか候補が思い浮かびました。①複数パーツを組み合わせる立体作品(ユニット折り紙)②山や雲などと一緒に、風景全体を表現するような平面作品③太陽をモチーフにデフォルメを加えた、幾何的な平面作品①はカレンダーから一枚の正方形が切り出せるという『時折』のコンセプト上、その紙をさらに分割してパーツの用紙を作らせることはナシだと判断しました。②はまだやりようがありそうでしたが、③と比べてカレンダー紙面で映えるようなクオリティまですぐに持っていくことが難しいと感じました。というわけで、③の路線で創作を進めることに決めました。上記の案をもとに、たたき台として作った試作です。この時点でも、最低限太陽に見えるくらいのクオリティではあるかと思います。創作を始めた頃であれば、この折り方のまま綺麗に折り直して、完成としていたかもしれません。しかし、今の私の目線で見るとまだまだ気になるポイントは浮かんできました。主に感じたのは次の2点です。・長いトゲと短いトゲの太さを統一したい・作品の輪郭とトゲに感じる回転の流れを統一したい細かい話に見えますが、細部の違和感は全体の違和感につながります。ミクロな改善点をできる限り言語化し、解消に取り組むことがクオリティの向上につながると考えています。上記の課題を、仕上げの折りを加えることでなんとか解決しようとしたものです。トゲの太さや回転方向などの不統一性はある程度解消しましたが、今度はトゲを無理やり曲げるような折りを入れた影響で幾何的な整合性が薄まってしまいました。また輪郭が正方形に近づいてしまい、全体のシャープさが失われたように思います。これら2つの試作を通して、改善点が洗い出せてきました。・トゲの太さを統一する・回転方向の印象を揃える・輪郭のシャープさを出す・幾何学的、折り紙的な美しさを保つこの辺りを確保しつつまとめられるよう、さらなる検討を進めていきます。これが完成した「太陽」です。パッと見のまとまり感が大幅に向上し、カレンダーへの掲載にも堪える見た目になったのではないかと思います。創作折り紙の上手い人は、自分の作品への愛着という色眼鏡を外して、客観的視点でブラッシュアップを重ねられる人だと僕は思っています。僕もまだまだですが、昔よりはその力がついてきたなと実感できるようになりました。それでは、また次の作品でお会いしましょう!文:山本大雅
皆様、多くのご支援ありがとうございます。今回も折り紙作家山本が、『時折2024』に収録されている作品の紹介をしていきます!【時折2024 作品紹介】では、それぞれの月のテーマとなる12の作品について一つずつご紹介したいと思います。※作品写真は本番の紙で折る前の「試作」状態のものを含みます。商品に掲載されるものは紙質や色など、より見栄えのする状態になっているかと思いますのでご期待くださいませ。今回の特集:5月掲載分「コイ」5月のイベント、端午の節句から引っ張ってきた題材です。今回はこの作品についてご紹介していきます。僕は創作をする際に、まずは題材のリサーチを行います。題材の画像を収集し、必要があれば折り紙風にデフォルメした絵を描いてイメージを膨らませていきます。また、同じテーマの折り紙作品があれば、それを研究することも必ず行います。効果的なアプローチを先例から学んだり、浮かんだアイデアが誰かに試されていないかを確かめたりします。ただし今回の「コイ」については、調べるまでもなく、他の作家による優れた先例を知っていました。それは中村楓さんの作品です。https://x.com/kaede9693/status/1247841029606105090?s=46&t=AIBBou6Og1qviizVJ8nw9A彼のコイは、数年前のイベントで本人から直接講習を受けました。ヒレやシルエットが無理なく折り出されるのに感動した記憶があります。その完璧なプロポーションは、僕が普段用いることが多い「22.5度系」という構造に沿って作られたものです。今回は創作時間が限られていたので、この作品と同じアプローチを取ることは避けました。そこで画策したのが、普段用いない構造を使うことです。それが「蛇腹」です。蛇腹構造とは蛇腹は、紙を縦横に等分し、その線に従って折り目をつけていく手法です。細長いカドを気軽に作りだせるため、創作初心者でもアプローチしやすい手法でもあります。熟達すれば表現の幅も広く、今井幸太さんなどの優れた「蛇腹使い」もいらっしゃいます。https://www.flickr.com/photos/119910244@N05/限られた時間で、普段使わない手法を使うことへの迷いは当然ありましたが、「22.5度系」で取り組むよりは活路が見出せそうな予感がありました。このまま突き進んでみることに決めました。こちらが、完成したコイの展開図です。縦横を20等分にした線に収まり、ある程度の折りやすさを確保できました。特徴的な背びれも狙った位置に配置できており、コイっぽいシルエットが達成できたかと思います。蛇腹構造の作品がラインナップに加わることで、アクセントのような効果を生み出せたとも思っています。優れた先例とは異なった手法でアプローチすることで、最終的に『時折』にふさわしい作品に繋がったのは結果オーライでした。それでは、また次回の作品紹介で!文:山本大雅
皆さま、多くのご支援ありがとうございます!今回も『時折2024』収録作の紹介をしていきます。【時折2024 作品紹介】では、それぞれの月のテーマとなる12の作品について1つずつご紹介したいと思います。※作品写真は本番の紙で折る前の「試作」状態のものを含みます。商品に掲載されるものはより見栄えのする状態になっているかと思いますのでご期待くださいませ。今回の特集:3月掲載分「チョウ」3月は春らしいモチーフを選んでみました。この作品は『時折2024』プロジェクト発足前に創作したもので、「折紙探偵団コンベンション」という折り紙作家・愛好家の交流イベントでの講習用に作った作品です。講習のしやすいように難易度が低めのものを考えていたため、この『時折』にもマッチしたというわけです。見てのとおり、触角や脚などは省略されており、『時折2024』の中で最も難易度の低い作品となっています。しかし、見どころのない作品というわけではありません。「チョウ」を語るにあたりテーマの一つとなるのが、「対称性」というワードです。こちらは初期の試作です。上下の羽の形がかなり似ているのがわかるかと思います。この作品の基本構造は、上下で全く同じものになっています。腹の部分をどちらかに倒すかの違いのみによって上下が確定するのです。ただしこのままでは生き物感が薄すぎるため、仕上げで上下の羽をそれぞれ作り込み、形を整えたものが今のバージョンです。折り紙にあまり馴染みのない方の中には、なぜこのような創作の経過をたどったのか不思議に思われる方もいるかもしれません。「どうせ上下で違う形がほしいのであれば、一旦対称な形を作るような回り道をせずいきなり作り分ければいいだろう」と。この手法をとった理由について説明するには、折り紙作品を成り立たせる「基本構造→仕上げ」の流れを見るのがよさそうです。基本構造/仕上げって?折り紙作品には再現性があります。それは、用いられた折り線を、展開図(や折り図)として残しておけるからです。一部のマニアであれば、展開図をポンと与えられさえすればその作品を再現することができるのです。僕も今までに創作したほとんどの作品や部分試作を備忘として展開図に残しています。しかし、展開図のとおり折り畳めばそのまま作品が完成するかというと、多くの場合そうではありません。通常展開図に描く折り線は、あくまでその作品の基本構造に限られます。仕上げで行われる曲面加工や基準のない折り、多くの層を一度に曲げるような折りの一つ一つまでを反映してしまうと図がとっ散らかり、美しさや見やすさが損なわれてしまうからです。そこで、「基本構造を作るための折り」と、「仕上げの折り」を分けて捉える考え方が生まれ、現在の主流となりました。基本構造の考え方にはさまざまな形式が存在しますが、紙を縦横に等分したグリッドに基づいていたり、一定の基本角度(22.5度、15度など)の倍数角しか登場しなかったり、何かしらの数学的背景を持つことが多いです。こうした理論に基づいて創作された作品の基本構造には、幾何学的調和に基づく独特の美しさがあります。こうした背景から、「完成品だけでなく、展開図そのものの美しさを求める」といった価値観が折り紙作家の中で次第に醸成されていったのです。「チョウ」と対称性へのこだわり今作の話に戻しますと、「チョウ」の基本構造で上下の対称性を保つことは当然必須ではありません。仕上げにおいてあえてその対称性を崩していることからも明らかです。しかし、基本構造の審美性という観点において、この要素を折り線として残しておくことに意味があると判断したのです。「繰り返しの手順が増えることで説明や折りが楽になる」といったメリットも手伝って、迷いなく対称性を基本構造に残す結論に至ったのでした。この話は作家のエゴだと言われればそれまでですが、「完成品から見て取れない、作品に内在する調和」と捉えると皆さんも少しワクワクしないでしょうか。しますよね。これは、僕が折り紙という手法に惹かれ続けている理由の一つでもあります。なかなか脱線してしまいましたが、好き勝手話せて満足したので今日はこの辺で終わりにしたいと思います。折り紙の魅力が少しでも伝わっていれば幸いです。では、また次の作品紹介で!
皆さま、多くのご支援ありがとうございます!今回も『時折2024』収録作の紹介をしていきます。【時折2024 作品紹介】では、それぞれの月のテーマとなる12の作品について一つずつご紹介したいと思います。※作品写真は本番の紙で折る前の「試作」状態のものを含みます。商品に掲載されるものはより見栄えのする状態になっているかと思いますのでご期待くださいませ。今回の特集:2月掲載分「鬼」このモチーフは、2月の行事である節分から連想したものです。1月の鷹に引き続き年初のため、難易度がなるべく易しめになるよう、全身ではなく顔だけの鬼の面を作ることにしました。顔のみであればその分リアルな作り込みが可能なので、全身を作るよりもカレンダーのビジュアルに迫力が出ると思ったからです。強調したいツノ、目、口には紙の裏の色が出るようになっています。折り紙界隈では「インサイドアウト」と呼ばれる技法です。折り紙の端をペロッとめくると、当然その部分だけ裏の色が見えますよね。これを精密にコントロールして狙った部分で行えるようにするのが、インサイドアウト(≒裏返し)です。この技法を自在に用いるためには、色を変えたい場所に、裏返すための紙の外周部分をちょうど持ってくる必要があります。これまた当たり前ですが、紙の中心部分は裏返しようがないからですね。さて、鬼の面で強調したいツノ、目、口をインサイドアウトで表現する場合、大まかな構成は2通り考えられます。①ツノ、目、口になる色の面を表にした正方形からスタートして、裏から肌の部分を持ってくる②肌になる色の面を表にした正方形からスタートして、裏からツノ、目、口になる部分を持ってくる※ブリル式(説明は割愛しますが、局所的に裏表自体を反転させてしまうような技法です)などを用いる例外もありますが、デメリットも大きいためここでは考えないことにします。①、②どちらを選択するかは、色分けをしたい部分の位置が一つの基準になってきます。①は紙の中心に近いところの色分け、②は外周部分の色分けに強いのです。今回の題材では、顔の中心部分に位置する鼻ではインサイドアウトをする必要がありません。そのため、②の手法を選択しました。このように指針を明確に固めておくことで、スムーズな作品づくりが可能になります。もちろん、いくら構成を固めても大小さまざまな壁にぶつかることはありますが……。完成した「鬼」は、インサイドアウトの活用に加え、立体的な加工を施すことで迫力のある造形にすることができたのもあり、お気に入りの作品となりました。ぜひ製品版でお楽しみください。それでは、また次の作品で!文:山本大雅
皆さま、多くのご支援ありがとうございます!【時折2024 作品紹介】では、それぞれの月のテーマとなる12の作品について一つずつご紹介したいと思います。※作品写真は本番の紙で折る前の「試作」状態のものを含みます。商品に掲載されるものはより見栄えのする状態になっているかと思いますのでご期待くださいませ。今回の特集:1月掲載分「鷹」一年の初めの作品として縁起良く、初夢のことわざからピックアップしたモチーフです。『時折2024』の最初を飾る作品として華やかなビジュアルにしたく、猛禽類特有の大きな翼のシルエットを妥協せず折り出したいという思いがありました。しかし折り紙作品というものは往々にして、理想を詰め込むほどに構造が複雑になってしまいがちです。作品を皆さんに再現してもらうというコンセプト上、見た目を追求するあまり入り口のハードルを高くしてしまうことは本意ではありませんでした。そこで、全体のシルエットの確保を最優先にする代わりに、いずれかの箇所の表現を簡略化することを考えました。実はこの作品には足が1本しかありません。指も2つだけです。猛禽類は飛行中の姿勢によっては足を揃えるため、このポージングにおいて足の詳細を捨象しても全体の見栄えにはそこまで影響しないのです。この点に注目し、簡素な表現にとどめることで足に割く領域を減らしました。これにより、折りを複雑にしないまま相対的に翼を大きくすることに成功しています。創作折り紙は、たくさんの制約と戦うゲームのようなものです。多くの作家が実践する「一枚の正方形から切らずに折る」といった基本的なものはもちろんですが、厚みとの戦い、色分けの仕方、また今回のような見た目と難易度のバランスも重要な問題として常に立ちはだかります。本作のように自分なりの工夫がハマり、複数の課題が同時に解決できたときは何より嬉しくなります。『時折2024』製品版を手にされる方は、ぜひ創作者の試行錯誤の軌跡も感じながら折ってみてください!それでは、また次の作品紹介で!文:山本大雅