旅ムサ in 奄美 各学生へのインタビューを行う企画。第二弾は、里見 伸暁(さとみ のぶあき)さん です!
現在、油絵学科の3年生で、教職課程をとる学生のなかでも存在感を放つ里見さん。卒業後は美術の教員を目指しているそうです。
今回の奄美のプロジェクトではリーダーを務めました。
作品はこちら↓
神話や宗教に関心を持つ里見さん。古典的要素と現代的要素が共存しているような作品です。
油絵学科では3年生になると、「技法研究」という古典絵画の模写を通して学ぶ授業がありますが、そこで里見さんが選んだ絵は、まさかのダヴィンチ…!高度な技術が求められる絵で、探求心が伺えますね。
今回、プロジェクトの前準備として、自主的に「旅のしおり」をつくってきた里見さん。
到着後、奄美パークにて合流し、さっそくメンバーに配布。学生一同、感激していました。
Q. 里見さんは教員志望で、他の旅ムサも積極的に参加されている印象でしたが、なぜ今回の奄美の企画に参加したのでしょう?
A. (里見)
もともと旅ムサ奄美を教職課程の教授や友人から聞いていたので、奄美大島という普段なら行かない場所に興味を持っていました。また、今まで旅ムサの対話鑑賞には参加したことがありましたが、もっと遠い地域でも美術が通用するのか知りたかったのです。
Q. 実際に参加してみて、どうでしたか?
A. (里見)
小学校でおこなった黒板アートや対話鑑賞は言わずもがな楽しかったです。先生方には両企画でのサポートや休憩中の軽食などで大変良くしていただきましたし、子どもたちは絵にすごく興味を持ってくれて、行った意味を大いに感じられました。
また、複数人と一緒に寝食を共にすることで、人として成長できました。共通にするものと別々であるべきものを理解できたことは、これからの人付き合いでも必要なスキルだと思います。
Q. 長期の「旅ムサステイ」では、共同生活なども通して、普段の対話鑑賞では得られない特別な経験ができますよね。
美大生として、奄美の地で美術を伝えるということについては、どう感じましたか?
A. (里見)
驚いたのは、想像していたよりも、奄美の方々が美術に少なからず親交があったことです。普段から(都会人よりもずっと当たり前なこととして)自然観察をし、学校では風景画や動物画を描いている。子どもたちの作品を見て、観察眼や色彩感覚の鋭さを感じました。
もちろん余地も感じました。まずは離島という地理的な特性上、専門的な美術…例えば油絵や彫刻、デジタルアートなどは難しそうに見えます。
また、大島紬や黒糖焼酎のパッケージなどの優れたデザイン性を発揮している分野もありますが、自分の知れた範囲では、「デザインの教育」についてはあまり浸透していないように感じました。美術が持つ強い発信力を、もっと伝えられる可能性があると思いました。
(「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)2022」も受賞した、「じょうご世界自然遺産ラベル」。毎年、ムサビ生がお世話になっている居酒屋『あ~屋』にて。)
(大島紬を背景にした甲子園のタオル。龍郷小学校校長室にて。)
Q. 奄美の子どもたちはどうでしたか?
A. (里見)
前述したように、自然観察の鋭さを感じました。黒板アートで描いたモチーフを見たら、すぐに名前とその特徴、よく見かける場所などがわかるのだから、才能と言わざるを得ない。それが奄美に暮らす子どもの貴重なアイデンティティーであり、なんでもスマホに聞いてしまう現代人の忘れた心でもあり、そんな子どもたちに我々が介入するのも無粋だとは思いますが、しかし良さを残して伸ばしつつ、成長の余地は育てていきたいとも感じました。
(メンバーの半数で描いたこちらの黒板ジャックには、学校見学に来ていた小学1年生のお子さまから「真ん中の鳥はルリカケスじゃない?」と一言。影だけで鳥の種類が自然と分かることに、制作中の学生も驚いていました。)
Q. 将来、教員を目指すうえでも糧になる発見があったようでよかったです。
奄美の歴史・文化で印象的だったものはありますか?
A. (里見)
滞在中、西郷小浜公園で見た「八月踊り」は、この半年間で最も印象深いものでした。龍郷町の老若男女が大きな輪を作り、女性たちのチヂン(和太鼓)に合わせて、男性たちが唄い曲になる。それに合わせて、男女それぞれ違うフリで踊る姿は、地域性やその歴史を強く感じさせる。またマニュアルなどはないらしく、子どもの頃から唄や踊りを見よう見まねで覚えるそうです。そうした奄美の方々の、豊かな文化と緩やかな時間の流れを肉眼で堪能できました。
黒板ジャックの題材を知るため、一時的にメンバーから離れ、単独で八月踊りの練習を見に行った里見さん。研究熱心な様子が伺えました。
そして気になる黒板ジャックは…
完成です!!
さすがの油絵学科、底力発揮です!
この作品は翌日、奄美新聞にも掲載されました。
Q. 対話鑑賞のほうも、とても盛り上がっていましたね。持ち込んだ作品についても教えてください。
A. (里見)
タイトル:《五大元素「土」》P20号 油彩・キャンバス
大学に入学して初めての課題制作。五行思想の「土」をテーマに、魔法の世界を描きました。
(すごっ!写真じゃないの…?と驚く児童のみなさん。近づいたり、離れたり…角度を変えたりして鑑賞できるのも、ここでしかできない経験です)
Q. 対話鑑賞でもらった意見のなかで印象的だったことはありますか?
A. (里見)
絵本のような具象的絵画だったので、描かれているモチーフとストーリー性に注目してくれるひとが多かったです。土のゴーレムと友人になりたい男の子と、そこに隠れた裏切りを描き、ほとんどの人が友人関係に言及してくれて嬉しかったです。
Q. さまざまな物語の可能性について話し合える、対話鑑賞向きの作品ですよね。
これから更にやってみたいと感じたことはありますか?
A. (里見)
正直、東京から来た我々が干渉するには、奄美大島があまりに魅力的すぎると思いました。豊かな自然の中で観察力は磨かれ、助け合いはごく当たり前のように行われています。地域文化は生活の一部となり、人同士の対面でのコミュニケーションは当然のことのようであります。
一方、東京はどうでしょう。ほぼ真逆に位置すると思います。旅行客、お客様気分では、かえって奄美の方々の生活や心の美しさを消費するだけになってしまいます。もっとギブアンドテイク、WinWinの関係を構築していきたいと思いました。東京の良さ、奄美の良さを、お互いがお互いを刺激し合えるような旅ムサになっていってほしいです。
(2日目 倉崎海岸にて遊泳)
(5日目 マングローブ原生林にて)
Q. そうですね…少し仰っていることが分かるような気がします。
東京から来た私たちが、短期間の旅で、奄美に何をもたらせるのか。活動内容について、まだまだ追求の余地はあると学生の皆さんから意見が出ていましたね。
里見さんは、今回の経験を何か今後の制作に活かせそうでしょうか?
A. (里見)
自分としても、こうした体験を通じて自分の制作の刺激となりました。
いざ制作しようと思ったとき、最近私はネットと本ばかり見て、自然観察はアクセントにすぎませんでした。しかし今回の旅ムサで、本やネットはあくまで簡単にはわからないことを知る手段であり、もっと自分の生活に根差して制作を展開することに気付く、正確にはすることを思い出しました。やはり私は、美術のための美術ではなく、自己表現としての美術をすべきなのだと、旅ムサ奄美を通じて、心改まる体験をさせてもらいました。
–––––––––––現地で自分の眼で確かめ、身体で経験することの大切さを改めて実感した里見さん。この言葉を聞くだけでも、大きな成長を遂げられた旅になったことがうかがえます。
(人に相談される機会が多いという里見さん。最終日のロッジではバーのオーナーさんのような役割に…)
新学期には油絵学科主催のコンクールがあると語る里見さん。今後の制作の展開や、卒業後の活動もとても楽しみですね。
里見さん、ありがとうございました!
次回も学生へのインタビューが続きます。お楽しみに!
インタビューアー:連携共創チーム 井下