GWこんばんは。GWは皆様いかがお過ごしでしょうか。なかなか出かけにくい雰囲気ですが、こんな時だからこそ地元を散策するのも良いかもしれませんね。平井集落も小さな集落ですが、まだまだ通ったことない道や知らない場所が沢山あり、修士在学中に全部見て回れるか不安なほどです。今年も気合を入れて歩き回ろうと思います。お茶摘みGWの前後に和歌山研究林では、お茶摘みをします。平井の集落内や、平井から少し離れた大川という集落にある苗畑の脇にお茶の木が植わっていて、研究林スタッフ総出で行う行事です。今日も平井の集落内の木で収穫作業がありました。お茶摘み風景お茶摘みというと、静岡や鹿児島のお茶畑を想像してしまいますが、平井ではまばらに植わっていました。背丈も高く葉も大量なので、なかなか時間のかかる仕事です。お茶摘み風景今日は天気が良すぎたので、野外での長時間労働には少し辛かったかもしれませんが、木々の新緑が良く映えていました。和歌山研究林周辺は常緑樹がメインの森林なので、春になっても冬と変わらないのではないかなあと思っていましたが、まばらに生える落葉樹や常緑樹の新葉が様々な緑色で山を彩るので、思っていた以上に春を感じられます。こういった変化に気付けるのも、山の中ならではかもしれません。乾燥中摘んできたお茶は、蒸したり焙煎したり揉んだりしたのち、乾燥させます。実習などで学生が泊まる大部屋は、この時期乾燥中の葉っぱが置かれ、お茶の香りがどことなく漂っていて良い匂いです。お茶の製造過程など、和歌山研究林に来るまで見たことがありませんでしたが、手がかかっていることを実感しました。やはり何でも製造過程に触れる経験というものは大事なのかもしれませんね。昨年度調査のプチ報告さて、春になり樹木の生長も盛んになってくるころなので、いよいよ実験も本格的に始動していきます。そこで今回は、研究の流れを知って頂くために、昨年度調査の一部を報告しようと思います。研究の大きなテーマは当ホームページに書かれているように、天然更新を活用した奥地人工林の広葉樹林化です。そこで、広葉樹が侵入しやすい環境のパターンを認識するため、昨年秋に和歌山研究林内の40カ所で人工林に既に侵入している広葉樹や天然林内の広葉樹の調査を行いました。調査風景ここで皆様に質問ですが、同じ面積であれば次の場所のうち、どの場所で広葉樹の個体数が多くなると思いますか?①天然林内(人工林との境目から30m地点)②人工林の5m地点(天然林との境目から5m地点)③人工林の30m地点(天然林との境目から30m地点)※人工林はスギ・ヒノキ人工林。普通に考えると、天然林に広葉樹があるのだから種子の量も天然林内が最も多くなり、離れるにしたがって個体数は減少すると思いますよね。僕も当初はそのように予測していました。それでは結果を見ていきましょう。こちらが結果となります。見て頂くと分かる通り、なんと人工林の方が圧倒的に広葉樹の平均個体数が多かったのです。人工林内の地点間には有意差は見られなかったものの、人工林と天然林の間には有意差が生じており、その差が大きく開いていることが分かります。予想通りでないことに驚きつつも、もしかすると広葉樹林化に重要な要素が、この傾向のなかに隠されているのではないかと思い、さらに詳しくデータを解析してみました。すると、樹高についても面白い傾向があることが分かりました。それがこちらのグラフになります。このグラフはそれぞれの場所で、レベルごとに分けられた樹高区分に平均何個体存在したかを示したものです。これを見てみると、最も個体数の多かった人工林の5m地点では、非常に小さい個体が多く存在することが分かりました。一方で、樹高の高い100㎝以上の個体について見てみると、人工林の30mで多くなっていることが分かりました。さらに天然林は2m以上の木が最も多くなっていました。実際に平均樹高を比較してみると、人工林の5m地点は59.2㎝なのに対し、30m地点では81.4㎝と有意に高くなっており、天然林に至っては252.2㎝と、何らかの影響で差が生じていることが分かりました。これらの現象がなぜ生じたのかを調べるため、様々な環境要因(地温や光環境、傾斜など)との関係性を調べてみましたが、いまいち説明力の高い因数が見つかりませんでした。そこで似たような現象の報告がないか論文を探していたところ、個体レベルで似た事例があることを見つけました。ここから先は話が長くなってしまうので、次回以降に分けてお話ししたいと思います。皆さんもなぜ、このような結果となったのか理由を考えてみて下さい。因みに正解はまだ分からないので、何を考えても自由です。それでは、どうぞお楽しみに!
こんにちは。あっという間に桜前線も通過してしまい、早くも新緑がまぶしいこの頃ですがいかがお過ごしでしょうか?まだ暫く遠方への外出は難しいかもしれませんが、春は意外にも近くで見つけることが出来るかもしれません。花粉も収まってきたことですし、近所を散歩するのも良いかもしれませんね!冬眠から出てきたカエルさて今回は早速話題の方に入ってまいりたいと思います。今回のテーマは「木質バイオマス発電」です。既にご存じの内容も多いかもしれませんが、普段はあまり聞く機会のない問題点など、皆様にとって新たな発見があれば幸いです。どうぞお読みください!これからのエネルギーところで皆様はここ数年、「聞く機会が増えた」と感じる言葉はありますか?ご職業や専門分野、住んでいる地域によっても異なってくるかもしれませんね。ですがどの人も共通して 、「持続可能性」という言葉は聞く機会が増えたと感じているのではないでしょうか?2015年の国連サミットで2030年までの持続可能な開発のための目標(SDGs)が採択されてからは、その頻度もさらに増えているような気がしますね。SDGsの目標このSDGsには大きく17の目標があり、その内容は貧困やジェンダーといったものから、気候変動、産業の発展など多岐に渡っています。その中の一つ、7番目の目標に「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」というものがあり、クリーンエネルギー技術の開発が進められてきました。クリーンエネルギーとは温室効果ガスや大気汚染物質を放出しない、環境に配慮した方法で生産されたエネルギーのことで、太陽光発電や風力発電などは分かりやすい例です。そして、このクリーンエネルギーの一つに「木質バイオマス発電」が数えられています。木質バイオマス発電の考え方木質バイオマス発電とは、燃料に化石燃料を用いず、樹木由来の物質を燃料として燃やし、タービンを回して発電する方法です。木を燃やす際には当然、二酸化炭素が発生します。しかし、排出した炭素は植物が光合成により固定するので、差し引きゼロになるという理論によって、木質バイオマス発電がクリーンエネルギーに数えられています。また、太陽光発電や風力発電と異なり天候に左右されないことも注目されています。バイオマス発電の考え方燃料には木屑や廃材まで様々なものが利用されています。林業関連では、これまで使い道が無く捨てられていた枝葉や末端材などの林地残材や、間伐材等の有効利用法としても期待されています。実際に、林野庁によると、木質バイオマス発電所の増加に伴い、2017年にはエネルギーとして利用された間伐材・林地残材等の量が前年比で37%も増加しているそうです。間伐材による収入が見込めると、林業の中間収入が発生することになるので、林業の活性化につながる可能性があります。また、間伐の収益化によって適切な管理を促せる可能性もあります。このような点から、木質バイオマス発電は、単にクリーンエネルギーとしてだけではなく、林業活性化のきっかけとしても期待されているようです。和歌山研究林の木工場で発生したおがくず燃料の調達に課題このように二酸化炭素の排出量が実質0と考えられ、林業の活性化にも期待されている木質バイオマス発電ですが、一方でいくつか問題点が指摘されています。特に太陽光電池や風力発電と異なり、木質バイオマス発電には燃料費がかかるため、燃料の安定供給が課題となっています。ビジネスとして電気を販売するためには、販売価格を他の発電方法と同程度まで下げ、競争力を確保する必要があります。そのためには、燃料となる木質バイオマスを安く大量に買い集め、大量に発電しなくてはなりません。しかし、国内から生産される木質バイオマスは未だ安定供給ルートが確立されていません。そのうえ間伐材や林地残材は、立木が残った林内を搬出しなくてはならず作業効率は低いうえ、形が不揃いなので体積がかさばり搬出コストが高くついてしまいまい、外材に対し圧倒的に優位な立場を築けません。その結果やや高くても、大量に安定供給が可能な輸入チップやペレットが主燃料となってしまい、2018年時点での木質ペレットの自給率はおよそ2割まで低下してしまいました。 FIT制度この厳しい状況でも木質バイオマス発電所の事業が進められている背景にはFIT制度があります。FIT制度とは再生可能エネルギーを一定期間、一定の価格で買い取る制度です。経営の見通しを立てやすくすることで、技術開発中で生産コストの高い再生可能エネルギーを普及させることを目的としています。このFIT制度において、木質バイオマス発電による電力は、他の再生可能エネルギ―よりも比較的高い価格が設定されていました。 しかし、このFIT制度には適用期限があります。北海道立総合研究機構林産試験場の古俣寛隆氏らの研究 によると、国内の一般的な木質バイオマス発電所の多くは、FIT適用期間終了後、利益を上げるのが難しくなると予測されています。制度終了後、自立して電力ビジネスを行うためには、間伐材の安定供給のために郎網整備を進めたり熱利用の促進(後ほど説明致します)したりすることが重要になります。FIT制度他にも諸々の課題が…また、木質バイオマスの輸入依存はそもそもの「クリーンさ」も危うくしてしまいます。海外から原料を調達するには当然、船で輸送する必要があり、木質チップを燃やす際に発生する量以上の二酸化炭素を排出してしまいます。このようにサプライチェーン全体で環境影響評価を行うことを、ライフサイクルアセスメントと呼び表面的な評価にならないように注意が必要とされています。また、木質チップ生産者が環境に配慮した森林・林業経営を行っているのか否かも、注目すべき点です。第三者認証を進めていますが詐称が疑われるなど、運用が今一歩信頼しきれない状況で、トレーサビリティの確保が急がれています。ライフサイクルアセスメントの考え方カスケード利用バイオマス燃料に特化した森林施業が行われていることも、カスケード利用という観点から疑問の声が上がっています。カスケード利用とは、初めに資源を最も付加価値の高い状態で利用し、古くなったりやや品質が低い材は別の方法で利用していく、という考え方です。例えば木材ですと、切り出してきた木を付加価値の高いまま利用する方法として、建材や家具材などがあります。時間が経過し、それらの材が廃材になるとチップにして加熱圧縮し、パーティクルボードなどになります。それも使い古されると、木質バイオマスの燃料として利用されるという流れが、カスケード利用の観点では理想とされています。カスケード利用のイラストこの利用方法では、切った直後に木質バイオマス燃料として燃やしてしまうよりも、樹木が吸収固定した炭素を長期間維持できます。そのため、樹木の炭素貯蔵効果を最大限発揮させるためには不可欠な考え方です。ところが、大規模バイオマス発電所の需要に応えるため、バイオマス燃料に特化した森林経営が行われると、樹木が吸収した炭素を短期間で放出してしまうことになり、樹木の機能を活かしきれていません。そのため本来は、製材過程で発生するおがくずや建材の廃材、未利用だった間伐材など、既に下位のカスケードに位置する木質バイオマスを利用するのが理想的です。鍵は熱利用?さて問題点をつらつらと書いてきましたが、じゃあ木質バイオマス発電に未来は無いのかというとそうではありません。しかし、普及には「発電」だけでなく「熱利用」を改善する必要があります。バイオマス発電は本来エネルギー効率(投入したエネルギーに対し変換後に回収できるエネルギーの割合。バイオマス発電の場合バイオマスの持つカロリーに対し発電された電気エネルギーの割合。)が30%と低くなっています。一方で、ボイラー効率(燃料のエネルギーのうち水蒸気に変換された割合)は8割となっており、熱利用を進めることでバイオマス燃料の真価が発揮できるとされています。現在のバイオマス発電熱電併給どういうことかというと、現在は木質バイオマスを燃やすことで得られた水蒸気の全てを、発電タービンを回すために使ってしまっています。ところがそれではエネルギーのロスが大きく、エネルギー効率が落ちてしまいます。そこで、水蒸気の全てを発電に回すのではなく、水蒸気の持つ熱を木材の乾燥など他の用途で使うことで、全体としてエネルギー効率を上昇させることが出来るのです。このような方法を熱電併給(コージェネレーションシステム)と呼びます。熱電併給しかしながら、日本では国内FIT制度の仕組みが原因となり、この熱電併給が積極的に行われていません。日本のFIT制度は総合的なエネルギー効率ではなく、発電量に対して制度が適用されており、発生したエネルギーを全て発電に回した方が経営が良くなるためです。欧州では総合的なエネルギー効率に対して適応される制度があり、熱電併給が進んでいるので、日本は制度の見直しが必要かもしれません。今後、バイオマス燃料で熱の消費を賄うことには、脱炭素化を進めるうえで非常に重要になってきます。 国際的な自然エネルギー政策ネットワーク組織REN21が2018年に行った、エネルギーが最終的にどのような形で利用されたかを調べた調査では、全体の48%が熱分野で利用されていました(電力は20%)。つまり、エネルギーの脱炭素化を進めるには電気利用だけではなく、熱利用に関する脱炭素化も進める必要があります。そこで電力だけでは活かしきれないバイオマス燃料に活路が見いだされ、長期的に間伐材の需要が維持されれば、林業にとっても明るい話題になるかもしれませんね。長くなってしまいましたが、今回はこれで終わりです。最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに。参考資料・Renewables 2018 Global Status Report, REN21 ・古俣 寛隆, 石川 佳生, 柳田 高志, 久保山 裕史 2019 FIT調達価格の変動による木質バイオマス発電事業の経済性評価 ・日経 2018/12/11 バイオマス発電8割動かず 林業人手不足、燃料輸入頼み・日経BP 2020/8/26 稼働の6割、認定の9割が「輸入」燃料、「バイオマス白書2020」・日経BP 2020/9/30 FIPの制度設計スタート、「基準価格」はFITと同水準・日経XTEC 2019/10/18 「バイオマス発電はFITに合わない」、バイオマス産業社会ネットワーク・泊みゆき理事長に聞く・林野庁 平成29年度 森林・林業白書 第1部第IV章第3節木材利用の動向(4)木質バイオマスのエネルギー利用・林野庁 令和元年度 森林・林業白書・資源エネルギー庁 バイオマス白書2020 1. FIT制度におけるバイオマス発電の現状と経緯・資源エネルギー庁 バイオマス白書2020 2 森林バイオマスの持続可能性・経済産業省 資源エネルギー庁 ホームページ 固定価格買取制度 閲覧日2021年4月15日・林野庁 木質バイオマス発電事業の概要
リターンの発送木工品のリターンを選択された支援者の皆様には、返礼品が届いた頃だと思いますがいかがでしたでしょうか?「木の良い香りがした!」や「手触りが滑らか!」といった体験の中で、和歌山研究林の雰囲気を少しでも感じ取っていただければと思います!間伐作業終了!リターンの制作と同時に進めていた間伐作業ですが、3月中旬に無事終了致しました!急傾斜地が多く、思った方向に倒すセンスが問われるような立地で、スタッフの方が驚くようなスピードで進めてくださいました。下の写真は最後の一本を切り倒すところです。水平に歯を入れる様子など、緊張感が伝わってきてとてもカッコよく見えました。最後の一本を伐倒しているところとてもかっこよかったです!倒す方向をより正確に操作するためにロープを使っている様子が下の写真です。ロープを輪にして幹の上の方まで移動させるのですが、その様子もどこかスポーツのように見えます。間伐した場所を見てみると、今まで見えていなかった向いの山が見えるようになっていました。あの山では現在、地拵えと呼ばれる林業の施業が行われています。左:ロープを使って倒す方向を操作しているところ 右:間伐が終了したところ地拵え地へ移動僕の研究とは直接関係ありませんが、この日は地拵え地も見学させて頂きました。施業地にはモノレールで向かいます。このモノレールは急斜面の移動手段として、林業やミカン農家に重宝されているものです。他にも東京都檜原村では道路の付設が難しい集落への公共交通路として、住民用簡易モノレールが付設された例もあります。実習の際には研究林の見どころの一つにもなっています。実際に乗ってみると思っている以上の傾斜で、ちょっとしたジェットコースターよりは迫力がありました笑谷を挟んで向いの山にモノレールで移動(左)シカ対策用の網も運びます(右)モノレールに揺られること5分ほど、地拵え地につきました。地拵えとは、植林作業に向けて皆伐時に生じた枝条を整理する作業です。植林作業の安全性や効率を上昇させる目的のほか、段々を作ることで土壌流出を抑える目的で行われることもあります。この地拵え地も急傾斜地のため、伐採した枝葉を段々で置いて土壌の保全を図っているそうです。この場所は今後行われる実習で、植栽の体験を行うために利用されるとのことでした。地拵え地(画面下)左の写真は既に地拵えを終え、僕が大学4年生のときに実習で植林した場所です。当時はこんな急傾斜地をひょいひょい歩き回る職員さんを超人のように思っていましたが、今では「登れない斜面は無い」と洗脳されてしまいました。それでも職員さんのスピードに付いていくのは大変ですが、慣れとは恐ろしいものですね…地拵え中の区域(左)と向かいの間伐地のある山(右)栃木で発生した山火事さて、前置きがかなり長くなってしまいましたが、今回は先月栃木県足利市で発生した山火事についてご紹介したいと思います。県の調査によると、2~3月にかけて続いていたこの森林火災では、焼失面積は167ヘクタール(北大の札幌キャンパスおよそ2個分に相当する面積)で、被害額は3200万円に上ったそうです。避難勧告も出されてしまった今回の山火事ですが、日本では普段どれくらい山火事が起きているのでしょうか?林野庁によると平成27年から令和元年までの5年間では、年平均1234件、661haの延焼、3億5,700万円の損失が発生しているそうです。これを一日の平均にすると、毎日どこかで3件の山火事が発生しており、2haが燃え100万円の損失が発生していることになります。予想よりも多かったのではないでしょうか?これでも昭和49年以降長期的に山火事は減少傾向にあります。昭和49年には年間8000件を超す山火事が発生しており、1日におよそ22件も発生していたといいます。このように毎日どこかしらで発生している山火事ですが、出火原因はどんなものが多いのでしょうか?足利市の山火事は30日の市の発表で、たばこが原因と推察されていましたが、全国的に見ても人為的な出火原因は非常に高い割合を占めています。林野庁のまとめでは過去5年間の出火原因の60%以上をたき火や火の不始末などの人為的要因が占めていました。このように発生する山火事は、確かに近隣の住民への悪影響を及ぼし、資産としての山林の価値を下げてしまうため防ぐ必要があります。また、気候変動の影響で異常気象が続けば、昨年オーストラリアで発生したような大規模な森林火災が多発し、それがさらに温室効果ガスとなり悪循環へ陥るといったことが言われています。そのようなイメージがあるため、我々は山火事に対して負のイメージを持ちがちです。ところがそんなイメージとは裏腹に、世界では山火事を利用した生態系の保全が行われている例があると言います。一体どのような場所なのでしょうか?山火事を利用した森林管理山火事を利用した生態系の保全が行われているのは、アメリカのイエローストーン国立公園です。火山地帯やクマ、バイソンといった野生動物が人気の観光地で、東京都の4倍もの面積があります。この国立公園では1970年代ごろからアメリカ公園局(NPS)が、山火事を自然に発生する事象として受け入れ、消火活動などで人間が過度に干渉しない保全方法を取り入れていました。山火事のほとんどが人為的な今の日本に住んでいると想像しづらいかもしれませんが、この地域は元来、落雷などによって山火事が頻繁に自然発生する地域だったのです。そのため、普通の環境に適した植物だけではなく、「山火事のある環境」に適した植物が定着していました。例えば、山火事では土壌の表面が高温になるので、比較的温度変化が少ない地下の根からの萌芽能力が強い種や、土壌中での種子の保存機能が高い種、樹皮の耐火性が高い種などがそれにあたります。ほかにも、普通の環境では他種との競争に勝てないような種が、「山火事」というイベントにより競争相手が排除されることで、生存が可能になるような種も存在します。また、植物に限らず、焼けて立ち枯れの状態で残った木々は、野鳥や小動物の住処にもなります。そのような種を考慮すると、山火事は意外にも、生物多様性や生態系の保全に寄与していることが伺えます。このように、山火事も自然の維持・保全に欠かせない要素だという考えを取り入れたのが、イエローストーン国立公園の保全方法です。日本でも?ここまでの話を聞いて、日本の野焼きを思い浮かべた方も多いかもしれません。実はご想像の通り、野焼きでも似たような例が報告されています。長野県で行われた実験により、野焼きを行うことでオオルリシジミという蝶の幼虫に寄生する蜂の発生を抑制していることが明らかになっており、計画的な火入れを利用した保全が注目されています。また、瀬戸内海の直島というところでは野生のツツジと山火事の関係が研究されています。この島は乾燥した気候のため山火事の頻発地帯となっており、周期的に島内では火事による撹乱が発生していました。その環境が野生のツツジの生息に適しており、貴重な大群が残っている場所として注目を集めています。濱本(2011)らは山火事の頻度や、山火事からの経過年数などと、開花時の景観に関係性があることを示しています(詳しく読みたい方はこちら)。森林火災は確かに、人間の生活に悪影響を及ぼしますが、視点を変えてみたり利用方法に注意すると、よりよい森との関係性を築いてくれるかもしれませんね。しかし、従来はあり得なかった規模の森林火災は、やはり生態系の劣化を招きます。そのため、メリットとデメリットを知ったうえでバランスの取れた対策を講じることが必要とされています。参考文献・山火事多発が示す悪循環 林業重視の森林政策、転機に 日経2020/3/9・豪森林火災、温暖化で将来は「当たり前」に=英研究チーム BBCNEWS 2020/1/16・林野庁ホームページ 山火事予防!! 林野庁 閲覧日2021年3月20日・【人類世の地球環境】山火事が保全するイエローストーンの大自然 キャノングローバル戦略研究所・濱本 菜央, 森本 淳子, 水本 絵夢, 森本 幸裕. 2011. 山火事の履歴が野生ツツジ類二種の開花景観に与える影響. 日本緑化工学会誌/37 巻 1 号.・オオルリシジミと野焼きの関係 日本自然保護協会 閲覧日2021年3月20日
支援者の皆様長らくお待たせいたしました!3月第二週より、リターンの発送を開始致しました!先週までに、壁掛けを選択された方への発送は完了しましたので、既に届いている方もいらっしゃるかもしれません。届きたての木の香りを楽しんでいただければと思います。届いていない方も、順次発送してまいりますので今しばらくお待ちいただけると幸いです。ささやかながら、おまけも付いているのでお楽しみに!リターン発送風景
花粉舞う季節だいぶ暖かい日が続くようになり、花粉のシーズンになってきました。ここ和歌山研究林も他地域と同様、スギ・ヒノキがせっせと飛ばしています。下の写真は道端にあったスギの枝を振った写真です。見事なまでに花粉が飛び出してきました。幸い、僕はそれほど花粉症が酷くないのですが、症状が重い人にとってはつらい季節かもしれません。スギ花粉 左の枝を振ったところ右のように白い花粉が飛び出てきました。 毎年、去年の~倍、…倍と留まるところを知らない花粉ですが、対策として無花粉または少花粉になるスギ・ヒノキの品種がいくつか開発されています。林野庁によると、全体のスギ苗生産量に対する少花粉スギの割合は、2007年時点で 2.2%だったのが、2018年には51.8%となっています。目標では2032年までに、この割合を70%にするようです。急激な数字の上昇を見ると、もはや国民病ともいえる花粉症に注目が集まっていることが伺えます。 しかし、苗木生産と植林面積は別なので、現在の人工林を無/少花粉スギ・ヒノキに植え替えるためにも、伐期に達した人工林の利用促進が必要です。また、一遍に山全体を植え替えることは、保全の観点から様々な問題が発生するので、まだ暫くは花粉症とつきあっていくことになるでしょう。折角の春なので、気持ちよく森を散策できる日が来ると良いですね!官舎横の梅国内林業への影響は? さて前回、南洋材の動向についてご紹介しました。では、日本がかつて依存していた南洋材が入手困難になった現在、その変化は国内林業にどのような影響を及ぼすのでしょうか?以前ご紹介したように、国内の林業は木材価格の低下から、長らく低迷期を迎えていました。その結果、国内では拡大造林期に植栽された針葉樹が利用されずに伐期を迎え、かつてないほど森林資源が蓄積しています。そこにきて外材の一部である南洋材がストップしたことは、むしろ外材が幅を利かせていた市場に国産材を売り込むチャンスかもしれません。ホームセンターでよく見る北米産のホワイトパイン(右下) また、人工林の利用が進むことは、パリ協定における温室効果ガスの削減目標達成に貢献することも考えられます。パリ協定では温室効果ガスの削減目標に対し、森林のCO₂固定機能を計上することができます。そこで日本政府は、パリ協定における温室効果ガスの削減目標(2030年までに2013年比26%減)のうち、2%を森林吸収量で確保することを計画しています。しかしそのためには今年から2030年にかけ、年間45万haの間伐と、地域材利用による伐採木材製品の蓄積が必要とされており、需要の創出が不可欠でした。このコンテキストでは、南洋材の供給停止は必ずしも悲観的なニュースではないでしょう。平井集落周辺でも、伐期を迎えた人工林の皆伐が進んでいる 実際に需要の創出として林野庁の中部森林管理局が昨年、新しい取り組みを始めています。そこでは、従来の大量生産を目的とした規格通りの材生産に対し、オーダーメイドの材生産を行うことで新規の需要を生み出しているそうです。良くも悪くも、「個」が尊重される現代においては、大衆受けよりも個人の嗜好性に沿ったサービスが求められる傾向があります。その流れからすると、林業においてもオーダーメードの材生産を行うことは潜在的需要を掘り起こすことになるかもしれませんね。さらに、大量生産を目的としない場合、海外林業に比べ経営規模の大きくない国内林業はむしろ小回りが利くという点で有利に働く可能性もあります。個人的には様々な木材が提供され、自由な発想の建築が可能になった街並みを是非とも見てみたいものです。縁側を支える柱に枝付きの柱が利用されていたりしたら面白そうですね。研究林産の種・形ともに個性豊かな材たち需要の創出は国内だけに留まらない 前回は、南洋材の動向をご紹介しましたが、南だけではなく北の材にも変化が起きています。ロシアが2022年に丸太輸出を禁止することを受け、中国からの需要が高まると予想されているのです。日本国内では人口減少が進み、住宅着工数が減ることを考えると、海外での需要獲得は安心材料になります。しかし、ここで注意したいのは、適切な森林管理を行ったうえでの材生産が必要であるということです。すべての需要に応えたために、国内の森林が過剰伐採状態となっては元も子もありません。木材に付加価値を! また、丸太での輸出ではなく、加工品を輸出することで付加価値を付け、国内産業を発展させる取り組みも必要となります。例えば有名な林業会社の東京チェンソーズは「儲かる林業」を目指していることで有名ですが、付加価値をつけることにこだわるそうです。丸太で売ってしまうと数千円にしかならない材が、輪切りして磨けば一枚500円でも売れる。そのような努力が補助金だよりにならない林業を支えるといいます。この姿勢を見習って、海外からの需要が増加したとしても、ただ丸太を売るのではなく何らかの加工品を売ることで、林業のビジネス性の発展も進められると良いですね。参考文献・林野庁:林野庁における花粉発生源対策 閲覧日2021年2月28日・ロシア丸太、22年から輸出禁止か 中国、日本から代替調達も 日経・木の匂い残る机が身近に 若者とデジタルが変える林業 日経・デジタルが変える林業 日経・林業で食べていく!木材の未来を切り出す東京チェンソーズ mugendai・特殊な大きさの木材、注文で伐採 長野の国有林活用 信越トピックス 日経・東南アジアの木材産出地域における 森林開発と木材輸出規制政策. 立花 敏. 2000.『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会) 第3巻 第1号 2000年7月 49頁~71頁