父が亡くなったのは、私が高校2年生の時でした。飲食店を6店舗経営していた父は、元気に見えていたのに、突然の大動脈解離でわずか20分でこの世を去りました。あまりに急な出来事に、私たち家族は悲しみを抱える間もなく、すぐに現実に向き合わなければなりませんでした。
葬儀は、父の従業員200人と親族が参列し、400〜500万円の費用がかかりました。最初は宗派すら分からず、自分たちで調べながら手続きを進めました。喪主を務めた姉と私は、失敗を恐れるあまり眠れない夜が続きました。それでも父を偲ぶ声に支えられ、どうにか乗り越えることができました。
しかし、それは序章に過ぎませんでした。父の会社には多額の借金があり、家も抵当に入っていたのです。この事実を知ったとき、私たちは愕然としました。母は学習障害を抱えており、手続きを進めるのは私たち姉妹の役目でした。市役所や金融機関、弁護士事務所を駆け回りながら、なんとか2年かけて借金の返済と家の売却を終えました。
家を手放す決断をするのは簡単ではありませんでしたが、親族からの遺産要求が激しく、母を守るためにはそれしか方法がありませんでした。「家を手放す」という選択は、生活の場だけでなく、父との思い出の場所を失うことでもありました。それでも、家族を守るための必要な一歩だったのだと思います。
父が経営していた飲食店についても、従業員の意向を最優先に考えました。借金込みで店舗を引き継ぐ店長や閉店を希望する従業員との話し合いを繰り返し、弁護士費用を含む800万円以上の費用を捻出して、すべての手続きを終えました。父が生前、従業員第一の経営をしていたことを思い出し、その意志を継ぐ形にできたことが私たちの救いでした。
この経験を通じて、家族での話し合いがどれほど重要かを痛感しました。母は「自分が亡くなった後、迷惑をかけたくない」と言い、樹木葬や宇宙葬など新しい形の供養を検討し始めています。また、母方の祖母が高齢なため、資産や手続きを事前に確認するよう心がけています。
私自身も、この経験をきっかけに自分の将来について考えるようになりました。親が亡くなった後の準備についてもっと早く知っていれば、あんなに苦労しなかったのではないかと思います。だからこそ、今は家族の情報を共有し、資産や手続きを整理することの大切さを日々実感しています。
父の死は、私たち家族にとって悲しみだけでなく、大切な教訓を残してくれました。突然の別れは誰にでも起こり得ます。だからこそ、前もって準備をし、家族と話し合うことで未来を少しでも安心なものにしておく必要があるのだと感じています。