こちらは、本プロジェクトの責任を負っております、株式会社リドルです。この度、リターンの返送時期が確定しましたので、ご報告させていただきます。リターン品はこれより2ヵ月の製造期間を経て、海外工場より配送元へと送られ、その後、支援者の皆さまの下へ、順次の配送を開始いたします。そのため、2023年2月下旬には、皆さまのお手元にお届けできる見通しです。度重なるスケジュール遅延の中、永らくお待ちいただきまして、誠にありがとうございました。今後とも「有害超獣 ボードゲーム化プロジェクト」をよろしくお願いいたします。
こちらは区役所の情報編纂室です。全部門に向けて、新たな有害超獣個体の簡易対応手順を発行しました。このマニュアルは、全ての職員が閲覧可能です。======================================= ◆PB-107簡易対応手順◇名称ユウユウカンエイ◇発見者百瀬 潤 (ももせ じゅん) 博士◇危険度不明◇簡易対応手順・現出時、当該区域における全ての超獣の解体作業を中断してください・距離、高低差を問わず、当該個体の正面に位置しないよう注意してください・区民向けのサブアラート「葬儀の一時中断」を実行してください=======================================【霊魂、優游涵泳と】「魂は物質として実在する」人間の死後、身体から抜け去るという21gの「何か」について、ここで論じることはしない。しかし、こと我々が有害超獣と呼ぶ存在については、生前と死後、確かな変化が現れる。抜け去る質量、およそ全体重の約6%。70kgの人間で例えるなら、そのうち4.2kgの重量が、理由不明のまま消失する。これを指して「魂」と呼ぶ学者はいないものの、しかして現状、この減量の正体を言い当てることもまた不可能である。閑話休題。ユウユウカンエイと呼ばれる超獣がいる。現出から、永い時間をかけて活動を停止したような、いわば「長寿」の大型超獣の遺骸、その上空へと現出する、水棲哺乳類―――、即ち、海獣的特徴を有した、現出再現性を持つ個体である。この個体は、活動停止≒死亡した超獣に対して口腔と思われる部位を開帳し、その内側に広がる暗黒へと「何か」を吸引する。結果として、吸引された対象は全体重のうち、約22%の重量を喪失する。しかし、その肉体や組織において、欠けたものは何もない。あるいは我々が「元々計量を間違えており、過去の全ての個体に対して、喪失分だけ多くの重量を最初から誤算していた」という事実でもない限り、この現象を説明することはできない。…いや、仮にそんな事実があったのなら、それはもっと重篤な情報汚染なのではあるが。閑話休題。この個体の調査に際して、幾人かの職員が犠牲になった。それらは航空課のヘリ搭乗員であり、ユウユウカンエイの「吸引」を目の当たりにした者達だ。彼らは「己の中から急速に、何かが抜け落ちていく」という報告を最期に、墜落した。遺体を調査した結果、彼らの全員が、墜落による外傷を受ける以前に、空中で絶命していたことが判明している。ならば、ああ、医学よ!私がこれまで信じてきたものは、監察医としての経験とは、一体何だったのでしょうか。抜き去られたものの正体が、もしも世に知られる「魂」と同じものであり、その知られざる輝きが、かの超獣の腹部に光る星々であるならば。彼らは永劫に囚われているのでしょうか。そして獣たちは、我々と同じ輝きの魂を有しているのでしょうか。あの、あの星屑の海へと、私も一息に呑み込まれれば、その答えは分かるのでしょうか。21gの魂と共に、私から喪われる15.4kgの「それ」は、あの海の底で、思考を続けられるのでしょうか。その答えは遠く、窓の外の遥か先。鎮圧された超獣を弔うようにして、既にそれは現れている。実体亡き、死した星海の獣。それは静かに、ゆっくりと、そして厳かに。その口腔に、闇夜を映し出した。=======================================より詳細な対応手順へのアクセスには、レベルII以上のセキュリティ・クリアランスの提示、または当該クリアランスを持つ職員による認可が必要になります。
こちらは区役所の情報編纂室です。全部門に向けて、新たな有害超獣個体の簡易対応手順を発行しました。このマニュアルは、全ての職員が閲覧可能です。======================================= ◆PB-106簡易対応手順◇名称トッカン◇発見者警備三課記録班岩井 鈴 (いわい すず) 博士◇危険度有害認定◇簡易対応手順・市街地で現出した場合、地上4階以上の高さを持つ全ての建物から退避してください・予知していない現出が確認された場合、航空課への通知を徹底してください・現出を予知できれば危険性は大幅に下がります、託宣課との連携を密にしてください=======================================【突貫工作戦】一つの行動に特化した超獣を駆除するためには、一つの超獣に特化したスペシャリストを必要とする。「トッカン」なる有害認定に対し、交戦対応を決定した区役所が招集したのは、そういった人員だった。即ち、それを誘導するための「撒き餌」と、それを活動停止に追い込むための「打撃力」を同時に用意できる者。予測から、僅か1両日で現出するこの小型の超獣に対して、以上の2要素を短時間で展開し得る者。建築課・第6工員斑…通称「アイギス建設」から出向してきた44名の建設作業員たちは、班長が吹くホイッスルによる、鋭く短い号令と同時に、慣れた手付きで対応作戦へと着工した。大型トラックによって次々と現場に運び込まれる大量の資材は、建材それ自体ではなく、既に組み立てられた「小部屋のブロック」とでも呼ぶべきものだった。そして明朝に始まった作業は、昼のうちには土台部分を完成させ、暗くなるより前に「小部屋のブロック」の積み立てを終えていた。既に出来上がった小部屋たちを、間にステンレスの補強材を挟み、まるで積み木のように組み上げていくユニット工法。僅か19時間で打ち立てられたその「マンション」は、しかし電気も、水道も、引く必要がない。これは人間が住むためのものではない。この一帯で、最も高い建造物であることが重要なのだ。次に彼らが取り掛かったのは、ユニットの中でも特に目を引く、唯一赤い塗装を施された部屋の改装だった。外壁に「巨大な眼のような印」をつけられた部屋に、次々と運び込まれていく「対外秘」と印された資材。それらは、ビルの発破解体に用いられるダイナマイトだろうか。それにしては多すぎる量を、それにしては偏った場所に、しかし工員たちは次々と運び込んでいく。やがて、爆薬が部屋の中を埋め尽くすほどになった頃、鋭く短いホイッスルの音と共に、その建築物は完工した。現場全体に広がる、僅かな安堵の空気、と同時に、班長が声を張り上げる。「想定個体の現出予想時刻まで約6時間! 撤収開始!」それから僅か20分の間に、作業員たちは重機を含めた撤収を完了する。彼らは各々に、会心の手応えを感じていた。6時間後、自分たちの「成果物」へ、またあの入居者がやってくる。それは野性の原則に従って外壁へと張り付き、そして印付きの部屋を、自慢の嘴で突貫するのだろう。工員たちは、上がる火柱を眺めながらグラスをぶつけ合い、一日の疲れを癒すのだ=======================================より詳細な対応手順へのアクセスには、レベルII以上のセキュリティ・クリアランスの提示、または当該クリアランスを持つ職員による認可が必要になります。
こちらは区役所の情報編纂室です。全部門に向けて、新たな有害超獣個体の簡易対応手順を発行しました。このマニュアルは、全ての職員が閲覧可能です。======================================= ◆PB-105簡易対応手順◇名称ソカ◇発見者装備開発課 重機部門古谷 一健 ( ふるや かずたけ ) 博士◇危険度緊急認定◇簡易対応手順・現出が確認された場合、機甲課への通知を徹底してください・内部に取り込まれた場合、区役所指定の耳栓を装備し、救助を待ってください・その他、いかなる場合においても、当該個体は現実性を伴いません=======================================【四面楚歌】現場に居合わせることはできなかったものの。妻も、二人の子も、そう苦しむことなく、死んだらしい。遺体に面会できなかったことは、役所なりの心遣いだったのだろう、と思う。あれ以来、黒く苦い、しかし熱い、どこか情念のような怒りが。この心臓の中で燻っている。黒煙をあげながら、ぶすぶすと音を経てて、しかし十分な熱量で。燻っているのだ。無くなった筈の右腕が痛む度に、義手を握り締めてその熱を確かめる。冷たくなった私の右腕は、しかしまだ熱い。この腕が、どうしてハンドルの操作を誤ることがあるだろう。私はもう逃げられないし、逃げるつもりもない。狂ったっていいのだ。この熱を、僅かでも、奴らに灯して焚べることが叶うならば。いや、この復讐の効率を上げるためならば、むしろ狂っていた方がいい。区役所の仕事にも慣れてしまった。命令に従順であることは、チームの生存力を高める。だから私は何度となく、トリガーにかけた指を外してきたし、アクセルペダルを踏む足を離してきた。狂っていたから、という理由で、その命令を無視することができたなら。私の憎悪は、後悔は、今よりも冷めたものになっていただろうか。ただの一度でも、激情に任せ、かっとなって暴れ、その果てに…万が一。万が一の勝機を掴み寄せて、あの超獣たちに一矢報いることができていたなら。私の復讐は終わり、この不毛な怒りは方向性と熱を喪って。もう一度、ただの人間として、人生を歩み始めることができていただろうか。結局のところ、私は正気のままだ。今日もこうして、大型重機を操縦し、激甚超獣が遺した爪痕の跡片付けをしている。この瓦礫の下に、一体いくつの家庭があったのだろう。この絶望の下から、一体何人の私が、区役所に入所したのだろう。私は、やはり突撃を志して死ぬべきだったのだ。機甲課でも、警備課でも、適性がなかったとしても志願して、死ぬ気で食らいついて。そして超獣の皮膚に楔を打ち込み、それで満足して死ぬべきだった。この心臓の燻りは、もはや何処にも向かえないまま。私は今日を生きている。生きてしまっている。「お父さん」…。「あなた」…。「こっちへ」…。「こっちへ来て」それは、だめだ。それだけは、だめだ。ああ、お前たちは。私から奪い、そして今、与えるのか。お前たちを殺すために必要な狂気を。このアクセルを迷いなく踏み抜くための、意志の炎を。=======================================より詳細な対応手順へのアクセスには、レベルII以上のセキュリティ・クリアランスの提示、または当該クリアランスを持つ職員による認可が必要になります。
こちらは区役所の情報編纂室です。全部門に向けて、新たな有害超獣個体の簡易対応手順を発行しました。このマニュアルは、全ての職員が閲覧可能です。======================================= ◆PB-104簡易対応手順◇名称ケンスイ◇発見者警備三課記録班穂積 元治(ほづみ もとはる) 博士◇危険度有害認定◇簡易対応手順・当該個体が崩した瓦礫による二次災害に注意してください・好戦的ではないため、威嚇による誘導が可能です・都市部から追い出した後は、標準的な対応手順で霧散させてください=======================================【懸垂一幕の反省】ナマケモノのような、しかしちょっとモグラのようでもある、その超獣を見た時。不覚にも少しだけ、不謹慎ながらにちょっとだけ。可愛い、と思ってしまったんだ。超獣の姿形が、どのようなルールで出力されているのかは分からない。だが、あれはやはり、あの見た目の通りに、それほど強力でもなければ、そこまで邪悪でもないのだろう、と。何となしに分かった。ああ、もちろんそれは、大いなる間違いだ。彼らは時に、そのサイズだけで脅威だ。簡単に人を踏み潰し、触れるだけで建築物を破壊する。巨大…とまではいかない、あれにしても、しかし決して「無害」とは言い切れないだろう。ただ…ただ。ただ…!どうしても!まるで無重力であるかのように、身体をぐるりと持ち上げて。廃ビルから剥きだした鉄骨を、器用にも両手で掴み。懸垂幕のようにだらんと、廃ビルの壁に伸びるあの姿を見て。それを指差して「駆除せよ!」と叫びつけることができなかったんだ!私の言葉には、反省の色が見えないと思われるかも知れない。それは違う。私は規定を守らなかった、ゆえに弾劾されている。これは正しい。この仕事を続けさせてもらえるなら、以後、改めることを約束する。しかし私は、この感覚を完全に封じ、殺してまで、この仕事を続けようとは思わない。だって、見守るだけの仕事なんて、愛着が湧くに決まってるじゃないか。実際に見てみろ、あれは現出してから一日中、ただ廃ビルや、放棄された電波塔で遊んでいるだけだ。あのとぼけた顔を見ろ。権謀術数を張り巡らせるような知性など、どこにもない。あれは高いところを好むが、しかしどうしても地面を歩く必要がある時。とても残念そうに地面を這いずるのだ。しかも地を耕しながら。なあ、我々の仕事は本当に必要なものか?あれが自然に消滅するまでの、僅か数日の間に。我々にとって何の価値もない廃材の山を、ほんの遊び心で崩した時に。あれを急いで狙撃するような必要が、本当にあるのか!?どうなんだ、博士!「必要です。あなたは職員更生用カリキュラムαを受講してください。 それでは次の方。」=======================================より詳細な対応手順へのアクセスには、レベルII以上のセキュリティ・クリアランスの提示、または当該クリアランスを持つ職員による認可が必要になります。