第6回:余剰糸に宿る新たな命:サステナブルと機能性が生む「納得の価値」――はじめに日光商事の川村です。前回は田中社長の縫製にかける圧倒的な矜持を伺いました。第2回となる今回は、最高級のカシミヤやヤクの糸が、わずかな端数ゆえに廃棄されてしまうアパレル業界の現実に向き合い、田中メリヤス産業様が仕掛けるサステナブルな挑戦と、それを支える保管の知恵に迫ります。なぜ今、余剰糸を製品化するのか川村(日光商事):今回のクラウドファンディングプロジェクトでは、あえて最高級素材の「余剰糸(残糸)」に焦点を当てていますね。田中(田中メリヤス産業):理由は大きく二つあります。一つは、カシミヤやヤクといった素晴らしい天然素材を、わずかな端数だからという理由だけで廃棄したくない、もったいないという職人としての良心です。もう一つは、こうした背景を知ってもらうことで、生活者の方に「背景や素材から選ぶ」という上質な体験を届けたいからです。川村:どんなに良い素材や技術でも、知られる機会が減ると技術そのものが産地から廃れてしまいます。それを「今」の時代に合わせた形に整えて届け直す。これは今回のクラファンの核心部分でもあります。「正直さ」という職人のこだわり田中:ただ、私たちは「カシミヤだから、ヤクだから最高ですよ」と綺麗事だけを言うつもりはありません。極上のニットには必ずデメリット……例えば、繊細だからこそ摩擦に弱かったり、静電気でホコリを吸いやすかったり、虫食いや湿気に弱いという側面があります。それを正直に伝えた上で、どうすれば長く愛用できるかをセットで提案したいんです。川村:そこで、私たちの「呼吸するビニロン袋」の出番というわけですね。田中:そうです。デリケートなニットの大敵である静電気を抑え、結露を防いで清潔に保管できるビニロン袋。この「守る道具」が最初からセットであるからこそ、私たちは自信を持って最高級のニットを皆様にお届けすることができます。ーーおわりに 高級糸の余りを大切に活かす精神と、糸の柔らかさを殺さない色の選択、そして計算し尽くされた編み方と洗い。すべてが合わさって、あの極上の「ぬめり感」と「暖かさ」が生まれているのだと深く納得しました。 次回は、この「一生モノ」のニットを形にするための、途方もない職人の手仕事「リンキング」について語ります。
第5回:五代続く老舗ニット工場の矜持。「メイド・イン・ジャパン」が選ばれる理由はじめにーー こんにちは。日光商事 4代目社長の川村孝士です。 私たちが復活させようとしている「ビニロン袋」。これを衣類の「プロ仕様の保管袋」として、最高に相性の良いリターン品と共にお届けするクラウドファンディング。 今回ご紹介するのは、リターン品である「高級ヤク毛ニット」や「カシミヤマフラー」を製作していただく、明治時代創業の老舗ニットメーカー「田中メリヤス工業」の田中社長です。ファストファッション全盛の時代に、なぜ「メイド・イン・ジャパン」の一生モノが選ばれるのか。歴史を持つ企業の矜持に迫ります。川村孝士(以下、川村): 田中メリヤスさんは、創業からどのくらい立たれたのでしょうか。田中社長(以下、田中): はい、正確な年代は不明ですが、私のひいおじいさんが足利銘仙という織物をやっていて、そこから祖父の代で、着物の時代から洋服の時代に変わっていくのに合わせて横編み機を導入し、ニットの製造をやり始めたんです。私で五代目になりますね。川村: 最盛期はどれくらいの規模だったのでしょうか?田中: 40年くらい前が一番の最盛期で、売上も10億円規模ありました。NHKから取材が来たくらい、大きな工場を持ってやっていましたね。その後、バブルがはじけて問屋さんなどの取引先が減り、現在は工場を分散して、編み機をそれぞれの職人さんの家でやってもらう形に至っています。品質の高いニット見本川村: 現在、アパレルは海外生産が主流になっていますが、その中で「メイド・イン・ジャパン」の強みとは何でしょうか。田中: やはり、修理が効くことと、チェックが的確にできることです。海外生産だと、間違ったまま作られてそのまま納品されてしまう事故も多いんです。国内生産なら、素早く密なやり取りができるので、綺麗なものを確実にお届けできます。川村: なるほど。海外製と日本製で、品質や着心地にも違いは出ますか?田中: 品質の見た目はそんなに変わらないかもしれませんが、着ているうちにどんどん破けてしまったとか、そういう違いは出てくると思います。素材の良し悪しも、触ったり着たりすれば全然違うのがわかります。おわりにーー「素早く、丁寧に、綺麗に」。何でもやろうという柔軟な姿勢と、万が一ほつれても修理対応できるという確かな技術。これこそが、使い捨てではない「一生モノ」の安心感なのだと実感しました。 次回は、そんな田中社長が今回のリターン品として「カシミヤ」と「ヤク毛」を選んだ理由や、極上の着心地を生み出す職人の計算について伺います。
第4回 :対話を終えて。ビジネスの最前線に、120年の「知恵」を投資する――はじめに日光商事の川村です。初山社長との対話もいよいよ最後となりました。最終回は、私が今回のインタビューを通じて、一人のビジネスパーソンとして、そして一人の友人として感じた「本物の価値」についてお話しします。「カビ臭くない」という、何よりの証明川村(日光商事):今回、初山社長に色々と伺って一番印象に残ったのは、理屈ではなく「100年前の布の臭いが消えた」とか「自分の家のタオルがずっとカビ臭くない」といった、生活に根ざした実感の強さでした。初山(初山染工):そうですね。炭染は、触れて、使っていただくことで、その良さがわかります。理屈を並べるよりも、100年前の五服(ごふく)を炭で染め直した時にカビの臭いが嘘のように消えたとか、そういう事実が一番の答えだと思っています。川村:その「実感」こそが、私たちが今回提案しているビニロンとの組み合わせの核になっています。炭が湿気を吸い、ビニロンがその湿気を逃がす。初山社長が「呼吸のサイクル」とおっしゃったあの話、あれはまさに現代のビジネスツールに必要な「合理的」な回答だと感じました。これからの「ラグジュアリー」川村:今回の対話を経て、私の中で「贅沢」の定義が変わりました。初山さんは「大量生産品を使い捨てるのではなく、背景を知って長く使う」ことが大事だとおっしゃいましたよね。初山:ええ。今の世の中は、あまりにも「安さ」や「効率」に寄りすぎてしまった。でも、為替の影響や技術の空洞化が進む中で、これからは「自分たちの足元で作られた本物」を、手入れをしながら大切にするという考え方に戻っていくべきだと思っています。川村:初山社長が自ら桜の枝を焼いて炭にしているあのお話を聞いて、私は思いました。この炭染の袋を手に取ることは、単なる買い物ではない。初山社長のような職人が守ってきた「足利の誇り」という資産に、私たち自身が投資し、共に未来へ繋いでいくという行為なんだ、と。足利の未来を、あなたの日常に川村:初山社長、ありがとうございました。日光商事と初山染工。足利の二つの伝統が手を取り合い、自信を持ってお届けするプロダクトです。皆様のビジネスライフをアップデートし、共に足利の未来を創っていけることを願っています。初山社長との対談を終えて全4回にわたる初山社長とのインタビュー連載をお読みいただき、ありがとうございました。 単なる伝統の継承にとどまらない、時代に合わせた「ものづくりの真理」を感じていただけたなら幸いです。足利の誇りを詰め込んだ「炭染×ビニロン」のプロダクトを、ぜひ手元でその価値を実感してみてください。【予告:次回連載のご案内】 さて、次回からはインタビュー連載の第2弾として、明治の時代から代々この地で繊維の歴史を紡いできた老舗「田中メリヤス工業」の田中社長をお迎えします。希少な天然素材「ヤク」や「カシミヤ」を使い、35年のベテラン職人が一目一目を手作業で縫い合わせる「リンキング仕立て」の超絶技巧。「染め」の初山さんに続き、次は「編み」と「仕立て」の極致に迫ります。なぜ本物のニットは「一生モノ」と呼ばれるのか。そして、それを守るためにビニロン袋がなぜ必要なのか。服を愛する方へ贈る次回連載(全3回)も、ぜひご期待ください。
第3回:大量生産への静かな反乱。地域で完結する「真の循環」――はじめに日光商事の川村です。世の中では「SDGs」という言葉が飛び交っていますが、その本質は何でしょうか。第3回は、初山社長が抱く大量生産社会への危機感と、足利の資源を自ら焼いて「炭」にする、泥臭くも真実味のあるサステナブルの形に迫ります。「安いから海外へ」が失わせたもの川村(日光商事):初山社長は、以前から現在のものづくりの在り方に疑問を呈していらっしゃいますよね。初山(初山染工):ええ。特に平成5年(1993年)頃からの「産業の空洞化」は、日本の技術を根底から壊したと思っています。多くのメーカーが「中国で作れば安いから」と、利鞘(りざや)を稼ぐために生産拠点を海外へ移しました。その結果、足利のような産地の加工賃が叩かれ、技術を持つ職人が廃業に追い込まれたんです。川村:それは単なるコストの問題ではなく、文化の断絶でもありますね。初山:そうです。でも、為替が変わり、輸入コストが上がっている今こそ、自分たちの足元を見直すべきです。私は「地産地消」、つまり自分たちの土地で作り、自分たちの土地で消費するサイクルに戻るべきだと考えています。足利の「廃棄物」を、自ら焼いて炭にする川村:その「足元を見直す」という精神が、炭染の原料作りにも表れている。初山:炭染に使う炭は、自分で焼いています。例えば、市役所が街路樹として手入れした後に捨てられる桜の枝。あるいは、隣町の栃木県鹿沼市で麻農家から出る、本来は廃棄されるはずの麻の殻などを譲り受けています。炭染用の炭と桜の枝川村:地元の未利用資源を、職人自らが炭に変える。初山:人任せにはしたくないんです。自分で焼くからこそ、その炭がどんな性質を持ち、どんな色に染まるかがわかる。手間はかかりますが、これが私なりの「素材への責任」です。「最後は土に還る」のが、本物のSDGs川村:最近は「サステナブル」をうたうブランドが増えましたが、初山さんの考えはもっとシンプルです。初山:今のSDGsは、どこかポーズ(見せかけ)だけになっているように感じます。私たちがやっていることは、必要なものを、必要な人に届け、役割を終えたら土に還って肥料になる。これだけです。川村:天然素材の炭と布。それだけで完結しているからこそ、不純物がない。初山:炭染で余った染料や炭は、そのまま肥料として牧草地に撒くこともできます。人間が無理に手を加えたシステムではなく、自然のサイクルにものづくりを合わせる。それが、120年続いてきた私たちの「答え」なんです。おわりにーー効率やコストだけを追い求める大量生産の陰で、私たちが何を失ってきたのか。そして、見せかけではない「本当の循環」とは何か。初山社長の妥協のない姿勢は、これからのものづくりのあり方を深く問いかけています。次回は、初山社長インタビューの【最終回】です。初山社長との対談を通じて私が強く感じた「本物の価値」について、120年の歴史が教えてくれる、暮らしやビジネスを豊かにするための「知恵」について語り合います。
【第2回】素材の科学。炭染の「吸う力」とビニロンの「放つ力」――はじめに日光商事の川村です。前回は初山社長のルーツと江戸の技法について伺いました。第2回となる今回は、なぜ「炭染」がビジネスの道具を守るツールとして優れているのか。職人の経験が証明するその科学的な相性に迫ります。「炭染」は色ではない。付加される「機能」である。川村(日光商事):初山社長、世の中には多くの「染め」がありますが、初山さんの炭染は、単に布に色をつけるだけではないそうですね。初山(初山染工):ええ。うちは化学染料で下染めをして色を安定させるようなことはしません。天然の炭そのものを繊維に付着させるんです。そうすることで、炭が本来持っている抗菌や消臭、そして調湿といった力が布にそのまま宿るんですよ。川村:「布が炭の機能を纏う」ということですね。初山:その通りです。象徴的なエピソードがあります。以前、100年前の古布を持ち込まれた方がいて、何をやってもカビの臭いが取れないと困っていらした。それを炭で染め直してみたところ、嘘のように臭いが消えたんです。川村:100年越しの課題を炭が解決したと。初山:うちの家族も炭染のタオルを長年使っていますが、何年経ってもカビ臭くなりません。これは机上の計算ではなく、私たちの生活の中で歳月が証明してくれた確かな実感です。「湿気を吸う炭」と「逃がすビニロン」の化学反応川村:今回、その炭染の製品を私たちの「ビニロン」の袋に入れて販売するという企画ですが、初山さんはこの組み合わせをどう見ていますか?初山:実は、これ以上ない組み合わせだと思っています。炭染の商品は空気中の湿気をよく吸います。しかし、炭には遠赤外線効果があるため、密閉された普通の袋だと袋の中で結露(水滴)が溜まってしまうことがあるんです。川村:そこで、通気性と吸湿性に優れたビニロンの出番ですね。初山:そうなんです。ビニロンは湿気を外へ逃がしてくれる。炭が吸い取った余計な湿気を、ビニロンが外へ放り出す。この「呼吸のサイクル」が成立することで、中に収納した大切な衣類や道具を、最適な環境で守ることができるんです。ポリ袋(左)とビニロン(右)の通湿性実験(コップ内のお湯の湯気が通気するか) ビジネスの道具を「守る」ための合理的投資川村:30代、40代のビジネスパーソンにとって、勝負服であるスーツやシャツをどう維持するかは切実な問題です。初山:出張先や移動中、あるいはオフシーズンの保管。炭染とビニロンの組み合わせは、大切な道具のコンディションを整えるための「理にかなった選択」になるはずです。単なる伝統工芸品として飾るのではなく、日常を支えるタフな道具として使い倒してほしいですね。おわりに――炭染は、単なる色付けではなく「機能の付加」であり、それがビニロンと組み合わさることで最高の相乗効果を生む。お互いの強みが完璧に噛み合ったこの「理にかなった選択」を、皆様のクローゼットにお届けできることが非常に楽しみです。次回は、ポーズではない「本物のサステナビリティ」がテーマです。大量生産の時代に背を向け、自然のサイクルと共に歩んできた初山染工の「循環の美学」について詳しく伺います。




