昨年末、夫を白血病で亡くしました。当時住んでいた広島での9か月にわたる闘病生活の末に訪れた別れは、私と4人の子供たちの生活を一変させました。夫が営んでいた牡蠣養殖業を畳むことを決断し、工場や船、バイクなどの資産を処分する過程で、私は自分の無知さや人間関係の厳しさと向き合わざるを得ませんでした。
夫の病が判明したのは、牡蠣の出荷がピークを迎える繁忙期でした。そのとき私は、夫の看病、子供たちの受験対応、事業の維持と処分という複数の課題を一度に抱え込むことになりました。漁師仲間が手伝ってくれる一方で、実際には利益のある部分を持ち去られるという心ない行動も目にしました。その経験を通じて、「事業を終わらせよう」と決意するに至ったのです。
夫が亡くなった後、最初に取り組んだのは船と工場の処分でした。しかし、船の売却手続きは予想以上に複雑で、別の県の買い手との交渉では何度もミスがありました。漁連の協力を得ながら何度も相談を重ね、ようやく移動の許可が下りたときには、安堵とともに自分の無力さを痛感しました。また、工場の解体では信頼していた相手に足元を見られ、高額な請求を受けるなど、知識不足が不利に働く悔しさを味わいました。
そんな困難の中でも、友人たちの存在が私の心の支えになりました。特に、広島で出会った東京出身の友人が、手続きの煩雑さや精神的な負担を一緒に乗り越えてくれました。その存在があったからこそ、私は事業を無事に畳み、家族とともに東京に引っ越し、新しい環境で新たな一歩を踏み出すことができました。この経験を通じて、「本当に信頼できる人」と「距離を置くべき人」がはっきりと分かるようになりました。
また、夫が終活を全く行っていなかったことも、私にとって大きな課題でした。夫は、生前に海での事故や震災を経験しており、「いつ死んでも後悔しない」という漁師特有の死生観を持っていました。そのため、契約や資産整理について何の準備もしていませんでした。その結果、夫の死後は通帳や契約書類を一つずつ調べ上げ、手続きを進める必要がありました。この過程で、「知らないことを放置するのは、残された家族にとって最大の負担になる」ということを痛感しました。
現在、私は自分の終活を進めています。銀行口座や保険、クレジットカードの情報を整理し、子供たちが困らないように準備を進めています。また、まだ若い子供たちが一人で手続きを進めるのは難しいと考え、もし私が亡くなった際には信頼できる伴走者を探しておきたいと考えています。
夫の死は私に多くの悲しみをもたらしましたが、それ以上に多くの学びも与えてくれました。終活とは、自分のためだけでなく、家族の未来を守るための準備でもある――そう確信しています。この経験から得た「知ることの大切さ」を、これからも多くの人に伝えていきたいと思っています。