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荒廃した奥地人工林を『低コストで管理できる森林』へ!

日本の林業は衰退に歯止めがかからず、里山奥地の人工林は管理がままならぬ事態へと陥っています。私たちは人工林に隣接する天然林から広葉樹の侵入を誘導し、放棄された奥地の人工林を効率よく天然林へと戻すことで、多面的機能が高く、「低コストで管理できる森づくり技術」の開発と普及を目指します。

現在の支援総額

1,560,000

173%

目標金額は900,000円

支援者数

145

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2020/10/20に募集を開始し、 145人の支援により 1,560,000円の資金を集め、 2020/11/30に募集を終了しました

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荒廃した奥地人工林を『低コストで管理できる森林』へ!

現在の支援総額

1,560,000

173%達成

終了

目標金額900,000

支援者数145

このプロジェクトは、2020/10/20に募集を開始し、 145人の支援により 1,560,000円の資金を集め、 2020/11/30に募集を終了しました

日本の林業は衰退に歯止めがかからず、里山奥地の人工林は管理がままならぬ事態へと陥っています。私たちは人工林に隣接する天然林から広葉樹の侵入を誘導し、放棄された奥地の人工林を効率よく天然林へと戻すことで、多面的機能が高く、「低コストで管理できる森づくり技術」の開発と普及を目指します。

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9月後半活動報告
2021/09/30 23:58
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こんばんは!すっかり秋も深まってきましたね。平井では稲架掛けが終わり、柚子の収穫まで束の間の休息です。今日のトピックは次の通りです。たくさん準備したのでご興味のある部分をかいつまんで読んでみて下さい!・平井産のお米!・研究進捗(土壌処理実験)・林道作設の状況・高性能林業機械の運用コスト・林内路網の諸問題・平井産はちみつ!・蜂蜜から考える生物多様性がもたらすサービス・COP15の論点 生物多様性と経済平井産のお米!前回の活動報告で紹介した田んぼの持ち主の方(研究林の職員の方)から、収穫したお米を頂きました!初めての平井産のお米です!折角頂いたお米なので、普段はアルミの鍋で炊いてますが今回は特別に土鍋で炊くことにしました。「ここのお米はちょっと水分が多いから、水は少な目の方が美味しいよ」と言われたので、普段は人差し指の第一関節をちょっと超えるぐらいまで入れている水を、第一関節少し下までにしときました。はたして結果は…なんとも美しい輝きですね。どうやら上手く炊けたようです。品種はキヌヒカリというもので、今年初めて栽培したそう。おそらく僕の人生の中で、収穫してから口に入るまでの時間が最も短い米粒たちです。お味の方は、粒がしっかりと立っていて、ほんのり甘い味がしました!栗と混ぜたら美味しい栗ご飯が炊けそうです!今度やってみようと思います。研究進捗(土壌実験)Janzen-Connell仮説に基づいた土壌処理実験の結果が見えつつあります。以前お話した通り、土壌菌類の影響を枯死率で観察しようとしたところ、思ったより実生の生存率が高く比較にならなかったので、8/27~9/27の間に増えた葉の枚数で土壌の影響を評価することにしました。この実験は以前の調査結果で出てきた、幼木の基部直径分布に対する仮説を検証するために行っています。以前の調査結果というのが下のグラフで、天然林ほど直径の小さい実生が多く、天然林から離れるほどやや太い幼木の占める割合が上昇していることが分かります(20㎜以上で天然林が上昇しているのは母樹の効果)。このパターンに対する私の仮説は以下の2つです。①実生は土壌菌類の負の影響を受け成長を阻害されている②土壌菌類の負の影響は母樹集団である天然林からの距離に依存して減少しているため、実生の成長は天然林内よりも人工林内の方が良いこの仮説に基づいて実験を行い次のような予測を立てました。①殺菌しない場合、母樹集団である天然林で土壌菌類の負の影響が出て葉の増加量は減り、天然林から離れるほど負の影響が緩和され葉の増加量が増える②殺菌すると、負の影響は緩和され距離依存性がなくなる(地点間の差が無くなる)予測結果を模式的にグラフで表わすと、下のグラフのようになります。(5m, 30mは人工林の林縁からの距離)では、結果を見ていきましょう。今回はアセビ、マンリョウ、ヤマグルマの3種を実験に用いました。それぞれで傾向が異なるため、1種ずつその違いを見ていくことにします。なお、まだ統計解析が出来ていないので、Excelの取って出しのデータになります。有意差などについては不明です。アセビまずは調査地でも出現頻度が高かったアセビです。全体の傾向として、殺菌処理の効果が最も顕著に現れました。予測通り殺菌した場合の方が成長成績が良くなっています。ただし、距離依存性については5m地点で殺菌した場合もそのままの場合も、成長成績が悪くなっています。また、殺菌しない場合に予測していた、右肩上がりの傾向は見えませんでした。この結果だけで無理やり検証をするならば、「土壌菌類はアセビの成長に負の影響をもたらしているものの、山で見られた基部直径の距離依存性に寄与している可能性は低い」ということになります。まだ1か月だけの結果なので、もう少し様子を見ることにします。マンリョウ続いてマンリョウです。マンリョウは他の2種と比較して、種子サイズが大きく硬いのが特徴です。また調査地での出現頻度は低い種でした。全体的な結果としては、やはり殺菌した方が葉の枚数は増えていました(ただし、その差は僅かなため統計解析を行う必要があります)。さらに、アセビと異なり人工林5m地点での成長成績が最も高くなっていました。ヤマグルマ最後にヤマグルマです。ヤマグルマは調査地で1個体も出てこなかった種なので、特異的な土壌菌類の影響は受けないのではないか?と予想していました。実際に観察してみると、殺菌済みで成長成績が良く、マンリョウ同様5m地点で成長成績が上がっていることが分かりました。中途考察全体として、殺菌した方が成長成績が良くなる傾向が見られたので、土壌菌類が実生の成長を阻害しているのは確からしいと考えられます。土壌菌類と植物の関係性は菌根菌などの共生関係が有名ですが、今回の結果から考えると、そういった共生関係はあくまで負の影響を抑えているに過ぎないと言えるかもしれません。つまり土壌菌類のプラスとマイナスの影響を正味で考えるとマイナスになっている、と言うことになります。また、最も影響が顕著に見られたアセビは、調査地での出現頻度が高い種でした。そのため、ある地点に多く出現する種に特異的な土壌菌類の影響が見えている可能性があります。この点については他の種でも実験を行い調査をする必要があります。いずれにせよ、しっかりとした解析を行う必要があるので、また何か分かり次第ご報告いたします。林道作設の状況一方の山では、林道の作設が進められています。雨続きのため少しずつではありますが、千井さんと室さんのご協力で、森の中へ道が伸びています。和歌山研究林で道を付けるのも久しぶりのことなので、あれこれ試行錯誤しながらの作業になります。 基本的な工程は次の通りです。①千井さんが作設予定地の立木を伐倒②4mごとに切り分けていく③室さんが分けられた丸太をユンボでミニ土場へ④ユンボで路面を形成この作業を地道に繰り返していきます。室さんが使っているユンボの先端に付けられているアダプターは、丸太を滑らずに掴む道具です。しかし、このコントロールがなかなか難しいらしく、材を引き出すのになかなか時間がかかります。ここまでの一連の作業を一台でやってしまうハーベスタ等の高性能林業機械の凄さを実感しました。この感想を千井さんにお話ししたところ、便利であることに違いはないが減価償却などを考える必要があり、和歌山研究林のように稀にしか素材生産を行わない事業体には不向きであるというお話をしてくれました。なるほど、その性能の高さに目が行きがちですが、実際に利用するとなると、そのコストも利益以上に考慮する必要がありますね。高性能林業機械の運用コストでは実際に高性能林業を扱うにはどのようなコストがかかるのでしょうか?尾分ら(2020)によると、林業機械にかかる運用経費は固定費と変動費に分けられるそうです。固定費とは売り上げに関わらず持っているだけで発生するコスト。一方の変動費とは、売上に比例して変動するコストのことです。井上(2001※)によると、固定費で高い割合を占めているのが千井さんの話していた減価償却費です。平成20年の税制改定以降、林業用設備は法定耐用年数が一律5年となっており、この間に林業機械を使えば使うほど、時間当たりの固定費は抑えられることになります。(ちなみに5年目以降の林業機械は単純に考えると、利益だけを生み出すようになりますが、尾分(2020)が行ったインタビューでは、5年目以降に修繕費が増加する傾向にあるといいます。)しかし実際は、フルに活用しきれているとは言い切れないのが現状です。少々古い文献ですが平成22年版の森林・林業白書によるとオーストリアでは林業機械が年間1500~2000時間、中には3000時間稼働しているのに対し、日本では多くても1000時間とされています。そのため千井さんが指摘するように、事業量を確保することが必要になります。また事業量を確保したとしても、小規模な事業地が散在しているような場合は、移動のコストがかかるため、林地の集約的な施業計画も必要とされています。加えて「作業工程における生産性の違い」を考慮した作業システムの構築も必要です。林野庁が平成30年に公表した生産性向上ガイドブックでも、素材生産における生産性のボトルネックとしてフォワーダによる集材過程があがっていました。いくらハーベスタがせっせと伐倒と玉切りを繰り返したとしても、フォワーダは長い距離を運ぶのに時間がかかるため捌ききれないのです。そのため運材距離に応じて、ハーベスタの性能をフルに発揮するのに必要なフォワーダーの台数を確保したり、そもそもハーベスタを使うのが本当に適しているのか考えたりする必要があるというわけです。もう一つ聞いた話では、高性能林業機械は操作が難しいので、操縦可能な人が休んでしまうと稼働時間が確保できなくなることもあるようです。事業量を確保したとしても、機械を動かせる人材が欠けてしまっては元も子もありません。従って事業体側も技能を持つ人材を常に複数人確保する必要があります。今後、高性能林業機械の普及を進めていくためには、林地の集約化やシステムの効率化だけでなく、人材の育成も重要かもしれません。固定費の話が長くなりましたが、変動費の方はどうでしょうか。同じく井上(2001※)によると、変動費は保守・修理費が多くを占めているといいます。減価償却費に対する利益を上げるために稼働時間を長くすると、その分故障やトラブルが発生する確率が高くなります。したがって稼働時間を長くしながらも、いかに保守・修繕費を抑えていくかが利益を高める鍵になります。各地の事業体の修繕費や機械更新について調査した尾分ら(2020)の研究では、様々な工夫が紹介されていました。まずは故障を発生させない工夫です。ある事業体では16時を退勤時間に設定することで、無理な稼働を減らし故障を防ぐ取り組みをしています。別の企業では、不慣れなオペレーターは習熟度が高まってから、林業機械を使うシフトに入るという工夫をしています。また、機械の更新のタイミングを5年よりも早く行うことで、機械整備にかかる費用が利益を上回るのを防ぐ取り組みをする事業体もあるといいます。 そして一番重要なのが日々の点検です。故障の兆候を発見し未然に防ぐことで、機械寿命を延ばすことができます。しかし、その重要性がいまいち伝わりにくく教育体制の拡充が必要と指摘されていました。こうした努力をしても、故障するときは故障するのが機械です。事業体はそういう場合でも何とかして修繕費を抑える工夫をしているようです。修繕を自社で行うことでコストを抑えている事業体や、保険に加入することで万が一の出費を抑える事業体などがあるそうです。前者の対策は林業機械が高機能化すればするほど難しくなるという欠点がありますが、簡単な故障だけでも直す技術を持っていれば経費の削減につながります。後者は、加入するだけで良いので労力はすくないですが、機械にかかる経費が増えるため、よりシビアに運用計画を立てる必要が出てきます。以上のように、その性能の高さに目が行きがちな林業機械ですが、計画的な運用を行わなければコストパフォーマンスの悪化や赤字につながるということが分かりました。単純には行かない森林経営の難しさが伺えます。林内路網の諸問題機械のコスパと共に考えなければならないのが、路網の配置です。前述した通り、施業システムの生産性を考えるうえで、その立地や林業機械に適した路網はとても重要になります。そこで次に、林内路網についてご説明します。林野庁によると、林内路網は規模によって大きく次の3つのタイプに分けられます。①林道不特定多数の人が利用することを想定した路網。森林管理においては幹線的な役割を担う。②林業専用道メインユーザーは森林管理者。規格は普通自動車や10tトラックの走行を想定した必要最低限の構造。幹線としての林道の補完的な役割を担う。③林業作業道ユーザーは森林管理者。特に集材時などより高密度な路網が必要になるときに設置される。規格は林業機械が通れる最低限の構造で、経済性を意識しつつも丈夫であることが求められる。これらを配置することで林内全体へのアクセスを容易にし、綿密な施業を可能にすることが目指されています。ちなみに今回、皆さまのご協力によって作設するのは、この分類では林業作業道に分類されます。現在の日本の林内路網密度は22.4m/ha(H30)で、ドイツ(118m/ha, 1986.1989)やオーストリア(89m/ha, 1992. 1996)と比較するとかなり低いと言えます。日本の林道作設が進んでこなかった理由としては、①火山噴出物が主要な地質で工事が難しかった②急峻な地形で工事が難しかった③台風等の気象害により維持管理コストが必要だった④所有者の異なる小規模な林分が多く、まとまった距離の路網を設置することが難しかった⑤材価の低迷で森林管理設備に対する投資が進まなかったなどなどたくさんあります。しかし、一般的な伐期に達している林分が半数を超したことや、温暖化ガス削減のため森林の二酸化炭素吸収機能に注目が集まり、その機能が高い若齢段階の人工林を増やそうとする動きが生じていることなどにより、安定的に大量に施業を行えるような路網整備が急務となっています。そのため、令和元年度から5年度までの森林整備保全事業計画では、今後5年間で7.2万㎞という高い路網整備目標が設定されています。ただ、路網もただ設置すれば良いわけではありません。傾斜や地質に合わせて、ロープウェイのように架線集材を行うのか、高性能林業機械の導入を見越してアームの届く距離を考慮した路網配置を行うのか、考慮する必要があります。下手に設置してしまうと、前述のようにフォワーダーの移動時間が長くなって生産性が落ちるということもあります。さらに、林野庁で今年3月に開かれた「第1回今後の路網整備のあり方検討会」では、林内だけではなく加工流通拠点との位置関係や、需給に合わせた路網整備計画の重要性、トラック運転手に配慮した設計、レクリエーショへの活用、災害に強い設計などを意識することの重要性も検討されています。森林に期待される機能が多様化する中、その管理のための道の在り方も変化していると言えるでしょう。そのため、今後は距離や路網密度などの量的な目標だけでなく、質的な目標設定も行うべきだろうとの意見も書かれていました。災害の影響を受けると修繕費や管理コストがかさむことも確かに量的な目標設定を行うと、数字を追いすぎて実態が把握できていないことがあります。例えば千井さんが教えてくれたのは林業作業道の例です。林業作業道は素材生産時に林業企業が設置する場合が多く、集材時さえ使えれば良いという設計になりがちです。そのため継続利用を考えていない傾斜や、排水設備の不備により、「距離が伸びた」と言っても、大雨が降るともう使えない林道になっている、というケースがあるそうです。そんな話を聞いて僕が思いついたのが、素材生産の利益と林道作設のコストを切り離すため、林道作設専門会社を立ち上げ、質の高い林道整備につなげるというアイデアです。和歌山には「木を伐らない林業」を行う、植林専門の「中川」という林業会社があります。この会社のように、「道を付けるだけの林業」があっても良いのでは?などと考えをめぐらしてみました。明日10月1日からは、改正木材利用促進法が施行され、その対象が公共建築物から民間の一般建築まで拡張されます。林道整備によって、国産材の安定供給システムが向上し、木材利用が加速すると良いですね。平井産のはちみつ!難しい話になったところで、一回平井に戻りましょう。先日ご近所さんから蜂蜜を頂きました。蜂蜜をもらうのはこれが2回目で、1回目は梅雨明けの7月に頂きました(もらってばかりです笑)。その7月の蜂蜜が残っていたので、味を比べてみることにしました。はたして味に違いはあるのでしょうか…?スプーンですくって食べてみた結果、明らかに味が違います。上手く表現できないのが不甲斐ないですが、7月の方は脳内に花畑が広がるような感じです。一方の、秋の蜂蜜は森が広がる感じでした。この味の違いは恐らく蜜源となる花の違いでしょう。市販の蜂蜜を食べていたころは、こんな変化に全く気付きませんでしたが、昆虫たちが季節によって訪れる花を変えているのが分かり面白く思いました。蜂蜜から考える生物多様性の価値この蜂と花の関係性、もとい昆虫(送粉者)と植物の関係性について、Bascompte(2003)が面白い研究結果を発表しています。Bascompteは植物や昆虫にいるスペシャリストやジェネラリストに注目しました。昆虫の場合、スペシャリストとは、ある単一の種の植物だけを利用する種のことを言い、ジェネラリストとは蜂のように色んな植物を利用する種のことを言います。逆に花粉の媒介における植物のスペシャリストとは、ある単一の昆虫種にのみ送粉を依存している種、ジェネラリストは色々な昆虫種に送粉を任せている種のことを言います。Bascompteはこれらの昆虫と植物の関係性を調べ、ジェネラリストとスペシャリストが相補的になるネスト構造になっていることを発見しました。詳しく説明するため下の図をご覧ください。この図で、〇は植物と昆虫が花粉の媒介において関係があることを示しています。昆虫種Jについて見てみると、植物種aとしか関係を結んでいません。この場合、昆虫Jは植物種aのスペシャリストと言えます。一方で、その植物種aについて見てみると、すべての昆虫種と関係を結んでいます。逆に、植物種ⅰを見てみると、昆虫種Aとしか関係を結んでいませんが、昆虫種Aは全ての植物種と関係を結んでいます。このように、「一方がスペシャリストなら他方はジェネラリストになっている」というのがネスト構造です。では何故このような構造になっているのでしょうか?そこで植物も昆虫もスペシャリストの場合を考えます。もしある年の気候が極端に寒く、昆虫が絶滅してしまうと、植物はそれ以降花粉を運んでくれるパートナーがいなくなってしまい、子孫を残すことが出来ず、絶滅してしまいます。逆に、植物が絶滅すると密を利用していた昆虫は、他の物を食べることが出来ず死んでしまいます。そのため、互いにスペシャリストである関係性は自然界では長期的には残りにくいとされています。一方で、植物か昆虫どちらかがジェネラリストである場合、共倒れする可能性は低く、その関係性が保たれやすくなります。その結果、ネスト構造のように相補的な関係性が蓄積したと考えられています。つまり、多様性によって安定的な関係を築いていると言えますね。こうした多様性がもたらす利益は、見えないところで人間社会に大きく貢献しています。それは環境問題と言う面だけではありません。例えば、世界の主要な農作物の75%は昆虫の受粉に依存しており、もしそれが出来なくなれば、非常にコストと時間のかかる人工授粉に切り替える必要が生じます。その場合、農業関連分野の経済的損失だけでなく、食糧危機まで問題が発展しかねません。 そこで、生物多様性の損失が人間社会に悪影響を及ぼさぬよう議論が進められています。花にやってきたカナブン。手足に花粉が付いているのが分かる。COP15の論点 生物多様性と経済10月11日から中国の昆明で開かれる生物多様性条約の締約国会議 COP15では、まさに生物多様性と人間社会の関係性について各国が集まり議論を行います。今回の会議で注目されているのは、G7が大筋合意した「各国が陸地と海洋の3割の面積を保護・保全する 」という目標に対する途上国の反応です。2010年の名古屋会議で設定された愛知目標では不十分なため、より進んだ目標設定をしたいのがG7。一方の途上国は、保護区に指定されることで、農地化や開発が制限されるため合意に踏み切れないと見られています。そのため、先進国は途上国に対し集約的な農林水産業方法の導入補助などの形で支援を行う必要があります。また、途上国は先進国が途上国内の生物資源を元に開発した医薬品や品種改良産品の利益を、途上国に分配するように主張しています。これは生物多様性条約において、「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」が規定されていることに基づいており、COP15の大きな論点の一つです。こうしてみてみると、生物多様性が炭素クレジットにおける森林のように、経済的な価値を獲得しつつあることが伺えます。その推察通り、世界の金融機関では生物多様性を考慮した変化が生じ始めています。ノルウェー銀行インベスト・マネジメント(NBIM)は8月18日に投資先企業に向けて発表した文書で、企業活動がサプライチェーンを含めて生物多様性に与える影響の開示を期待すると発表しました。またフランスの運用大手アクサ・インベストメント・マネージャーズも6月に、生物多様性の損失に関わる企業を投資対象から外すとしています。他にも55の金融機関が、生物多様性の保全や生態系回復に貢献すると宣言しています。また、企業活動における生物多様性保全意識を内部から高める上で必要になるのが、そのリスクの把握です。気候変動の分野では、世界の金融当局が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に則り、気候変動が企業活動に与える負の影響の情報が開示され、全体像が把握されつつあります。これと同じように、生物多様性においては6月に設立された「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が情報開示の役割を担うとされています。2023年中には、生物多様性が企業財務に与える影響を分析・開示する仕組みを作る予定だそうです。お金が絡むと良くないイメージを持つ人もいるかもしれませんが、活動の持続可能性を考える際に経済的な価値を高めることは非常に重要です。また、価値のある活動に対し、それ相応の対価が支払われるのは全うといえるでしょう。どの意味で生物多様性保全に経済的な価値が生まれつつある現状は良い兆候と言えるのではないでしょうか?世界初!スギのゲノム編集技術今日はここまでですが、最後に面白いニュースがあったので、次回予告の意味も含めてご紹介しておきます。内容としては、世界で初めてスギのゲノム編集に成功したというものになります。これまで樹木の品種改良は英精樹選抜と掛け合わせにより10年以上のサイクルで行うのが普通でし。しかしゲノム編集を行えば、より短いサイクルで樹木の品種改良を行うことが可能になります。また、炭素固定機能を高めつつも強度を保つ性質を持たせることで、林業の収益サイクルにも革命をもたらすかもしれません。次の機会にもう少し深く考えてみたいと思います。参考文献・路網整備の推進 林野庁HP 閲覧日2021年9月29日・高性能林業機械とは 林野庁HP 閲覧日2021年9月29日・路網整備の推進 林野庁HP 閲覧日2021年9月30日・公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(改正後:脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律)林野庁HP 閲覧日2021年9月30日・第1回今後の路網整備のあり方検討会資料 令和2年3月25日 林野庁・林野庁 平成22年度版 森林・林業白書・林野庁 路網と作業システム・林野庁 2018. 生産性向上ガイドブック (平成 29 年度林業事業体の生産性向上手法検討委託事業報告書) 第2版・井上源基 2001. 伐出コストを計算しよう.(機械化のマネジメント. 全国林業改良普及協会編,全国林業改良普及協会).※一次資料を閲覧できなかったため、止む負えず尾分ら2020を二次資料として参考。・日本林道協会 2001. これからの林道整備 現場からのアプローチ 日本林業調査会・30年のCO2吸収量、目標量の3割増検討 森林や木材活用 日経4月19日・生物多様性なくして経済なし 陸海の3割保護で合意へ 日経9月27日・スギ改良でCO2吸収量増 森林総研、ゲノム編集で実現へ Next Tech2050 日経9月27日・世界初 スギのゲノム編集技術を開発 ~針葉樹の品種改良を⼤幅に短縮する新技術として期待~ 横浜市立大学HP 閲覧日2021年9月30日・尾分 達也, 佐藤 宣子 2020. 高性能林業機械の修繕および機械更新の事業体戦略 日本林業学会 102巻2号 120-126・宮下直, 井鷲裕司, 千葉聡 2012. 生物多様性と生態学 朝倉書店・Jordi Bascompte, Pedro Jordano, Carlos J. Melián, and Jens M. Olesen 2003. The nested assembly of plant–animal mutualistic networks. PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA 100 (16) 9383-9387


9月前半活動報告
2021/09/14 22:26
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こんばんは!本日は以下の大きく3つのトピックをお話します。雨続きで調査がキャンセルになった時間を使って書いていたら楽しくなってしまって、3つ目のトピックはとても長くなってしまいました。時間があるときにでも読んでいただければ幸いです。1:平井の稲架掛け2:調査報告 先駆種のメンバー紹介3:自然の遷移に委ねる施業とは?   オランダのミニ森林   ドイツの林業思想   ドイツ・ロマン主義の生命観   ナチスと自然保護   ジル・クレマンの動いている庭1:平井の稲架掛け残暑でまた暑くなるかなあと思っていたら、本格的に秋の空気になっていてびっくりしています。平井では稲架掛けが始まりました! 秋らしく高い空と一緒に写真を撮りたかったのですが、生憎の天気で湿っぽい秋となりました。この地域らしい写真ということでご了承下さい笑。平井は大規模な棚田というわけではありませんが、やや高低差のあるなだらかな丘に田んぼがあるので、稲架が波のように連なっている様子が見えます。こちらの田んぼは今年、稲の品種を変えてみたそうですが、結果はどうだったのでしょうか…?一度平井産米を食べてみたいものです。少し視点を変えると、柚子の木に付いていた実が大きくなっていることに気が付きました!あと2か月ぐらいすると、実が鮮やかな黄色になって集落中で柚子の収穫が始まります。中心部の自販機前には大量の柚子が集められ、良い香りが集落を漂います!2:秋の毎木調査月間!今秋の毎木調査を始めました。予備調査で春からの成長量がそれほど大きくないことが分かったので、今回の調査では生存率と新規個体の樹高・基部直径の測定を行うことにしました。まだ1/6程度しか終わっておりませんが、間伐したところでは早くも面白い変化が見られました。調査地は相変わらずの雨続きです先駆種の出現面白い変化というのが、先駆種の出現です。先駆種とは何らかの変化により地表が露出した場所で、他の種よりも真っ先にやって来て生育する種のことを言います。一般的に日当たりの良い場所を好む傾向があり、成長が早く寿命は短いものが多いとされています。前回までの調査では林床が暗く閉ざされていたため、先駆種はあまり多く見かけませんでした。ところが、間伐して地表まで光が届くようになった今回の調査で、今まで見られなかった先駆種が姿を現したのです。そこで今日は、今回新たに表れた先駆種を紹介したいと思います。①カラスザンショウ1人目はカラスザンショウです。山椒は小粒でもピリリと辛いの山椒の仲間です。諺どおり、こんなに小さくても独特な香りが漂ってきました。香りはミカン科らしくシトラス系のスーッとする香りです。ただ、香りとは裏腹に、見た目はとても厳ついです。成木になっても針は残りますが、幼木の頃はその密度たるや恐ろしい雰囲気を醸し出しています。子供のころにこれだけ尖っていると、成長してから恥ずかしく思っているかもしれませんね。因みに名前に入っている「カラス」はカラスが実を食べることが由来だそうですが、私はまだ見たことがありません…。そういえば9月9日はオオサンショウウオの日でしたが、「サンショウウオ」には逆に「山椒」という名前が入っていますね。これは、サンショウウオが身の危険を感じたときに出す粘液の香りが山椒に似ているからだそうです。僕は嗅いだことがありませんが、機会があれば比べてみたいですね。学術調査の際に撮影されたオオサンショウウオ。因みにオオサンショウウオは手がとても可愛いので「オオサンショウウオ 手」でググってみて下さい!②アカメガシワお次はアカメガシワです。岩手・秋田以南の日本中に分布しているので、恐らく皆さんも一度は目にしたことがある種だと思います。名前に「カシワ」とありますが、ブナ科コナラ属ではなくトウダイグサ科アカメガシワ属です。ややこしいことになっているのは、カシワという言葉の語源が原因のようですが、長くなってしまうのでここでは割愛します。アカメの方は芽が赤いことが由来だそうです。個人的にはカシワよりもキリの葉に似ているのでアカメギリと名付けたいですね。展葉が始まっている赤い芽(中央部)アカメガシワはその生命力の高さ故、Googleの予測変換で「アカメガシワ 駆除」と2番目に来てしまっていました。なんとも不憫なアカメガシワですが、実は結構色々な使い道があります。例えば、芽や若葉を食べたり、樹皮を薬にしたり、葉や実を染料にしたり…といった具合です。また材も建材から器具材まで使われます。崖っぷちに生えるアカメガシワアカメガシワの種は鳥によって散布されます。ただ鳥によって散布された種子は必ずしも種子にとって都合の良いところに辿り着くとは限りません。特に先駆種のように「明るくないとムリッ!」というような環境を選ぶ種にとって、理想的な環境に種子を飛ばすのは非常に難しい作業です。そこでこういった先駆種は、種を小さくして沢山飛ばし、「数撃ちゃ当たる」理論でとにかく種子をまき散らします。また、例え辿り着いた先が理想的でなかったとしても、「数年待てばチャンスがあるかも!」と期待を込めて、休眠状態に入る能力を持っている場合が多いです。「果報は寝て待て」と言ったところでしょうか。人間が長い歴史の上でようやく気付いた教訓を、植物は自然と会得しているようで面白いですね。アカメガシワの種子③タラノキお次はタラノキです。皆さんご存じのタラの芽のタラですね。なんだか食べ物関連の種が多いような気がしますが、定期的に撹乱が入る里山林によく生える樹種たちなので、人とのつながりが強いのかもしれません。タラノキは芽以外にも、樹皮が薬用にされるようです。タラノキももう少し大きくなるとカラスザンショウに負けないほど鋭い針を付けるようになります。そしてタラノキの大きな特徴が葉っぱです。上の写真では分かりにくいですが、タラノキは成長すると下の図の一番右のような葉っぱを付けます。この葉っぱ、全部で何十枚もあるように見えますが、実はこれ全体で一枚の葉っぱと数えます。そのため、落葉するときは、枝のようなこの全体がドサッと落ちてきます。カラスザンショウも似たような奇数羽状複葉という形態ですが、タラノキは1回分岐後にさらに分岐する2回奇数羽状複葉という形態をとっていることが特徴的です。3:自然の遷移に委ねる施業3つ目のトピックは「自然の遷移に委ねる施業」というテーマです。このテーマにしようと思ったのは、7月の新聞に次のようなナショナルジオグラフィックの記事が載っていたためです。オランダで増えるミニ森林 宮脇方式とは?この記事によると、オランダの都市部で「宮脇方式」と呼ばれる植林方法によって、小面積(テニスコート1面分ぐらい)の裸地を急速に森林化するプロジェクトが広がっているそうです。この緑化プロジェクトにより、都市部での生物多様性保全やヒートアイランド現象の緩和、保水力の向上といった効果が期待できるそうです。都市のあちこちに小さな森林がある光景は想像しただけでも涼し気で、一度歩いてみたいと思いました。では宮脇方式とはどのような植林方法なのでしょうか?この植林方法によって緑化を行っている「森のあるまちづくりを進める会」によると、宮脇方式とは、「その土地に従来から生息している種類の木を複数種類混ぜて、密に植える」方法 のようです。都市部では景観の観点から裸地状態が長く続くことが好まれません。そのため、密に植えることで、光資源をめぐる競争を促進し鉛直方向の急速な成長が期待できるということだと理解できます。では「その土地に従来から生息している種類 」とは何なのでしょうか?これが実は宮脇方式の優れている点でもあり、批判の対象になる点でもあると僕は考えます。まず優れている点ですが、緑化工ではよく成長の早い外来種が用いられる傾向があります。この方法は確かに早期の緑化が可能となり土壌表面の被覆と言う意味では高い効果を発揮します。ですが、繁殖力や拡散力をどこまでコントロールできるか不透明な部分も多く、外来種が緑化部分以外に広がってしまう危険性が常にまとわりつきます。一方で、地域的な在来種を用いることは、緑化速度はやや遅くなってしまうかもしれませんが、外来種の移入が無いため地域生態系の保全という意味で優れています。宮脇方式ではこの成長が遅いという欠点を、密植によって解決しているようです。また、地域性の樹種を植えることは、その土地の撹乱や害虫に対する抵抗性を持っている可能性のある樹種を選ぶことにつながり、結果としてイレギュラーに強い森林の創出が期待できます。中川研究林で行われている在来植生を用いた高速道路法面の緑化試験しかしながら、「その土地に従来から生息している種類 」 というのがいつのことを指しているのかという問題に直面することがあります。例えば里山林は「本来あるべき植生」ではなく、「人が適度に管理した状態で成立しうる植生」です。また、例え理想的な「あるべき植生」があるとしても、現在の立地環境には適していない場合もあります。こういった課題に直面した際、「その土地に従来から生息している種類 」 が本当に目的にあった樹種なのかどうかは十分に吟味する必要があります。いずれにせよ、自然に対し徹底的な人為で対抗しようとしていた従来の考えとはことなり、自然の模倣や遷移に寄り添うこの姿勢は、これからの林業にも参考になるかもしれません。一見すると、目新しく見えるこのような姿勢ですが、実はこのスタイルを100年以上前から取り入れていた人たちが中央ヨーロッパにいました。19世紀後半に生まれた生態学と林学を融合した先駆的思想代表的なものが2つあります。一つが、ドイツの林学者カール・ガイヤーの思想とその影響を受けた「照査法」と呼ばれる森林管理方法。もう一つが同時期に同じくドイツの林学者アルフレート・メーラーが提唱した「恒続林思想」です。(1)カール・ガイヤーと「照査法」カール・ガイヤー(1822~1907)はそれまでの林業を、農業のように木を栽培しているに過ぎない※1とし、木材生産という単一的な目的の下で経理上の「理論」に基づいて行われている演繹的な従来の林業を批判しました。では、彼の理想とする林業とはどのようなものだったのでしょうか?村尾(2017)によると、彼の林業思想の要点は大きく次の5つがあるといいます。(以下引用)①林業は農業とは全く異質の産業②森林は樹木の単なる集まりではなくて「生命共同体」(レーベヴェーゼン)③林業はあくまで合自然的かつ近自然的に営まれなくてはならない④それによって自然の生産諸力はフルに活用される⑤保続林業(持続可能な林業)も(中略)森林経理学的手法ではなくて、あくまで森林を健康な状態に維持するという生態学的手法によってこそ実現できる。(引用終)つまり、木材生産は林業の唯一の目的ではなく、森林の諸生産機能を最大限保全したときに副次的に得られる産物にすぎないというのです。そして、森林の諸生産機能を発揮するためには森林を生態学的に健全な状態(恒続的)に維持する必要があり、理論ではなく現場の経験から得た自然に寄り添った手法で、こまめにフィードバックをかける帰納的な施業が必要だといいます。そのため、ガイヤーは「自然に帰れ」を標語としていました。具体的には、主伐(メインの伐採)と間伐(手入れ用の伐採)という概念を取っ払い、継続的に少しずつ必要に応じて伐採する形になります。その際、林床へ光を届けるような施業を行い、天然更新を促し、それでも上手くいかない場合は補助的に植林も行うというスタンスをとっています。木材生産が「伐採」であると同時に次世代の資源になりうる「稚樹」の更新にもつながっているというわけです。とても100年前に提唱されたとは思えない進んだ思想ですね。びっくりします。ガイヤーの思想は後に、森林の利用効率を恒続的に最大限発揮するため、林分の伐期を設定せずに、区画ごとに10年以下の短い期間で蓄積を査定し、その都度適した伐採量を決定していくという「照査法」に受け継がれました。実は北大の中川研究林にも1966年に設定された照査法試験林があり、現在も研究が行われています。※1:現代においては生態系に配慮した農業も行われていることを断っておきます。また里山生態系など、農業自体が生態系の1要素であることも分かっています。(2)アルフレート・メーラーと「恒続林思想」 森林美学恒続林思想をご紹介するには、その前身ともいえる森林美学について触れておく必要があります。森林美学とは、これまたドイツの林学者ハインリヒ・フォン・ザリッシュ(1846~1920)によって林学の一部門として確立された分野で、森林に経済的、国土保全的な目的だけでなく美的センスも取り入れようという学問です。ザリッシュはこの森林美学を人工林で適用し、経済的な利益を追求することと美しい森林を作ることが対立するのではなく調和する、と提唱しました。ザリッシュの森林美学に影響を受け、北大農学部の前身にあたる東北帝国大学農科大学の新島善直と村山醸造は、卒論で森林美学を取り上げました。新島は後に林学教授になると森林美学の講義を設定します。彼らの森林美学はザリッシュの影響は確かに受けているものの、模倣しているわけではありませんでした。天然林を重視している点や、日本の森林に応用している点、そして風景としての森林を重視していることなど、発展的な内容になっています。この森林美学の授業は今でも北大農学部の森林科学科で行われていて、僕も受講しました。当時は「『美』とかよく分かんないなぁ」と思いながら聞いていましたが(笑)、もう一度しっかり受けたいですね。恒続林思想さて話を戻して、恒続林思想についてです。アルフレート・メーラー(1860~1922)は自著の「恒続林思想」の中で、「恒続林のみが森林美学の提起する諸要求を満足させられる」と言いました。恒続林思想はガイヤーの林業思想と重なる部分も多く、自身も『恒続林の理念がガイヤーの教示と刺激に従う限りにおいて、この理想は「自然に帰れ」の叫びとも合致する』としつつも、その文章のある章のタイトルが『造林の目標としての森林有機体の永続、それは「自然に帰れ」ではない』となっています。一体何が同じで何が違うのでしょうか?まず合致するところは「森林有機体の恒続」です。メーラーもガイヤーも森林の諸生産機能を最大限発揮するためには、恒続的な森林を維持することが必要だとしています。そして恒続的な森林を目指す施業は全て「恒続林施業」と言えると、メーラー自身も言っています。しかし、ガイヤーが林業の目的をその「恒続性の創出」にある、としているのに対し、メーラーはあくまで「できるだけ多くの木材価値を生産すること」が林業の目的だとしています。つまりガイヤーは「恒続性」を目的として、その副産物に「木材生産」を位置付けているのに対し、メーラーは「木材生産」を目的とし、その手段として「恒続性」を位置付けているというわけです。従ってメーラーは、木材生産のさらに効率的な手法があるのであれば「恒続林」は必ずしも必要ではないとし、「恒続林」を勧めるためにはその優位性を十分に提示する必要があるとしています。またメーラーは先に述べた「森林美学」とのつながりを強調した点も特筆できます。彼は、照査法を大成した林学者(ビヨレイ)の次のような言葉を引用していました。『この森林は永続するからこそ、生産し活動する。生き生きとして強健なるがゆえに、美しい。そして、この森林を取り扱う林業家は、価値を追求しながら美に触れ、美の作品を創りながら、価値の作品を創る、類稀なる特権を持っている。同時に彼は、力であるところの調和を実現する』。林業とそれに従事する人々がいかに誇りを持って仕事しているかが伺える一節のように思います。日本でもこのような雰囲気になる日がくると良いですね!ドイツ林業思想を生んだドイツ・ロマン主義では、なぜこのような先進的とも思える林業思想がこの時期のドイツで生まれたのでしょうか?少々調べてみたところ、文化的な背景が関係しているようです。当時、ドイツでは人工、合理性、理性、画一性を重視する啓蒙主義が終わりを迎え、自然や固有性、多様性を重視するロマン主義による政治文化が広がっていました。このドイツ・ロマン主義では自然を、科学的に支配されるものではなく、それ自身が主体性を持つ生命体(有機体)として捉えられていました。その結果、自然を従わせるのではなく、寄り添うという前述のような林業思想が発展したというわけです。エコロギー(エコロジー)の造語者とされるヘッケルは、個体生命の生死の集まりが普遍的生命(主体性を持つ大きなまとまりとしての生命体 )を存在させており、普遍的生命は時間的な生命の過程も兼ね備えているとしました。この考えは、ダーウィンの「種の起源」によって補強することができるため、ヘッケルはダーウィンの進化論の普及活動に積極的に取り組んだと言います。ところが、ヘッケルとダーウィンの唱える生命概念には大きな違いがありました。ダーウィンは生命個体を文字通り一つの「個体」として捉えていたのに対し、ヘッケルは「国家や民族、人種等の集合体」として捉えていたのです。また、プラムウェル(1991)はヘッケルのエコロジストとしての重要な3つの思想について、『第一は、彼が宇宙を統一された調和的な有機体とみていた…。第二は、彼が人間と動物は同じ道徳と自然の地位を占めていると信じており、人間中心ではなかった…。第三は、自然が真理の源泉であり、人間生活の賢明な指針となるという信条を説いた…』とし、続けて『人間社会は、自然界の科学的観察によって提示される方向に沿って、再組織化されるべきであるという信条である。彼の影響力によって、エコロジズムは実行可能な政治的信条になっていくことができたのである。』と分析しています。一見理想的な環境思想を掲げているように思えますが、ダーウィンとヘッケルの間の齟齬は、優生学へと発展し、後に取り返しのつかない悲劇を招いてしまいました。ナチスと自然保護それがナチズムです。意外に思えるかもしれませんが、ナチスは自然保護や動物愛護に積極的な姿勢を見せていました。例えば1933年には動物保護法により動物虐待が取り締まられました。また1935年に制定された「帝国自然保護法」は、天然記念物指定や自然・景観保護地域の指定、さらにそれらをとりまとめる専門機関の設置などを定めており、人間と自然の関係性を重視した、かなり時代を先取りした内容となっています。それはプロパガンダ的な側面も確かにありましたが、このような自然観を背景にした象徴的な「国民性」の創出でもあったのです。その結果、自然を尊び受け入れるという思想が暴走し、人間も自然のルール(ここでは淘汰)に従うべきだという考えに結び付いてしまいました。それが、優れている民族が生き残るのは当然という誤った考えに至ったわけです。もちろん「生態学の知見をそのまま人間にあてはめるのもどうか」、というところをまず指摘したいですが、生態学的に見てもこの考えは誤りがあると僕は考えます。一番は、何が「優れている」のか?という点です。適応しているかどうかは場所や時間によって変化します。今この瞬間は生存の有利不利に差があったとしても、それは一過性のもので、時と場所が違えば全く異なります。そのため、淘汰された生物がすべての面において永久的に優れているということはまずありえません。何が優れているかなど全体として比較することは出来ないのです。従って優生思想は、自然をその一面でしか捉えられておらず、全く持って自然を尊ぶ行為とは呼べないでしょう。ジル・クレマン 動いている庭さてさて、「結局のところ我々は自然とどう接していけば良いのか?」と何だか戸惑ってしまいそうですが、最近この問いに対して面白い1つの答えを提示してくれる記事を読みました。それがフランスの庭師、ジル・クレマンの考える「動いている庭」というものです。彼の作ろうとしている庭とは、自然の無秩序を生物間の相互作用の結果と捉え、作用の一つとして人間が参加することで、遷移のストーリを作るという庭です。何やらまた難しそうですが簡単に言うと、従来の庭が「形」を作るのに対し、ジル・クレマンは「動き」を作っているのです。他の植物・動物、環境、そして人間との関係性の因果関係によってそこに存在するという植物のストーリの続きを描く、何やら台本作家のようなお仕事ですね。弁証法で有名なヘーゲルは、ドイツ・ロマン主義的な自然哲学の中で自然を見つめ直し、互いに対立して見える生命個体が、全体として一つの普遍的な生命体のようになっており、その二面性を兼ね備えた統一体が自然であると示しました。これは、個々が統一された普遍的生命に辿り着いて終わってしまった、一面的なドイツ・ロマン主義の自然観の先を行く思想と言えます。ジル・クレマンの庭は、まさにこのヘーゲルの自然観を体現し、それぞれのストーリを尊重しながら「庭」という全体を造り上げていると言えるのではないでしょうか?ジル・クレマンは「この惑星は、星とみなすことができる」と言います。この大きな庭の中で、我々が一人の登場人物としてどのようなストーリを描いていくのか。彼の問いかけは、本当の意味で自然の諸要素を尊重し、その関係性の中に自身を認識するという、これからの時代に必要な自然観に気付かせてくれるような気がします。参考資料・森林美学〔覆刻版〕新島善直・村山醸造著 1991. 北海道大学出版会・恒続林思想 アルフレート・メーラー著 山畑一善 訳 1984. 都市文化社・森林業 ドイツの森と日本林業 村尾行一 2017. 築地書館・分解の哲学-腐敗と発酵をめぐる思考- 藤原辰史 2019. 青土社・動いている庭 ジル・クレマン 著 山内朋樹 訳 2015. みすず書房・エコロジーー期限とその展開ー アンナ・プラムウェル著 金子務 訳 1992.河出書房出版・森林保護学の基礎 小池孝良 中村誠宏 宮本敏澄 2021. 農文協・美術手帳 2020年6月号 新しいエコロジー 危機の時代を生きる、環境観のパラダイムシフト 2020. 美術出版社・自然崇拝:ナチス・ドイツの自然観 鈴木覚 2011.・動いている庭 HP http://garden-in-movement.com/ 閲覧日2021年9月14日・各国都市で増えるミニ森林 宮脇方式、世界に浸透 日本経済新聞電子版 ナショジオニュース7月23日・近江湖南アルプスの樹木の紹介 https://www.rinya.maff.go.jp/kinki/siga/mori-enjoy/okusimasyokubutu/karasuzansyou.html 林野庁 閲覧日2021年9月13日・照査法に関する基礎的研究 ───北海道有林置戸照査法試験林の分析─── 加納博 1993.北海道林業試験場報告 第 21号 昭和 58年 12月・「宮脇方式」として知られる植栽方式とは 「森のあるまちづくりをすすめる会」HP http://morinoarumachi.com/how/ 閲覧日2021年9月14日


8月後半活動報告
2021/08/31 18:14
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こんにちは。雨がやっと止んだと思ったら8月も終わりですね。過ごしやすくなるのが嬉しい反面、晩夏の空気に一抹の寂しさを覚えます。林道整備の開始さて、林道開設作業がいよいよ開始しました!活動報告には写真が間に合わなかったのですが、次回以降その様子をご紹介できればと思います!昨年行った林道開設場所の下見。ここに道を通します!本日のトピックということで、今日は次の4つのトピックをご紹介します。1.  県立神島高校写真部の皆さんの来林2.平井の送り火3.土壌処理実験の経過報告4.今後の実験の予定神島高校写真部の皆さんが来林しました!8月23日に、近くの田辺市にある和歌山県立神島高校の写真部の皆さんが来林しました!実はこの方々、高校写真部の全国大会である「写真甲子園」に7年連続で出場され、3年連続で優勝したこともある超強豪写真部です。県内のみならず写真を趣味にしていれば、どこかで聞いたことがあるという人がいるぐらい有名で、特に撮影者が風景に溶け込んでいるかのような視点から生み出される作品には驚かされます。参考に神島高校写真部さんの作品のリンクも貼っておきます。そんな方々がなぜ来林したかというと、僕が「ぜひ来てください!」と顧問の先生に頼んだからにほかなりません笑。快諾して下さった先生には感謝しております!ありがとうございました!ではなぜ、一見すると関係なさそうに思える写真部の皆さんをお呼びしたかというと、大きく2つの理由があります。一つは、折角研究林で面白い実験をやっているので、地元の方々にも知ってほしいと思っていたからです。もう一つは神島高校の皆さんが持つ、風景に溶け込む能力と生態学的な視点を融合して、森の一部になった視点からどのような風景が見えるのか知りたかったからです。補足1:学術雑誌「Ecology」の定義する生態学後者の理由についてもう少し詳しく説明すると、私達は自然を観察するとき、どうしても1個体の人間として森を見てしまいます。例えばマムシやゴキブリ、ヒルやウルシは人間にとって有害なので、どうしても嫌なモノとして認識しがちですよね。しかし、森林の木や落ち葉、昆虫やキノコなど、森に住む当事者となって森林を見てみると、それぞれにまた違った役割が見えてくると思います。そして、そうした視点で人間を含めた世界の関係性を理解していくことが生態学という分野でもあります(補足1)。そのため、写真部の皆さんの活動は我々にとっても新たな発見につながるのでは!と思い、ワクワクしながら同行していました。また、山だけではなく平井集落でも撮影の時間をとってもらうことにしました。どんな風に話しかけていくのかなと思って見ていると、あっという間に溶け込んで談笑していたので驚きました。後日、集落の方に話を聞くと「俺も撮ってもらった!」と嬉しそうに話してくれたので、お呼びして良かったなと一安心です。今後も継続的にいらっしゃっていただけるようなので、美しい平井の四季折々の風景や、そこで暮らす方々を是非とも切り取って頂きたいと思います!平井の送り火神島高校写真部の皆さんが来林した1週間前、平井でお盆の迎え火や送り火が焚かれていました。迎え火は用事で見ることが出来なかったのですが、最終日の送り火だけは見ることができました。東京出身の僕は、送り火と聞いて、割箸を折ってたき火みたいに小さく燃やす姿を想像していたのですが、平井の送り火は全く異なるものでした。平井の送り火大きな竹の先に松明を取り付け空高く持ち上げるのです。スケールの大きさに少々驚いてしまいました。なぜこのような形で送り火を行うのかは分からないそうですが、「山の中だから高く上げとかないと見えないんとちゃう?」という地元の方の説が妙に説得力があります笑。平井の全ての家がこの形式で送り火をするわけではないそうですが、以前はもっと多くの家がこの送り火を行っていたそうで、神社からの道が延々と照らされてそれはそれは綺麗だったとか。是非もう一度その様子を見てみたいですね。夕暮れ時、暗くなる熊野の山々を背景にゆらゆらと燃える様子はなんとも神秘的な光景でした。来年は僕も参加して集落で一番高い送り火をやりたいと思います!集落で一番大きい送り火を焚くという職員さんのお家にお邪魔しました。設置するのも2人がかり。だたし、今年はこれでも小さい方らしいです⁈また話を聞くと、迎え火は3本も松明を玄関先に並べるそうで、その光景も格好良いそうです。また最終日の朝には川まで降りておにぎりを乗せた船を流すそうです。これはご先祖様のお弁当だそうで、こちらも来年こそは見てみたいなと思っています!土壌実験の経過さて、実験の話へ移ります。以前紹介した土壌実験を開始してから1か月が経過しました。今のところ、枯死したのは2~3個体/500個体なので生存率に差は見られません。そこで葉の枚数で影響を評価してみることにしました。結果が下の図になります。図1:葉の枚数の経過観察 8/27注意して頂きたいのは、初期値を記録していないので、今後の葉の枚数の変化で土壌処理の影響を評価する必要があることです。それを念頭に、現時点のデータだけで統計解析を行ってみました。すると、アセビで殺菌済み土壌の方が有意に葉の枚数が多くなっていました(他の種については有意差は、地点、土壌処理の両方において有意差はありませんでした)。今後の観察で、この差が広がっていくかどうかが気になるところです。図2:2020年秋調査での人工林30m地点と5m地点の樹高差を示す指数。プラスの値が大きいほど30m地点の方が樹高が高く、マイナスに大きいほど5m地点の個体の方が樹高が高いことを示す。このアセビですが、昨年度の毎木調査の際に人工林内の5m地点と30m地点で、平均樹高差が比較的大きかった種です(図2)。つまり、僕の仮説が正しければ、母樹集団である天然林の天敵の存在を強く受けている種ということになります。一方で、マンリョウは出現頻度が低かった種、ヤマグルマは出現しなかった種です。場所特異的な土壌のフィードバックが働いているかどうかも今後の変化次第で明らかになるかもしれません。今後の経過が楽しみですね!今後の実験の予定9月の中旬から土壌実験と平行して、間伐施業地での秋季毎木調査を行います。この調査では、春に確認された実生を追跡調査し、生存率や成長量を明らかにします。Seiwa et al. (2008)によると、梅雨時は土壌由来の病害による枯死が発生しやすいそうので、その前後の調査結果を比較することで土壌の効果が見えやすくなっている可能性もあります。さらに、皆様にご協力いただいた間伐の効果にも注目です。間伐した幅によって成長量や生存率に差が生じていると、最適な伐開幅の検討へつながりやすいだけでなく、「土壌ー植物フィードバックと光環境の関係性を見る」という次の実験にもつながります。調査が終わるまで何とも言えませんが、非常に楽しみな調査であることには間違いありません。恐らく結果をお伝えするのは11月ごろになりますが、どうぞお楽しみに。


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雨続きで折角の夏景色が楽しめないのが残念ですが、側溝からあふれた水たまりに、カエルやアカハライモリ、サワガニが歩いているのを見ると、「まあ良いか」と許せてしまいますね。新しい楽しみ山へ行く機会がないので最近は官舎にいることが多いのですが、そんな中、新しい楽しみが出来ました。木工場のごみ箱から珍しい樹種の木片を集めることです。この1週間は木材ストックの整理があったので、いつも以上に沢山の樹種が入っていて毎日ごみ箱に通っていました。余った木材の一部頑張って集めた木片は見た目の違いを楽しむのも面白いですが、切りたてほやほやでこそ楽しめるのが「香り」です。木の香りと言えば、ヒノキやヒバの香りが思い浮かぶと思いますが、実はそれだけではありません。そこで今日は、ごみ箱に入っていた種や、木工場のストックの中から「個人的に好きな香りのする木Top10」を紹介したいと思います。※なお全て個人の感想です。第10位:クスノキ(楠/樟) 樟脳or八つ橋(ニッキ味)の香り第10位はクスノキです。おばあちゃん家の箪笥の匂い、もしくは八つ橋(ニッキ味)の匂いがします。それもそのはずで、クスノキは殺虫剤や防腐剤として使われる樟脳の原料になります。この特徴から古代には船材や仏像の材に良く用いられてきました。また、クスノキの仲間のニッケイの根っこから作られる香辛料がニッキになります。因みに料理に使う月桂樹のローリエもクスノキの仲間です。クスノキは巨木になりやすいことから各地でご神木として祀られています。1988年に当時の環境庁による巨木調査で、日本一の巨木と認定された鹿児島県姶良市の「蒲生の大楠」もクスノキです。 そういえばトトロが住んでいる杜のご神木もクスノキですね。 照葉樹林帯の文化には欠かせないものとなっているようです。第9位:シキミ(樒) 線香の香りシキミは線香の材料になる木で、独特の神秘的な香りがあります。しかし、樹木全体にとてつもない毒性を持っている種でもあり、特に実は植物で唯一劇物指定されているそうです。八角に似ているので誤って食べてしまう人がいるそうですが、間違えても口に入れないようにしましょう。その毒性や香りから動物が毛嫌いするので、昔の人も不思議な種だと思っていたのか、西日本を中心に仏前やお墓にお供えされる宗教色の強い樹種になっています。死者の枕元にお供えされるのもこのシキミの花で、特に熊野地方では、死者がそのシキミを持って那智勝浦のお寺に鐘を突きに行くという伝承があるそうです。どことなく神秘的な種ですね。第8位:スギ(杉) もっとも馴染深い?8位はスギです。日本人には馴染が深すぎて説明するまでもないですが、少し甘くて落ち着く良い香りですよね。普段はほのかに香る程度ですが、蒸すと香りが濃くなります。料理用の杉板を試された方は、その香りのよさに驚かれたのではないでしょうか?上の写真は日本各地のご当地スギですが、場所によって年輪の幅や模様が異なっているのが分かります。中でも一般に有名な屋久杉は、屋久島に自生する樹齢1000年以上の個体のみが名乗れるブランド名です。屋久杉は非常に成長がゆっくりなことで知られていますが、その成長速度ゆえに、年輪もとても密なのが分かります。加えて、多湿で腐朽菌の影響を受けやすい環境であるため、その発生を抑制する樹脂を多く含む個体が生き残りやすかったと考えられています。樹脂が多くなるとそのぶん香りも豊かになるのか、買ってから3年以上経った屋久杉の箸は未だに良い香りがします。第7位:カゴノキ(鹿子の木 ) 小学生のとき流行ったペンの香り今回の整理で初めて知った樹種です。香りは、生け花に近づいたときにふと感じる程度の爽やかな香りでした。濃いときは、小学生の頃に流行ったソータの匂い付き蛍光ペンを、隣の席の友達が使っているときの香りがします。カゴノキはクスノキ科なのですが、クスノキの仲間は概して匂いを持つ種が多いそうです。樹皮にできる模様がシカの子に似ていることが、名前の由来になっており、太鼓の胴や器具材、船材、建材など幅広い用途があります。第6位:キハダ(黄肌/黄檗/黄膚, etc.) あのコーンスープの香り続いてはキハダです。これはファミリーレストランのお代わり自由のコーンスープの香りですね。和歌山に来てから一度もファミリーレストランに行っていないので、とても懐かしい気分になりました。ミズナラも似たような匂いがしますが、キハダの方がよりコーンスープの傾向が強いと思ってます。キハダはその名前の通り、材の外側、樹皮の直下が鮮やかな黄色です。立木の樹皮を削ってこの黄色い部分を舐めると苦い味がします。この部分が生薬の「黄柏 」の原料になり、胃腸薬となるほか、お酢と混ぜて湿布にもなり、重宝されてきました。また、黄色の染料やアイヌの調味料としても利用されたり、ちゃぶ台や茶箪笥などに利用されるなど用途が他分野に渡っています。第5位:ヤマザクラ(山桜) 杏仁豆腐‼第5位はヤマザクラです。香りはなんと、杏仁豆腐の匂いです。ヤマザクラは日本にある桜の中でも最も有用だと言われていて、反りや狂いが少なく、強度もあり耐水性に優れ、虫害にも強いうえ、加工性が高いという優等生です。木管楽器や鍵盤楽器の外装、そろばん玉や漆器の木地などの道具類によく使われます。人気が高いので、ヤマザクラで出来た家具は高級品として扱われています。普段は花ばかりに目が行ってしまいますが、材としても優秀とは…にくいやつですね。第4位:ヒノキ(檜) お風呂こちらも比較的馴染が深い種ですね。言わずもがな、ヒノキ風呂の匂いです。個人的に、スギは落ち着く実家のような香りですが、ヒノキは旅先で優雅な休暇を謳歌しているような気分になります。用途は本当に様々ですが、特徴として水湿腐蝕に強いのでお風呂道具によく使われます。また、強度や耐久性が高いうえに加工しやすいので、古くから社寺の建築用材に最適な最高品質の材として利用され、今でもスギよりずっと高い値がつきます。スギとヒノキの見分け方は、葉っぱがあれば一発です。握ってみて痛かったらスギで、痛くなかったらヒノキです。葉っぱが見えない場合は樹皮で見分けます。縦に細かく割れているのがスギで、紙のように薄く長くはがれているのがヒノキです。樹皮もなく、材だけの場合は幾つか方法があるそうです。1つ目は年輪。スギの方がはっきりと年輪が浮かびあがるのに対し、ヒノキは控えめです。また、心材と辺材(中心部と周縁部)の色の差がはっきりしているのもスギで、ヒノキはそれほど強く出てきません。加えて、全体的に赤っぽいのがスギで、白っぽいのがヒノキです。第3位:ヤブニッケ(薮肉桂 ) シナモンの香りヤブニッケイもクスノキの仲間です。この種はシナモンの匂いがします。因みに葉っぱはコーラの匂いがします。クスノキのところで紹介したニッケイに似ていることから、ヤブニッケイと名付けられました。ニッケイは樹皮からシナモンが作られますが、このヤブニッケイはニッケイほど香りが強くないので、香辛料には用いられません。しかし濃すぎないシナモンの香りが逆に心地よいです。材の用途は調べてみましたが、これといったものが見当たりませんでした。強いて言うのであれば、研究林ガチャポンの中にヤブニッケイのマグネットが入っているので、是非回してみて下さい!笑第2位:クロモジ(黒文字) 生八つ橋の食感のような香りクロモジもクスノキの仲間です。生八つ橋の食感ような甘い香りの中に、すっきりとする爽やかさがあります。その上品な香りから高級楊枝の材としても利用されるそうです。ちょっと調べてみると、最近ではお茶や石鹸に成分を利用している例もあるそうです。樹種名は樹皮にできる特徴的な模様が遠目から見て文字に見えることに由来するそうです。僕の調査地でも30㎝ほどの個体がちょくちょく出てきました。小さいときは写真のようにふっくらとした可愛らしい葉っぱですが、大きくなるとスタイリッシュになります。成長段階で葉っぱの形が変わってくる種は、毎木調査の時の難敵の一つです。第1位:コウヤマキ(高野槇) わらび餅の中に森を詰め込んだような香り生えある第1位はコウヤマキです。香りの良い例えが思いつかないのですが、森をわらび餅の中に詰め込んで、きな粉を振りかけたような絶妙な香りです。目を閉じて嗅げば、まるでコウヤマキに包み込まれたような安心感が湧いてきます。一押しです!コウヤマキは1科1属1種で日本にのみ生息する変わった針葉樹です。福島から九州に分布していますが、名前にあるように、和歌山県にある高野山付近では特にたくさん生えてます。香りだけでなく樹形も素晴らしく世界三大美樹に選ばれており、以前にも紹介した通り東京スカイツリーのモデルにもなっている木です。材はヒノキに似て水気に強いので、お風呂道具や水回りに使われることが多いです。ただし、ヒノキよりも香りは控えめなのでお櫃などの食事道具にも使われることがあります。番外編1:キササゲ(木大角豆 ) 北海道豊富温泉(原油)の香りここからは番外編です。まず一つ目がキササゲ。キササゲは今回香りを嗅いだ種の中でもダントツでユニークな香りがしました。どんな香りかというと、北海道にある豊富温泉の香りです。豊富温泉は世界的にも珍しい原油を含んだ温泉です。この温泉に浸かった後は体からガソリンスタンドのような香りがします。このキササゲはまさに、豊富温泉に浸かった後の香りがしました。材は流通することが少ないそうなので、用途を調べてもあまり出てきませんでした。ただ、実を食用にしたり薬として用いることがあるようです。番外編2:ケヤキ(欅/槻) 強烈なモワモワお次はケヤキ。東京でも街路樹として大人気なので割と馴染がある木かもしれませんね。街路樹として立っているときは全く分かりませんが、ケヤキ材もとても強い特徴的な匂いがします。モワモワとした発酵したような香りです。実は今回の記事を書く直前、このケヤキで出来た器に他の種の木片を入れといたのですが、記事を書こうと思って取り出してみると、全部ケヤキの匂いになっていました(笑)。それほど強烈な匂いを発しています。材自体は日本を代表する広葉樹材で、家具や建材、日用品に至るまで使われており、高級品として扱われます。耐久性と保存性に優れているうえ、美しい木目と光沢があり人気を博しています。番外編3:ヒイラギ(柊) 絵具?次はヒイラギです。節分の時にイワシの頭と一緒に飾る植物ですね。こちら、切ったときに絵具の匂いがしました。ただ、職員さんには同感してもらえなかったので、気のせいかもしれません。材は儀式の道具や、小物・印鑑の材として利用されることがあります。ヒイラギの属するモクセイの仲間は木口面(丸太を輪切りにした断面)に特徴的な模様が出てくるそうです。番外編4:イチイ(一位/櫟) 鉛筆の香り最後はイチイです。僕はこの樹種から匂いを感じ取れなかったのですが、職員さん曰く鉛筆の匂いがするそうです。どうやら鉛筆の軸用材として利用されていた樹種のようで、その記憶が結びつくのだそう。また、ネットでさらに調べてみると、香木として知られる熱帯の白檀に似た香りを持っているらしく、見た目も似ていることから人気が高いそうです。材は仏壇や硯箱など和家具に使われることが多いそうです。いかがでしたでしょうか?普段は加工されて日にちが経った木に触れることがほとんどだと思うので、あまり木の香りを感じることは無いかもしれません。しかし、切りたてほやほやの木は、これほどに個性的な香りがします!もし木材を加工する場面に出くわしたら、是非匂いにも注目してみて下さい。木材の楽しみ方が増えるかもしれません!参考文献・木材大事典 村山忠親 著, 村山元春 監修, 誠文堂 新光社, 2013.7なおこの記事の作成にあたり研究林職員の小川さんの多大なご協力を頂きました。ありがとうございました!


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こんにちは。7月も終わりいよいよ8月へ突入ですね!平井も蝉騒が本番となってきました。さて今日は以下の3つの内容をお話しします。1. 研究林ガチャガチャ2. 土壌操作実験3. 新型造林用林業機械研究林ガチャガチャ登場!和歌山研究林の知名度アップの一環として、研究林産材を利用したガチャガチャが登場しました!色々な樹種を利用したマグネットやストラップなどが入っていて、その樹種の詳しい説明も載っています。設置場所は古座川町内の道の駅です!古座川町にいらした際はぜひお試しください!記念すべき一回目は先生のお子さんが回しました!職員さんたちが見守る中ガチャガチャにお金を投入し、ハンドルを回します。はたして何が出るか…枝のストラップが出てきました!50個中2個しか入っていないレアアイテムであることを告げられると、お子さんは大喜びで飛び跳ねていました笑。僕も全部なくなってしまわないうちに試しに行こうと思います!土壌操作実験先週、殺菌したところまでご紹介しましたので、その続きからお話したいと思います。殺菌した森林土壌と殺菌しない土壌を準備したところで、ポット苗づくりに進みます。まず準備した森林土壌に赤玉土を混ぜ込み菌類以外の土壌構造の均質化を行います。こうすることで、もし結果に違いが出てきたときに菌類の影響だと言いやすくなります。赤玉土を混ぜ込んだ森林土壌(左)とそれを入れるポット(右)赤玉土を混ぜ込んだらいよいよ育てていた実生を植え替えます。今回実験に用いるのは種子を確保することが出来たアセビ・ヤマグルマ・マンリョウの3種で、5月28日に播種し丁度2か月程度育てたものです。アセビは馬酔木と漢字で書くことからも分かる通り、毒性のあるツツジの仲間です。調査地では広く確認されている種でもあります(ただ萌芽が多すぎて毎木調査がきつい…)。ヤマグルマは広葉樹なのに針葉樹だけに見られる「仮道管」という組織を持っている変わった種で、崖に生えていることが多い種です。マンリョウは冬に赤い実をつける小低木でセンリョウなどと共に縁起物の植物とされています。これらの3種を発芽用のポットから抜き取って表面を軽く殺菌した後、植え直していきます。1個1個がとても小さいので、なかなか神経を使う作業でした。1ポットに3つずつ植えていき全部で180ポット作っていきます。完成したポット殺菌した実生を植えている様子植え終わったポットは温室に持っていきます。温室は平井集落ではなく、少し下流の大川集落と言うところにあります。苗畑や実験用の土地もあり、一部ではヤナギを使った多様性に関する実験が行われているところです。この季節の温室は灼熱地獄になっているため、水分補給と休憩を挟みながらの作業でした。温室畑の準備はまず雑草を引っこ抜いて、温室の地面とポットが触れないように掘り下げます。その上に殺菌した板を渡してポットの台を置き、最後にポット苗を入れます。ポットの位置は処理ごとに環境の偏りが出ないよう事前にランダムな位置を決定しており、その配置に従って並べていきます。温室の環境整備の様子最後に寒冷紗をかけて直射日光を遮ります。温室は林床と違い日光を遮るものがないので、実生が日焼けしてしまう可能性があります。そうなった場合、土壌菌類以外の原因で枯死してしまうことになるので、防ぐために寒冷紗をかけてあげます。寒冷紗をかけて直射日光を防いでいるところここまで行ったら結果を待つのみです。1週間おきに観察して生存率を確認していきます。どのくらいの期間で結果が出てくるかは明言できませんが、面白い結果が出てきたらまた報告したいと思います!新型!造林用林業機械さて話題は変わって林業に関する面白いニュースがあったのでご紹介します。今回の話題は林業機械です。記事はこちら:荒れ山「ジョージ」にお任せ、キャニコム 造林機拡充 日経7/15林業機械というのはその名の通り林業に用いられる機械のことで、農業で言うところのトラクターやコンバインのようなものです。林業で有名なものにはハーベスタやフォワーダーがあります。ハーベスタはその名の通り、収穫するときに使う林業機械で、立木を切り倒して枝を除去し輪切りにして運びます。ほとんどの作業がこの一台で済んでしまう超高性能な機械です。フォワーダーは玉切りにされた材をトラックが運び出しやすいところまで持っていく機械です。他にも、伐倒と集積のみ行うフェラーバンチャや玉切りと枝払いを行うプロセッサ、簡易的な架線集材が可能となるタワーヤーダーなどが開発されています。急傾斜地が多いことや、機械を効率的に使うのに初期投資が嵩むことなどから機械化が遅れている日本ですが、徐々に林業機械は広がりを見せており今後の活用が期待されています。完全に余談ですが、林業用高性能機械のハーベスターを運転できるゲームがあります。いったい需要がどれほどあるんだろう…と困惑しながらインストールしてみると、意外にもよく出来ていて伐倒、枝払い、玉切りの過程が全て体験できびっくりしました。興味がある方は一度試してみると良いかもしれません⁈ここまでのお話で勘の良い方はお気付きかもしれませんが、既存の林業機械は伐採時に使うものが大部分です(※北海道等一部地域では造林用のものも利用されているところがあります)。伐採した後は資源の循環利用や治山の観点から再造林する必要がありますが、再造林に必要な機械がほとんど開発されてきませんでした。造林に必要な作業は伐倒や材の運搬よりも人手と体力を必要とする作業でした。林業はこの20年で就業者数が半数になるほど人手不足が深刻で、人手と体力が必要とされる作業の機械化は重要な課題です。 新型造林機械のイメージ図そんな中、福岡県で農業機械を製造している筑水キャニコムが、多目的造林機を国内で初めて開発し販売を開始しました。この新型造林機は、下草刈りや切り株の粉砕を行えると言います。35度の斜面を上り下りすることもでき、急峻な地形の日本でも運用が広がる可能性を秘めています。2022年にはドローン画像と連動させることで、遠隔操作できる無人造林機の販売も目指しているようです。また、植栽する苗を植えるための穴を開ける機能の開発も進められているといいます。 和歌山研究林で行われたかつての造林作業の様子拡大造林期の森林が伐期を迎えている今、伐採された跡地での造林の需要も増加しています。コストがかかることや、森林蓄積が過去に類を見ないほど高まっていることを理由に、伐採ばかり行って再造林を放棄していると50年、100年後の森林資源が無くなってしまいます。また気候変動で記録的豪雨が増加する中、治山の点からも再造林の意味が高まっていくのではないでしょうか?そういった意味で、今回の新型造林機械の活躍に期待したいですね!参考文献林業を支える高性能林業機械 林野庁HP 閲覧日2021年7月30日荒れ山「ジョージ」にお任せ、キャニコム 造林機拡充 日本経済新聞 7月15日