
https://camp-fire.jp/projects/959373/view/activities/864281#main
「あぁぁぁああぁあぁっ!!!」
私はベッドの上で、お気に入りのサメの抱き枕に顔を全力で押し付けながら声にならない絶叫を上げた。 そのままドタバタと両足をばたつかせ、ベッドの右端から左端へと猛スピードでゴロゴロ転げ回る。勢い余ってドンッ!と床に落ちたが、痛みよりも恥ずかしさが圧倒的に勝っていて、私はフローリングに仰向けになったまま天井を虚ろに見つめた。
「朝チュンとか、ライトノベルでしか読んだことなかったー! ……って、チュンじゃないわっ!」
窓の外から聞こえてきたのは、爽やかな小鳥のさえずり
私、何やってんだろ。 いや、本当に、何やってんだろ。
昨夜の記憶が、高画質・フルカラー・立体音響で脳内に再生される。
なぎの『せんせー、帰ってないの?』という能天気な声。 ガチャガチャと鍵を探す音。 石像のように固まる彼。
普通なら、あそこで「やばい! 隠れて!」とパニックになって服をかき集める場面だ。百歩譲って、息を殺して震えるのが正解だろう。 それなのに昨日の私は、なぜか「彼に馬乗りになったまま、両手で彼の耳を塞ぎ、『もっと……』と囁く」という、深夜のサイコサスペンスドラマの犯人のような奇行に走ってしまったのだ。
「……っはぁぁ、死にたい……」
両手で顔を覆い、床の上を芋虫のように這いずる。
あの時の私は、間違いなくどうかしていた。
なぎの気配を感じた瞬間、頭の中で『絶対に、誰にも奪われたくない』というアラートがけたたましく鳴り響き、理性が完全にショートしたのだ。
結果として発現したのが、あの「外部の音を物理的に遮断する強烈な独占」である。
字面だけ見れば、なんかちょっと猟奇的で愛が重いヒロインに見えなくもない。 でも、現実問題として彼の立場になって考えてほしい。しかも物理で防ぐとかどうかしてるっ!
めちゃくちゃ怖かったよね!? 「えっ!?」って言ってたよね!? そりゃそうだ。
玄関の外に彼女(なぎ)がいる絶体絶命のピンチに、上の女が暗い目をして両耳を塞いできたら恐怖でしかない。完全にホラーだ。私、井戸から出できたの?
「というか、なんでチェーンかけてたの私! ファインプレーすぎるでしょ過去の私!」
もしあの時、チェーンがかかっていなくてドアが開いていたらと思うと、一瞬で血の気が引く。 結局なぎは「あれー? 鍵忘れた? まっ、いっか! またねー!」と、驚くほどあっさりと帰っていった。(彼女のそういう底抜けの抜けた明るさに、何度救われ、何度苛立ったことか)
なぎの足音が遠ざかった後、彼とどんな顔をしてたのか、行為を続けたのか、実はあまり記憶がない。
ただ、静寂が戻った部屋で、私の両手が彼の耳を塞いだままだったことに気づき、
「あ、ごめん」
と素に戻って手を離した時の、あの尋常じゃない気まずさだけは鮮明に覚えている。
「あーもう! 次どんな顔して会えばいいの!」
というか、キッチンで朝ごはんを作ってくれている。スーパーダーリンかっ!
私、サイコキャラだよー。
私は床から跳ね起きると、再びベッドにダイブし、枕をボコボコに殴りつけた。
シーツがくしゃくしゃになり、息が上がる。
でも。 ふと、動きを止める。
彼を塞いだ私の両手。あの時、確かに彼の体温が私の中にあった。
彼を独り占めにしたという、暗く甘い背徳感と、あの時の彼の戸惑った顔。
「…………悪くは、なかった、かも」
誰もいない部屋でポツリと呟いた途端、顔から火が出るほど赤くなるのがわかった。
私は再びサメの抱き枕を拾い上げ、顔を埋めて、今日何度目かわからない静かな絶叫を上げたのだった。



