『なぎのえき』癒しと郷愁の物語

孤独に戦い、感情を麻痺させている人へ。 「立派な大人」を演じ続けるのはもう終わりにしませんか。 そこは夕暮れの無人駅。佐賀県唐津市を舞台にした写真とオーディオドラマによる没入型アートです。都会のスピードに疲弊した大人が、いつでも日常から「途中下車」できる癒しのツールをお届けします。

現在の支援総額

38,000

1%

目標金額は2,500,000円

支援者数

7

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孤独に戦い、感情を麻痺させている人へ。 「立派な大人」を演じ続けるのはもう終わりにしませんか。 そこは夕暮れの無人駅。佐賀県唐津市を舞台にした写真とオーディオドラマによる没入型アートです。都会のスピードに疲弊した大人が、いつでも日常から「途中下車」できる癒しのツールをお届けします。

なぎの笑い声は、透き通った炭酸水みたいだ、といつも思う。

 シュワシュワと光を反射して弾けて、周りの空気まで明るく、甘く、美味しくしてしまう魔法。

琥珀色の西日が差し込む窓辺で、彼女がふわりと笑う。

その日、私たちは少し遠出して、ツタの絡まる路地裏にあるレトロな喫茶店に陣取っていた。 

使い込まれたエンジ色のベルベットのソファ。

柱時計の低い音が響く店内で、テーブルの真ん中にドカンと鎮座するのは、この店の名物『タワー・オブ・プリンアラモード』だった。

窓から差し込む午後の光が、カットグラスの中でキラキラと乱反射している。

「ねぇ、しおりん?……これ、本当にふたりで食べ切れるの?」

 なぎは琥珀色の瞳をまん丸にして、不安そうに私を見上げた。

その横顔の細い産毛までが、光に透けて金色の輪郭を描いている。

その無防備な顔があまりにも可愛くて、私はつい、頼れる保護者を気取ってふんぞり返った。

「任せて。私の胃袋はブラックホールだから。なぎは好きなフルーツだけ食べなよ」

そう言いながら、私は一番上に乗った、宝石のように艶やかな『さくらんぼ』を、スマートにスプーンですくい上げ……なぎのお皿に乗せてあげようとした。

……が、ツルッ。

それはまるで、スローモーションのようだった。

赤いさくらんぼは無情にも銀色のスプーンから滑り落ち、純白の生クリームの雪山を鮮やかに滑落。そのままテーブルをポーンと軽快にバウンドして、私のグラスの、深いエメラルドグリーンのメロンソーダに向かって「ぽちゃんっ!」と美しいダイブを決めた。

数秒の沈黙。カラン、と氷が溶ける音が鳴る。

 緑色の甘い水底で、赤いさくらんぼがシュワシュワと細かい銀色の泡を纏っている。

「……メロンソーダ・チェリー添えの完成です」

 私が大真面目な顔でそう言うと、なぎはピタッと動きを止め、肩を震わせ、次の瞬間、こらえきれないように吹き出した。

「あはははっ! なにそれ、しおりん、奇跡の軌道すぎる!」

お腹を抱えて笑うなぎ。

窓越しの陽光が彼女の髪をきらきらと照らし、涙目になりながら笑い転げるその屈託のない笑顔を見ていると、さくらんぼを落とした私の恥ずかしさなんて、一瞬で光の中へ溶けて消えてしまった。

「笑いすぎ! 私の華麗なマジックなんだからね!」

 「もう、お腹痛い……っ」

結局ふたりで、プリンアラモードの甘い山が溶けて崩れるのも構わず、ただただ、しばらく笑い転げた。

なぎの、この無防備で楽しそうな笑顔が大好きだった。

 甘い匂いに包まれて、他愛のないことで笑い合って

。永遠なんてないと知っているのに、ずっと、ずっと、この黄金色の時間が続けばいいのにと願った。この温かくて甘く、キラキラと輝く日常こそが、私たちの「すべて」だと信じて疑わなかったのだ。

あんなにも優しくて、太陽みたいに眩しかった彼女が、やがてこの光あふれる世界をすべて投げ打って、あっちの暗闇の「駅」へと駆け出していくことになるなんて。

メロンソーダの泡が弾けるようなこの時の私たちは、まだ先の運命を何も知らずに、ただ、並んで笑い合っていた。


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