映画『宮城野』は、浮世絵師・東洲斎写楽とその役者大首絵「宮城野」をモチーフにした物語です。ですから、本編中には多くの浮世絵、その原画が描かれる場面なども登場します。
撮影当時、多大なるご協力をいただいたのが「アダチ版画研究所」さん。
江戸時代の浮世絵の技術を継承する職人を抱えた、現代の版元です。写楽の全作品を復刻しており、アダチさんなくして映画『宮城野』はできませんでした。本プロジェクトのリターンにもご賛同くださっています。
先日、東京・目白にあるアダチ版画研究所・ショールームを訪問し、改めて浮世絵の魅力を再確認してきましたので、ご紹介します。
知っているようで知らない江戸時代の大衆文化・浮世絵について、アダチ版画研究所の中山周(なかやまめぐり)さんにお話を伺いました。
その前に……初心者にも優しい浮世絵解説は「浮世絵のアダチ版画」さんのサイトでチェック!
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■東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく・生没年不詳)
寛政6年(1794)彗星のごとく浮世絵界に登場した写楽は、わずか10ヶ月の期間に、140数点に及ぶ浮世絵を世に送り出し、忽然と姿を消しました。写楽の活動期間が短かいのは、役者の個性を、美醜を問わず描いた迫真の描写が、当時の人々に受け入れられなかったからとも言われています。しかし、躍動感溢れる役者絵は現在の我々の目にも今なお新鮮です。
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ー写楽が活動した江戸時代中期、浮世絵ってどんなものだったのでしょう?
当時の浮世絵は、大量生産の印刷物、出版物であったというのを前提として考えてみてください。
現在では教科書にも載っていて、美術展で鑑賞できるため、アートと捉えられることが多いですが、当時は、そうではなかったということです。今でいうアニメとか漫画とか、商業ベースのエンターテインメントと思っていただけると分かりやすいのではないでしょうか。いかに早く、効率よく仕上げて、安く大衆に届けるか、という側面がありますよね。
なかでも、歌舞伎の役者絵に関しては、基本的には、興行に合わせて出版されていました。時機を逸しないためにも、初日にサッと描いて、一日でも早く商品になるように作ることが求められていたわけです。
また、コストを制限する点から、版木5枚前後で表現したり、色数も少なく手間暇をかけないようにしなければなりませんでした。写楽の場合はそのシンプルさが極まっているのが特徴で、その省略美が評価の一つとなっています。それは版元の蔦屋重三郎さんの手腕によるところが大きかったといわれています。
ー版元と絵師の関係はどのようなものだったのでしょう?
東洲斎写楽は無名の新人で、ごく短期間に28枚もの役者絵を登場させたという点で、大きなプロジェクトだったことがわかります。そこには蔦屋重三郎さんの情熱が凝縮されているんです。
写楽の役者絵には特徴がもう一つあって、背景に黒い雲母(キラ)引きというそれまでになかった手法を用いています。無名の絵師に描かせながら、一流の彫師・摺師をあてがい、一手間を加えることで、それまでにない見せ方、インパクトに賭けたのではないでしょうか。
そういったこれまでにない売り出し方をしたのですが、写楽は1年足らずで活動を終えてしまいます。制作側の事情を考えると、続かなかった理由は、当時はあまり人気が出ずに売れなかったからなのだと推察できるのです。版元のプロデュース意図や、絵師との力関係など、出版の背景を想像しながら作品を見ていただくと、浮世絵をより楽しくご覧いただけるのではないでしょうか。
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時代背景を考えれば、文化や風俗を現代に伝えてくれる浮世絵。なかでも写楽は謎の人物とされていますから、版元である蔦屋重三郎氏に着目する見方は面白いものですね。
アダチ版画研究所さんの復刻浮世絵については、また次回ご紹介します!
アダチ版画研究所では今年の夏に、浮世絵にまつわるポータルサイト「北斎今昔」をオープンしました。読み応え抜群の良質な記事が満載の美しいサイトです。
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