ゆっきーさんは、椿の枝をいただきに、鎮守の森へ向かいました。椿の枝を、そっといただくその手の先には、これから色になる“いのち”静かに手を伸ばしながら、足元に目をやると――そこには、伐採されてしまった梅の木がありました。無造作に積まれた枝。その断面には、まだ乾ききらない、鮮やかな赤。それは、本来なら、花の色になるはずだったもの。まだ咲いていないのに。まだ終わっていないのに。けれど、その色は、確かにそこにありました。ゆきえさんは、その梅の枝を染めることにします。咲くことのなかった色を、もう一度、布の上に咲かせるために。咲かなかった花の色は、かたちを変えて、もう一度めぐりはじめる。太い幹は、また別の表情を見せていました。切り口にあらわれた年輪の美しさに、真弓さんは、こう言いました。「コースターか、なにかにできないかな」命は、ひとつのかたちだけで終わらない。枝は色へ。幹は、手に触れるものへ。そのすべてを受け取りに、アダチは、梅の幹をいただきに向かいました。製材所で加工してもらうために。手を合わせ、かみさまに、ご挨拶をして。鎮守の森を、そっとあとにしようとした、そのとき。ふいに、気配がありました。振り返ると、そこにいたのは――かもしか。音もなく、ただ、こちらを見ている。驚くでもなく、逃げるでもなく。ただ、そこに在るものとして、静かに、こちらを見つめていました。森の奥から、見送るように。あるいは、確かめるように。森をあとにしようとした、その時。静かに、見ている存在がいました。枝が切られたことも。幹が運ばれていくことも。そしてそれが、次のかたちへとつながっていくことも。すべてを、知っているかのように。やがて、かもしかは、静かに森の奥へと消えていきました。あの日の出会いは、ただの偶然ではなかったのかもしれません。咲かなかった花の色が、布へと移り。幹が、誰かの手に触れるかたちへと生まれ変わる。その営みを、森のいのちが、そっと見届けてくれていたのかもしれない。花として咲かなくても、いのちは、ちゃんとめぐっていく。かたちを変えて。役割を変えて。この防災風呂敷にも、そんな「色になる前のいのち」が、確かに息づいています。どうかこの一枚を、あなたの暮らしの中へ。そして、次の誰かへ。この“めぐるいのち”を、次へつないでいただけませんか。『命をつなぐ布の物語 #1』『命をつなぐ布の物語 #3』





