
時々、聞かれます。
「なぜ横浜でブドウを育てるんですか?」
もっと広い土地があって、もっと涼しくて、ブドウを育てやすい場所は、日本中にたくさんあります。
横浜は夏は暑く、湿度も高い。住宅地もすぐそこにある。
ブドウを育てるには、決して楽な場所ではありません。
それでも私は、横浜でやることに意味があると思っています。
横浜には、たくさんの人が暮らしています。
農業とはまったく違う仕事をしている人。土に触れることのない暮らしをしている人。食べ物がどうやってつくられているのか、普段はあまり考えることのない人。
私も、もともとは農家ではありませんでした。
そんな人たちが、街からほんの少し足を伸ばしたところで、土に触れる。
ブドウの芽が出るのを見る。虫を見つける。病気になった葉を見つける。汗だくになって草を刈る。
そして、秋には実ったブドウを収穫する。
そんな経験をすると、ワインの向こう側にあるものが、少しだけ見えるようになります。
天気のこと。土のこと。生き物のこと。農業のこと。
そして、自分たちが暮らしているこの街や、この地球のこと。
横浜でブドウを育て始めて6年。
私は、ここでワインの原料をつくっているだけではないのかもしれない、と最近思うようになりました。
農業と関係のなかった人が、農業と出会う場所をつくっている。
それが、この畑のもうひとつの役割なのかもしれません。
農業人口が減っていくこれからの時代。
農業をする人と、食べる人。
その間に、もっといろいろな関わり方があっていい。
毎日畑に立たなくてもいい。農家にならなくてもいい。
年に何度か土に触れる。収穫を手伝う。一本のブドウの成長を気にかける。
そんな人が街の中に少しずつ増えていったら。
農業は、もう少し違う未来を描けるのではないかと思っています。
だから私は、横浜でやっています。
農業には少し難しい、この場所で。
たくさんの人が暮らす、この街で。
ここからなら、農業と人との距離を、もう一度近づけることができるかもしれない。
横浜の小さなブドウ畑から始まった挑戦。
いつかこの風景が、特別なものではなくなる日が来たらいいなと思います。



