
1.はじめに
《夏》第2楽章は、表面的には穏やかに見える音楽です。けれどその奥には、どこか張りつめたような空気が流れています。
今回は、この静けさの裏側に潜む"嵐の気配"に注目してみましょう。
2.️静寂を切り裂く"雷鳴"
この楽章の構造は、とてもドラマチックです。 独奏ヴァイオリンが弱音で柔らかな旋律を奏で、農夫がまどろむ様子を描きます。
しかし、その静けさは突如として遮られます。全合奏による激しいリズムが、まるでハエやアブの羽音、あるいは遠くの雷鳴のように、何度も割って入ってくるのです。
楽譜に添えられたソネットにある通り、「休息を取ろうとする農夫」と「それを邪魔する不穏な自然」が交互に現れることで、"何かが起きる前"の張り詰めた緊張感が生み出されています。
3.表現の幅を試される楽章
この楽章は、演奏者にとってとても難しい課題を与えてきます。
音量は控えめ、テンポもゆっくり。でもそこに「間延び」や「平坦さ」があってはいけません。むしろ、限られた音の中にどれだけ感情や空気の変化を込められるかが問われるのです。
また、低音弦の刻む一定のリズムと、独奏ヴァイオリンの自由な旋律との対比も重要です。音楽の表面では静けさが保たれつつ、どこかで何かが動き始めているような、そんなバランス感覚が求められます。
4.小池彩夏のコメント
一見穏やかな旋律の中に、嵐の前触れのような不穏さを感じます。音の数が少ない分ひとつひとつの音に命を吹き込み、沈黙の中で聴き手に語りかけるように弾きたいです。微かな震えや息づかいが夏の熱気に潜む危機をそっと伝える緊張を内に秘めた美しさを意識しています。
5.次回予告
次回はいよいよ《夏》第3楽章──暴風と稲妻が一気に吹き荒れる、嵐そのものを描いた激しい音楽です。お楽しみに!






