この間のアトリエ訪問で収録してきた、「みんなとつながる上毛かるたラジオ」の第一回をお届けします。第一回では、館林美術館でのヒューマンビーイング展のこと、見えていた頃と、見えなくなってからとでの作風や作品に向き合う気持ちの変化などを話しています。三輪さんのひょうひょうとした語り口が、とても魅力的です。ぜひお聞きください。
今日も、三輪代表からのメッセージです。 2月14日「触れる彫刻と触れない彫刻」 私は現在群馬県立館林美術館でさわれる彫刻展を開催しています。第一展示室という体育館のような大きい空間に畳を80枚しいて作品を30点余り展示しています。これらの作品は私が見えなくなってから作った塑像作品です。見えていた頃の記憶と手の感覚を頼りに、まさに手探りで表現を模索しながら作っています。 それとは対照的に第2・3・4展示室にある私の作品は、見えていたころの木彫20点余りを展示しているのですが、これには触ることができません。より正確に申し上げると、触ってほしくない作品です。これらの作品はすべて檜から彫りだし、細部まで神経をとがらせて造形し、日本画の微妙な彩色を施して仕上げたものです。 性格が異なる2つの作品群ですが、見えていた頃の木彫の作品も、見えなくなってからの最近の塑像の作品も私自身の生き方を投影しているものだと思います。 ただここで厄介な問題が起きました。見えない人に作品を鑑賞していただくには、触れる彫刻であれば手っ取り早いのですが、触れない彫刻作品は本気の対話型鑑賞で鑑賞するしかありません。2月17日の見えない方を招いてのワークショップでは、触れる鑑賞と触らない鑑賞の2部で構成することにしました。 群馬県の鑑賞サポーターは、私を含め実績があまりありません。見えない人の鑑賞もサポートする、インクルーシブ・ボランティア・ビギナーです。うまくいかないのは当然と了解したうえでどこまでできるがやってみたいと思います。ワークショップの後で、みんなでだめだしをして次回の糧としたいと思います。 ここでこれから私が研究を深めたいと思う「触察」が相当の肝になると思います。言葉で説明しきれない作品についての説明を、触ることのできない作品の為の代替え作品として、3Dスキャンや立体コピー・3Dプリンターなどの技術が大活躍すると思います。鑑賞者とサポータがお互いに触って言葉をかけあうことで鑑賞がどこまで深まるかは今後の大きな課題となるでしょう。 「みんなとつながる上毛かるた」は触察の研究の必要性を私に気づかせてくれました。
今日も三輪代表からのメッセージです。今週末のバスツアーについてです。2月12日「インクルバスツアー」 2月17日に群馬県立館林美術館で、見える人、見えない人、見えにくい人と一緒にワークショップを開催します。館林美術館は群馬でも東の端にあり、群馬県民でも少々足の不便な場所にありますので障害者の方々の足となるよう、大型バスを新前橋、高崎、伊勢崎を停留所として動かす「インクルバスツアー」を企画しました。このバスには一般の方も無料になっておりインクルーシブアートとしての試みでもあります。 去年から取り組んでいる文化庁委託授業において障害者の方が美術館で鑑賞するためのアテンドの研究をしてきましたが、大事なことに気づきました。レストランで例えるならばテーブルクロスをはり、お皿を並べ、フォークとスプーンを磨き、美味しい料理を用意してもお客様がいらっしゃらないとことは始まりません。それと同じく美術館に障害者の方が美術鑑賞に行きたいという気持ちを引き起こす努力が必要だと感じました。過去に視覚障害者に美術はいらないという時代が長くありましたに で、急に美術館でいらっしゃい、いらっしゃいと叫んでも簡単に足を運んではくださらないと思います。ましてはほとんどの視覚障害者は同行援護という介助者をともなって美術館に行くのでお金がかかります。そうまでして美術館に行きたいという人はまだまだ圧倒的に少ないと思います。だからこそのインクルバスツアーなのです。美術館への階段を一歩昇るために0.5段の慣らし運転のようなものとしてインクルバスツアーをとらえて頂ければありがたいです。 今後インクルバスツアーは拡大していく可能性があります。芸術は美術館だけで鑑賞が行われるものではありません。博物館でもよし、社寺仏閣でも良し、演劇鑑賞でもよし、ゆるく障害者の方に文化活動を体験して頂きたいです。そこには私の個人的な思いも眠っています。家族だけで私を連れて旅行するよりも大勢の中に私のような人間を混ぜて頂き皆さんが変わりばんこで私の手を引いて頂ければお互いの新しい体験という付加価値もついて予想外の旅行になると思うのです。皆さんのご意見を伺いたいです。 まずは2月17日のバスツアーを決行したのち、ご報告をさせて頂きます。
三輪代表から、昨日の上映会・トークについてのメッセージが届きました。2月11日 「手でふれてみる世界」 こんにちは三輪です。昨日岡野晃子さんの映画上映が群馬県立館林美術館でありました。岡野さんの映画「手でふれてみる世界」は今の時代に作らされた映画だと思います。この映画は全国20か所以上で上映されているようです。群馬県では初めての上映でした。お客様も思いのほかたくさんいらしていただきました。皆さん本当にありがとうございました。 私が去年から取り組んでいる文化庁、障碍者等による芸術文化活動推進事業の取り組みとしてインクルシブアートコーディネーター育成事業があるのですが、簡単にいいますと障害者の方が美術館に行って鑑賞するためのサポートの養成事業なのです。サポートをするためには言葉で作品の内容を伝えるほかに「触察」という鑑賞方法があります。美術館では触れることが出来ない作品を鑑賞するための手段も研究していかなければならないのですが、この話を論述してもそうそう実感として伝えきれないことが多いのです。岡野さんの映画を見ることで見えない人が展覧会を鑑賞する必要性と具体的な取り組みを皆さんに実感として頂けると思います。 面白いものでこの映画はオメロ触覚美術館の館長夫妻のお話しなのですが、不思議に岡野さんの人格がにじみ出ているように感じます。私は画面が見えないのでユニバーサル対応の音で映画を楽しむしかないのですが、それでも岡野さんの謙虚な性格を感じることが出来ます。見せ所を強調するのではなく、より自然さを大事にして撮影している岡野さんの姿が見えるようです。 これは怖いことだと思います。私が館林美術館で出品している過去の木彫の作品は人を寄せ付けない空気がみなぎっているようです。最近の作品は鑑賞者との距離が30cmくらい縮んだと人に言われます。確かにその通りなのです。木彫を彫っていたころの私は一匹狼の自己完結型でした。最近は見えないがゆえに団体戦になりつつあります。それが30cmという感想になったのだと思います。 岡野さんは今後も肩に力を入れず、大声で叫ばず、優しく人に寄り添って生きていくのだろうと思います。素晴らしいです。
今日は群馬県立館林美術館でのヒューマンビーイング展でのイベントで映画「手でふれてみる世界」の上映会と、岡野晃子監督と三輪代表のトークが行われました。「手でふれてみる世界」は、三輪代表が熱く語ってきた触察をテーマに、イタリアのオメロ触覚美術館での取り組みが丹念に描かれています。オメロ触覚美術館は、全盲のアルド・グラッシーニ、ダニエラ・グラッシーニ夫妻の想いと行動によって作られた、触って作品を鑑賞するための美術館で、触察の文化について深く研究し教育や作品の収蔵・開発も行なっているとてもユニークな美術館です。夫妻の熱意によって小学校の教室の一部という小さな規模から始まり、今は国立美術館として美しい立派な施設を持っています。今日上映されたのは、ユニバーサル版として視覚障害の人も聴覚障害の人も楽しめるように、音声による場面解説や字幕もつけられたもので、最初は少しせわしない感じがしましたが、しばらくすると、意外に馴染んで、場面解説がなかったら、そこ気がつかなかったかも、と思うようなところもありました。三輪代表も、視覚障害の人用につけられている音声の場面解説に対しては、「情報が多すぎて疲れちゃう」と結構辛口なのですが、終わってからのトークでも、この場面解説はちょうどいい感じでとても良かった、と言っていました。しかし、オメロ美術館の取り組みはとても先進的で、わたしたちにとっても参考になることばかりでした。ラストシーンがとても美しく、トークで岡野監督が、ほとんどの場面が一発どりで、しかも頼んだわけでもなく自然にそういう展開になった、というのにちょっとびっくりしてしまいました。トークでは、触察について、ユニバーサルであることについて、さまざまな興味深い話題が出て、あっという間に時間が過ぎてしまいました。メノキの設立当初から、文化財を回るツアーをいつかやりたいね、と三輪代表と話していたのですが、今日のトークの中でも「ユニバーサルツーリズム」という言葉が岡野監督から出て、三輪代表が熱くツアーの構想について語る場面もありました。今度の17日の土曜日には、バスツアーと対話型鑑賞のワークショップや音楽会という大きなイベントが行われます。バスツアーと対話型鑑賞のワークショップはもう予約がいっぱいになってしまいましたが、音楽会は申し込み不要なので、興味のある方はぜひ足をお運びください。→音楽イベント「音のスケッチ 彫刻をみる/音楽でみる」