2020/07/22 21:00

この機会を通じて、初めて越前海岸にご興味をお持ちくださっている方、予てからご支援くださっている皆様に、心からお礼申し上げます。

版画家、おさのなおこと申します。

横浜生まれですが、美術学校卒業後、20代のほとんどは山梨県北杜市八ヶ岳の麓で変わり者のおじいさんの元、小屋づくりや庭、畑づくりをしながら版画やオブジェを制作して過ごし、都心でクラフトマーケットなどに出展したりするようになり、結婚を機に東京都町田市に拠点を移し、根を張りかけていました。

非常に便利な都会の暮らしの中にいて、人間力というのでしょうか、生きる力が弱まっているな、と感じながら、ここで子育てと制作活動を続けていくかどうか、ずっと悩んでいました。災害が起きた時の、都会の暮らしの脆さを感じさせられることも増え、やはり田舎で暮らしたいという気持ちも膨らんでいました。

そんな中、もともと夫の友人だった、先進的な発想で農に取り組まれていて、個人的に注目していた志野さんが、SNS上で「どなたかカフェの壁画描いてくれる人いませんか?報酬は平飼いたまご一年分!」の呼びかけをしているのを見つけ、手を挙げたのが福井に来たきっかけで、結果移住することになりました。

よくよく考えてみたら、その時初めて福井に訪れてから一年後に移住を決め、大急ぎで引っ越し準備をしてその数ヶ月後に、東京都内でも人口数第2位の町田市から、福井市の、越前海岸という、限界集落が点在する過疎地へ、一家で移住してきました。ひとつの市から市でみたときに、たった4人という人数は、ちっぽけな変化でしかありませんが、私たち家族からしてみれば、一大決心でした。その2年前には、福井の「ふ」、の字も無かったのに。

それが去年の11月末。12月から地域おこし協力隊として着任して7ヶ月以上が経ちます。

「越前海岸盛り上げ隊」の存在は、ここへ私が移住することに決めた要因のひとつ。協力隊の任務の一つが、隊との連携、であった上、ご縁を繋いでくれた志野さんもメンバーでしたし、隊長の長谷川さん、副隊長のまっ田さんの存在感が圧倒的でした。かたや寡黙なアーティスト、かたや饒舌なアイデアマンの料理人、そんな対照的なお二人でしたが、さらにそのお二人を取り囲む、個性と才能豊かなメンバーの方達にお会いした時には、「こんな面白い大人の集まりって、みたことない!」が、率直な、私の最初の印象でした。

越前海岸盛り上げ隊の懇親会に参加するおさのさん

副隊長のまったさんの拠点がある蒲生町に、すぐそばに海水浴場もあり、たくさんの人が行き来し、活気にあふれていた、旧商店街があります。今は空き物件だらけになってしまいましたが、かつての面影を忍んで、復活の機会を作ろうと、今年の春から商店街復活企画が立ち上がり、その一角にある「はりいしゃ」という屋号を持つ古民家にまずは手を入れようということになりました。

商店街復活企画が出た際、イメージを掘り下げるためにおさのさんが作った版画

廃材を活用した豊かな空間づくりを広く手がけられている、リノベーター出水さんによる監修で、水回りなどを新しくするリフォーム作業の一部を、隊員や興味を持ってくださる方が集まって、タイル貼りや壁塗りなどワークショップの形で進めています。もともとある建具などの風合いを活かしつつ、素敵な空間ができてきています。このコロナの時勢、難しさがあるものの、できることをできる場で、その場として「はりいしゃ」は、この商店街に少しでも光を取り戻してくれると信じています。

ここに、私は、知人のクリエイターさんなどを、できたら長期滞在の場として誘致できたら、と夢見ています。私がそうだったように、この土地の魅力を、自分の制作活動を通じて味わい、この地で、ご自身の可能性をなんらかの形で模索してもらえないだろうかと。

海を見晴らせる誰もいない桜の園、防波堤で釣りをする人のシルエット、波の華舞う岩島の悠然とした姿、夕日を逆光に沖に向かうイカ釣り漁船のきらめき、トンネルを抜けて現れる港町の景色、名も知られていないけど、ぽつんと佇む素敵な小さな灯台、少し丘に登って見渡せる水平線越しの田園風景、などなど、気づけば7ヶ月の間に、お気に入りの場所を何箇所も見つけ、その一つ一つを絵にしていくワクワクで、今私は生きています。東尋坊と恐竜だけが福井ではありません(笑)

リターンについて

私がご用意しているリターンですが、ここへ来て初期の頃、受けた海辺の風景の印象を形にしていく過程で、エミリーディキンソンの詩の力を借りて仕上げた木版画作品です。


朝まだき

犬をお供に連れて

海へ行った


人魚が下から上がってきて

私を見つめた

 

中略


潮の銀のかかとが

わたしの足首に触れた感触

わたしの靴に真珠の玉が溢れてくる


エミリー・ディキンスン詩集 「I'm Nobody ! Who are you?」

内藤里永子訳より


この、海辺の風景を描いた詩が好きで、越前海岸を舞台に描いてみました。ディキンソンが描いた作品の舞台とはきっとだいぶ異なるのですが、制作の自由を思い切り楽しんで版木に向かいました。

そして、越前といえば、和紙。東京にいる頃から、越前和紙の存在感は別格でした。ここから車で1時間ほどのところにある越前和紙の里へ度々足を運び、職人さんと対話しながら、良い和紙に出会っています。

とっておきの手漉きの和紙に、この作品をのせて、お届けします。

この半年間だけで、子供たちにはたくさんの素敵な体験をしてもらっていますし、私もこの歳になって初めて経験することばかり。

日々、親子で成長しているのを感じます。

皆様もぜひ一度、北陸の良さ、海辺の暮らしの豊かさがぎゅっと詰まった福井市越前海岸へ、まずは遊びにおいでいただきたいです。

そのきっかけとして、今回のプロジェクトにご参加いただくのは、素敵なチャンスかと思います。ご支援のほどどうぞよろしくお願いいたします。