１．はじめに

《四季》の中でも、とくに劇的な展開を持つのが「夏」の最終楽章です。いよいよ自然が牙をむき、雷鳴と風雨が襲いかかる──そんな情景が、激しい音楽として描かれます。

今回は、《夏》第3楽章で表現される「嵐の爆発」に迫ります。

２．️暴風と稲妻の音楽描写

この楽章は、冒頭から緊迫感に満ちています。

独奏ヴァイオリンと合奏の掛け合いで、激しいスケールの動きや鋭い音型が連続し、稲妻の閃光や、突風に煽られる自然の姿が生々しく再現されていきます。

リズムは常に動いていて、静止する場面がほとんどありません。演奏している側としても、まさに「嵐の中にいる」ような感覚になるほど、音楽の流れが止むことなく続いていきます。

３．技術だけではなく"構える心"が試される

この楽章はヴィヴァルディの技巧的な側面が強く出ている楽章でもありますが、単に速く・正確に弾くことだけでは乗り越えられません。

それ以上に必要なのは、この音楽が描こうとしている"自然の暴力性"に対して、どう向き合い、どう身を委ねるかという心構えです。

演奏者は、音で稲妻を刻むだけでなく、その刹那の静寂、空気の緊張感、そして突然の爆発的なエネルギーを、自らの中に通すようにして表現していく必要があります。

４．小池彩夏のコメント

この楽章を弾くとき、自然の力に挑むような感覚になります。

激しい嵐の音型の中でも、ただ荒々しくするのではなく、音の粒や響きの方向を丁寧に意識します。弓が跳ねるたびに、風や雨の勢いが形になるようで心が震えます。

嵐の中心にあるのは、自然の破壊ではなく生命の情熱だと感じます。

５．次回予告

次回からは《秋》編に入ります。第1楽章では、狩りの前の祝宴──人々が踊り、酔いしれる情景がにぎやかに描かれます。ぜひご期待ください。