【第2弾】皇室献上米の里・脇山を、どぶろくる。 土地の違いを、酒の違いに。

Cultivaが造るのは、米、水、気候、人の営みを映す鏡のような酒。第二弾となる今回は、脇山という土地を丸ごと醸します。土地の違いが米の違いを生み、米の違いが酒の違いを生むのなら。このどぶろくには、脇山という土地そのものの味が宿るはずです。

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Cultivaが造るのは、米、水、気候、人の営みを映す鏡のような酒。第二弾となる今回は、脇山という土地を丸ごと醸します。土地の違いが米の違いを生み、米の違いが酒の違いを生むのなら。このどぶろくには、脇山という土地そのものの味が宿るはずです。

みなさま、こんにちは。Cultiva代表の副田大介です。

前回は、Cultivaは「テロワール」をどう考えるのかについて書きました。

「この土地だから、この味になる」と最初から決めるのではなく、お酒を比較し、酒に現れた違いから、その背景にある土地の土壌や品種、農家の栽培方法へと遡っていく。

私にとってテロワールとは、絶対化するものではなく、比較し、相対化することによって見えてくるものです。

では、土地によって生まれる違いを、どうすれば実際の酒の違いとして表現できるのでしょうか。

つまり、「土着性を酒にどう表現するか」

これは、私が原料の研究を続け、Cultivaという醸造所をやっている根底にある問いでもあります。


土地の違いを、「見える違い」にする

前回も紹介した『テロワール ワインと茶をめぐる歴史・空間・流通』[1]には、こんな記述があります。

「テロワールの基盤となっているのは、あくまで地理的領域のなかで捉えられる地味な特徴であり、その価値である。」

また、テロワールが顕著に現れる場面について、

「多様な変化を伴う小さな領域に独立して形成されてきたような生産の場」

に魅力があり、

「目にみえるものとしての価値」

として現れる、と述べられています。[1]


私はこれをヒントに、テロワールを考えるための要素を、「領域性」「変化性」「可視化」の三つに整理しました。

・土地が違えば、土壌、水、気候、微生物、そして農家の栽培方法も違う。【領域性】

・その多様性が原料に何らかの変化をもたらし、【変化性】

・最終的に製品の違いとして感じられる。【可視化】

そこまでつながって、初めてテロワールを酒の中に表現できるのではないかと思っています。


日本酒では、土地の違いがそのまま酒にはならない

ただ、日本酒には原料特性上、テロワールを表現する難しさがあります(以前の活動報告でも触れました)。

ワインの原料であるぶどうには、もともと糖や酸があり、特徴的な香りや、そのもとになる成分があります。

一方、米にもタンパク質やデンプンの性質、ミネラルなどの違いはありますが、それらがそのまま完成した酒の香りや味になるわけではありません。


これについて、佐藤淳氏は『國酒の地域経済学』[2]の中で、次のように述べています。

「日本酒は米以外にも水や微生物が品質を規定する。果実を原料とするワインは原料の特性が直接反映される。他方、風味に乏しい穀物を利用する日本酒は水や微生物の関与が大きい。特に影響が大きいのは、麹菌や酵母、乳酸菌といった微生物である。」

さらに、

「地域の米の利用や表示に加えて、水の硬度や地域微生物の利用や表示が求められる。特に微生物をテロワールの要素としてクローズアップすることには合理性がある。」

としています。[2]

つまり、佐藤氏は、日本酒のテロワールを米だけに求めるのではなく、水や微生物まで含めて捉える必要があると考えています。

とりわけ、原料そのものの風味が比較的穏やかな米を使う日本酒では、麹菌や酵母、乳酸菌といった微生物が酒質形成に大きく関わる。

だからこそ、地域に存在する微生物を酒造りに取り込み、その土地ならではの風味として表現することにも合理性がある、という考え方です。


日本酒は、米に麹菌を生やして米麹をつくり、麹の酵素によって米を分解し、さらに乳酸菌や酵母など、複数の微生物が関与する発酵過程を経て酒になります。

佐藤氏の考え方と同様、私も、この複雑な微生物系こそ、日本酒のアイデンティティの一つだと思っています。

そして、土地によって米に刻まれた小さな違いを、この複雑な醸造系によって引き出し、人が感じられる酒の違いへ変換できるのではないか

これが、「土着性を酒にどう表現するか」という問いに対する、今の私なりの仮説です。


ただし、この複雑さは両刃の剣でもあります。

米を大きく磨けば、タンパク質など米がもともと持っていた成分は減っていく。

特徴的な吟醸香を多くつくる酵母を使えば、原料の違いよりも酵母が生み出す香りが酒の印象を強く決めることもあります。

つまり、日本酒の醸造技術は、原料の違いを引き出すことも、見えにくくすることもできる

だから私がやりたいのは、米の特徴を捉え、それをできるだけ消さずに引き出し、人が感じられる酒の違いへ変換すること。

ここに「土着性を酒にどう表現するか」という難しさがあります。


米の違いは、醸造の中でどう現れるのか

面白いのは、米と微生物の相互作用です。

例えば、原料米のタンパク質組成は品種によって異なり、グルテリンが多く、プロラミンやグロブリンが少ない原料米では、麹菌によるα-アミラーゼやグルコアミラーゼの生産量が多くなることが報告されています。[3]

つまり、米が違えば、そこに生える麹菌の働きまで変わり得るということです。


さらに、酒類総合研究所の矢澤らは、山田錦と日本晴、異なる精米歩合、異なる酵母を組み合わせて清酒を造り、その代謝物を解析しています。[4]その結果、掛米だけの品種を変えた場合よりも、麹米にもその品種を使用した場合の方が、品種差が酒の代謝物に大きく現れました。

品種の影響を受けたピーク数は、掛米のみを変えた条件では220だったのに対し、麹米も変えた条件では508に増えています。研究では、米品種の違いが麹の酵素活性などに影響し、それが酒の代謝物に大きく影響した可能性が示されています。[4]

さらに、品種、精米歩合、酵母といった要因は独立して働くだけではなく、一部のアミノ酸では複数の条件の組み合わせによる相乗的な影響も確認されています。[4]

私はここが非常に面白いと思っています。米の品種差がそのまま酒に移るのではなく、米の違いに微生物が応答し、それによって酒の違いが生まれる。


生酛でも、麹由来の酸性プロテアーゼが限られた酸性条件下で米タンパク質に作用し、生酛に特徴的なペプチドが生じることが報告されています。[5]

つまり、どのような酛を経るかによっても、米の特徴の「引き出し方」は変わり得ます。


米そのものだけではなく、米と多様な微生物との関係まで含めて考える。

これが、日本酒で原料を見る面白さなのだと思っています。


Cultivaの「酒米テロワール」

ここで、『國酒の地域経済学』の考え方とCultivaの考え方には、少し違いがあります。

佐藤氏は、地域の米に加えて、水や地域の微生物も品質を規定し、テロワールを構成する要素として捉えています。[2]


一方、Cultivaでは、あくまで中心に「米」を置きます。

品種という稲の遺伝的な多様性があり、その周囲には土壌、水、気候、微生物、農家の栽培がある。それらすべてが、その土地で育つ米を取り巻く環境です。

そして、その環境の中で米にどのような違いが生まれ、その違いが日本酒の複雑な醸造系を通して、どのような酒の違いとして現れるのかを見ていきたい。

また、比較、相対化によって、酒に現れた違いから、その背景にある土地の土壌や品種、農家の栽培方法へとその原因を遡っていく。

これが、Cultivaの考える「酒米テロワール」です。


今回、脇山で取り組む菩提酛も、この考え方の延長にあります。

菩提酛では、生米を水に浸して発酵させる過程で、乳酸菌をはじめとする多様な微生物が関与する酸性の「そやし水」をつくります。

通常の酒造りでは米を蒸すことで弱くなってしまう、米や栽培環境に由来する微生物と醸造とのつながりを、発酵環境へもう一度持ち込める可能性があります。


だから今回の研究では、土壌、米、そして発酵過程の微生物を調べます。

「脇山には特別な微生物群集がある」、「特別な米がある」と最初から結論づけるためではありません。

土地の違いは、米の違いになるのか。

米の違いは、酒の違いとして現れるのか。

そして比較、相対化の中で、その違いの原因を土地に遡ることができるのか。

ブランディングとして語られてきた土地の価値に、醸造と研究からロジックを積み重ねる。


「土着性を酒にどう表現するか」

まだ答えはありません。


今回の脇山米での菩提酛づくりと微生物解析も、この問いの答えを探すための一つの試みです。

この小さな試みが、将来、日本酒業界の発展や酒文化の醸成につながることを目指しています。

小さな一歩ですが、ぜひ、仲間に加わっていただけたら嬉しいです。


参考文献

1. 赤松加寿江・中川理 編『テロワール―ワインと茶をめぐる歴史・空間・流通』昭和堂、2023年。

2. 佐藤淳『國酒の地域経済学―伝統の現代化と地域の有意味化―』文眞堂、2021年。

3. 岩野君夫、中沢伸重、伊藤俊彦、高橋仁、上原泰樹、松永隆司「清酒麹の酵素活性に及ぼす原料米タンパク質組成の影響」『日本醸造協会誌』96巻12号、857–862、2001年。https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1988.96.857

4. Yazawa, H., Tokuoka, M., Kozato, H., Mori, Y., Umeo, M., Toyoura, R., Oda, K., Fukuda, H., & Iwashita, K. “Investigation of relationship between sake-making parameters and sake metabolites using a newly developed sake metabolome analysis method.” Journal of Bioscience and Bioengineering, 128(2), 183–190, 2019. https://doi.org/10.1016/j.jbiosc.2019.01.013

5. Iemura, Y., Takahashi, T., Yamada, T., Furukawa, K., & Hara, S. “Properties of TCA-insoluble peptides in Kimoto (traditional seed mash for sake brewing) and conditions for liberation of the peptides from rice protein.” Journal of Bioscience and Bioengineering, 88(5), 531–535, 1999. https://doi.org/10.1016/S1389-1723(00)87671-9

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