さて、気がつけばイベント本番まであと5日となりました。我々としても初めての試みなのでドキドキしていますが、それ以上にワクワクしています。思えば、今回の企画の発端となった美深白樺ブルワリーでのビールづくりは、大変に貴重な体験でした。クラフトビールに少しは詳しくなったつもりでいたものの、醸造の初動に一通り立ち会わせていただいたことで、これがいかに繊細な職人技の集積なのかを、肌身で実感することができました。もちろん餅は餅屋ですから、飲み手は気軽にビールを味わえばいいですし、売り手は真摯に美味しいビールを発信すれば、それでいいのだと思います。しかし、醸造の現場を知ったことで、クラフトビールがいっそう尊いものに感じられるようになったのもまた事実。当日はそんな尊い職人(ブルワー)さんたちが北参道に集まります。この贅沢をぜひ、ご来場の皆さんとビールを酌み交わしながら分かち合いたいものですね。
私たちには、ビールは“陽”の酒である、という持論があります。たとえば、何か嫌なことがあってやけ酒を煽る際、キンキンに冷えた生ジョッキを選ぶ人はいませんよね? 自暴自棄な人が選ぶのはハードリカーと相場が決まっています。それに対してビールは、誰かとワイワイ盛り上がりたい時にうってつけの酒。「ビビビ。」はまさにその、“ワイワイ”の舞台を作りたいとの想いから始まったお店です。ここへ来ればいろんな人に出会え、交流できることはもちろん、誰かがおもむろに言い出したアイデアから、思いがけず楽しいことに発展する。そんな場所でありたいと願っています。今回のイベントもまさに、酒の席で「こんなことがやりたいんだよね」という雑談から始まったプロジェクトでした。それがこうして実現に向かったのは、このプロジェクトがビールをガソリンに推進力を得たからでしょう。ちなみに写真は、当店のロゴ入り豆腐です。スタッフの1人が「3Dプリンタを使って、こんなメニューが作れますよ」と発想してくれたもの。こういうユニークなことを思いつき、実際に手を動かく人材がいるのが「ビビビ。」の面白いところ、と自負しています。今回のイベントも、多くの人々が語らい、そこから新しい企画やアイデアが生まれる場になれば最高ですね。
「ビビビ。」というネーミングは、2人のオーナーが開業前に「あれもでない」「これでもない」と熟考を重ねた末にたどり着いたものです。「ビ」はもちろんビールの「ビ」。そこに気泡を思わせる「。」を添えてみました。また、「私たちがお届けする各地の美味しいビールと、その背景の物語にビビビッと来てほしい」という願いがこの店名には込められています。昨秋のオープン以来、 物語重視のセレクトを続けてきた賜物か、他のどのビアバーとも違う独特のラインナップだとお褒め(?)の言葉をいただく機会が増えてきました。当店としてはとくに奇をてらったつもりはないのですが、日頃から意識しているのは、流行っているスタイルや人気のブルワリーを優先的にタップに繋ぐことはしない、ということです。なぜなら、つくり手と背景の物語さえ伝われば、巷の知名度とは無関係に美味しいビールには必ず日が当たると信じているからです。まもなく、国内のマイクロブルワリーは800社を超えます(おそらくは夏前に)。まだ見ぬ優れたつくり手、興味深いエピソードを携えたブルワリーが次々に登場するはずで、「ビビビ。」はそれらを皆さんにお届けするDJのような役割でありたいと思っています。位置づけとして今回のイベントは、そのリアルなライブイベントの第一弾ですね。
せっかく北海道・美深町まで行ってビールを仕込むのですから、完成の暁には何かイベントめいたことをやりたい。そんなイメージは晩秋の頃からありました。といっても、「ビビビ。」はわずか8坪の小さな店舗ですから、あまり大々的なことはできません。より多くの方にお披露目するなら、外に飛び出さざるを得ないわけです。店舗がある代官山界隈には、いくつかイベント利用できそうなスペース、施設があり、「あの場所を借りればビアガーデンができるんじゃないか」、「タワマンの一角でビールをPRすれば、話題になるのでは?」などなど、スタッフの間でいろんなアイデアが浮かんでは消えました。そんな矢先に、「ビビビ。」スタッフの1人のコネクションからご縁を得たのが、今回お借りするJINNAN HOUSEさんでした。急きょ下見に向かったのが12月半ばのことで、ここからはトントン拍子。スタッフから有志を募って実行委員会を編成し、それぞれの得意分野を生かしながら事を進めています。また、当日出店していただく4社のブルワリーにも助言を仰ぎながら、ビアフェス運営という不慣れなプロジェクトにせっせと邁進しています。おそらく、たくさん不備もあるでしょう。場合によってはご不便、ご迷惑をおかけしてしまう方もいるかもしれません。それでも、一つ一つのタスクと真摯に向き合いながら、当日まで準備に全力を尽くします。そして暗中模索の日々ながらも、少しずつイベントの全体像が固まってきました。きっと楽しい一夜になると、いまは確信しています。
私たちが東京・代官山に「ビビビ。」をオープンしたのは、2023年9月29日のことでした。ビールと一緒につくり手の物語をお届けするというコンセプトに加え、10あるタップはすべて、直接お会いして背景をお聞きしたことのあるブルワリーに限るのが、今のところの「ビビビ。」 のスタンス。後者の“直接話を聞いたブルワリーに限る”という方針は、実は開業前から決めていたわけではありません。単に、各ブルワリーの物語をお伝えしようとすると、自ずとじっくり腰を据えてお話しできたブルワリーに限られてしまうという、必然によって生まれたルールです。しかし、これは正解でした。直接取材を行うことで独自のネットワークが構築され、既存の販路に頼らない商品調達が可能になり、結果的に他のビアバーとはまるで異なるユニークなタップリストが実現したからです。おかげでオープン当初から、「◯◯のビールが繋がっていると聞いたので来ました」と、はるばる遠方からやって来るクラフトビールファンの方が後を絶ちません。タップリストを見たお客様に、「初めて飲むブルワリーばかりです」と言ってもらえるのは、我々にとって無常の喜びです。そして、つくり手との繋がりを大切にしてきたからこそ生まれのが、今回のイベントです。ビール業界においてまだ何者でもない我々に、こうして趣旨に賛同し、協力してくれるブルワーさんの存在は、かけがえのない財産だと痛感しています。※写真は開業直前に訪れた、長野県・青木村のNobara Homestead Breweryさん