こんばんは、監督の山﨑です。
樹木希林さんが亡くなって丸二年、三回忌を迎えました。
前回は希林さんからいただいたことばを紹介しましたが、今回は思い出話をいくつか。
希林さんへの演出
「希林さんにどうやって芝居をつけたんですか?」なんて聞かれますが、一挙手一投足、細かくつけたということはないですよ、そりゃ(苦笑)。
ただ、最初の出番の前に、「役の性根」みたいなものをじっくりとお話ししました。セットの片隅で二人っきりになって。終始、穏やかで、面白おかしく、いろんな経験談を交えながら。
希林さんの役の解釈は「女将は非情」。
「女郎屋の女将は商売のことしか興味はないの。男と女に何があろうと、心中があろうと、そんなことは日常茶飯事。いちいち相手にしない。だけどお役人が来たときだけは動揺するわ。だって商売に影響するから」
『はみだし刑事情熱系』(96~04)で演じた婦人警官の役を例に出していました。警察署に勤めてれば事件や事故なんて日常茶飯事。いちいち動揺するような演技はおかしいと。
これは希林さん流の「配役のバランス感覚」なんですよね。この映画は情念の世界なので、主要登場人物が全部それだと息苦しくなる。一人ぐらい非情のキャラクターがいることでバランスがとれる、そんな感覚でしょうか。前回のキムチの話にも通じますね。
もっともお気に入りのシーン
一番気に入ってるのは、本編の中盤、主要登場人物による「だんまり」です。
歌舞伎のお化粧と拵えになるんですが、希林さんはスタジオに入るなり、自分の顔を指して「こういうチンドン屋がいたわ」と。みな、笑うに笑えず……。
さて、そのだんまりは舞踊仕立てになっていて、日本舞踊の先生が振付をしました。
それぞれの個性でこれを踊ったわけですが、なかでも希林さんは出色でした。何とも言えない独特の味わいがあるんですね。これは言葉では形容しがたい。振付の先生は「希林さんの振りはすごい。樹木希林のだんまりになってる。あれは誰にもできない」とずっと感心していました。
多くの作品を残した希林さんですが、だんまりの振りをしたのは本作だけです。
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ホント、思い出は尽きません。
たった一作になってしまいましたが、希林さんとお仕事をしたことは、この先、誰にだって、永遠に威張れます。
歴史的な偉人に出会った、そんな感覚でしょうか。
最後に、これは希林さんからいただいた、私の一生の宝です。
「なかなかいい監督ですね」
希林さん、ありがとうございました。