今、歌舞伎に思うこと。
およそ130年前、生まれて間もない「映画」はすぐに日本に輸入されてきました。
やがて、「どうやって国産化するか?」
そんな悩みが出たときに、日本人は「歌舞伎」に頼りました。
300年近くにわたって日本のエンターテインメントの最高位にあった歌舞伎ですから、そこにはすべてのノウハウがあったのです。
台本、演技、音楽、衣裳、メイクの方法から興行の仕組みまで。
そもそも歌舞伎はそれまでに生まれた文化・芸術が蓄積されたものですから、日本の映画の歴史は、「歌舞伎の延長線」に位置付けられることにより、悠久の歴史につながったのです。
黒澤明をはじめ歴史に名を残す映画監督には歌舞伎の素養がありました。
彼らは時にアンチになりながらも、映画作りのヒントを歌舞伎に求めました。
また、スーパー戦隊ものを作るとき、そのヒントを歌舞伎の『白浪五人男』の求めたのは有名なエピソードです。
日本の映画の歴史を紐解くと、困ったときは歌舞伎に頼ってきたといっても過言ではないかもしれません。
そして、今、歌舞伎は400年以上の歴史の中で最大の危機を迎えています。
7月まで5ヶ月にわたって幕が開けられませんでした。あの東京大空襲の中でも幕は開いていたのです。
現在、なんとか幕は開けられていますが、窮屈な公演であることは明らかです。興行よりも芸の継承を目的にしていると思います。その英断をした関係の方々には頭が下がります。
そんな中ですから、映画は歌舞伎に恩返しをするときなのではないか、そんなことを日々思っています。
歌舞伎の魅力がたっぷり詰まった映画『宮城野』が海外配信されることは、歌舞伎への恩返しへの一助となると信じています。
映画『宮城野』監督 山﨑達璽