10代に手紙を届ける本屋「暗やみ本屋ハックツ」を運営しています。二代目店長の原奈々美です。 私が営業するのは、月1回だけ開く本屋。入店できるのは10代の若者だけ。並ぶ本は、地域の大人が若者に寄贈した本。部屋は真っ暗で、懐中電灯がないと本が選べない。・・・・・ 大学3年生の冬、私は就活に息詰まっていた。自分が何をしたいのか、いくら考えても答えが出てこなかった。 でも、自分がなぜ進路を選べないのかは、自分がよく分かっていた。高校も大学も推薦入学で、受験を経験したことがない。ずっと自分の進路を決めることから逃げてきたから、当たり前の結果だった。 そんな時、あるイベントで出会った西田さんの本屋「ツルハシブックス」のことを思い出した。本屋に行って西田さんに会えば、自分が進むべき方向を教えてもらえる気がして、直感的に新潟行きを決めた。・・・・・畑に行くつもりはなかったけれど、地元の方に案内されて朝ごはん用の野菜をもらったり。 寺泊のお魚市場まで、おじいちゃんの食材調達に着いて行ったりした。旅を終えた新幹線のなか、私は本の裏に書いてもらった西田さんからのメッセージを読み返していた。 「自分の未来は、探すんじゃなくて発明しろ」私は少しがっかりしていた。新潟に就活の答えが転がっていると思っていたからだ。 でも、訪れる前よりも自分の進路を悲観する気持ちは、不思議と小さくなっていた。 進路選択のヒントこそ得られなかったけれど、手応えのある収穫があった。「自分の直感を信じて行動すると、新たな道が開けてくる」という気づきだ。宿も移動手段も確保しないままの旅は初めてで。その無計画さが、偶然の出会いを引き寄せ、想像以上に充実した旅だった。 ・・・・・ その数ヶ月後、東京で「暗やみ本屋ハックツ」プロジェクトが始まるから一緒にやらないか、と西田さんから連絡をもらった。 直感的に面白いプロジェクトになると感じた。就活も卒論も佳境を迎えていたが、自分に何ができるのかはあまり考えずにOKした。 活動を始めた動機はほとんど後づけ。本が特別好きだったり、中高生に強い思い入れがあったわけでもなかった。気づいたら本屋になっていた。 あの時の自分が直感を優先してくれたから、今がある。そう思うと、自分の感性って、捨てたもんじゃないのかもしれない。 将来、何に繋がるか、考えて進路選択をする。逆算型の人生設計は、中高時代の自分にはできなかった。自分が何者になるのか、全くイメージできなかったからだ。 進路選択が憂鬱なあなたにこそ、自分の直感を信じて動いてみることをお勧めしたい。そのためには、感性を磨くことが大切だと思う。 自分と同じ、あるいは違う価値観をもつ人と会ってみる。学校や部活以外の同世代と話してみる。地域で出会った、年齢の離れた大人と話してみたらどうだろうか。・・・・・ハックツでスタッフをしてくれていた中学生の女の子を、外部のイベントに誘ったことがあった。イベントでは、ハックツ発起人の西田さんから、自身のキャリアについて聞く時間があった。一時期、定職に着かず複数の仕事で生計を立てていたことを話してくれた。それを聞いた彼女は、そんな生き方がこの世にあるのか…!と、大変衝撃を受けていた。きっと彼女の周りには、「企業で働く」以外の選択をとる大人が少なかったのだと思う。そうやって、固定概念や価値観が揺さぶられると、自分が何を大切にして生きているのか見えてくる。本屋を開くと、そうした経験が自然とできる。本屋を使って、感性を磨いてみる。すると、新しい自分が見えてくるかもしれません。
2016年4月。神奈川県茅ケ崎市・茅ヶ崎市美術館。そのエントランスで、ひとつの展示が催されていました。「あなたが未来に託す思い展」茅ヶ崎市の農園付コミュニティスペース「REVENDEL」を運営する熊澤さんの企画でした。2015年の12月に知り合い、暗やみ本屋ハックツのアイデアを話したところ、ハックツをやろうとしていた熊澤さんと学芸員の藤川さんのコラボで展示が実現しました。「ハックツ」そのものがコミュニケーションのデザインになる。そう思いました。熊澤さんの言葉が胸に刺さりました。・・・・・いろんな仕事の人をただ集めたわけじゃない。この人は、という人に、声をかけた。自分の蝋燭を燃やし続けている人。次世代に何かを紡いでいる人。そんな気になる10人をまずは思い浮かべた。~~~今回、本当に僕からの意図が伝わった方は、本当に大切な1冊しかない本(買えない)を手放してくれています。しかし、そういった方に限って、僕が預かる際にお礼を言われました。『自分の本当に大切にしていた気持ち、その時の情熱が蘇ってきた。いい機会をありがとう』と。手放したようで、得ているのです。実は本を手放す側も貴重なワークを体験してるのです。~~~「未来に託す想い」を、たった1冊の本にメッセージをつけて贈る。57人の思い。57冊の本。・・・・・「本の展示」を行う。ふつうは美術館ではなくて、図書館だろうと思います。この茅ヶ崎では、図書館ではなく、美術館で「展示」するところが大きかったように思います。美術館は、観るところであり、感じるところだからです。図書館は、本を借りるところだから、展示だけでは機能を果たしません。忘れられない風景があります。せっかくだから、と常設展を見て、出口からエントランスに戻ったときのこと。まぶしかったのです。光を放っていたのです。もちろんそれは、エントランスの建築デザインが光をうまく取り込んでいたから、という理由もあるだろう。でも、僕には、確かに光って見えたのです。本棚が、1冊1冊の本たちが、躍動しているように思えたのです。今回の「かえるライブラリー」の表現で言えば、「本が歌を歌っているよう」だったのです。熊澤さんも言っていました。「本が集まった後、段ボールに詰めていたのだけど、そこからエネルギーが出まくっていて、夜寝るときに気になって眠れなかった。早く美術館に持っていきたかった。」そんな2016年4月の茅ヶ崎市美術館での展示を受けて、その後、2017年には奈良県立図書情報館を舞台に奈良女子大の学生たちが実施。2018年には茨城県の明秀学園日立高等学校でも実施されました。いずれも、商店街を歩き、「10代に贈りたい本」をヒアリングし、本を集めて展示しました。本は読むもの。本棚は感じるもの。茅ヶ崎のように、たくさんの思いが詰まった本を本棚にならべることで、「感じる」本棚ができていきます。
西田卓司です。絵本をつくりました。 「ちいさなゆうびんせん」(原作:にしだたくじ 作/絵:たかやりょうこ)できました!届きました!手製本でひとつひとつ手作りです。手元に15部ほどありまして、500円で手売りする予定です。「APARTMENT BOOKS」さんに置いてほしいなあ。絵本のテーマは「手紙」を届ける。2015年の暗やみ本屋ハックツ立ち上げのとき、サンクチュアリ出版の金子さんと一緒にトークイベントキャラバンをしていたときに気づいたことがあります。その本が「手紙」だったとき、本が売れる、ということです。2011年7月。ツルハシブックス開店から数か月たった夏にオープンした「地下古本コーナーHAKKUTSU」。地域の人から寄贈してもらった古本を、29歳以下の人だけが入れる地下室に置き、宝探しをするように本を探してもらうコーナーをつくりました。「ハックツ」できるのは1日1冊だけ。販売価格は10代が200円、20代が300円、中学生高校生は100円でした。世界の広さを届けたいのは、誰よりも中学生高校生でした。僕自身がそうだったのですが、図書館で借りた本をちゃんと読まなくて、気がつくと2週間の期限が過ぎている、みたいなところがありました。中学生高校生に本を読んでもらうには、100円でもいいから「購入」するということが大切だと思ったのです。2015年にスタートした「暗やみ本屋ハックツ」は、関係者の反対を押し切って20代以下ではなく、「10代限定」にこだわりました。1冊100円。コンセプトは、「10代に本を通じて手紙を届ける」。本は、月1回の開店日に合わせて行われた夜の部「10代に贈りたい本」読書会で集めました。「その本、まだ新刊書店に山積みですよ」と心の中でつぶやくような、ビックリするくらいの新刊を寄贈してくれる人もいました。このお正月に、素敵な本を読みました。「本を贈る」(三輪舎)校正、印刷、製本・・・たくさんのプロフェッショナルが誇りを胸に、本をリレーしていました。「こんなにもたくさんの人の思いのリレーを経て、いま、目の前に本がある。」そんなことを実感できた1冊となりました。「かえるライブラリー」は、いま、目の前にきた、その本の、その先を「素人」が作っていく企画だと思います。すでに本は贈り物なのだけど、その贈り物を、さらに次の人に贈りたい。そんな「手紙」を届けるようなものだと思います。冒頭の絵本に僕が帯を書くとすれば、「僕たちは、手紙を届けるために、旅に出たはず。」かな。
「本の処方箋」というコンテンツがあります。(写真は「シーナと一平」(椎名町)での様子)「問診票」を書いてもらい、話を聞きながら、3冊ほどの本を提案します。1つ目が悩みにストレートで応える本コミュニケーションに悩んでいればコミュニケーションの本。2つ目が悩みに対して変化球で応える本こういう見方もできるんじゃないか?っていう本。3つ目が話とは全然関係ないけど、話していて頭に浮かんだ本。夏の長野・木崎湖での「アルプスブックキャンプ」では好評の企画で4年連続で処方箋をやっていいて、白衣や聴診器といった小道具も用意しています。僕がこのコンテンツの本当の力を知ったのは、ツルハシブックスでイベントをやっているとき、初めて来店したお客さんに声をかけたときでした。大学4年生。就職活動中。「いま、本の処方箋っていうのをやっているんで、よかったら」当然、就職活動の悩みから話が始まりました。ところが、その後、彼女の口から出た言葉に驚きました。「お姉ちゃんと違って、私は母から愛されていない気がするんです」衝撃を受けました。いま、会ったばかりの本屋の店主に、そんな悩みを相談するだろうか。いや、何より、本屋のおじさんにそんな話をしても、解決するはずがない。僕はただ、話を聞いていました。たしか、1冊の本も処方していません。(まさか「嫌われる勇気」(岸見一郎)とかを差し出せないでしょう。笑)「すごい。」と思いました。「本の処方箋」がすごいって。初対面の人にそんなにも話ができるっていうのがすごい。これは、「オープンマインド」をつくるコミュニケーションデザインとして非常に優れているツールだと思いました。人に悩みを話す。その悩みが重ければ重いほど、根源的であればあるほど、話しづらい。まわりの友人には気楽には話せない。ところが、「それを聞いて本を選ぶ」と言ってきた本屋の店主には、それを話すことができる。それは、本くらいでは、その悩みは解決するはずがないと思っているから。気分が楽なのだ。もうひとつ。「旅する図書館」企画で一緒だった岡島さんに言われて、気が付いたことがあります。「そうやって若者と向き合ってるんですね。」「!!!」「向き合う」という言葉への違和感。気づいた。向き合ってない。僕は向き合ってなかった。話を聞いているフリをしながら、もう半分の脳は、「何の本にしようかなあ」って本を選んでいる。「本の処方箋」のとき、2人の視線というか感覚は本棚のほうを向いている。それが重要なのではないかと思いました。「本の処方箋」というコミュニケーション・デザインのチカラ。1つ目に、その人間関係がインスタント(その場限り)であること2つ目に、その悩みが本くらいでは解決しないと思っていること3つ目が、向き合わないで本棚の方向を見ていることこの3つによって、ホントの悩みが引き出せる。それが「本の処方箋」のチカラではないかと思います。「かえるライブラリー」でもいろんな人がそんなことをやっていけたらいいなあ。「愛とはお互いに見つめ合うことではなく、いっしょに同じ方向を見つめることである」(サン・テグジュペリ)
「生きるように働く」(ナカムラケンタ ミシマ社)求人サイト「日本仕事百貨」を展開するナカムラケンタさんの1冊。ケンタさんがどんな種に気づき、どんな水やりをしてきたか。そんなことが冒頭から書いてあります。今日はその中から冒頭の西村佳哲さんの話を。西村さんの子どもの頃の話が、めちゃめちゃ面白いです。!!って思って、そこに出かけていく。衝動をカタチにしようとする。印象的だったフレーズ。「漠然とわかっているけど、まだ思考はおいついていない。」「衝動でこれ書かないと死ぬ、みたいになる」ああ、西村さんって感覚的な人なんだなって思いました。自分の中に芽生えた「衝動」が種になって、そこに水やりをするんだなあって。ケンタさんのやり方は、大学時代の建築の現場で感じた「違和感」的なものに水やりしていくような感じだし。でも、もしかして、そういうものなのかもしれないなと。「衝撃」や「違和感」をキャッチして、そこに水をやる。そうすると、その種がいつのまにか芽吹く。そうやって仕事や企画ができていく。そういうことなのかもしれないなと思いました。僕は、自分がもらった「衝撃」を、本屋やライブラリーという場で誰かに手渡したいなと思っています。「かえるライブラリー」ではたくさんの人が関わってくるので、その人たちが受け取った「衝撃」や「違和感」も一緒に。僕はこの本を、高崎市の「REBEL BOOKS」で買ったのだけど、どこの本屋で買うかってとても大切だなあと思います。その「衝撃」みたいな「違和感」みたいな本人の中でも言語化されなかった何か。そういうのを肌感覚で感じられる本屋。(そういうのをリアルメディアっていうのかもしれない)そんな本屋が本を通して、「衝動」や「違和感」を感じたり、本に感性を磨かれることによって、その人が日常生活で「衝動」や「違和感」を感じられることができるようになる。そこからまた、その種への水やりが始まって・・・そういう物語が始まる場に各地の「かえるライブラリー」がなったらいいなあ。