京都の北西部、衣笠山の麓にひっそりと伸びる一本の道があります。金閣寺から龍安寺を経て仁和寺へと至る全長約2.5キロメートルの「きぬかけの路」。三つの世界遺産を一筋の道でつなぐこの散策路は、京都でも屈指の贅沢な道のりです。真夏に雪を夢見た天皇の故事「きぬかけの路」という名は、平安時代の第59代宇多天皇にまつわる風雅な逸話に由来しています。真夏のある日、天皇は雪景色が見たいと所望されました。すると衣笠山に白い絹布を掛けて覆い、あたかも雪が積もったかのように見せたと伝えられています。この故事から衣笠山は「きぬかけ山」とも呼ばれるようになりました。もっとも、この道がこの美しい名を得たのは意外にも最近のことです。1963年(昭和38年)に観光道路として開通して以来、長らく単に「観光道路」と呼ばれていました。転機となったのは1991年(平成3年)のこと。前年に地元の商店主たちが結成した「衣笠古道会」が中心となり、沿線の有力寺院や自治会の関係者、有識者らによる公募委員会を組織して、この道の愛称を全国から募集しました。1249通もの応募の中から選ばれたのが、宇多天皇の故事にちなむ「きぬかけの路」だったのです。今ではこの名が公式の地図や観光情報にも記され、広く親しまれています。緑の衣笠山に抱かれた歴史街道きぬかけの路の沿道は、美観風致地区および歴史的風土保存区域に指定されています。衣笠山の緑を背景に、北山文化を象徴する金閣寺(鹿苑寺)、枯山水の石庭で世界に知られる龍安寺、そして御室桜で名高い仁和寺と、三つの世界遺産が並びます。金閣寺から龍安寺まで徒歩約18分、龍安寺から仁和寺まで約11分。わずか30分ほどの道のりにこれほどの名刹が凝縮されている場所は、京都でもなかなかありません。さらに等持院や妙心寺、北野天満宮といった名所も周辺に点在し、道沿いにはカフェや和菓子店、ギャラリーなどが軒を連ねています。ちなみに、京都のローカルフードとして知られる「衣笠丼」も、この衣笠山に由来するとされています。お揚げと青ねぎを卵でふんわりとじた姿が、青々とした木々に白絹のかかった衣笠山を思わせることから、その名がついたのだそうです。そしてこの道沿いにあるのが堂本印象美術館です。金閣寺の荘厳、龍安寺の静謐、仁和寺の雅。そしてその道すがらに出会う堂本印象美術館。きぬかけの路は、千年の古都が持つ多彩な表情を、一歩ずつ足で味わえる稀有な道です。大正から昭和にかけて、木島桜谷や土田麦僊、山口華楊など多くの日本画家たちがこの地に住んでいたため、「きぬがさ絵描き村」とも呼ばれるようになりました。次の京都旅では、ぜひこの絹の伝説が残る道を、ゆっくりと歩いてみてはいかがでしょうか!




