河野酢味噌さんで現在行われている木桶味噌作り。前回は、木桶味噌仕込み以来初めての口切りの模様をお伝えしましたが、今回はその数日後に行われた、糀作りと追糀の模様をお伝えします。味噌の製造工程では、1度目の糀作りと仕込みが冬に行われますが、さらに味噌の香りと甘みを豊かにするため、夏場に2度目の糀作りと追糀が行われます。冬場に比べ夏場の糀作りは難しいそう。河野さん:「糀作りは、お米を蒸して糀菌の種付けをすることです。蒸しあがったお米に雑菌が入る前に粗熱を一気に冷まし、お米の温度を32~34℃にしてからすぐに糀菌の種付けを行います。蔵の中の温度が冬場は5~10℃くらいなので蒸したお米がすぐに冷めるのですが、夏場の蔵の中は26~27℃くらいになり、なかなかお米が冷めないので、送風をつけたり消したり、表面が乾いてしまわないように混ぜたり、冷めムラができないようにするのが難しいのです。」 種付けしたお米では糀菌が発芽し、繁殖と発熱をします。その発酵熱で糀菌が死滅しないように、また菌を1粒1粒にしっかりと付けてあげるため、2回ほど「手入れ」をして糀をほぐしながら冷まします。糀の具合が気が気でない河野さん、夜中も室の様子を見に行くそう。河野さん:「私にとっては当たり前なのですが、糀を作ると室の温度が気になって、寝る前とか、夜中とか、気になったら常に見に行くのは職業病かもしれません。子供のことのように気になるときがあります。」河野さんの熱い「味噌愛」を感じますね!夕方の手入れで糀がパラパラになり溶けの良い糀に。そうして作られた糀を味噌に追加する「追糀」の前に、スコップを使って少しづつ木桶味噌の上と下を入れ替える「天地返し」を行います。味噌を一旦木桶から全て取り出して、底の味噌を上にするように入れ替えて、味噌の水分や風味のムラをなくすと同時に酵母菌を活発にさせるのです。スコップは、ステンレス製ではなくFRP製で、木肌を傷めないものを使用しています。木桶の底に、なにか白いものがありますね。河野さん:「これは良く発酵している証拠です。「チロシン」というもので、天然醸造で出てくる”アミノ酸の塊”です。」アミノ酸といえば、旨味のもと。おいしい味噌になっている証拠ですね!そして、河野酢味噌さんでは新桶での木桶味噌の仕込みがはじめてということで、いつもの味噌作りと違う点も。河野さん:「掘った味噌が通常よりも20㎏ほど少なかったんです。木桶が水を飲んでいるのと、蒸発しているのとでいつもより少なかったのだと思われます。」新桶仕込みの味噌、ますます貴重です。そしていよいよ、天地返しをした味噌に、追糀をします。河野さん:「追糀で、味噌の香りと甘みを出していきます。糀には、グルタミン酸・大豆ペプチド・核酸など、旨味のもとがたくさん。追糀のあとは、糀が味噌の水分を吸い、気温も高くなるので味噌の色づきは早くなります。青味野菜の色が映える、山吹色(淡色)の若い色を目指して熟成させていきます。」これから夏の間追熟させ、秋の完成を待ちます。お楽しみに!
昨日は河野酢味噌さんで造っていただいている「木桶味噌」の、仕込んでから初めての口切りの日。口切りとは、木桶の蓋を開けること。河野さんが、その様子を見せてくださいました。木桶を覆っているカバーを外すと…茶色く澄んだ液体が出ています。これはなんでしょう?河野さん:「味噌だまりです。アメとも呼びますが、味噌から出る液体です。味噌は蒸した大豆と米麹からできていて、その味噌の水分に加え、木桶自体も水を吸っているので、木桶からの水分も混ざっています。」木桶も水を吸っているんですね。河野さん:「仕込んだ味噌の水分を木桶が吸ってしまうと、味噌が乾いてかたくなってしまうので、仕込む前に木桶に水を飲ませます。この新桶は2年乾かした杉の木で作った1000リットル用の木桶で、1月に木桶を制作して3月の仕込みまでの間にだいたい70~80リットルの水を飲みました。その木桶の水が、浸透圧の影響で味噌に移るとき、木香(もっこう)も同時に味噌に移ります。」木桶が水を飲む…木桶は生き物ですね。木香が移った味噌の香りはどんなものですか?河野さん:「それが…なぜか”鰹節”の香りがするんです。材料に鰹由来のものは入れていないのに、濃く煮だした鰹出汁のような。私たちも今回新桶で初めて味噌を仕込んだので、これは初めての体験で驚きました。普通の味噌とは全然違います。通常の味噌は、まず酒造が新桶を作って酒を造ったあとの木桶を譲り受けて組み直し、味噌の木桶として長年使い込んでいるので、木香は無く、いわゆる味噌らしい香りがするんです。」鰹節…!不思議ですね。出てきた味噌だまりはこの後どうなるのでしょう?河野さん:「河野酢味噌では、基本的に”出てくるものは余分なもの”と考えるので、戻さずに捨てています。味噌だまりには、余分なものが入っていて、どうしても”におい”がしてきてしまうんです。古い木桶だともっと濁った味噌だまりですが、新桶のアメ(味噌だまり)の色は澄んでいてきれいですね。今回の味噌だまりはだいたい25~30kg出ました。」そんなに出るんですね!味噌だまりを取り除き、このあとはいよいよ味噌を掘って麹を追い足し、熟成に向かいます。それはまた、今後の記事でレポートします。木桶味噌の出来上がりまで、お楽しみに!