副編集長の中川です。『モノノメ #2』の制作も、だいぶ佳境に差しかかってきました。取材をした記事や著者からの寄稿などのテキストはほぼほぼ出そろってきているのですが、それを物理的な誌面でどう見せていくかという、ウェブにはない紙の雑誌ならではのデザイン制作上の課題と、目下格闘中です。宇野と中川以外の制作スタッフは基本的にウェブ世代なので、紙媒体の編集経験はこれが初めてというメンバーも多く、アートディレクターの館森則之さん以下のデザイナーチームとどう連携すれば見た目も気持ちよくメッセージの伝わる誌面が作れるのか、ここのところは試行錯誤を続けています。ここは編集長・宇野のこだわりが最も強いところでもあり、どんなにスケジュール的に切羽詰まっていてもクリエイティブが納得のいくところに辿り着けなければ、何度でもやり直しになります。現場との調整を預かる立場としては胃の痛いところですが、1日でも早く支援してくださった皆様のもとに理想の誌面をお届けできるよう、全力を尽くしていきたいと思います。さて、今日ご紹介する記事も、そんなクリエイティブにまつわるスリリングな衝突を、唯一無二の表現に高めていった営みの記録です。今回の特集テーマは「身体」ですが、その構成記事のひとつとして、「原初舞踏」を実践する舞踏家の最上和子さんと、プラネタリウムなどで上演するドーム映像を手掛ける映像作家の飯田将茂さんが2021年11月7日に実施したライブパフォーマンス・プロジェクト『もうひとつの眼 / もうひとつの身体』をめぐっての両者の対談を収録しました。最上和子さんは、アニメーション監督の押井守さんの実姉としても知られ、『身体のリアル』という対談本もあります。宇野の主著『母性のディストピア』や『PLANETS vol.10』での『パトレイバー2』インタビューをお読みの方ならご存じのとおり、押井守監督といえば宇野が少年期に最も強烈な影響を受けた映像作家のひとり(ついでに言えば、筆者もまた高校漫研への入部当時、先輩たちにひたすら『紅い眼鏡』や『天使のたまご』、『御先祖様万々歳!』といった初期の押井作品を洗脳気味に刷り込まれた思い出があります…)。▲『PLANETS vol.10』所収 押井守インタビューよりその押井監督が、表現の深度において、自分の映像表現がどう足掻いても到達できない領域に辿り着いている人物として最大限のリスペクトを捧げているのが、この和子姉ちゃんなのです。つまり、言葉にするのはとても難しいのですが、最上さんの原初舞踏は、一般的な舞踊やダンスのようにある振り付けや型にしたがって四肢を激しく振るったり見映えのする所作を決めたりするというようなものではなく、その瞬間瞬間の体感にしたがって身悶えするような、記号的な意味づけを拒む予測不可能な微妙な動きの連鎖として展開されるのが特徴です。それは、そもそも誰かの視覚に供する「表現」ではなく、身体運動の視覚情報はあくまでもひとつの手がかりに過ぎず、最上さんが自身の身体の内部で起きていることとの対話を、鑑賞者自身が自身の身体をレファレンスとして直接的に自分事として共鳴するという原理で行われているものになっている(…と、自分は解釈しています)。これは、映像の、とりわけ物語を表象する20世紀的な劇映画の表現とはまったく異なる原理の営みであるわけです。そういう境地の存在に、押井監督も畏怖したのだと思います。そんな背景もあって、数年前から最上さんと宇野との親交が始まっていて、PLANETSでも対談番組に出演いただいたり、『モノノメ 創刊号』でも「身体というフロンティア」というエッセイを寄稿していただいたりしたことが、今号で特集テーマに「身体」を選ぶ大きな伏線のひとつにもなっています。ただ、残念ながら宇野以下のPLANETSメンバーが最上さんの舞踏を直接ライブで体験する機会はこれまでなくて、僕たちが過去に最上さんの独特の舞踏表限に接していたのは、もっぱら飯田将茂監督のドーム映像作品『HIRUKO』(2019年)と『double』(2020年)を通じてでした。この2作は、映像作家としての飯田さんが、スクリーンのフレームで切り取られた「映像」の限界を突破するための試みとして、身体の内奥から発せられる最上さんの舞踏の模様を記録し、全視野を覆うドーム映像の体感性で再生したたときに、どんな化学反応が起きるのかを試そうとした実験的な作品です。言うなれば、押井守監督が脱帽し半ば諦めてしまったところのある身体の内奥からの営みに映像の力で接近するという営みを、飯田監督が新しいツールと蛮勇をふるって改めて継承しようとした挑戦だったと言えるでしょう。今回取材した『もうひとつの眼 / もうひとつの身体』は、そうした前2作の延長線上に、最上さんの舞踏を、飯田監督の「もうひとつの眼」たるカメラがオンライン配信のために収録していく様子を、厳粛な「儀式」としてライブで観客に体験させようという試みだったわけです。最上さんは最上さんで、自分の身体の内奥で起きていることをより外部の他者に伝わりやすくするために、人形作家の井桁裕子さんが制作した球体関節人形を「もうひとつの身体」として使役。舞踏家と映像作家が、それぞれの扱う「もうひとつの眼」と「もうひとつの身体」を介することで、お互いに歩み寄りつつも対決する、鬼気迫る緊迫感あるセッションが行われました。この「儀礼」が行われたのが、東京・西池袋にある自由学園明日館の講堂。フランク・ロイド・ライトの弟子筋にあたる遠藤新の設計で重要文化財にも指定されている施設のロケーションの素晴らしさも相まって、宇野ともども初めてリアルタイムで体感した最上さんの舞踏は、言葉を失う圧巻の体験でした。そしてその挙動を高さ4mものクレーンカメラで追う飯田監督の撮影動作自体もまた、ある種のパフォーミングアートになっていて、映像と舞踏が、すなわち観客自身の「眼」と「身体」が重層的に絡み合うという図式。そこには確かに、「儀礼」と呼ぶに足る何かが現出していたと、その場を共有した一参与者としては思わずにいられませんでした。はたしてそのただ一度だけの試みから、両者が何を持ち帰ったのか。言語化以前の境地に挑もうとしたその体験を、批評家・宇野常寛はどんな言葉で打ち返したのか。「身体」と「眼」と「言葉」の奇妙な三角関係を、ぜひ誌面で確かめてみてください。『モノノメ #2』のクラウドファンディングはこちらにて実施中です。
こんにちは、PLANETS編集部の石堂実花です。雑誌『モノノメ』の由来のひとつは「ものの目」です。その名のとおり、本誌の連載陣には「モノ」についてじっくりと語る対談や、編集部が注目したおいしいものについて書き下ろすエッセイなど、世界を別の視点で捉え直すことができるような、あるいはそのきっかけとなるようなコンテンツが揃っています。今回ご紹介するのはそんな連載企画のひとつ「絵本のはなしはながくなる」です。この連載は「いろいろな人に、絵本を紹介してもらう」という、非常にシンプルな企画です。「絵本」というと子供向けの読みものという印象が強いかも知れませんが、大人になった今だからこそ、また新たな視点を得ることができる絵本もたくさんあります。前号では小説家・川上弘美さんに「不思議な日常に出会える絵本」2冊についてインタビューしました。まだ未読の方はぜひ読んでみてください! 2回目となる今回は、近藤那央さんに好きな絵本についてインタビューしました。近藤那央さんは、現在シリコンバレーで活動しているロボットクリエイターです。主に「愛玩ロボット」、「コミュニケーションロボット」と言われる分野で、「いきものらしいロボット」をテーマに創作活動をしています。▲ご自身の作品「ネオアニマ.にゅう!にゅう!にゅう!」と近藤さん近藤さんがロボットクリエイターを志すきっかけは、9歳の頃までさかのぼります。子供の頃に亀と犬型ロボット「aibo」を飼っていた体験から、「なぜaiboよりも亀の方が愛おしいと思えるのだろう?」と疑問を抱き、「生き物らしさとはなにか」を追求しはじめるようになりました。工業高校3年生ではチーム「TRYBOTS」を結成、創作したペンギン型ロボット「もるぺん!」は、科学館やテック系のイベントにデモ出展を行い、多くのメディアで取り上げられました。慶応大学入学後は、自らが創作する「いきものらしいロボット」を「ネオアニマ」と名付けた創作活動を開始。最初のネオアニマ「にゅう」は「いきものらしさ」を「呼吸」ととらえ、常に上下に動くことで、まるで生きているかのような、不思議な愛着の湧くロボットを創作しました。作品のひとつ「ネオアニマ.にゅう!にゅう!にゅう!」では、それぞれ独自の動きをする「にゅう」を群で展示することで、ロボット同士の「社会性」をテーマに表現しています。ここまで多くのタオル的な物体がうねうねと動いているのはかなりシュールな光景で、クラゲを見ているような、なんともいえない気持ちになります。このようにロボットクリエイターとして活躍するかたわら、アイドル活動をしていたりと多彩な活動をされていた近藤さんですが、2018年、結婚を機にアメリカ・シリコンバレーへと旅立ちました。PLANETSでは雑誌『PLANETS vol.10』で渡米直前の近藤さんにインタビューしました。また、このインタビューをきっかけに、webマガジン「Daily PLANETS」でも連載「ネオアニマ」をご担当いただき、ご自身のクリエイター活動の記録を綴ってもらっています。▲『PLANETS vol.10』よりさて、今回はそんな近藤さんに好きな絵本について訊いてみたのですが、はじめにヒアリングした際にひときわ興味を惹かれたのが「なんか、おばけが水疱瘡になっちゃう絵本」。さっそく検索してたどり着いたのがこちらの絵本『おばけびょうきになる』でした。この絵本、このように絵柄は大変可愛らしいのですが、読むとつぎつぎと繰り広げられる破天荒な展開に「そんな話になる!?」と驚くこと間違いなしの、少し変わった本です。おばけなのに、なぜかびょうきになってしまう主人公。みんな笑っていてゆるい雰囲気なのに、なぜか薄暗い背景。ページをめくるたびにその独特のセンスにどっぷり浸ることのできる体験は、絵本ならではです。近藤さんに選んでいただいたもう一冊は『ウアモウとふしぎのわくせい』です。アーティスト・高木綾子氏がロンドンの大学に在学中に生み出した「ウアモウ」はフィギュア、絵本、アニメーションなど多岐にわたるメディアで制作・販売され、国内外で人気のあるキャラクターです。この絵本では、そんなウアモウが色鮮やかな「宇宙」へ飛び出すお話が描かれています。 インタビュー当日はAmazonで揃えたというこの2冊の絵本を手に、絵本と出会った子供の頃の思い出や現在のクリエイター活動に結びついている点などをじっくりと語っていただきました。彼女の独特の人柄とそのセンスの源を発見できるような、非常に面白いインタビューとなりました。絵本を先に読むもよし、インタビューを先に読むもよしです。ぜひ誌面でご確認ください。余談ですが、筆者と近藤さんが初めて知り合ったのはおよそ7年前のこと。とある風呂場で(!)シャンプーで頭をもこもこにした近藤さんから「はじめましてだよね? わたし近藤!これからよろしくね!! 」とまぶしい笑顔で(もちろん裸で)挨拶され、圧倒されたのを覚えています。今回のインタビューでも時折「人間があまり好きじゃなくて、コミュ障なんだよね」というお話をされていましたが、「いや、そんなことはないでしょう!」というのが筆者の本音です。あの輝かしい笑顔でシリコンバレーで頑張っている彼女を、今後も陰ながら応援していきたいと思っています。「モノノメ #2」のクラウドファンディングはこちらにて実施中です。※昨夜、準備中の本記事を誤投稿してしまいました。メール通知を受け取られた方には、たいへん申し訳ございませんでした。改めて正式に投稿いたします。
こんにちは、PLANETS編集部の徳田要太です。『モノノメ 創刊号』に引き続き実施中の第2号のクラウドファンディングですが、おかげをもちまして募集開始からあっという間に目標金額を達成することができました。これを受けて、さらに充実した誌面制作に打ち込めるよう、現在「ネクストゴール」として支援額600万円を目標にし、達成した暁には編集長・宇野常寛によるオンラインイベントを予定しています。ぜひ引き続きご支援をよろしくお願いいたします。すでに目次も公開されている通り、どれも自分が読者としてじっくり読んでみたい内容の濃い記事ばかりです。そして前号掲載の特別座談会「TOKYO2020はどうあるべきだったか──オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト再考」に引き続き、今号でも「オリンピック」についての記事を掲載します。もともとPLANETSでは2015年に刊行した『PLANETS vol.9 特集:オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』以降、長い間オリンピックについて考え続けてきたのですが、2021年の本大会直前のタイミングで収録された前号掲載の特別座談会は、単に実施に伴うグダグダを批判するだけにとどまらず、「そもそも開催するのであればどのようなビジョンが必要だったか」「このご時世に強行されてしまった以上、何を持ち帰るべきか」といった本質を、いま改めて問い直すものでした。そして今号では、『PLANETS vol.9』にもご参加いただいたニッポン放送の吉田尚記アナウンサーに、実体験にもとづく「TOKYO2020」の取材記として、1万5千字を超えるロングエッセイを寄稿してもらっています。2013年に行われた東京オリンピック招致のパブリックビューイングの司会を務めて以来、数々のタイミングで本大会の報道に携わっている吉田さんですが、イマイチ周りの喜びに乗り切れなかった招致当時の心境から、コロナ禍に振り回された開催期間中の競技取材にまつわる裏話まで、現地でしか知りえない情景を赤裸々に書き残していただきました。とくに、ほんとうに「無観客」で競技が行われ、取材陣の機材音ばかりが響く会場の妙な静けさの描写は印象的で、「この場で競技を行う選手のプレッシャーはどれほどのものか」と考えさせられる内容でした。もっとも、とかくネガティブな面ばかりが目立ちがちな「TOKYO2020」ではありますが、必ずしも悪いことだらけではなかったと知ることができたのはこのエッセイのおかげです。会場の一つである静岡県・伊豆ベロドロームは、当時緊急事態宣言が発令されていなかったために有観客で自転車競技が行われていましたが、都心のどんよりとしたムードとは裏腹に運営スタッフの善意が感じられる賑やかな雰囲気だったそうです。純粋に観戦を楽しんでいる親子や、会場の案内を丁寧にしてくれる(真の意味で)「おもてなし」精神に満ちたスタッフなどのエピソードが、「無観客」と「有観客」とを現地で見比べたからこその臨場感でつづられています。今回のオリンピックに関して、僕自身の個人的な話をすると、物心つく前から高校を卒業するまで競泳をやっていたこともあって、出場された選手の方々の心境は多少なりとも察せられるところがありました。そもそもあの規模の大会が1年延期されるというだけでもとんでもない負担だったはずで、数年かけて行ってきた準備(たとえば競泳ならいつどれくらいの距離を泳いで、いつまでにどれくらいの記録が出せればいいかといったことを数ヶ月単位で考えます)が突然狂わされたわけですし、その延期の発表もかなり直前のことでした。こうした運営の慌ただしさ・杜撰さはさんざん指摘されてきましたが、選手としてはあんまり表立って声を上げづらかったのだろうなとも思います。競技に集中できる場を作って「もらっている」立場なので、正面切って文句を言うわけにもいかず、そもそもそれをした時点で競技への集中力のリソースが削がれてしまいます。実際、ある選手の「参加」が公表されているだけで「辞退」を求めるバッシングがあったくらいですから、発言には相当慎重にならざるをえなかったと思います。吉田さんのエッセイでは、インタビューを受ける選手の回答が異常に「優秀」だったことが述べられていました。必要以上の政治的な発言や運営の至らなさを指摘するようなことはせず、公共的に「正しい」受け答え(≒実施への感謝の言葉)であふれていたと。こういった、周りの評価から逆算して発言することが当たり前になっている環境、禁止されてはいないが「なんとなく言いにくい雰囲気」が事実上発言を禁じているような状況は、今の言論空間の息苦しさを象徴しているようにも感じました。若年層の「メディアリテラシー」の高さを評価する一方で、「パブリックな場所でのインタビューには、思想性としてはほぼ意味がなくなってしまった」という吉田さんの言葉が、妙に頭に残っています。ひとしきりセンセーショナルに騒いだのち、ちゃんとした総括もされず世間から忘れ去られようとしているあの大会を振り返ることには、まだまだ大きな意味があるのではないかと思います。そのための貴重な現場からの証言として、ぜひ多くの方にこのエッセイを読んでいただければ幸いです。『モノノメ #2』のクラウドファンディングはこちらにて実施中です。
こんにちは。PLANETS編集部です。『モノノメ #2』出版に向けた本プロジェクトですが、公開から3日時点で目標金額の150万円を達成することができ、ただいま360名以上の方からご支援をいただいております。「創刊号に続き第2号も応援します」といったお声もたくさんいただいており、編集部一同、とてもありがたく思っております。まだまだ鋭意製作中の本誌面をさらに豊かにすべく、ネクストゴールを設定することにしました。【ネクストゴール】600万円達成で、刊行記念オンラインイベントを開催します!ネクストゴール達成の暁には、編集長・宇野常寛によるオンラインイベントを開催します。このイベントは、全ての支援者の方にご参加いただけます。オンラインイベントでは、第2号の目次のなかから特に印象的だった取材の裏話をお話したいと思っています。宇野が学生時代に過ごしていた京都での思い出、お好み焼きの名店「ジャンボ」の味、OTOTAKE PROJECT取材で訪れた新豊洲Brillaランニングスタジアム、東京・小金井市の「ムジナの庭」を訪れて感じたこと、『ドライブ・マイ・カー』濱口監督と初めて会った日……第2号の制作にあたっても、多くの方・場所にご協力をいただきました。その際に感じたこと、考えたことを、皆さんにシェアできればと思います。実際の誌面を手にとっていただきながら、より深く皆さんが記事を楽しんでいただくためのお話ができれば幸いです。ぜひ引き続きのご支援、よろしくお願い致します。
こんにちは。PLANETS編集部の小池真幸です。先週末からスタートした『モノノメ #2』のクラウドファンディングですが、開始4日にして、多くの方々のご支援によって達成率120%(180万円)程度にまで到達しました。アテンションエコノミーに抗いゆっくり思考する場をつくる──そんな想いから昨秋創刊された「モノノメ」。誰かが設定した問いに大喜利的に応える今日の言論状況から距離を取るため、Amazonや大手書店チェーンには置かず、インターネットの直接販売と、このコンセプトを理解してくれる施設でのみ販売する方針を取っています。だからこそ、こうしてたくさんの支援者の方々にサポートしていただけることが、何よりの糧となっています。みなさまのご期待に添えるよう、いや超えられるよう、より一層魂を込めて制作を進めていきます。さて、今号の特集テーマは「身体」ですが、特集外でも渾身の企画を数多く準備しています。その一つが、[ルポルタージュ]「ムジナの庭」では何が起きているのか。見るからに派手で打ち上げ花火的な企画ではありませんが、実は今号の目玉企画の一つです。この企画では、昨年末に編集部スタッフで東京・小金井にある就労支援施設「ムジナの庭」を訪れ、利用者やスタッフの方々、そして運営者である鞍田愛希子さん、そのパートナーの哲学者・鞍田崇さんと一緒に手を動かしながら、じっくり話をうかがった一部始終をレポートしています。▲鞍田崇さん・鞍田愛希子さん(撮影:編集部)そもそもムジナの庭を知ったのは、鞍田崇さんとのかかわりの中でのことでした。芸術家ではなく、名もなき人の手から生み出された日用品にこそ、美術品を凌駕する美しさが宿る。そんな信念のもとで作られ、使われる民衆的工芸である「民藝」を、哲学者として捉え直そうとしている崇さん。2020年にウェブマガジン「遅いインターネット」上で編集長・宇野常寛がインタビューしたのをきっかけに、『モノノメ 創刊号』への寄稿やインターネット番組「遅いインターネット会議」への出演など、さまざまなかたちでPLANETSと取り組みを共にするようになりました。そんな崇さんは、前掲のインタビューの中で、「福祉は『民藝的なもの』が発露する舞台としてあり得る」という驚きのアイデアを提示してくれました。そして植物にまつわる手仕事や身体的なケアを通じて、民藝の精神性にも通ずる「生きる意味」を取り戻させてくれる場所として紹介してくれたのが、パートナー・愛希子さんの主宰するムジナの庭だったのです。(ちなみに現在、ムジナの庭についても触れられている崇さんと編集長・宇野常寛との対談番組を、期間限定で全編無料公開中です。ぜひご覧ください)そうして崇さんから度々話を聞いていたムジナの庭に、編集部スタッフで足を運んだのが昨年末。自然豊かで生き物の鳴き声がほうぼうから聞こえる、都内とは思えないくらい気持ちの良い場所にありました。建築家・伊東豊雄が設計した住宅を改修したという建物も、優しい日光がふんだんに入ってくる、心地よい空間だったことをよく覚えています。到着してからは、実際に利用者やスタッフの方々と一緒に手を動かしてものをつくりながらじっくりとお喋り。それから、崇さん・愛希子さん夫妻に、ムジナの庭を立ち上げるまでのいきさつ、建物や運営方針に込めた想いなどをたっぷりインタビューしました。あまりに居心地が良くて、当初の予定時間の倍くらい滞在してしまいました。その具体的な中身は、本誌にゆずります。ただ、僕が強く感じたのは、とても行き届いた配慮やケアがなされていながら、同時に“たまたま”起こることから生まれるものを大切にするという、きわめて難易度の高い両立が実現しているということ。▲利用者の方がものづくりをしている様子(撮影:編集部)福祉やケアに関心がある方ならその名を耳にしたことがあるかもしれませんが、昨今は福祉業界におけるケアのプログラムとして、「オープンダイアローグ」や「当事者研究」など、対話ベースの実践が各所で行われています。また、従来の作業所で行われてきたような下請け的・ベルトコンベア的な単純作業ではなく、施設独自のオリジナル商品作りや、デザイナーやアーティストとのコラボレーションも少しずつ増えているとのこと。もちろん、ムジナの庭でも、そうした取り組みは一通り取り入れられています。しかし、それだけではない何かが、そこでは生まれようとしていました。植物に触れること、手仕事をすること、人と触れ合い感情を表現することをつなげた、心身のケアのプログラム。僕はすっかりこの空間の雰囲気に魅了され、帰る頃には、また訪れたい気持ちがムクムクと沸き起こっていました。また気がつけば、そこで販売されていた、利用者の方がつくった「はじめてのお灸」セットを、ちゃっかりとお土産に買っていました。僕は仕事柄、昨年もたくさんの場所に取材に出かけましたが、ムジナの庭は間違いなく、最も印象に残った取材の一つ。この驚きをできる限り鮮明に読者のみなさんにシェアできるよう、約2万字の文章と20ページにまたがるたくさんの写真を盛り込みました。ちなみにだいたい月に一度、誰でも参加可能なオープンアトリエ(簡単な施設案内&カフェタイム)を開催しているそうなので、気になった方はぜひ足を運んでみてください。『モノノメ #2』のクラウドファンディングはこちらにて実施中です。