
1.はじめに
ヴィヴァルディ《四季》の「夏」は、春の明るさとは対照的に、緊張感と不穏さが漂う作品です。特に第1楽章では、じりじりと照りつける太陽や、夏特有のじっとりした空気、遠くで響く雷の予兆などが、音で見事に描かれています。
2.灼熱と不安の音楽
第1楽章の冒頭は、遅く静かなテンポで始まります。これは、夏の暑さにぐったりとした人間や自然の描写とされており、バイオリンは細かく揺れるような音で「暑さに耐える人々」や「動かない空気感」を表現します。
その後、徐々に空気がざわつきはじめ、ヴァイオリンの音型が忙しくなっていきます。これは風の動きや、遠くで鳴り始めた雷の気配です。やがてそれは大きな緊張感をはらんだまま、次の楽章へとつながっていきます。
3.️ヴィヴァルディの"気象レポート"
《四季》に添えられたソネットには、「太陽の灼熱」「ため息をつきながらうなだれる人々」「風にざわめく木々」「近づいてくる嵐の予感」などが書かれています。
この楽章はまさにその通りの構成で、"気象の移り変わり"を描いた音楽とも言えるでしょう。単に「明るい」「楽しい」だけではない、自然の厳しさや人間の無力さまでが織り込まれています。聴く側にとっても、ドラマチックな物語が始まるような緊張感に満ちた楽章です。
4.小池彩夏のコメント
冒頭から漂う重たい空気を、弓の圧と音色でどう保つかを常に意識しています。蝉の声のような細やかな音型や、遠くで鳴る雷を思わせる低音の動きなど、自然描写の巧みさに惹かれます。静けさの中にも緊張が続くこの楽章では、音の流れを切らさず張りつめた時間を描くことが大切だと感じます。
5.次回予告
次回は、《夏》第2楽章。静けさが戻るように見えて、実は嵐の前の"油断できない空気"がただよう楽章です。どうぞお楽しみに。






