二つ前の活動報告で、『たのめ農法』についてお伝えしました。
https://camp-fire.jp/projects/612589/activities/429786
本文でもお伝えしていますが、農薬を使わない手法は経営が成り立たなくなるリスクが非常に高いため、ここだけは死守したいというところを独自に決めています。
それが、ワインを作る原材料であるぶどうの房に、一切の薬剤をかけないこと。
それにより美味しくなるとか、健康に良いとか、通常の栽培方法に比べてより良くなる、という言い方は『優良誤認』という理由で『無農薬』という言葉が広告宣伝で使えないのと同じ理由で本来は言ってはいけない状況です。
では、一切の薬剤をかけないとどういうワインになるかですが、まず、私は長野県塩尻市主催のワイン大学にて栽培や醸造を学びましたが、その中で、
「人間の舌は、水泳プールの中に一滴垂らしただけでも、その物質を感知できる能力を持っている」
というお話がありました。50mプールとして、2000立方メートル=2000トンの水の中に一滴です。
さて、ワインを醸造する時には、収穫したぶどうをタンクの中に入れて発酵させていきますが、よく1トンくらいのタンクが使われます。その中にはぶどうの房を仮に100gとしたらおよそ10000個の房が入ります。これで約1000本のワインができます。
実は、ワインを醸造する過程でぶどうは一切水洗いなどはされません。たくさんの収穫ケースに集められたぶどうは、そのまま発酵の工程に進んでいきます。ぶどうの糖分を微生物である酵母が食べてアルコールを輩出することでお酒になっていきますが、アルコールは消毒殺菌機能がありますので、洗わずとも通常は身体に害を及ぼすことはありません。
しかし、今でこそ『たのめ農法』で栽培しますが、私も以前有機薬剤をぶどうの房に散布してワインを作りました。その際、ぶどうの房にそれはもうバシャバシャかけるのです。葉っぱの裏や房の粒の間も病気が発生しやすいですので、隅から隅までしっかり散布します。
有機農薬も化学農薬も、現在使用されている全ての薬剤は、人間に害が及ばないように用法用量が決められていますので、その通りに使用すればそれでワインを作ったとしても一般的には身体に害は無い、と言えます。
しかし、私自身の個人の感覚ですが、有機薬剤とはいえバシャバシャ薬剤をかけた房でそのままワインを作ることに、とても罪悪感を感じました。薬剤を浴びたら身体に悪いですので防護服を着ながら、人が口に入れるぶどうにその薬剤を散布している様子をワインを飲む人が見たとしたら、正直、良い気分になるわけがないと。
そしてさらに、ぶどうの1房についた薬剤は一滴どころではありません。
もちろん時間が経てば紫外線で分解されたり雨で流されたりもしますが、2000トンのプールに一滴でも感知できるのに、10000房が入った1トンタンクに一体何滴入っているのか、きっと薬剤の風味がワインにも多少なりとも影響を与えているのではないか、と思いました。
日本のほぼ100%のワインぶどうには薬剤が散布されます。そうしないと通常の農法ではほぼ100%ぶどうはできませんので仕方がないことです。
日本のワインのほぼ100%がそういうワインである中で、Tanomeワイナリーでは房には一切の薬剤をかけない、というところを絶対に譲れないラインとして定めました。
これがTanomeワイナリーのワインの最大の特徴です。