さて、前回まで「みんなとつながる上毛かるた」のできるまでを書いてきましたが、ここで、三輪代表からメッセージが入りました。-----------------2月5日「群馬県立館林美術館の展覧会が始まりました。」初めまして彫刻家の三輪途道と申します。皆さんクラファンの2か月間宜しくお願いします。1月27日より群馬県立館林美術館「ヒューマンビーイング 藤野天光、北村西望から三輪途道のさわれる彫刻まで」展が始まりました。見えていたころの木彫20点と見えなくなってからの彫刻30点を出品しています。会期中様々なワークショップが開催されます。その中で2月11日に開催される映画「手でふれてみる世界」岡野晃子監督の映画が上映されます。映画の後岡野さんと私の対談もあります。お時間がある方はぜひ美術館に足を運んでいただければ幸いです。→映画「手で触れてみる世界」上映会&トーク 映画の中で「触察」という見えない人が事物を理解するためにさわって鑑賞するのですが、イタリアは彫刻の国だけに一日の長があると感じました。私も彫刻家の端くれとして見えないからこそこの触察の研究をしてみたいと強く願うようになりました。きっかけはまさしくこの共生版の上毛かるた----「みんなとつながる上毛かるた」なのです。作り始めた当初は触ることで何かを理解するという単純な考え方だったのですが、作り続けているうちにこの触察という分野はコミュニケーションそのものだという思いに至りました。それはお母さんが子供に読み聞かせをするがごとく対話で理解し触りながらおしゃべりを楽しむ物なのです。今後上毛かるたを手始めにして絵本や教材研究に挑戦したいと思います。皆さん応援してください。-----------------
→みんなとつながる上毛かるたとは?(3)から続きます。全ての札が彫り終わり、三輪代表の手に漆で仕上げられ、これも漆で仕上げられたヒノキの立派なケースに納められて実行委員会でお披露目され、実行委員のみんなもその造形のユニークさと、触り心地の良さに感動しています。上毛かるたを立体版にして、三輪代表の「作品」としてまず形はできたのですが、それを多くの人に体験してもらうために、どうやって普及活動をしていったらいいのか。次の課題はそこでした。上毛かるたは著作権を群馬県が持っていて、この立体版のかるたを多くの人に体験してもらうためには、まず許諾を取る必要がありました。群馬県庁の文化振興課に通って話し合い、許諾のための条件を頭を捻ってクリアし、また、多くの人に使ってもらうために複製版を作ったり、より多くの人に知ってもらうために群馬の地域芸術祭である中之条ビエンナーレに参加を決めたりと、本当に多くの方たちとの話し合いと協力の中でこのこの立体版かるたは、「みんなとつながる上毛かるた」になっていったのです。中でも、株式会社ジンズの地域共生事業部のみなさんが深くこの事業に関わってくださり、ジンズさんとメノキで、「ミルミルつながるプロジェクト」としてこのかるたの制作と普及に関わってきたという経緯があります。そのあたり、ジンズさんのHPの中でも紹介していただいています。https://park.jins.com/series/jinsnotanemaki/menoki/https://park.jins.com/series/jinsnotanemaki/menoki2/「みんなとつながる上毛かるた」のネーミング自体も、地域共生事業部の石井さんのアイディアです。こうして、この立体版かるた自体も、「みんなとつながる」ことになっていったのです。
→「みんなとつながる上毛かるた」とは?(1)→「みんなとつながる上毛かるた」とは?(2)から続きます。さて、三輪代表が「自分で作ってみる!」と宣言して、ひと月もたたないゴールデンウィークの前あたり、ジンズの地域共生部の秋本さんとメノキのメンバーで三輪さんのアトリエを訪ねると、なんともう結構な数の札が彫り上がっているではありませんか!三輪代表は、彫刻家としては職人気質のある人で、とにかく仕事が早い。方針さえ決まれば自分で締め切りを作ってどんどんそれに向けて仕上げていく。視覚を失って、木を彫ることはできなくなって、今回彫るのは長年の仕事仲間の水口健さんがヒノキの板に彫っていくのですが、その前の原型を、木の板に粘土を貼って三輪代表が作り、水口さんの意見も聞きながら修正しつつ、また水口さんが彫った板を触りながら、それを再修正する、という工程で進められていました。私たちはそのクオリティの高さにびっくりしながら、その愛らしい造形に口元が緩んでしまい、また触りながら、その触り心地の良さにうっとりし、誰ともなく「これいいねえ」と思わず口から言葉が漏れ出ます。会議や実験の場では、いろんなアイディアが出つつも、今ひとつ具体的な形が見えていなかった新しい上毛かるたのイメージが、はっきりと焦点を結んだ瞬間でした。三輪代表は、うれしそうに、「さらにこれを漆で仕上げるからね!」と職人の顔で腕をまくる仕草をしています。見えていないはずの三輪代表が、私たちがモヤモヤしていて見えていなかったイメージを見えるように視覚化していく・・・それはこのかるただけに留まらず、メノキの立ち上げからずっと、どのような活動をしていくのがいいのか、みんなでああでもない、こうでもないと話しながら、モヤモヤしていたことに、三輪代表がある瞬間、すっと、形を作っていくということが何度もあり、アーティストってこういうことなんだな、と深く納得させられる体験でもありました。こうして形はできましたが、その後さまざまな苦労が待っている事を、この時はまだ私たちは知りませんでした・・・
→「みんなとつながる上毛かるた」とは?(1)から続きます。いろんな可能性を持った「みんなとつながる上毛かるた」ですが、そもそものきっかけは、視覚を失った三輪代表が群馬県立点字図書館に行ったことから始まります。三輪代表は彫刻家としてのキャリアは長いですが、全盲になってからはまだ数年で、実は点字は読めません。点字図書館は点訳(視覚障害者のために文字を点字に翻訳すること)された書籍を借りられるところですが、最近はボランティアの人たちによって朗読された書籍の音源(音訳図書または録音図書と呼ばれます)も視覚障害者用に用意されているのです。また、まだ視力が少し残っている弱視と言われる状態の方に文字を大きく拡大して印刷した本(拡大図書と呼ばれます)なども借りられます。視覚障害者の方向けのイベントなどもあり、点字版の百人一首の体験会をやっていて、その案内役の群馬大学教育学部の学生さんの斉藤玄志さんと点字図書館館長の細川智子さんとで、群馬県人なら誰でも知っている上毛かるたを視覚障害者でも楽しめるようにできないか考えていたそうなんです。そこに三輪代表とメノキのメンバーが点字図書館に訪れた際に、細川館長からそのお話を伺って、メノキも一緒に考えてみようか、と軽い気持ちで話に乗ったのがそもそもの始まりでした。メノキは一般社団法人として設立されてすぐに、地元企業や大学、美術館の学芸員の方たちや地域芸術祭の人たちなどと、「視覚障害者と晴眼者のための共生芸術活動環境創造プロジェクト実行委員会」というのを立ち上げていて、そこでこの話をしたところ、委員会のメンバーの株式会社ジンズ地域共生事業部、群馬大学教育学部美術講座、中之条ビエンナーレの方たちも興味を持ってくださり、一緒に考えてくださることになりました。最初はかなり自由な発想で、触覚だけでなく嗅覚なども取り入れて、上毛かるたにいくつも出てくる群馬の温泉の匂いの違いを使うのはどうだろう?とか、石や木などの手触りや、音を使うのはどうだろう?とか、本当にさまざまなアイディアが出ました。実際に石や木を加工してみたり、箱に入れた群馬の特産品の音を聴く、といった実験もしました。ただ、あまりいろんな要素を入れると、一つのパッケージにするのが難しく、とりあえず、視覚障害者の当事者でもあり、彫刻家という造形の専門家でもある三輪代表が、「まずは自分が作ってみるよ」と宣言し、制作に入ったのが、2022年の春頃でした。明日に続きます。
みなさん、初めまして!一般社団法人メノキと申します。本日から、『「みんなとつながる上毛かるた」改良版の制作と普及活動の支援プロジェクト!』をスタートしました。クラウドファンディングの経験がほとんどなく、うまくいくのか不安もいっぱいですが、多くの方に関心を持っていただけるよう、これから毎日活動報告をアップしていきたいと思います!さて、この「みんなとつながる上毛かるた」ですが、群馬の人なら「上毛かるた」という言葉にはピンとくると思うのですが、「みんなとつながる」というのはなんだろう?という感じでしょうか。群馬県の人でないと、「みんなとつながる上毛かるた」という言葉全体がもう、一体なんのこと?という状態だと思います。「上毛かるた」は、群馬の郷土かるたで、小学校の頃から課外活動としてこのかるた大会が繰り広げられ、群馬県人なら上の句を言えば即座に下の句が出てくるという驚異的な普及率を誇ります。(最近は昔ほどではなく、群馬でも上毛かるたを言えない子どもさんも出てきているそうですが・・・)で、この「みんなとつながる上毛かるた」は、その上毛かるたを立体版にして、触って絵柄を判断して遊ぶというものなんですね。これを作ったのが、群馬の下仁田在住の彫刻家、三輪途道で、わたしたちメノキの代表でもあります。三輪代表は人物彫刻を中心に、とても緻密でリアルで生活感に溢れた彫刻作品を作ってきた人なのですが、20年ほど前に網膜色素変性症という目の病気を病気を発症し、徐々に視覚を失い、現在は全盲なんです。見ることが命の美術の世界で、失明してしまうのは美術作家としては致命的な痛手と思われるかもしれません。ところが三輪代表は失明しても創作意欲を失わず、手の触覚だけを頼りに、触ることで鑑賞する彫刻という新しい表現に精力的に取り組み始めました。触って鑑賞する経験をお持ちの方はまだまだ少ないと思います。ヨーロッパでは、イタリアにオメロ触覚美術館があり、触れることの豊かさを発信しています(今三輪代表も参加している群馬県立館林美術館のヒューマン・ビーイング展でこの美術館を紹介する映画の上映会があります→映画「手でふれてみる世界」上映会&トーク)。日本でも最近、美術館を中心に視覚障害の人との対話型鑑賞(白鳥建二さんが有名ですね。映画にもなりました。→『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』)の試みがなされたり、障害を持った人たちに開かれたユニバーサルミュージアムという考え方が出てきたりしていますが、まだまだ多くの人たちに知られていないのが現状です。「みんなとつながる上毛かるた」は、こういった試みの一つでもあり、またそれ自体がアート作品でもあり、かつ遊ぶための道具でもあり、また障害のあるなしを越えて様々な人がお互いにこれを触りながら対話するためのコミュニケーション・ツールでもあるんです。長くなってしまったので、今日はこれまで。続きはまた明日!